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出会い編
5, ラストアクト
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果たしてエドヴァル様のシナリオは驚くくらい効果があった。
特に、やっぱり深緑のドレスを注文しようとした事が決定打だったみたい。
ロストリア王宮の伝統を踏み躙る振る舞いは、ほぼ全ての貴族が僕の反対勢力に与するには十分だった。
流石エドヴァル様の読みは鋭い。
王宮には僕に対する憎悪が渦巻き、比例して王妃を支持する勢力が増した。
そして十分に膨らんだ憎悪は、この茶番のクライマックスで全部僕に降りかかってきた。
エドヴァル様の追放宣言の後乱暴に広間から引きずり出された僕は、抵抗虚しくエドヴァル様の側近に引き渡された。
エドヴァル様と初めて会ったディナーの日にも控えていた男、ジルバルドだ。
つまりこいつはグル。
『ルミロとユリエト』に出てくるエンポリオの役をやらせたらすごく似合いそうなしっかり者だ。
彼の確かな手引きで、僕は悠々と身支度をして王宮を出れるってわけ。
部屋に戻りそんなに無い荷物をカバンに詰める。
たくさん作ったドレスはジルバルドに頼んで先にみんな僕のいた劇団に送った。
それがこの茶番の報酬だ。
王宮専属の仕立て屋が作った選りすぐりの衣装は、きっとこだわりの強い座長でも納得の出来栄えだろう。
これからどうしよう。
劇団に戻れるかな。
座長はまた僕を舞台に立たせてくれるだろうか。
皇帝から追放された僕じゃもう誰も見向きもしないかな?
いや、女を演じる異色の男として僕を売れっ子にしてくれた彼なら、王宮から叩き出された異色の女男としてまた僕をプロデュースしてくれそう。
「ふふっ」
ようやく少し笑えてきた。
あーあ。次は楽しいお芝居がしたいな。
「参りますか?」
部屋から出た僕にジルバルドが尋ねる。
頷こうとして、ふと思いついた。
「あの、すみません。ちょっとだけ裏口で待っていてもらえますか?」
荷物を託して屋敷を出て、広い中庭を走った。
たどり着いたのは広間からつながるバルコニーの下。
エドヴァル様はここで風に当たるのが好きで、愛妾のふりをするため僕も並んでよくいた。
まさか今いるとは思わなかったけど、エドヴァル様は一人でバルコニーの手すりにもたれてぼんやり空を見ていた。
マリーズ様はどうしたんだろう。
少し心配になる。
様子に気を取られて茂みに足を突っ込んでしまい、ガサリと音を立ててしまった。
その音にエドヴァル様が下を見る。
僕のいる方に顔を向けたまま動きが止まった。
夜だし宮殿内から漏れるの照明のせいで逆光だからこっちはシルエットしか分からないけど、月も出てるし僕の姿は向こうから見えているだろう。
よし、好都合だ、と最後のお芝居を始めた。
公式愛妾ルネ・リリックじゃなくて、『夜明けのひばり』の主役スザナの演技だ。
『夜明けのひばり』はスザナの歌手としての栄光と凋落を描いた悲劇だ。
300年前のフローレ公国で人気オペラ歌手として活躍するスザナは、やがて有力な家の貴公子と身分違いの恋に落ち、嫉妬した熱狂的なファンの男に喉を切られ歌えなくなってしまう。
更には貴公子は政略結婚で隣国の令嬢と結ばれる。歌も恋も失った彼女は、貴公子の屋敷に忍び込みバルコニーに立つ彼に声の出ない喉で歌い掛けるが、空を見上げる貴公子はそれに気付かない。
歌い終わった時彼女はそのまま死んでしまい、貴公子が夜空に一言、「今美しい歌が聞こえた。」と言って劇は終わる。
僕が演じた時は、評論雑誌に「信じられないことに、観衆はあの時確かにルネの歌声を聞いた。」と絶賛されたっけ。
ふへへ。
そんな十八番を、僕のスザナが好きと言ってくれたエドヴァル様に見てほしい。
愛妾の演技、良心のせいで完遂しきれないところあったし、僕の最後の姿が性悪女男で終わらないように。
そして僕はエドヴァル様のためだけにスザナを演じた。
名声を失った絶望、歌えない悲しみ。これをどうか、一度は心を通わせたあなたにわかって欲しいって。
最高の出来だったと思う。
それこそ1番好評だった千秋楽の時より。
だからエドヴァル様、どうか最後に「今美しい歌が聞こえた。」と言って。
頑張った僕を認めて。
そしたら僕、笑って姿を消すから。
演技が終わるまで影は動かなかった。
演じ終えて息を飲んで反応を待つ。
「おいお前、何グズグズしている。早く出て行け。」
告げられた声は低くて冷たかった。
特に、やっぱり深緑のドレスを注文しようとした事が決定打だったみたい。
ロストリア王宮の伝統を踏み躙る振る舞いは、ほぼ全ての貴族が僕の反対勢力に与するには十分だった。
流石エドヴァル様の読みは鋭い。
王宮には僕に対する憎悪が渦巻き、比例して王妃を支持する勢力が増した。
そして十分に膨らんだ憎悪は、この茶番のクライマックスで全部僕に降りかかってきた。
エドヴァル様の追放宣言の後乱暴に広間から引きずり出された僕は、抵抗虚しくエドヴァル様の側近に引き渡された。
エドヴァル様と初めて会ったディナーの日にも控えていた男、ジルバルドだ。
つまりこいつはグル。
『ルミロとユリエト』に出てくるエンポリオの役をやらせたらすごく似合いそうなしっかり者だ。
彼の確かな手引きで、僕は悠々と身支度をして王宮を出れるってわけ。
部屋に戻りそんなに無い荷物をカバンに詰める。
たくさん作ったドレスはジルバルドに頼んで先にみんな僕のいた劇団に送った。
それがこの茶番の報酬だ。
王宮専属の仕立て屋が作った選りすぐりの衣装は、きっとこだわりの強い座長でも納得の出来栄えだろう。
これからどうしよう。
劇団に戻れるかな。
座長はまた僕を舞台に立たせてくれるだろうか。
皇帝から追放された僕じゃもう誰も見向きもしないかな?
いや、女を演じる異色の男として僕を売れっ子にしてくれた彼なら、王宮から叩き出された異色の女男としてまた僕をプロデュースしてくれそう。
「ふふっ」
ようやく少し笑えてきた。
あーあ。次は楽しいお芝居がしたいな。
「参りますか?」
部屋から出た僕にジルバルドが尋ねる。
頷こうとして、ふと思いついた。
「あの、すみません。ちょっとだけ裏口で待っていてもらえますか?」
荷物を託して屋敷を出て、広い中庭を走った。
たどり着いたのは広間からつながるバルコニーの下。
エドヴァル様はここで風に当たるのが好きで、愛妾のふりをするため僕も並んでよくいた。
まさか今いるとは思わなかったけど、エドヴァル様は一人でバルコニーの手すりにもたれてぼんやり空を見ていた。
マリーズ様はどうしたんだろう。
少し心配になる。
様子に気を取られて茂みに足を突っ込んでしまい、ガサリと音を立ててしまった。
その音にエドヴァル様が下を見る。
僕のいる方に顔を向けたまま動きが止まった。
夜だし宮殿内から漏れるの照明のせいで逆光だからこっちはシルエットしか分からないけど、月も出てるし僕の姿は向こうから見えているだろう。
よし、好都合だ、と最後のお芝居を始めた。
公式愛妾ルネ・リリックじゃなくて、『夜明けのひばり』の主役スザナの演技だ。
『夜明けのひばり』はスザナの歌手としての栄光と凋落を描いた悲劇だ。
300年前のフローレ公国で人気オペラ歌手として活躍するスザナは、やがて有力な家の貴公子と身分違いの恋に落ち、嫉妬した熱狂的なファンの男に喉を切られ歌えなくなってしまう。
更には貴公子は政略結婚で隣国の令嬢と結ばれる。歌も恋も失った彼女は、貴公子の屋敷に忍び込みバルコニーに立つ彼に声の出ない喉で歌い掛けるが、空を見上げる貴公子はそれに気付かない。
歌い終わった時彼女はそのまま死んでしまい、貴公子が夜空に一言、「今美しい歌が聞こえた。」と言って劇は終わる。
僕が演じた時は、評論雑誌に「信じられないことに、観衆はあの時確かにルネの歌声を聞いた。」と絶賛されたっけ。
ふへへ。
そんな十八番を、僕のスザナが好きと言ってくれたエドヴァル様に見てほしい。
愛妾の演技、良心のせいで完遂しきれないところあったし、僕の最後の姿が性悪女男で終わらないように。
そして僕はエドヴァル様のためだけにスザナを演じた。
名声を失った絶望、歌えない悲しみ。これをどうか、一度は心を通わせたあなたにわかって欲しいって。
最高の出来だったと思う。
それこそ1番好評だった千秋楽の時より。
だからエドヴァル様、どうか最後に「今美しい歌が聞こえた。」と言って。
頑張った僕を認めて。
そしたら僕、笑って姿を消すから。
演技が終わるまで影は動かなかった。
演じ終えて息を飲んで反応を待つ。
「おいお前、何グズグズしている。早く出て行け。」
告げられた声は低くて冷たかった。
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