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出会い編
20, 告白
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ベルガモットの豊かな香りは、少し気持ちを落ち着けてくれた。
しきりに薦められるので、付け合わせのクッキーも一口かじる。
甘くてこれも体に沁みた。
稽古部屋の隅に置かれたフリフリのチェアとテーブルで一息をつく。
「お口に合いましたか?」
ルパートさんが尋ねてきた。
「はい。美味しいです。ありがとうございます。」
「あまり根を詰めすぎませんよう。」
「でも、本番が近いから……。あの、伯爵が治るまではここにいるつもりですが、昼間は劇団に戻っても大丈夫でしょうか。そろそろ立ち稽古しないと。」
「申し訳ありませんが、それも……」
「結婚してる間は伯爵の許可がいるんですね。」
「はい。」
「……。」
「あの、お気持ちはわかりますがどうか旦那様のお怪我が治るまでは離婚の話は……。」
「分かっています。怪我は僕のせいだし、落ち着いてから話した方が良いし。」
「ありがとうございます。」
「そういえば、ガロ座長から何か返事は来ていませんか?」
ガロさんには、伯爵が治るまで屋敷にいることを朝食前に書きつけて届けてもらった。それに昨日泊まると書いた手紙も返事が来てない。
「いえ、何も。」
忙しくて返事どころじゃないのかもな。
まあこっちからこまめに近況を伝えておけば大丈夫だろう。
伯爵に許可を貰えば帰れるんだし。
「あの、夕食は伯爵とご一緒出来ますか?」
僕の言葉にルパートさんは嬉しそうな顔をした。
「はい。もちろんでございます。」
それからまたしばらく稽古をしたら、日も暮れて夕食の時間になった。
伯爵の部屋に手帳を持って向かう。
部屋に入ると伯爵のいるベッドに向かった。
「あの……」
話しかければあからさまにビクっと体が跳ねる。
さっきからこっちを見ないし、向こうも手帳を見られたと思っていて気まずいのだろう。
「伯爵、これお返しします。勝手に持っていってしまい申し訳ありませんでした。」
手帳を差し出して謝罪する。
伯爵はそれを左手でぎこちなく受け取った。
「その、中は……見たか?」
低い声で聞かれてすこしたじろぐ。
勝手に読んだと言ったらきっと不愉快にさせるだろう。でも嘘はつきたくなかった。
「すみません。読んでしまいました。」
僕が言うと、伯爵は顔をしかめた。
怒りのせいかみるみる顔が赤くなる。
「お怒りはごもっともです。ですが、おかげで伯爵のお気持ちが分かりました。」
「ぐっ……いや、……そのだな、その……」
慌てた様子でもごもごしている。僕に辛辣な言葉がバレてあせってんだろうか。
見た目は怖いけど、やっぱり結構人がいいよな。
「伯爵が幻滅された通り、僕は恋の演技が下手くそです。」
「……む?」
「正直、目が醒める思いでした。確かにこれまでも僕の演技を酷評する声はありました。でも、気にする割には本気でなんとかしようって気はなくて、世間の評判が正解だってどっかで思ってました。」
「むむ?」
「けど、ずっと観てくれていた貴方が観たくないと言うのなら、それが正しいんだと思います。僕はこの事に真剣に向き合うことから逃げていた。」
「む、いや……あ、あれは……」
「だから、僕にチャンスをください。次の公演また恋愛ものなんです。そこで貴方に、僕が相手役に恋する最高の演技を観てもらいたい。」
「む、むむ……。」
「お願いします。なのでどうか、お芝居に出る許可を下さい。そして僕の恋のお芝居を見て下さい。」
「……駄目だ。」
「頼みます!僕、本当に相手の男に心底惚れ込む様を貴方の前でぶちかましてみせますから!」
「嫌がらせか!?手帳を読んだ上で、君が他の男に惚れる様を俺に観ろと?」
「そうです!僕は役者としてもう妥協しません。」
僕は胸を張って答えた。熱意が伝っただろうか。
「………………そうか。君の考えはわかった。」
「じゃあ僕、お芝居出てもいいんですか?」
「……駄目だ。君は私の妻だ。勝手な事は許さない。」
「そんな……。」
伯爵の顔が見た中で一番に険しくなってる。
横を向いて目線を合わせてもくれない。
なんで?
僕は伯爵に僕の演技を見直して欲しいのに。
「あの、旦那様……」
ずっと脇で控えていたルパートさんが仲裁に入ってくれようとする。
「うるさい。お前は黙ってろルパート。」
なのに話も聞かずに伯爵が制した。
「る、ルパートさんに酷いこと言わないで下さい!」
「奥様、今旦那様は醜い嫉妬でだだっこになってるのでそれは逆効果です。」
嫉妬?何に?
「っルパート……」
「失礼いたしました。自覚したら冷静になるかと思い。」
伯爵は自由な手で顔を覆ってため息を吐いた。
怒りのせいかその顔は耳まで真っ赤になっている。
「悪かった、ルパート。食事は別々にしてくれ。」
「奥様もそうされたいですか?」
そう聞かれて、考える。言われたとおりこのまま伯爵と別れるのは違う気がした。
「いえ、ここで食べます。喧嘩分かれしたいわけじゃないので。」
こうなったら何としても伯爵にまた僕の演技を観てもらいたい。
先に伯爵の食事を手伝おうとベッドに腰掛けた。
伯爵はそんな僕を少し目を見張って見つめ、バツが悪そうにした後小さな声で言った。
「その、さっきは一方的な言い方をしてすまなかった。」
「いえ、大丈夫です。」
「子供みたいなことを言っているのは分かっている。でも俺は、演技でも見たくないんだ。」
ベッドに突いた僕の手に伯爵の手が重なる。
おっきくて暖かい手だ。
「君が、他の男に恋しているところなんて。」
しきりに薦められるので、付け合わせのクッキーも一口かじる。
甘くてこれも体に沁みた。
稽古部屋の隅に置かれたフリフリのチェアとテーブルで一息をつく。
「お口に合いましたか?」
ルパートさんが尋ねてきた。
「はい。美味しいです。ありがとうございます。」
「あまり根を詰めすぎませんよう。」
「でも、本番が近いから……。あの、伯爵が治るまではここにいるつもりですが、昼間は劇団に戻っても大丈夫でしょうか。そろそろ立ち稽古しないと。」
「申し訳ありませんが、それも……」
「結婚してる間は伯爵の許可がいるんですね。」
「はい。」
「……。」
「あの、お気持ちはわかりますがどうか旦那様のお怪我が治るまでは離婚の話は……。」
「分かっています。怪我は僕のせいだし、落ち着いてから話した方が良いし。」
「ありがとうございます。」
「そういえば、ガロ座長から何か返事は来ていませんか?」
ガロさんには、伯爵が治るまで屋敷にいることを朝食前に書きつけて届けてもらった。それに昨日泊まると書いた手紙も返事が来てない。
「いえ、何も。」
忙しくて返事どころじゃないのかもな。
まあこっちからこまめに近況を伝えておけば大丈夫だろう。
伯爵に許可を貰えば帰れるんだし。
「あの、夕食は伯爵とご一緒出来ますか?」
僕の言葉にルパートさんは嬉しそうな顔をした。
「はい。もちろんでございます。」
それからまたしばらく稽古をしたら、日も暮れて夕食の時間になった。
伯爵の部屋に手帳を持って向かう。
部屋に入ると伯爵のいるベッドに向かった。
「あの……」
話しかければあからさまにビクっと体が跳ねる。
さっきからこっちを見ないし、向こうも手帳を見られたと思っていて気まずいのだろう。
「伯爵、これお返しします。勝手に持っていってしまい申し訳ありませんでした。」
手帳を差し出して謝罪する。
伯爵はそれを左手でぎこちなく受け取った。
「その、中は……見たか?」
低い声で聞かれてすこしたじろぐ。
勝手に読んだと言ったらきっと不愉快にさせるだろう。でも嘘はつきたくなかった。
「すみません。読んでしまいました。」
僕が言うと、伯爵は顔をしかめた。
怒りのせいかみるみる顔が赤くなる。
「お怒りはごもっともです。ですが、おかげで伯爵のお気持ちが分かりました。」
「ぐっ……いや、……そのだな、その……」
慌てた様子でもごもごしている。僕に辛辣な言葉がバレてあせってんだろうか。
見た目は怖いけど、やっぱり結構人がいいよな。
「伯爵が幻滅された通り、僕は恋の演技が下手くそです。」
「……む?」
「正直、目が醒める思いでした。確かにこれまでも僕の演技を酷評する声はありました。でも、気にする割には本気でなんとかしようって気はなくて、世間の評判が正解だってどっかで思ってました。」
「むむ?」
「けど、ずっと観てくれていた貴方が観たくないと言うのなら、それが正しいんだと思います。僕はこの事に真剣に向き合うことから逃げていた。」
「む、いや……あ、あれは……」
「だから、僕にチャンスをください。次の公演また恋愛ものなんです。そこで貴方に、僕が相手役に恋する最高の演技を観てもらいたい。」
「む、むむ……。」
「お願いします。なのでどうか、お芝居に出る許可を下さい。そして僕の恋のお芝居を見て下さい。」
「……駄目だ。」
「頼みます!僕、本当に相手の男に心底惚れ込む様を貴方の前でぶちかましてみせますから!」
「嫌がらせか!?手帳を読んだ上で、君が他の男に惚れる様を俺に観ろと?」
「そうです!僕は役者としてもう妥協しません。」
僕は胸を張って答えた。熱意が伝っただろうか。
「………………そうか。君の考えはわかった。」
「じゃあ僕、お芝居出てもいいんですか?」
「……駄目だ。君は私の妻だ。勝手な事は許さない。」
「そんな……。」
伯爵の顔が見た中で一番に険しくなってる。
横を向いて目線を合わせてもくれない。
なんで?
僕は伯爵に僕の演技を見直して欲しいのに。
「あの、旦那様……」
ずっと脇で控えていたルパートさんが仲裁に入ってくれようとする。
「うるさい。お前は黙ってろルパート。」
なのに話も聞かずに伯爵が制した。
「る、ルパートさんに酷いこと言わないで下さい!」
「奥様、今旦那様は醜い嫉妬でだだっこになってるのでそれは逆効果です。」
嫉妬?何に?
「っルパート……」
「失礼いたしました。自覚したら冷静になるかと思い。」
伯爵は自由な手で顔を覆ってため息を吐いた。
怒りのせいかその顔は耳まで真っ赤になっている。
「悪かった、ルパート。食事は別々にしてくれ。」
「奥様もそうされたいですか?」
そう聞かれて、考える。言われたとおりこのまま伯爵と別れるのは違う気がした。
「いえ、ここで食べます。喧嘩分かれしたいわけじゃないので。」
こうなったら何としても伯爵にまた僕の演技を観てもらいたい。
先に伯爵の食事を手伝おうとベッドに腰掛けた。
伯爵はそんな僕を少し目を見張って見つめ、バツが悪そうにした後小さな声で言った。
「その、さっきは一方的な言い方をしてすまなかった。」
「いえ、大丈夫です。」
「子供みたいなことを言っているのは分かっている。でも俺は、演技でも見たくないんだ。」
ベッドに突いた僕の手に伯爵の手が重なる。
おっきくて暖かい手だ。
「君が、他の男に恋しているところなんて。」
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