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両想い編
32, 泣く子とねだる妻には勝てない
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バルコニーに出てきた僕を見て、何人かは僕がルネだって気付いたようだ。
次第にそれが広がってまたざわつき始める。
今この場をきちんと治めないと、みんながまた危険な目に遭ってしまうかもしれない。
ぎゅっと唇をひき結んで気合いを入れる。
その勢いで、みんなに見えるようにジョンの左腕にぎゅっと抱きついた。
「僕は今、ルネ・フェルナールじゃなくてルネ・リリックです!」
鍛え上げた発声でみんなに聞こえるように宣言する。
ざわっとしたけど、みんな僕の話の続きを待っているようだった。
「初めはエドヴァル様の愛妾になる為だけに結婚したけど、僕のお芝居たくさん見てくれて、花もいっぱい贈ってくれて……ずっと僕だけ、見てくれてて……」
たくさんの人が僕を見上げている。何だか手が震えてきた。
顔が熱くなって、逃げたくなってくる。
舞台ではいくらでも人の前で台詞が言えるのに。
きっと今僕が話してるのは台詞じゃなくて、僕の言葉だからだ。
自分の本心を伝えるってこんなに恥ずかしんだ。
でも、僕がジョンに無理矢理幽閉されてたわけじゃないって信じてもらうには、僕の本心が伝わらないと。
震えを止めるために更に腕をぎゅっと握る。
その手にそっと温かいものが触れてきた。
見ればジョンの吊られた右手が伸びてきて僕の手を撫でている。
頭一つ高いところにある顔を見上げると、初めて会った時みたいに眉間に皺の寄った怖い顔で、耳の先は真っ赤で、口元はどことなく緩んでいた。
変な顔。普通にしとけばかっこいいのに。
けど、こっちの方が好きだなって思った。
何だか気が楽になってまた言葉を続ける。
「僕、ずっと何かになりたかった。誰かに捨てられて、誰かの住民登録で生きて、誰かが喜ぶからって女装してる自分がどっか嫌だった。」
自分でもずっと認められなかったことをとうとう言葉にした。
義父さんに育ててもらって、座長やカペラ座のみんながいて、役者としても成功してるのにどこか空っぽだと感じてる自分を認めちゃいけないと思ってた。
「でも、ジョンは、変な人だし、困ったこともするけど……本当に僕のこと好きみたいで……僕じゃないとこの人はダメかもって思って……」
何かになりたくてずっと足掻いていた僕だから、きっとジョンは見つけてくれたんだ。
「だから僕は、ジョンと家族になりたい。そしたらもう、ジョンがダメって言ったら僕は舞台には立てなくなる。でも、それでも……。」
「じゃあ舞台はどうするの?」
群衆の何処かから声がした。
それは……
「出たいよ!出たい。僕が出来る精一杯のエレオノールを演じたい。」
ジョンの方は見れなかった。
「諸君!今は演劇なんてくだらない話をする時ではない!これは市民の自由と権利の……ぐぇっ」
誰かの煽りが、途中で遮られて消えた。
「リリック伯爵さん!ルネが舞台に立つの認めてあげて!」
知ってる声だ。
「エリゼさん?」
ガロ座長の奥さんの声。ひょっとして座長やみんなもこの場にいるのかな?
エリゼさんらしき声を皮切りに、さっきまでの攻撃的なものと違うヤジが飛び出した。
「そうだぞー。みんなルネの芝居が観たいんだー。出演を許可しろー。」
今のはガロ座長だと思う。
うん。生活かかってるもんね。
最初は知ってる声ばっかりだったヤジが、だんだん知らない声にも広がっていく。
いつの間にか何だか平和な舞台に出せコールになっていて、後ろの方に到着した官憲の人たちが困惑しているのが見える。
これどうすんだろ、と思ってジョンの様子を見た。
うわ、怖い顔。
「ぐぐぐ……」
「ジョン、やっぱり僕が舞台出るの嫌?」
「……恋をする役なんだろう?」
「そうだけど。」
「俺が、相手役で出るのは……」
「え、無い。」
「ぐぐぐ……」
必死にもほどがあるな。
「本当に好きなのはジョンだけだから。ね?おねがい?」
少し首を傾げて上目で見上げる。
あっという間に耳まで真っ赤になった。
ふへへ。
「はっ?す、す、す、すき……?」
「そうだよ。僕も、ジョンのこと愛してる。」
言いながら大きな体にぎゅっと抱きつく。
下から歓声が上がった。
さっきまであれだけ大勢の敵意に全然動じなかった人が、僕のハグ一つでカチコチになってるのが可笑しい。
「ね?舞台に出てもいいでしょ?」
抱きつきながらもう一度聞く。
ギギギギって、音がしそうなぎこちなさで頷いたのが感触で分かって、思わず笑ってしまった。
次第にそれが広がってまたざわつき始める。
今この場をきちんと治めないと、みんながまた危険な目に遭ってしまうかもしれない。
ぎゅっと唇をひき結んで気合いを入れる。
その勢いで、みんなに見えるようにジョンの左腕にぎゅっと抱きついた。
「僕は今、ルネ・フェルナールじゃなくてルネ・リリックです!」
鍛え上げた発声でみんなに聞こえるように宣言する。
ざわっとしたけど、みんな僕の話の続きを待っているようだった。
「初めはエドヴァル様の愛妾になる為だけに結婚したけど、僕のお芝居たくさん見てくれて、花もいっぱい贈ってくれて……ずっと僕だけ、見てくれてて……」
たくさんの人が僕を見上げている。何だか手が震えてきた。
顔が熱くなって、逃げたくなってくる。
舞台ではいくらでも人の前で台詞が言えるのに。
きっと今僕が話してるのは台詞じゃなくて、僕の言葉だからだ。
自分の本心を伝えるってこんなに恥ずかしんだ。
でも、僕がジョンに無理矢理幽閉されてたわけじゃないって信じてもらうには、僕の本心が伝わらないと。
震えを止めるために更に腕をぎゅっと握る。
その手にそっと温かいものが触れてきた。
見ればジョンの吊られた右手が伸びてきて僕の手を撫でている。
頭一つ高いところにある顔を見上げると、初めて会った時みたいに眉間に皺の寄った怖い顔で、耳の先は真っ赤で、口元はどことなく緩んでいた。
変な顔。普通にしとけばかっこいいのに。
けど、こっちの方が好きだなって思った。
何だか気が楽になってまた言葉を続ける。
「僕、ずっと何かになりたかった。誰かに捨てられて、誰かの住民登録で生きて、誰かが喜ぶからって女装してる自分がどっか嫌だった。」
自分でもずっと認められなかったことをとうとう言葉にした。
義父さんに育ててもらって、座長やカペラ座のみんながいて、役者としても成功してるのにどこか空っぽだと感じてる自分を認めちゃいけないと思ってた。
「でも、ジョンは、変な人だし、困ったこともするけど……本当に僕のこと好きみたいで……僕じゃないとこの人はダメかもって思って……」
何かになりたくてずっと足掻いていた僕だから、きっとジョンは見つけてくれたんだ。
「だから僕は、ジョンと家族になりたい。そしたらもう、ジョンがダメって言ったら僕は舞台には立てなくなる。でも、それでも……。」
「じゃあ舞台はどうするの?」
群衆の何処かから声がした。
それは……
「出たいよ!出たい。僕が出来る精一杯のエレオノールを演じたい。」
ジョンの方は見れなかった。
「諸君!今は演劇なんてくだらない話をする時ではない!これは市民の自由と権利の……ぐぇっ」
誰かの煽りが、途中で遮られて消えた。
「リリック伯爵さん!ルネが舞台に立つの認めてあげて!」
知ってる声だ。
「エリゼさん?」
ガロ座長の奥さんの声。ひょっとして座長やみんなもこの場にいるのかな?
エリゼさんらしき声を皮切りに、さっきまでの攻撃的なものと違うヤジが飛び出した。
「そうだぞー。みんなルネの芝居が観たいんだー。出演を許可しろー。」
今のはガロ座長だと思う。
うん。生活かかってるもんね。
最初は知ってる声ばっかりだったヤジが、だんだん知らない声にも広がっていく。
いつの間にか何だか平和な舞台に出せコールになっていて、後ろの方に到着した官憲の人たちが困惑しているのが見える。
これどうすんだろ、と思ってジョンの様子を見た。
うわ、怖い顔。
「ぐぐぐ……」
「ジョン、やっぱり僕が舞台出るの嫌?」
「……恋をする役なんだろう?」
「そうだけど。」
「俺が、相手役で出るのは……」
「え、無い。」
「ぐぐぐ……」
必死にもほどがあるな。
「本当に好きなのはジョンだけだから。ね?おねがい?」
少し首を傾げて上目で見上げる。
あっという間に耳まで真っ赤になった。
ふへへ。
「はっ?す、す、す、すき……?」
「そうだよ。僕も、ジョンのこと愛してる。」
言いながら大きな体にぎゅっと抱きつく。
下から歓声が上がった。
さっきまであれだけ大勢の敵意に全然動じなかった人が、僕のハグ一つでカチコチになってるのが可笑しい。
「ね?舞台に出てもいいでしょ?」
抱きつきながらもう一度聞く。
ギギギギって、音がしそうなぎこちなさで頷いたのが感触で分かって、思わず笑ってしまった。
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