立派な王太子妃~妃の幸せは誰が考えるのか~

矢野りと

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8.違和感①

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「キャーー!」

ガッシャーーンー!!

王太子妃への贈り物の中身を確認していた侍女の一人が悲鳴を上げて、その手に持っていた箱を床に落としてしまった。
落ちた衝撃で中に入っていた綺麗なガラス瓶は粉々に割れてしまい、ガラス瓶のなかに入っていた物が私の足元に転がってきた。

それは血に塗れた本物の猫の首であった。勿論その首には体はない、無残にも切り落とされていた。

部屋にいた侍女達は『キャーキャー』と悲鳴を上げ、床に転がっているそれになかなか近づくことさえ出来ないでいる。

---あら?

私は侍女達の行動が不思議に思えて仕方がなかった。誰かがミスをしてもさり気なくお互いをカバーする優秀な侍女達が、今日は騒ぐだけでなにもしないのだ。

「どうしたの、落ち着きなさい。たかが贈り物を落としてしまっただけでしょう。大騒ぎすることではないわ」

そう言って私は誰も拾わない贈り物をそっと両手で拾い上げ他の贈り物を並べてあるテーブルの上に置いた。

「「「………」」」

不思議な事にあれほど騒いでいた侍女達は一瞬で静まり返り、真っ青な顔で私の方を凝視していた。
私はなんで侍女達が私を黙って見詰めているのか最初は分からなかったが、自分の手を見てハッとした。先ほど贈り物を拾った時に手に血が付いてしまい、その手で触れてしまったドレスにも赤い染みが点々と模様のように付いてしまっているのだ。

「あら私としたことが、真っ赤な血をドレスに付けてしまっていたのね。ごめんなさい、折角着せてもらったドレスを汚してしまって。二度手間になってしまったわね」

「い、いいえ。だ、大丈夫でございます。私達こそマリアンヌ様にそんなことをさせてしまい申し訳ございませんでした」

なぜか侍女達は顔面蒼白になり謝っているが、私はたかが落ちてしまった贈り物を拾っただけなので気になどしていないし怒ってもいない。

---叱られると思っているのかしら?わざとではないのだからそんなに畏縮しなくていいのに。

「たかが贈り物の一つを落としてしまったくらいで叱ったりしないから安心しなさいな。落として瓶は割れたけど、なかの贈り物は大丈夫だったのだから気にしないでちょうだい」

「……はい、有り難うございます」

「そういえばこれはどなたからの贈り物なのかしら?とても素敵だと思わない?」

「………」

私は侍女達を安心させるためににっこりと微笑んでみせたが、侍女達からは返事は返ってこなかった。主人である王太子妃の声掛けに答えないなど普通はあり得ないことだ。

---あら今日はみんな調子が悪いのかしら?

私が訝し気に首を傾げていると、『さあマリアンヌ様、お召し替えを致しましょう』と侍女に促されて着替えの為に部屋を出た。綺麗な赤に染まった両手を洗い流すのはもったいなかったけど、『またお召し物についてしまうので』と侍女に言われて洗われてしまった。

そして新しいドレスに着替えた私が部屋に戻ると、そこにはあの素敵な贈り物はなかった。
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