62 / 71
62.相応しい平穏を…④〜ルカディオ視点〜
しおりを挟む
もちろんシシリアにはその可能性を告げていない。
もし彼女にそれを伝えてもきっと信じなかったことだろう。彼女が知っている妹は守るべき大切な家族の一人。
ルーシーは家族にはそういう自分しか見せていなかったのだから。
巧みになのか、それとも自然になのか…。
誰しも家族だからといって全てを曝け出すわけではない。だからある意味これは自然なことだとも言える。
あの公爵令嬢に目をつけられなかったら、ルーシーは『手の掛かる妹のまま』に違う人生を歩んでいたかもしれない。
不運だったかもな。
だが可哀想だとは思わない。
『魅了』という言葉や黙秘、どれも法的に裁かれることはない。
大人しい性格のルーシーなら『そんなつもりでは…』と言い逃れもできる。
気の弱さゆえだと。
だがこれが強かさから出たものならどうだ?
本人が意識していなくてもその奥底に悪意のようなものが存在していたと考えるのが自然だ。
『冤罪』を生むことに繋がった重大なことを実の妹が2つも提供した。
これが単なる偶然なのか、それとも違うのか…。
偶然の可能性は低いが、…ゼロではない。
人の考えなど透けて見えないから真実は分からない。
だから判明している事実だけで考える。
すると彼女は限りなく黒に近い。
故意でなくても結果的に陥れているのだから。
彼女を裁きはしない、その権利は我々にはない。
「周囲に害を与えていないのならそのまま監視を続けてくれ。少しでも他の人の幸せを脅かすなどの危険な兆候が見られたら、適当な理由をつけて拘束しても構わない。
だが本人だけが苦しんでいるのなら放置でいい」
私はシシリアとあの時に約束した。
『彼らが手に入れるに相応しい平穏が崩壊しそうだと判断した場合は我々が正しい形で術の上書きをする』と。
今のルーシーの状況は自業自得。
その苦しみさえも彼女に相応しい平穏だろう。
「承知しました、殿下。
そもそも彼女の行いを考えれば、あの平穏ですら過ぎたものです」
「…そうかもな」
ルーシー・ゲートはこの5年間でなにを思っているのだろう。
姉への想いを思い出し心のなかで懺悔しているのか…。それともまた心のなかで自分に言い訳をして必死に逃げ道を作ろうとしているのか。
きっと後者だろう、懺悔しているのなら必死になって家族の前で明るく振る舞ったりはしていない。
術の綻びは中途半端。
自分の揺れる気持ちが理解できずに真綿で首を絞められているような感じなのかもしれない。
そのうえ後ろめたいことがあるからか、誰にも自分の現状を話せずに頼れない。
これから彼女はどうなるのか。
自分なりに乗り越えるのか。
それとも自分一人で抱えきれずに壊れていくのか…。
『違う…、大丈夫よ…』と呟いていると報告があった。
もう壊れ始めているかもしれないな…。
どうなろうと私はシシリアと交わした約束を違えるつもりはない。
あれは友人としてではなく、文官として発した言葉だ。
『相応しい平穏』がルーシー・ゲートを苦しめようが、それが『彼女には相応しい』と判断する限り、術の上書きをすることはない。
おそらく彼女に術を掛ける日が来ることはないだろう。
もし彼女にそれを伝えてもきっと信じなかったことだろう。彼女が知っている妹は守るべき大切な家族の一人。
ルーシーは家族にはそういう自分しか見せていなかったのだから。
巧みになのか、それとも自然になのか…。
誰しも家族だからといって全てを曝け出すわけではない。だからある意味これは自然なことだとも言える。
あの公爵令嬢に目をつけられなかったら、ルーシーは『手の掛かる妹のまま』に違う人生を歩んでいたかもしれない。
不運だったかもな。
だが可哀想だとは思わない。
『魅了』という言葉や黙秘、どれも法的に裁かれることはない。
大人しい性格のルーシーなら『そんなつもりでは…』と言い逃れもできる。
気の弱さゆえだと。
だがこれが強かさから出たものならどうだ?
本人が意識していなくてもその奥底に悪意のようなものが存在していたと考えるのが自然だ。
『冤罪』を生むことに繋がった重大なことを実の妹が2つも提供した。
これが単なる偶然なのか、それとも違うのか…。
偶然の可能性は低いが、…ゼロではない。
人の考えなど透けて見えないから真実は分からない。
だから判明している事実だけで考える。
すると彼女は限りなく黒に近い。
故意でなくても結果的に陥れているのだから。
彼女を裁きはしない、その権利は我々にはない。
「周囲に害を与えていないのならそのまま監視を続けてくれ。少しでも他の人の幸せを脅かすなどの危険な兆候が見られたら、適当な理由をつけて拘束しても構わない。
だが本人だけが苦しんでいるのなら放置でいい」
私はシシリアとあの時に約束した。
『彼らが手に入れるに相応しい平穏が崩壊しそうだと判断した場合は我々が正しい形で術の上書きをする』と。
今のルーシーの状況は自業自得。
その苦しみさえも彼女に相応しい平穏だろう。
「承知しました、殿下。
そもそも彼女の行いを考えれば、あの平穏ですら過ぎたものです」
「…そうかもな」
ルーシー・ゲートはこの5年間でなにを思っているのだろう。
姉への想いを思い出し心のなかで懺悔しているのか…。それともまた心のなかで自分に言い訳をして必死に逃げ道を作ろうとしているのか。
きっと後者だろう、懺悔しているのなら必死になって家族の前で明るく振る舞ったりはしていない。
術の綻びは中途半端。
自分の揺れる気持ちが理解できずに真綿で首を絞められているような感じなのかもしれない。
そのうえ後ろめたいことがあるからか、誰にも自分の現状を話せずに頼れない。
これから彼女はどうなるのか。
自分なりに乗り越えるのか。
それとも自分一人で抱えきれずに壊れていくのか…。
『違う…、大丈夫よ…』と呟いていると報告があった。
もう壊れ始めているかもしれないな…。
どうなろうと私はシシリアと交わした約束を違えるつもりはない。
あれは友人としてではなく、文官として発した言葉だ。
『相応しい平穏』がルーシー・ゲートを苦しめようが、それが『彼女には相応しい』と判断する限り、術の上書きをすることはない。
おそらく彼女に術を掛ける日が来ることはないだろう。
197
あなたにおすすめの小説
お飾りな妻は何を思う
湖月もか
恋愛
リーリアには二歳歳上の婚約者がいる。
彼は突然父が連れてきた少年で、幼い頃から美しい人だったが歳を重ねるにつれてより美しさが際立つ顔つきに。
次第に婚約者へ惹かれていくリーリア。しかし彼にとっては世間体のための結婚だった。
そんなお飾り妻リーリアとその夫の話。
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます
おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」
そう書き残してエアリーはいなくなった……
緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。
そう思っていたのに。
エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて……
※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。
カメリア――彷徨う夫の恋心
来住野つかさ
恋愛
ロジャーとイリーナは和やかとはいえない雰囲気の中で話をしていた。結婚して子供もいる二人だが、学生時代にロジャーが恋をした『彼女』をいつまでも忘れていないことが、夫婦に亀裂を生んでいるのだ。その『彼女』はカメリア(椿)がよく似合う娘で、多くの男性の初恋の人だったが、なせが卒業式の後から行方不明になっているのだ。ロジャーにとっては不毛な会話が続くと思われたその時、イリーナが言った。「『彼女』が初恋だった人がまた一人いなくなった」と――。
※この作品は他サイト様にも掲載しています。
【完結】堅物な婚約者には子どもがいました……人は見かけによらないらしいです。
大森 樹
恋愛
【短編】
公爵家の一人娘、アメリアはある日誘拐された。
「アメリア様、ご無事ですか!」
真面目で堅物な騎士フィンに助けられ、アメリアは彼に恋をした。
助けたお礼として『結婚』することになった二人。フィンにとっては公爵家の爵位目当ての愛のない結婚だったはずだが……真面目で誠実な彼は、アメリアと不器用ながらも徐々に距離を縮めていく。
穏やかで幸せな結婚ができると思っていたのに、フィンの前の彼女が現れて『あの人の子どもがいます』と言ってきた。嘘だと思いきや、その子は本当に彼そっくりで……
あの堅物婚約者に、まさか子どもがいるなんて。人は見かけによらないらしい。
★アメリアとフィンは結婚するのか、しないのか……二人の恋の行方をお楽しみください。
それは確かに真実の愛
宝月 蓮
恋愛
レルヒェンフェルト伯爵令嬢ルーツィエには悩みがあった。それは幼馴染であるビューロウ侯爵令息ヤーコブが髪質のことを散々いじってくること。やめて欲しいと伝えても全くやめてくれないのである。いつも「冗談だから」で済まされてしまうのだ。おまけに嫌がったらこちらが悪者にされてしまう。
そんなある日、ルーツィエは君主の家系であるリヒネットシュタイン公家の第三公子クラウスと出会う。クラウスはルーツィエの髪型を素敵だと褒めてくれた。彼はヤーコブとは違い、ルーツィエの嫌がることは全くしない。そしてルーツィエとクラウスは交流をしていくうちにお互い惹かれ合っていた。
そんな中、ルーツィエとヤーコブの婚約が決まってしまう。ヤーコブなんかとは絶対に結婚したくないルーツィエはクラウスに助けを求めた。
そしてクラウスがある行動を起こすのであるが、果たしてその結果は……?
小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。
拝啓 お顔もお名前も存じ上げない婚約者様
オケラ
恋愛
15歳のユアは上流貴族のお嬢様。自然とたわむれるのが大好きな女の子で、毎日山で植物を愛でている。しかし、こうして自由に過ごせるのもあと半年だけ。16歳になると正式に結婚することが決まっている。彼女には生まれた時から婚約者がいるが、まだ一度も会ったことがない。名前も知らないのは幼き日の彼女のわがままが原因で……。半年後に結婚を控える中、彼女は山の中でとある殿方と出会い……。
行ってらっしゃい旦那様、たくさんの幸せをもらった私は今度はあなたの幸せを願います
木蓮
恋愛
サティアは夫ルースと家族として穏やかに愛を育んでいたが彼は事故にあい行方不明になる。半年後帰って来たルースはすべての記憶を失っていた。
サティアは新しい記憶を得て変わったルースに愛する家族がいることを知り、愛しい夫との大切な思い出を抱えて彼を送り出す。
記憶を失くしたことで生きる道が変わった夫婦の別れと旅立ちのお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる