どうかこの偽りがいつまでも続きますように…

矢野りと

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62.相応しい平穏を…④〜ルカディオ視点〜

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もちろんシシリアにはその可能性を告げていない。
もし彼女にそれを伝えてもきっと信じなかったことだろう。彼女が知っている妹は守るべき大切な家族の一人。
ルーシーは家族にはそういう自分しか見せていなかったのだから。

 巧みになのか、それとも自然になのか…。

誰しも家族だからといって全てを曝け出すわけではない。だからある意味これは自然なことだとも言える。

あの公爵令嬢に目をつけられなかったら、ルーシーは『手の掛かる妹のまま』に違う人生を歩んでいたかもしれない。

 不運だったかもな。
 だが可哀想だとは思わない。


『魅了』という言葉や黙秘、どれも法的に裁かれることはない。
大人しい性格のルーシーなら『そんなつもりでは…』と言い逃れもできる。
気の弱さゆえだと。

だがこれが強かさから出たものならどうだ?

本人が意識していなくてもその奥底に悪意のようなものが存在していたと考えるのが自然だ。
『冤罪』を生むことに繋がった重大なことを実の妹が2つも提供した。

これが単なる偶然なのか、それとも違うのか…。

偶然の可能性は低いが、…ゼロではない。
人の考えなど透けて見えないから真実は分からない。

だから判明している事実だけで考える。
すると彼女は限りなく黒に近い。

故意でなくても結果的に陥れているのだから。

彼女を裁きはしない、その権利は我々にはない。



「周囲に害を与えていないのならそのまま監視を続けてくれ。少しでも他の人の幸せを脅かすなどの危険な兆候が見られたら、適当な理由をつけて拘束しても構わない。
だが本人だけが苦しんでいるのなら放置でいい」

私はシシリアとあの時に約束した。
『彼らが手に入れるに相応しい平穏が崩壊しそうだと判断した場合は我々が正しい形で術の上書きをする』と。

今のルーシーの状況は自業自得。
その苦しみさえもだろう。


「承知しました、殿下。
そもそも彼女の行いを考えれば、あの平穏ですら過ぎたものです」

「…そうかもな」

ルーシー・ゲートはこの5年間でなにを思っているのだろう。
姉への想いを思い出し心のなかで懺悔しているのか…。それともまた心のなかで自分に言い訳をして必死に逃げ道を作ろうとしているのか。
きっと後者だろう、懺悔しているのなら必死になって家族の前で明るく振る舞ったりはしていない。

術の綻びは中途半端。
自分の揺れる気持ちが理解できずに真綿で首を絞められているような感じなのかもしれない。

そのうえ後ろめたいことがあるからか、誰にも自分の現状を話せずに頼れない。



これから彼女はどうなるのか。
自分なりに乗り越えるのか。
それとも自分一人で抱えきれずに壊れていくのか…。

『違う…、大丈夫よ…』と呟いていると報告があった。


 もう壊れ始めているかもしれないな…。


どうなろうと私はシシリアと交わした約束を違えるつもりはない。
あれは友人としてではなく、文官として発した言葉だ。

『相応しい平穏』がルーシー・ゲートを苦しめようが、それが『彼女には相応しい』と判断する限り、術の上書きをすることはない。


おそらく彼女に術を掛ける日が来ることはないだろう。

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