どうかこの偽りがいつまでも続きますように…

矢野りと

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70.始まりは偽り、でもその先は…①

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ルカ様は頷き私の言葉を待っている。
その表情から緊張しているようにも見えるが、急かすことなく、ただ静かに隣りにいてくれる。

それがとても自然で、私のほうも体から余分な力が抜け自然体でいられる。

伝えたいことをこれならちゃんと伝えられそうだ。

「5年前にルカ様と出会って、それからこの国に連れて来てもらって、あなたのもとで臣下として働かせてもらいました。本当にいろいろなことがあって、ルカ様にはその度に助けてもらい感謝しています。きっとあなたがいなければ、今の私はなかったと思っています。
あの告白を受けるまで正直に言えばルカ様のことを異性として意識をしたことはありませんでした」

私の言葉を聞き、ハッとした表情をするルカ様。

「それは……」

何かを言いかけたが、私の話しが終わっていないのを察して言葉を飲み込む。
そして私に視線で先を促してくる。

「それはルカ様だからという意味ではありません、私にとって恋愛は考えられないものだったからです。最初の頃は元婚約者への想いを引きずっていたからだと思います。でも時間とともそれがなくなっても、やはり恋愛はどこか自分にはもう関係のないものと思っていました」

自分の思ったままを言葉にする。
言葉を飾ることはない、彼にはなにも誤魔化したくないから。


「それはどうして?と聞いてもいいかい、シシリア」

ルカ様は包み込むような声音でそう訊ねてくる。


「恋愛の先にあるものは幸せだと思っています、…普通そうですよね?
それなら私は幸せになる資格があるのでしょうか…。
5年前に私は解術をしない選択をした、それを後悔はしていません。大切な人達の幸せを、尊い命を守れたから。
でも私はその選択したという事実を背負って生きていくべきだと思っています。
あの選択で守られたものもある、でも失ったこともあるのだから…」

失ったもの、それは大切な人達が培ってきた私への純粋な思い。
それを奪ったのは私だ。

その事実は重い。


「そんな私が幸せになっていいのでしょうか…。
私はルカ様から告白されて初めて自分の気持ちに気づきました。あなたと共に歩んでいきたい、隣りにいたいと自分でも驚くほど自然にそう思えていました。
あなたが私を想ってくれていることが、本当に嬉しかった…」

まだ話は終わっていない。
まだ肝心なことを伝えられていない。


「ルカ様、愛しています。

でもそれと同時に幸せになる資格がないとも思っています。
ルカ様の手を取りたい、…でも手を伸ばせない」

…自分のなかの葛藤を伝えられただろうか。


自分で告げながら、なんて面倒くさい女なんだと思ってしまう。彼の告白をはっきりと断ることもしなければ、素直に頷ける勇気もない。


本当に…なんて愚かなのだろう。


伝えないという選択は出来なかった。
誠実に向き合ってくれている彼には隠さずにいたい。
その結果は彼の気持ちが変わったとしても、……それは受け入れる覚悟はある。

どんな結果になっても前に進もうと決めたから。
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