悪役令嬢と噂されているので、全力で逃げることにしました!

矢野りと

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おまけの話

【おまけの話】小さな白兎の切実な悩み〜相談役視点〜 中編

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レイミア様はまだ何も言ってこない。

子供同士の喧嘩なら話を聞くだけでいいだろう、大人が口出しをするものではない。親である殿下も王族だからといって特別扱いするのは良くないという教育方針だ。

それに王族が対等な関係で遊べるのは、ある意味子供の頃だけなので貴重な時間なのだ。
その頃に学んだことは後々、大いに役に立つことになる。 

しかし、レイミア様が大人の陰口を耳にして悩んでいるのなら話は別だ。

 その時は私の出番ですね……。

どこぞの令息と同じ運命を辿るだろう。



「ポンポコ様、あのね…王宮のみんなが言うのよ」

拗ねたような顔をしてレイミア様は話し出す。王宮のみんなとはたぶん大人達という意味だろう。

 そうなると私の出番ですね…。

頭の中では愚か者達の悲惨な末路を思い描き始めるが、そんな素振りを見せたら怯えられてしまう。
だから、いつも通りの口調で詳しいことを聞き出そうとする。

「いったい何をでしょうか?」
「白兎のように可愛いですねとか、可憐な様が真っ白な子兎みたいですねって」

ん?どれも褒め言葉にしか聞こえない。
レイミア様は母であるハナミア様にそっくりで、真珠のような白い肌に可愛らしい顔立ちだ。

王宮で働く者達が、レイミア様の容姿を白兎にたとえて褒めているのは、私も何度か耳にしたことがある。
その言葉に裏はなかった。


「それは純粋に褒め言葉ですね。兎にたとえられるのがお嫌ですか?確か、兎もお好きだったと思いますが…」

レイミア様は動物全般がお好きで、せがまれて野兎を観察しに野原に連れて行ったこともある。だから兎嫌いとは考えにくい。

「うん、兎は大好きよ。でもね、可愛いって言われるのが嫌なの!」

どういう意味だろうか。女の子は可愛いと言われるのを喜ぶものだと思っていたが…。
首を捻る私にレイリン様は理由を話し始める。

「可愛いが嫌いじゃないのよ、可愛いお母様のことは大好きだもの!でもね、私は格好いいがいいの。双頭の龍の叔母様のようになりたいの」
「レイリン様のようにですか……」

せっかく双頭の龍に性格が似てなくて良かったと殿下と一緒に安堵していたのに、よりにもよって憧れているとは困ったものだ。

 あんなふうになられては、困るのですが…。

双頭の龍は忙しいはずなのに、頻繁に姉と姪に会いに来る。
もちろん、彼らは可愛がっている姪の前で本性を見せたりなどしない。――つまり龍が猫を被っているのだ。

だから幼いレイミア様が叔母であるレイリン様に憧れる気持ちも分かる。
子供は身近な大人を手本とするものだ。

 はぁ…、あのレイリン様ですか…。

結婚してだいぶ落ち着いたとはいえ、手本にするにはお薦めはできない人物だ。反面教師ならば最適だが。

さり気なく誘導して、手本とする人物を変えさせたほうが無難だろう。


ここで重要なのは押し付けないことだ。
子供の考えを尊重しつつも、上手く誘導しなければ信頼を失ってしまう。
それは絶対に避けたい。

 当分はポンポコ様と呼ばれたいですからね。



「ところで、レイミア様はどうして格好良くなりたいのですか?」

レイミア様はよくぞ聞いてくれましたと嬉しそうに話す出す。

「強くなりたいの!そしてたくさんの人を助けてあげて、みんなを幸せにするの。だから可愛いじゃ駄目なの」

どうやらレイミア様は、最近流行っている絵本の影響を受けているようだ。
その本は強い女の子が主人公で、悪者をバッタバッタと倒しみんなを助ける、そんな健全な話だ。

 なるほど、だから格好よくなりたいのですね…。

子供らしい素直な発想だ。
双頭の龍のレイリンになりたいわけではなくて良かった。
あれは遠くから眺めるからヒリヒリを楽しめるのであって、近くにいて欲しいもので断じてない。

――心から安堵する。


格好いい=強さだと思っているならば、強さとは何かを教えれば問題は解決する。
それなら簡単だ、近くに良いお手本となる人物がいる。


「格好いいから強いのではなく、自分を持っている人が強いのです。つまり今のまま可愛いレイミア様でも強くなれます。無理に可愛いをやめる必要なんてないのですよ」

レイミア様は賢いと言ってもまだ五歳の子供だ。
話が難しかったようで、『うーんうーん』と一生懸命に考えている。

これは私がいけなかったと反省する。そして子供でも分かる言葉で言い直すことにする。

「レイミア様のお母様は大変に可愛らしいかたですよね?」
「はい、お母様は世界一可愛いです!」

今度はレイミア様の反応は良かった。自分が知っていることだからだ。
よしよし、これでいきましょう。

「でも大変に強い人でもあります。ハナミア様は殿下よりも双頭の龍よりも強いのですよ」
「ポンポコ様、それは違うと思います。だってお父様は凄い魔術師で、叔父様と叔母様も双頭の龍と呼ばれるくらい凄い人だとお母様が言っていました。お母様は私に嘘はつきません!」
「嘘はついておりませんね。殿下も双頭の龍も凄い人ですから。ですが、そんな彼らが絶対に服従する相手がおります。…まあ、勝手にですが。その相手こそがハナミア様なのですよ」
「みんながお母様に服従…???」

レイミア様はキョトンとしてしまう。
優しい母の姿と『絶対服従』という強い表現が結びつかないのだ。

母であるハナミア様は夫である殿下に尽くし、双頭の龍のことも姉として可愛がっている。
決して服従させようとなんてしていない。

けれども、喜々として自らハナミア様に服従する者達がいるのだ。まるでゴロンと腹を見せ撫でてとお願いする犬の如くに。

歪んだ愛ではなく、言うなれば度が過ぎる愛情ゆえの行動だろう。
お互いに競い合うように腹を見せているのだ。

 ……いいんですけどね……。

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