愛する貴方の心から消えた私は…

矢野りと

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47.婚約の報告①(珍獣編)

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マイル侯爵子息ヒューイとクーガー伯爵令嬢である私の婚約はすぐさま社交界に知れ渡った。それは夜会やお茶会でその話題を耳にしない時はないほどだった。

好意的なものから『出戻り令嬢が玉の輿に乗った』『クーガー伯爵令嬢はハンター令嬢だった』など侮蔑的なものなど反応は様々で、とにかく久しぶりの派手な話題をみなで堪能しているという雰囲気だった。


私はそんなくだらない噂は相手にせず聞き流していた。
でもヒューイは違ったらしい。

『ふっ、…随分舐めた真似を堂々としてくれるな』

誰に言うでもなくそう呟いた彼。
『気にしないで』と私が宥めるとそれ以上何も言わなかったので、彼も噂は無視するのだと思っていた。



だが自分の認識が間違っていたことを一週間後に参加した王家主催の夜会で知ることになる。



王家の夜会には国内の貴族の殆どが招待されている。趣向を凝らしかつ豪華絢爛な夜会は王家の権威を感じさせるに十分なもので誰もが楽しんでいる。

正式に婚約した私達も誰の目も気にすることもなく踊りを楽しんでいた。


もちろん私達の方をチラチラと見ながら、目を輝かせ囁きあっている人達はいた。
でもそんな人達にはいつものように微笑みを返すだけで、特に何かを言うことはなかった。

だって一緒に踊っている素敵な婚約者の存在のほうが私にとって大切だったから。


 ふふふ、ヒューイとこうして踊れて幸せだわ。


上機嫌な私に彼も満面の笑みで話し掛けてくる。

「マリア、待たせて悪かったな」

「…なんのことかしら??」

彼の言葉の意味が分からなかったので、首を傾げながら聞き返す。

「最大の効果を発揮する舞台を準備していたら遅くなってしまった。すまないな、マリア」

「???えっと、最大の効果って…なんのこと?」

話がいまいち噛み合っていない。
でもなんだか嫌な予感しかしない。


なぜなら、凄く悪そう…いえ極上の笑みを浮かべた王太子殿下がこちらに近づいていくるのが見えたからだ。
ふと隣りにいるヒューイを見るとなぜか彼も殿下と同じ笑みを浮かべている。


魔王が本当に存在するかどうか知らないけれども、二人がなぜかに見えてしまう。

 な、なに??
 いったい何が起きるというの…。


私達のそばまでやってきた殿下は『なんだ、こんなところにいたのかヒューイ。気づかなかったぞ』とまるで今気づきました体で声を掛けてくる。

目立つ自分の側近に気づいていなかったわけはない。それどころか殿下は私達目指して一直線に歩いてきていた。

なにやら出だしから殿下がかなり胡散臭い。


「私の方こそ声を掛けられるまで殿下に気づかず失礼致しました。きっと周りがいつにも増して賑やかだったからでしょう」

いつも周りに気を配っているヒューイが殿下に気づいていないはずはない。

なぜか彼も殿下に合わせて胡散臭くなっている。


「はっはっは、夜会が賑やかなのは良いことだな。それでどんな話題で盛り上がっていたのかな?
最新の話題を把握するのも王族の務めだから知っておきたい、ヒューイ教えてくれ」

殿下は優秀な人だ、把握していないことはないというくらい。

「申し訳ございません、殿下。私のような無骨者には分かりかねます。もっと相応しい方に尋ねるのがよろしいかと」

彼も側近として常に様々なことを把握はしている人だ。

『この二人が知らないことなんてない』


私は二人の会話で何が始まるのかを悟った。


魔王達が珍獣達狩りを行おうとしているのだ。


「そうだな、聞く相手を間違えたようだ。華やかな最新の話題は、もっとも洗練された人間に聞くべきだったな。
そうだな…、そこの麗しいいや、パンター伯爵夫人だったかな。まあどちらでもいいだろう。先ほどまで目を輝かせながら周りのお仲間と話していた話題を教えていただきい」


偶然こちらに来て、偶然側近に会ったにしては、ばっちりと珍獣達の様子を把握している殿下。
設定がすでに破綻しているが誰もそれを指摘などしない、…いや出来ずに子鹿のように震えている。


 ちょっと可哀想なので、今からでも止めませんか…?


そう視線で訴えたが、私の心の叫びは届かなかった。
 


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