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53.祝福される結婚④
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何か私に言いたいことがあるのだろうか。
それはあの微かに見えた影と関係しているのだろうか。
そんなことを考えていると、ヒューイが私を守るようにさり気なく前に出て耳元で囁いてくる。
「マリア、もう行くか?」
「いいえ、きっと何も起こらないわ。ほら見て…」
私は目の前の二人にそっと視線をやる。
エドワードはラミアの背に手を回し『ラミア…』と優しく声を掛けている。
まるで諭すかのように…。
彼女も夫の言葉に泣くのを堪えているような表情で静かに頷いている。
他人には分からない彼らの過ごしてきた年月を感じさせた。
それが彼らが培ってきたものなのだろう。
あなたとエドワードの人生よ。
二人で築いてきたかけがえのないものだわ。
彼らが築いてきたものに他人の私が関わるべきではない。
私は彼らにだけ聞こえるような声で話し掛ける。
「ラミア様、あなたとダイソン伯爵が築いた幸せはあなた方のものです。
他人が土足で踏み込むことは許されないし、幸せかどうか他人がそれを推し量る権利もありません。
自分が幸せかどうかは自分で決めていいと思います。幸せの形は一つではありません、人の数だけ幸せがある。だからみんな幸せになれるのではないですか?」
私が言える言葉はそれだけだった。
突き放すというのではなく、それ以上のことは私の役目ではないから。
「…はい、そうです…ね」
彼女は絞り出すようにそれだけ言うと、ただ俯いて必死に何かを堪えているようだった。その手は夫の袖をしっかりと握っている。
「ラミア…なにも変わらないから」
夫であるエドワードが彼女の身体をそっと引き寄せ、妻にだけ意味が分かる言葉を掛ける。
彼女は独りじゃない、その隣には寄り添う夫と無邪気に母を求める息子がいる。
彼らの幸せはここにある。
それをラミアがどう感じるかは彼女次第。
幸せだと思えば幸せだし、不幸だと嘆けば不幸となる。
彼女の胸の内は彼女しか分からない。
それを伝えるのも秘するのも彼女が決めること。
周りは支えることは出来ても、彼女の心を変えることは出来ない。
そして彼らの幸せがこれからどう変わっていくかも彼らが決めていく。
私が隣にいるヒューイを見ると、彼は私の背をそっと優しく押してくる。
「行こうか、マリア。みんなが待っているから」
私は頷いてから彼と腕を組み歩き始めると、一滴の涙が頬に流れる。
彼はさり気なく私の頬に手を伸ばし優しくその雫を拭ってくれる。
「マリア、それはなんの涙かな?」
彼は『大丈夫か』とは聞いてこない。
その明るい口調は彼が心配していないことが伝わってくる。
そう、彼は何でもお見通しだった。
「ふふ、嬉しくて仕方がないの。
だってこんな未来想像もしていなかったから。
ちゃんと前を向いている。
何かを諦めているわけでもない。
自分の想いを愛する人に伝えられている。
ヒューイと一緒にいるだけでそれは私にとって特別で輝いている。
ただの日常のすべてが愛おしく感じられる。
あなたが私に素敵な魔法を掛けてくれたの」
夢かと思ってしまうほどの幸せ。
それをちゃんと彼に伝えたかった。
この気持ちをヒューイも分かってくれるだろうか。
「心から愛する人と一緒にいると景色まで違って見える。ただの景色が唯一無二なる。それに野草もマリアが手にすれば俺にとってかけがえのない一輪になる。そして他愛もない会話も忘れられない宝物になる。
こんな奇跡があることを俺に教えてくれたのはマリア、君だよ」
寡黙なはずの彼が言葉を尽くし想いを伝えてくれる。
彼も私と同じように感じてくれている。
それは本当に奇跡なのかもしれない。
彼はいつでも私の望みを察して先回りしてくる。
私も彼が望むことをしてあげたい。
「ねえヒューイ。あなたが今望むものはなに?」
「当ててみてくれ」
熱い眼差しを向けられ少し戸惑ってしまう。
でもたぶん、これかなと思う。
「ヒューイ、少しかがんでちょうだい」
私の言葉に彼は大きな身体をかがめてくれる。
私は彼の右頬にそっと口付けを落としながら『愛しているわ、ヒューイ』と心を込めて愛の言葉を紡ぐ。
彼は顔をほころばせながら大きな身体で包み込むように私を抱きしめてくる。
「マリアは本当にいつでも俺の欲しい言葉をさらりといってくれるな。
愛している、マリア。
これからも俺の望む言葉を当て続けてくれ」
真っ直ぐに私に向けてくる眼差しを私はしっかり受け止める。
「ええ任せてヒューイ。あなたのことは私が幸せにする約束だから、いつでもあなたが望む言葉を当ててみせるわ。
あなたが望む限りいつまでも…」
ずっと望んで欲しい、私の愛を。
「じゃあそれは永遠だな、マリア」
私の望む言葉を彼は惜しむことなく紡いでくれる。
私達は祭壇の前でもないのに、永遠の愛をまた二人で誓い合っている。
確かめたかったのではない、それは自然に出た言葉。
心からの想いをお互いに愛する人に伝えたかっただけ。
愛の言葉を囁きあっている私達に、周りからは歓声が上がり、場の雰囲気が一気に盛り上がる。
それからはその勢いのまま場所をマイル侯爵邸に移し祝宴が始まった。
家族や友人達の笑い声や子供達の元気な声になぜか誰かの泣き声も混じって、今まで味わったことがないほどの最高に素晴らしい時間を過ごした。
二人にとって素晴らしい思い出となった結婚式。
この日のことを私達は生涯忘れることはないし、色褪せることもないのだろう。
これから私達の記憶には新たな思い出がどんどん足されていく。途切れることなく、きっと素晴らしさに磨きをかけながら。
それが今から楽しみで仕方がない。
そしていつか…そういつか…ふたたび新たな宝物に出会える日も来るかもしれない。
それを今は素直に願える私がいる。
私達が紡いでいく幸せで、周りも幸せになることを祈りながら私達は歩き続けていく。
(完)
*********************
これにて完結です。
最後まで読んで頂き有り難うございました♪
多くの感想に励まされ完結することが出来ました。
心より感謝を申し上げます♡(> ਊ <)♡
本編は完結しますが、このあとおまけの話を投稿する予定です。
最後までお付き合い頂けたら幸いです(人*´∀`)。*゚+
それはあの微かに見えた影と関係しているのだろうか。
そんなことを考えていると、ヒューイが私を守るようにさり気なく前に出て耳元で囁いてくる。
「マリア、もう行くか?」
「いいえ、きっと何も起こらないわ。ほら見て…」
私は目の前の二人にそっと視線をやる。
エドワードはラミアの背に手を回し『ラミア…』と優しく声を掛けている。
まるで諭すかのように…。
彼女も夫の言葉に泣くのを堪えているような表情で静かに頷いている。
他人には分からない彼らの過ごしてきた年月を感じさせた。
それが彼らが培ってきたものなのだろう。
あなたとエドワードの人生よ。
二人で築いてきたかけがえのないものだわ。
彼らが築いてきたものに他人の私が関わるべきではない。
私は彼らにだけ聞こえるような声で話し掛ける。
「ラミア様、あなたとダイソン伯爵が築いた幸せはあなた方のものです。
他人が土足で踏み込むことは許されないし、幸せかどうか他人がそれを推し量る権利もありません。
自分が幸せかどうかは自分で決めていいと思います。幸せの形は一つではありません、人の数だけ幸せがある。だからみんな幸せになれるのではないですか?」
私が言える言葉はそれだけだった。
突き放すというのではなく、それ以上のことは私の役目ではないから。
「…はい、そうです…ね」
彼女は絞り出すようにそれだけ言うと、ただ俯いて必死に何かを堪えているようだった。その手は夫の袖をしっかりと握っている。
「ラミア…なにも変わらないから」
夫であるエドワードが彼女の身体をそっと引き寄せ、妻にだけ意味が分かる言葉を掛ける。
彼女は独りじゃない、その隣には寄り添う夫と無邪気に母を求める息子がいる。
彼らの幸せはここにある。
それをラミアがどう感じるかは彼女次第。
幸せだと思えば幸せだし、不幸だと嘆けば不幸となる。
彼女の胸の内は彼女しか分からない。
それを伝えるのも秘するのも彼女が決めること。
周りは支えることは出来ても、彼女の心を変えることは出来ない。
そして彼らの幸せがこれからどう変わっていくかも彼らが決めていく。
私が隣にいるヒューイを見ると、彼は私の背をそっと優しく押してくる。
「行こうか、マリア。みんなが待っているから」
私は頷いてから彼と腕を組み歩き始めると、一滴の涙が頬に流れる。
彼はさり気なく私の頬に手を伸ばし優しくその雫を拭ってくれる。
「マリア、それはなんの涙かな?」
彼は『大丈夫か』とは聞いてこない。
その明るい口調は彼が心配していないことが伝わってくる。
そう、彼は何でもお見通しだった。
「ふふ、嬉しくて仕方がないの。
だってこんな未来想像もしていなかったから。
ちゃんと前を向いている。
何かを諦めているわけでもない。
自分の想いを愛する人に伝えられている。
ヒューイと一緒にいるだけでそれは私にとって特別で輝いている。
ただの日常のすべてが愛おしく感じられる。
あなたが私に素敵な魔法を掛けてくれたの」
夢かと思ってしまうほどの幸せ。
それをちゃんと彼に伝えたかった。
この気持ちをヒューイも分かってくれるだろうか。
「心から愛する人と一緒にいると景色まで違って見える。ただの景色が唯一無二なる。それに野草もマリアが手にすれば俺にとってかけがえのない一輪になる。そして他愛もない会話も忘れられない宝物になる。
こんな奇跡があることを俺に教えてくれたのはマリア、君だよ」
寡黙なはずの彼が言葉を尽くし想いを伝えてくれる。
彼も私と同じように感じてくれている。
それは本当に奇跡なのかもしれない。
彼はいつでも私の望みを察して先回りしてくる。
私も彼が望むことをしてあげたい。
「ねえヒューイ。あなたが今望むものはなに?」
「当ててみてくれ」
熱い眼差しを向けられ少し戸惑ってしまう。
でもたぶん、これかなと思う。
「ヒューイ、少しかがんでちょうだい」
私の言葉に彼は大きな身体をかがめてくれる。
私は彼の右頬にそっと口付けを落としながら『愛しているわ、ヒューイ』と心を込めて愛の言葉を紡ぐ。
彼は顔をほころばせながら大きな身体で包み込むように私を抱きしめてくる。
「マリアは本当にいつでも俺の欲しい言葉をさらりといってくれるな。
愛している、マリア。
これからも俺の望む言葉を当て続けてくれ」
真っ直ぐに私に向けてくる眼差しを私はしっかり受け止める。
「ええ任せてヒューイ。あなたのことは私が幸せにする約束だから、いつでもあなたが望む言葉を当ててみせるわ。
あなたが望む限りいつまでも…」
ずっと望んで欲しい、私の愛を。
「じゃあそれは永遠だな、マリア」
私の望む言葉を彼は惜しむことなく紡いでくれる。
私達は祭壇の前でもないのに、永遠の愛をまた二人で誓い合っている。
確かめたかったのではない、それは自然に出た言葉。
心からの想いをお互いに愛する人に伝えたかっただけ。
愛の言葉を囁きあっている私達に、周りからは歓声が上がり、場の雰囲気が一気に盛り上がる。
それからはその勢いのまま場所をマイル侯爵邸に移し祝宴が始まった。
家族や友人達の笑い声や子供達の元気な声になぜか誰かの泣き声も混じって、今まで味わったことがないほどの最高に素晴らしい時間を過ごした。
二人にとって素晴らしい思い出となった結婚式。
この日のことを私達は生涯忘れることはないし、色褪せることもないのだろう。
これから私達の記憶には新たな思い出がどんどん足されていく。途切れることなく、きっと素晴らしさに磨きをかけながら。
それが今から楽しみで仕方がない。
そしていつか…そういつか…ふたたび新たな宝物に出会える日も来るかもしれない。
それを今は素直に願える私がいる。
私達が紡いでいく幸せで、周りも幸せになることを祈りながら私達は歩き続けていく。
(完)
*********************
これにて完結です。
最後まで読んで頂き有り難うございました♪
多くの感想に励まされ完結することが出来ました。
心より感謝を申し上げます♡(> ਊ <)♡
本編は完結しますが、このあとおまけの話を投稿する予定です。
最後までお付き合い頂けたら幸いです(人*´∀`)。*゚+
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