間違って舞踏会に一番乗りしてしまったシンデレラ

矢野りと

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8.シンデレラは立ち聞きする…?

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呆然と立ち尽くしている私にお城の侍女達は優しかった。
早く来過ぎて迷惑を掛けている私に嫌な顔ひとつ見せずに『よろしかったら開始時刻になるまで庭園でお過ごし下さいませ』と花々が咲き乱れている庭園へと案内してくれた。


誰もいない庭園を一人で散策していると生い茂った生け垣の向こうから誰かの話し声が聞こえてくる。聞くつもりはないけれども、ここで足音を立てるとまるで今まで立ち聞きしていたように思われてしまうかもしれない。
これ以上目立つことは避けたかった。

だから向こうの人達がいなくなるまで動かずにやり過ごそうとした。

「…っ、…まったく…だ」

「そんなことをおっしゃ……」

聞こえてくる話し声は男性二人のようだ。私には気づいていないようで話しを続けている。


「スナイル様、今日こそは婚約者となる令嬢を決めてください。国中の令嬢が参加する予定ですから、きっと素敵な方に巡り会えるはずです」

「………そうかもな」

どうやら生垣の向こうにいるのはこの国の王子とその従者みたいだ。立ち聞きするつもりはないけれども、ついつい耳を傾けてしまう。
だって王子の声が元気がないように聞こえたからだ。一国民として心配するのは当然だろう。


 体調が悪いのかしら…。
 それとも公務でお疲れが溜まっているの?


「スナイル様、王子という立場を分かっていますか?結婚して世継ぎを作るのは避けられませんよ。もういい加減、腹を括ってください」

従者らしき人物は親しげな口調で諭すように話しかけている。どうやらそれが許されるほど信頼されているのだろう。


世継ぎであるスナイル王子は未婚でまだ婚約者もいないから、王子の伴侶の座を貴族の令嬢達はみな狙っている。
容姿良し性格良しの完璧な王子なのだから令嬢達の反応は当然のものだった。

私は平民になるつもりなので狙ってはいないが、『憧れの王子様』と会うのはちょっとだけ楽しみにしていた。 
どんなに素敵な人なんだろうと。


だがそんな気持ちはこのあとの会話を聞いて跡形もなく消え去る……。


「言われなくてもちゃんと理解しているさ、王子としての義務くらい。
はぁーーーー、好きでもない相手と結婚して子供が出来るまで励めばいいんだろう。
腰を振るくらい野生の猿だって出来るんだから心配するな。
まあ最悪生理的に無理な相手だとしてもだ、真っ暗にして相手の姿を見なければ若さでたたせる自信はある」

まさかの鬼畜発言が王子の口から出てきた。
従者が『そんな品のない言葉はお控えください』と言っているが『品だって?発情期の雌猿のように迫ってくる令嬢達に言ってくれ』と笑っている。

 なんて嫌な奴なの!!

性格良し…なんて誰が言ったのだろうか。
良いどころか最低最悪な腐れ王子だ。
どんなに美丈夫でもこんな性格の人とはお近づきになりたくない。

 ……まさか王子がこんな人だったなんて。
 詐欺だわ、というか犯罪級では?
 

舞踏会が始まる前から時間の無駄だったと来たことを後悔し始める。そっとこの場から立ち去って帰ってしまおうと足を踏み出すと落ちた葉を踏み『カサッ』と微かに音を立ててしまう。

その音は生垣の向こうの彼らの耳にも聞こえてしまったようで、話し声はぴったと止んだ。


この状況はよろしくない。まるで私が故意に立ち聞きしていたように思われてしまう。


「そこにいるのは誰だっ!」


さきほどと違って刺すような冷たい王子の声と同時に、生垣を掻き分けてこちらに来ようとしている音が聞こえてくる。

 えっ、えっ…どうしましょう?!
 
慌てて周りを見渡すが隠れる場所もないし、私の足では今更逃げることも出来ないだろう。

聞いていませんでしたと言ってもきっと信じてもらえないと思う。現に私はしっかりと聞いていた…。でも私のせいではない、偶然の産物だ。

人はパニックになると冷静な判断力が損なわれる…ようだ。



「あ、あの…のでお気になさらずに………」



とっさに私の口から出てきた言葉はこれだった。
ツッコミどころ満載だが決して笑いに走ったわけではない。

 ああ、何を言ってるのよ…。
 話す時点で『誰もいない』て事にならないじゃない。
 気にしないどころか、絶対に余計に気になるわ…。

 
自分のあまりの愚かさに打ちのめされる。
そして気づく、この愚かさを身近で見てきたことに。
 
 あれっ、まさかお父様と同じ??
 
性格も見た目も母親似だと信じて生きてきた17年間が揺らいでくる。
どうやら父の血もしっかり受け継いでいたらしい。

『遺伝って恐ろしいわ、まさに呪いのよう…』と呟きながらその場に立ち尽くす。




気づくと目の前には二人の男性が立っていた。友好的とは言えない眼差しで背の高い彼らは私を見下ろしている。
 
 あっ、いけない。
 ちょっとだけ忘れていたわ…。

衝撃的な事実に一瞬生け垣の向こうの彼らの存在を忘れてしまっていた。




※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

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