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21.決別~エリザべス視点~
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熱い何かが私の頬を濡らしていく。重くなった瞼を持ち上げると苦悶の表情を浮かべ泣いている彼が見えた。
私が彼を苦しめていると思うと辛くなる…。
お願い、泣かないで。
もう私はその涙を拭ってあげられない…から。
悲しませたくなかった。
いつでも笑っていて欲しかった。
誰よりも幸せになって欲しかった。
そしてどんなことがあっても生きていて欲しい。
だって生きていなくては幸せにはなれない…のよ、アレク。
ロザリンに刺され弱っていく私にお腹いる赤ちゃんは最後の力を振り絞って私が知りたかったことを見せてくれた。
それはアレクが血塗れで倒れることになる原因…彼はこれから禁術に手を出そうとするのだ。だがその禁術にはその代償として膨大な魔力が必要みたいで、魔力が足りないと命が削られて死んでしまう。
そういう…ことだったのね。
ありがとう、教えてくれ…て。
本当に優しい子…。
ごめんね、産んであげられなくて。
一人にじゃないから…ね、
お母様と一緒に逝…こう。
赤ちゃんのお陰でアレクを助ける方法が見つかった。きっとこの方法は彼を深く傷つけてしまう。
…でもこれしかないのなら仕方がない。
私とこの子の願いは同じだ。
『彼にはこれからも生きて欲しい、辛い思いをした分までこれからもっともっと幸せになって欲しい』
アレクの腕に抱かれながら、残された少しの時間を彼に捧げる決意を固める。
ごめんなさい、ごめん…なさい、ごめんな…い。
私が口を動かし何か言おうとしているのに気付くと、アレクは泣きながら耳を近づけてくれる。
「リズ、なんだい。なんでも言ってく…れ」
ゴボリッ、ゴホッ、ゲホ。血が気管に入り胸が締め付けられるように痛むがそんな事はどうでもいい。
これだけは伝えなくては…。
「…らい、だった」
「うん?ごめん、よく聞こえな…った。もう…一度言えるかい?」
彼は私を失う恐怖で震えているけど、それでも無理矢理いつもの優しい声音を作り話し掛けてくれる。この声で話し掛けてもらえるのは私だけ…とても好きだった。
「本当…、大っ嫌…いだっ…。
愛している…なん、て、ぜんぶ…嘘、おしば…い。
あな…たの、かおも、みたく…ない
まりょくが…おお…て、きもち悪い。
あなた…の…こなんてうみ…たくない…」
私の絞り出すような死ぬ直前の本音を聞いて周りは静まり返る。使用人達の突き刺さるような視線を感じるがそれでも続ける。
最後までやらなくて‥。
アレクに…嫌われないと。
「これ…で、やっと、はな…られる。
し…ねて…うれ…し…」
ふふふ…上手く言えたか…な。
目を開いているはずなのに、もうアレクの顔を見る事は出来ない。目の前にあるのは暗闇だけで耳も良く聞こえないけど、遠くからアレクの絶叫が聞こえる気がする。
きっと私を罵倒してい…でしょうね。
…それで…、いいわ。
こんな酷い女のために後を追ったりしないでしょう。私を嫌ってその憎しみを生きる糧にして。
これからもアレクだけは生きて幸せになってね。
『これであの未来は起こらないわよね?赤ちゃん』
心残りはもうない…。
愛する人に嫌われて、私は安らかに死を迎い入れることが出来た。
私が彼を苦しめていると思うと辛くなる…。
お願い、泣かないで。
もう私はその涙を拭ってあげられない…から。
悲しませたくなかった。
いつでも笑っていて欲しかった。
誰よりも幸せになって欲しかった。
そしてどんなことがあっても生きていて欲しい。
だって生きていなくては幸せにはなれない…のよ、アレク。
ロザリンに刺され弱っていく私にお腹いる赤ちゃんは最後の力を振り絞って私が知りたかったことを見せてくれた。
それはアレクが血塗れで倒れることになる原因…彼はこれから禁術に手を出そうとするのだ。だがその禁術にはその代償として膨大な魔力が必要みたいで、魔力が足りないと命が削られて死んでしまう。
そういう…ことだったのね。
ありがとう、教えてくれ…て。
本当に優しい子…。
ごめんね、産んであげられなくて。
一人にじゃないから…ね、
お母様と一緒に逝…こう。
赤ちゃんのお陰でアレクを助ける方法が見つかった。きっとこの方法は彼を深く傷つけてしまう。
…でもこれしかないのなら仕方がない。
私とこの子の願いは同じだ。
『彼にはこれからも生きて欲しい、辛い思いをした分までこれからもっともっと幸せになって欲しい』
アレクの腕に抱かれながら、残された少しの時間を彼に捧げる決意を固める。
ごめんなさい、ごめん…なさい、ごめんな…い。
私が口を動かし何か言おうとしているのに気付くと、アレクは泣きながら耳を近づけてくれる。
「リズ、なんだい。なんでも言ってく…れ」
ゴボリッ、ゴホッ、ゲホ。血が気管に入り胸が締め付けられるように痛むがそんな事はどうでもいい。
これだけは伝えなくては…。
「…らい、だった」
「うん?ごめん、よく聞こえな…った。もう…一度言えるかい?」
彼は私を失う恐怖で震えているけど、それでも無理矢理いつもの優しい声音を作り話し掛けてくれる。この声で話し掛けてもらえるのは私だけ…とても好きだった。
「本当…、大っ嫌…いだっ…。
愛している…なん、て、ぜんぶ…嘘、おしば…い。
あな…たの、かおも、みたく…ない
まりょくが…おお…て、きもち悪い。
あなた…の…こなんてうみ…たくない…」
私の絞り出すような死ぬ直前の本音を聞いて周りは静まり返る。使用人達の突き刺さるような視線を感じるがそれでも続ける。
最後までやらなくて‥。
アレクに…嫌われないと。
「これ…で、やっと、はな…られる。
し…ねて…うれ…し…」
ふふふ…上手く言えたか…な。
目を開いているはずなのに、もうアレクの顔を見る事は出来ない。目の前にあるのは暗闇だけで耳も良く聞こえないけど、遠くからアレクの絶叫が聞こえる気がする。
きっと私を罵倒してい…でしょうね。
…それで…、いいわ。
こんな酷い女のために後を追ったりしないでしょう。私を嫌ってその憎しみを生きる糧にして。
これからもアレクだけは生きて幸せになってね。
『これであの未来は起こらないわよね?赤ちゃん』
心残りはもうない…。
愛する人に嫌われて、私は安らかに死を迎い入れることが出来た。
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