すべてはあなたの為だった~狂愛~

矢野りと

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26.そして…②

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「あの時俺が君の後を追わない様に嫌われようとしてくれたんだろう?そんなの全部分かっていたんだ。
でも嘘の言葉を吐きながら自分の言葉に傷つけられている君を見ているのが辛かった。
守れなかったくせに、更に守られるだけの自分が嫌だった。

『これ以上、自分を傷つけるなリズ』と言っても止めてくれない君をただ見ているしかない自分が憎くて仕方がなかった。

君に守られてばかりの俺は君を愛する資格はないのかもしれない。
あの時、君を手離してあげるのが正解だったかもしれないけど、どうしても出来なかったんだ。

ごめんね、愛してしまって。

禁術を使って命を落としても、俺と君の記憶と魂を今世に引き継ぎたかった。前世だけの関係ではなく永遠が欲しかったんだ。

……勝手な事をして怒っているかい………?」

彼女の反応から見て禁術は成功しているのは分かったが、再会を喜んでいるようには見えない。
それどころか今は涙を零して怒っているように見える…。

「怒っているわよ!
私が前世の記憶があるから、あなたが禁術を行ったことは分かっていたわ。
お腹の中にいた赤ちゃんが予知夢で私に教えてくれたの…禁術後のあなたの死を。

でもね…一縷の望みを持っていたのよ、予知夢は変わっているんじゃないかって!きっと膨大な魔力を持つあなたなら禁術を使ってもその後生き続けているかもって。
そして前世で幸せな人生を終えてから生まれ変わって、お婆ちゃんになった私の前に小さな子として現れるかなって…。

ねぇ、私とあなたは年が同じくらいよね?
それなら私が死んだあと直ぐに死ななければ同じ年に生まれ変わらないでしょう?

私はあなたに生きて幸せになって欲しかったのに…。
だから赤ちゃんが見せてくれた予知夢であなたが禁術に手を出し死ぬのが分かったから…あんな事を言って傷つけたのに!

それなのに、それなのに……。あなたはすぐに死んでしまった。
どうして生きて幸せになってくれなかったの…」

 ああ良かった。彼女は死んだことを怒っているが俺を嫌ってはいないようだ。
 また愛されることを望んでもいいかな…。


「君がいない世界には俺の幸せはなかったんだ。
俺の幸せは君と一緒にいることだから。
だから禁術を行った。そのせいで死んだけど後悔していないし、もし魔力が尽きずに生きていたらすぐにでも命を絶つつもりだった。
ごめんね、自分勝手で」

彼女は何も言ってくれない。…受け入れて貰えない不安が募る。

「…今度こそ君を幸せにしたいんだ。君の幸せはなにか教えてくれないか?」


望む答えが返ってこない時は…きっと俺はひとりで死を選ぶかもしれないが、それでもいい。
前世で君を守れなかった俺には相応しい罰だから。
彼女の審判を待つ俺はきっと情けない顔をしているのだろう。
そんな俺の目を真っ直ぐ見て彼女は話す。

「分かっているでしょう?
私の幸せは前世も今世でも同じで変わらない。
『あなたを幸せにすること』よ。
また今世でも幸せにしてくれる?」

「ああ勿論だ、前世も今世も愛している。今度こそ最後まで幸せにするよ」

二人でそっと口付けを交わす、まるで結婚の誓いのようだ。

「そしていつかあの子を産んであげたい。前世では産んであげられなかったけど、今度こそちゃんと産んで大切に育ててあげたい」

「そうだな。ほとんど消えかけていたあの子の魂にも魔術を掛けておいた。胎児だったから記憶は無理だろうけど、俺達の魂との親子の縁は繋いでおいたから絶対にまた俺達を親に選んで生まれてくるはずだ。
待っていよう」

俺がそう言うと彼女はぽろぽろと涙を零しながら、『そうね、きっと戻ってくるわ。お利口な子だから』と笑ってくれた。

お互い姿形は以前と違うけれども、その笑顔はリズと全く同じだった。

愛している人がここにいる。
そう思うと出てくる涙を止めることは出来なかった。でも今はあの時と違ってそれを拭ってくれる愛おしい人が隣にいる。



それから二人で今の名前や家族や仕事などお互い会えずにいた二十年間を埋めるように一晩中語り合った。そして生まれ変わっても何も変わらない自分と彼女の関係にホッとしている。

今世ではお互い家族には恵まれていたので、すぐに親に紹介し合い祝福され婚姻を結んだ。これからは二人で幸せに暮らしながらあの子がやって来るのを待つだけだ。
消えゆく魂だったあの子に魔術を掛けた時『この子は俺より凄い』と分かった。きっと胎児だったけど自ら記憶は保って生まれてくる可能性が高いはずだ。

でもそれは彼女には教えないでおこう。きっと教えたら彼女は俺より生まれ変わったあの子のほうに夢中になってしまうかもしれないから。

それは面白くない、だって子供とはいえあの子は男だったから!
あの子が生まれたらしっかり釘を刺しておこう『お母さんの一番はお父さんだから邪魔するな』と。
これを伝える日が来るのが待ち遠しくて堪らない、そしてその日は遠くないはずだ。

消えゆくあの子の魂は最後の力で来世を一瞬だけ見せてくれた。そこには今の若さの俺達が赤ん坊を抱いて幸せそうに笑っている姿があった。





(完)



****************************************


これにて完結です。
最後まで読んでくださり有り難うございました♪

※作者の他作品『私の孤独に気づいてくれたのは家族でも婚約者でもなく特待生で平民の彼でした』に本作品の登場人物が出ています。
そちらも読んでいただけたら嬉しいです。
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