政略結婚の相手に見向きもされません

矢野りと

文字の大きさ
2 / 44

1.花婿はコック長???

しおりを挟む
大陸の南側に位置する小国『ニギ国』。 優れた農業技術で国民人族は裕福ではないが安定した生活を送っている。

一方、獣人族の『オーサン国』は高い戦闘力を武器に大陸の北半分に領土を広げ繁栄している。
そんな両国は長い間必要最低限の交流のみで互いに不干渉の立場を保っていた。

しかし周辺国がきな臭くなり、軍事力が弱いニギ国は他国からの侵略の危機に。
それを回避するために軍事力の高いオーサン国に助けを求めたのである。
オーサン国としても、ニギ国が持つ優れた農業技術は喉から手が出るほど欲しいものだった。

両国の利害が一致し同盟が締結されることになった。
そしてその証として、ニギ国第一王女とオーサン国王の政略結婚が成立したのである。





*****************************




本日は、ニギ国王女シルビア・ニギとオーサン国王ギルア・オーサンの結婚式のはず…だった。


なぜか花嫁の隣には花婿ギルアではなく王宮コック長が立っている。
そしてコック長はダラダラと脂汗を垂らし顔色が真っ青で、いつ倒れてもおかしくない状況。  
そんな花婿代理を見ていると、花嫁として隣に立っているシルビアは申し訳ない気持ちになる。

(コック長、がんばれー!
恨むなら国王をですよ。こんな茶番にコック長を強制参加とは、オーサン国はブラック王宮確定ですわね) 



---なぜこんな状況になっているかといえば---

国の為に政略結婚シルビアとの結婚は受け入れたが、番を諦められない獣人の国王ギルア・オーサン。
そこで、番と出会えたら結婚できるようにと後宮制度一夫多妻を無理矢理復活にさせたのである。
後宮と認められるには、最低でも側妃が三人居なくてはいけない。
そのため、国王は正妃シルビアとの婚姻前に三人の側妃を娶り既成事実を作ることにした。

そして一週間前から地方にいる側妃達を迎えに行って、各地でそれぞれと結婚式を挙げている。

本来であれば国王達一行は、二日前に城に戻っている予定であった。
そして本日、正妃シルビアとの結婚式に臨んでいるはずなのに…、国王は間に合わなかった。
その理由は、王宮への帰路を側妃達とのハネムーン旅行として楽しんでいたから。
それを知った時、シルビアの中での国王の評価は決まった。
(うん、国王は『バカ』決定!)

 
そもそも獣人には半身というべき存在【番】がいるが、巡り合える者はほんの一握り。
ほとんどは番以外と結婚し、愛の証として互いにアルビー石の腕輪などを身に着ける。
なぜかと言うとアルビー石は番を認識出来ない効果があるので、
『これからあなただけですよ♥』という気持ちを形にして身に着けるのが、獣人国では常識なのだ。

人族シルビアの倫理観は当然一夫一婦制である。 
人であるシルビアに番の感覚は分からないが、獣人の番について理解はあるつもりだ。
でも番以外との婚姻を継続する方法があるのに、それをしない国王には呆れている。

(本当に頭にくるわ。なにが、いつか巡り合うかもしれない番のためよ!エロ獣人め!
一夫一婦制の人族なめんなーー!
ほとんどのものが番以外との結婚でも幸せになる努力をするのに、なぜできない?
許すまじ国王夢子ちゃん!!)


そして正妃との結婚式に間に合いそうもない帰路途中の国王から伝令あった。
花婿国王不在でも結婚式は予定通り行え』と…。

(((どうやれというんだー)))  
王宮にいる臣下達の心の叫びが完全に一致した。
その命令に頭を抱え、自慢の真っ黒なウサギ耳がぺしゃりと垂れ下がってしまった宰相。 
でも臣下である宰相は王命を実行するしかない。




---その結果がこの状況---

『隣の花婿がコック長???』なのである。

宰相が国王の代役を探したが誰も花婿代理をやりたい者はいなかった。
 (((当然である!)))
もうこうなったら宰相が自ら代役をやるしかないと涙目になっていると、王宮コック長が目に飛び込んできた。
宰相にはその白いコック服が、もう花婿の衣装にしか見えなかった。 

たまたま仕事の休憩中に式を覗きに来たのがコック長の運の尽き…。
花婿代理生贄の出来上がりとなった。
今度はコック長が涙目になる羽目に…。 


数少ない参列者もこの状況に失笑を隠しきれていない。もともと結婚で嫁ぐニギ国王女に好意的な獣人はいなかった。
大国であるオーサン国は武力を武器に栄えてきたので、国王が政略結婚を行うことは今まで無かったから。  
遠方にあるニギ国からの参列者はゼロ、つまりシルビア王女は味方のいない状況でこの茶番に臨んでいる。

シルビアが隣の花婿代理をちらりと見ると、大きな体が小刻みに揺れている。
頼りないことこの上ない…、クマ獣人これでいいのか…。

(おーい、コック長。だ、大丈夫だよね…?頑張って!)
シルビアは心の中で応援してみるが、それはまったく伝わってないようだ。


二人で司祭の前に並び、婚姻の宣誓を行う。

「汝 ギルア・オーサン代理はシルビア・ニギと婚姻を結び、生涯共にすることを誓いますか?」

「……ちっ…誓います・たぶん??」

(((たぶんかい?!!!))) 
教会内にいる人々は心の中でつっこんだ。 
でもコック長が倒れることなく誓いの言葉をなんとか言えたことに安堵し、みんな心の中で彼を勇者認定した。

「汝 シルビア・ニギはギルア・オーサンと婚姻を結び、生涯共にすること誓いますか?」

「はい、誓います」
NOと言えるものなら言いたい!)

「ここに二人の婚姻成立を宣言します」
 


荘厳な教会でシルビア王女と花婿代理コック長茶番は滞りなく(?)終わった。
本来ならこの後、王宮の広場で王女の顔見世であった…が、人がほとんどいない。
王宮内にいる臣下の十分の一程度しか集まらなかったようだ。 
国王不在でも結婚式を行われるお飾りの正妃にはこんな対応で十分という臣下の心のうちが表れていた。  

こんな状況だが、王宮広場での顔見世が始まった。
シルビアは数少ない臣下の前で優雅に微笑み、流暢なロート語獣人語で挨拶した。

「みなさま、私がニギ国から嫁いできましたシルビアです
獣人国の繁栄のために、正妃としての役目に邁進して参ります
慣習など慣れないことも多々あり、迷惑を掛けるとは思いますがよろしくお願いいたします」

(私が人族のシルビアよ
獣人国に政略結婚で嫁いだからには、ちゃんとお仕事正妃の公務だけはするからね
後宮も、愛のない政略結婚だから気にしないわ
あなたたちも臣下としての礼儀は忘れんなっつうの!!!)

シルビアの挨拶と心の声に差はあるが、耳がいい獣人とはいえ心の声までは聞こえないので問題ない…。
集まった臣下たちは形ばかりの拍手を行い、シルビアはそれに優雅に応えて本日の茶番終了。


---みんなが退出した後の教会内---
教会内には大役を終え、精根尽きているコック長が倒れていた。
今日の王宮夕食は期待できないと城の者は覚悟したのである。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私を裏切った夫が、後悔しているようですが知りません

藤原遊
恋愛
政略結婚として、公爵家に嫁いだ私は 愛のない夫婦関係を「仕事」だと思い、正妻の役目を果たしてきた。 夫が愛人を持つことも、 その子を屋敷に迎え入れることも、黙って受け入れてきた。 けれど―― 跡取りを、正妻の子ではなく愛人の子にする。 その言葉を、人前で軽く口にした瞬間。 私は悟ったのだ。 この家では、息子を守れないと。 元々、実家との間には 「嫡子以外の子は実家の跡取りにする」という取り決めがあった。 ならば話は簡単だ。 役目を終えた私は、離縁を選ぶ。 息子と共に、この家を去るだけ。 後悔しているようですが―― もう、私の知るところではありません。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

白い結婚で結構ですわ。愛人持ちの夫に興味はありません

鍛高譚
恋愛
公爵令嬢ルチアーナは、王太子アルベルトとの政略結婚を命じられた。だが彼にはすでに愛する女性がいた。そこでルチアーナは、夫婦の義務を果たさない“白い結婚”を提案し、お互いに干渉しない関係を築くことに成功する。 「夫婦としての役目を求めないでくださいませ。その代わり、わたくしも自由にさせていただきますわ」 そうして始まった王太子妃としての優雅な生活。社交界では完璧な妃を演じつつ、裏では趣味の読書やお茶会を存分に楽しみ、面倒ごととは距離を置くつもりだった。 ——だが、夫は次第にルチアーナを気にし始める。 「最近、おまえが気になるんだ」 「もっと夫婦としての時間を持たないか?」 今さらそんなことを言われても、もう遅いのですわ。 愛人を優先しておいて、後になって本妻に興味を持つなんて、そんな都合の良い話はお断り。 わたくしは、自由を守るために、今日も紅茶を嗜みながら優雅に過ごしますわ——。 政略結婚から始まる痛快ざまぁ! 夫の後悔なんて知りませんわ “白い結婚”を謳歌する令嬢の、自由気ままなラブ&ざまぁストーリー!

冷遇夫がお探しの私は、隣にいます

終日ひもの干す紐
恋愛
愛人がいるなら、さっさと言ってくれればいいのに! 妻に駆け落ちされた、傷心の辺境伯ロシェのもとへ嫁いでほしい。 シャノンが王命を受け、嫁いでから一年……とんでもない場面に立ち会ってしまう。 「サフィール……またそんなふうに僕を見つめて、かわいいね」 シャノンには冷たいの夫の、甘ったるい囁き。 扉の向こうの、不貞行為。 これまでの我慢も苦労も全て無駄になり、沸々と湧き上がる怒りを、ロシェの愛猫『アンブル』に愚痴った。 まさかそれが、こんなことになるなんて! 目が覚めると『アンブル』になっていたシャノン。 猫の姿に向けられる夫からの愛情。 夫ロシェの“本当の姿”を垣間見たシャノンは……? * * * 他のサイトにも投稿しています。

【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない

くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、 軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。 言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。 ――そして初めて、夫は気づく。 自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。 一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、 「必要とされる存在」として歩き始めていた。 去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。 これは、失ってから愛に気づいた男と、 二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。 ――今さら、遅いのです。

婚約破棄されたので、もう誰の役にも立たないことにしました 〜静かな公爵家で、何もしない私の本当の人生が始まります〜

ふわふわ
恋愛
王太子の婚約者として、 完璧であることを求められ続けてきた令嬢エリシア。 だがある日、彼女は一方的に婚約を破棄される。 理由は簡単だった。 「君は役に立ちすぎた」から。 すべてを失ったはずの彼女が身を寄せたのは、 “静かな公爵”と呼ばれるアルトゥール・クロイツの屋敷。 そこで待っていたのは―― 期待も、役割も、努力の強要もない日々だった。 前に出なくていい。 誰かのために壊れなくていい。 何もしなくても、ここにいていい。 「第二の人生……いえ、これからが本当の人生です」 婚約破棄ざまぁのその先で描かれる、 何者にもならなくていいヒロインの再生と、 放っておく優しさに満ちた静かな溺愛。 これは、 “役に立たなくなった”令嬢が、 ようやく自分として生き始める物語。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

夫が運命の番と出会いました

重田いの
恋愛
幼馴染のいいなづけとして育ってきた銀狼族の族長エーリヒと、妻ローゼマリー。 だがエーリヒに運命の番が現れたことにより、二人は離別する。 しかし二年後、修道院に暮らすローゼマリーの元へエーリヒが現れ――!?

処理中です...