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第7章 10 リヒャルトの過去 5
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「え?ここが…貸金庫のある銀行ですか?」
連れられてきた場所はおよそ銀行とは思えない、路地裏にあるただの3階建てのコンクリートビルだった。正面には階段が見える。
「ええ、そうなのですよ。あえて貸金庫が置いてあるとは思えない外見を見せているそうです」
アグネスの言葉をリヒャルトは全く信じていなかった。
(嘘だ!そんな出鱈目な話…信じられるはずない)
しかも薄暗い路地裏で人通りもほとんどない。タクシーもメインストリートで降ろされ、そこからここまで到着するのに5分は歩いている。リヒャルトは不穏な空気を感じ取っていた。相手はただの女性2人。逃げようと思えばいつでも逃げる自信はあったが、それ以上にリヒャルトは正義感が強かった。
(もしかすると…この女性は今までに大勢色々な人達を騙して来たのかもしれない…私がここで何とか出来れば‥)
「どうかされましたか?中へ入られないのですか?」
リヒャルトが建物を見上げ、立ち止まっているとアグネスが声を掛けた。
「あ?い、いえ。では行きましょうか?」
「はい。ではどうぞ私の後に続いてください」
そしてアグネスの後にエーリカ。その後ろをリヒャルトが続いた。
(何、きっと大丈夫だろう…)
暴漢2名ぐらいの男なら撃退出来る自信はあった。大人数だった場合は大人しく騙されたフリをして様子を伺い、隙を見て逃げ出せる自信もあった。仕事柄、出張する事が多かったリヒャルトはなるべく身軽に動けるように、たいていは1人で行動していた。その為、危険な目に遭った事も数知れず。しかし、リヒャルトは武術や体術が得意な男だったのでそれらを全て自分1人で危機を乗り越えて来たのだ。
しかし…その自信さがある故に、今回はしくじってしまったのだった。
薄暗い階段を上り、アグネスは2階の扉の前で立ちどまった。
「さ、こちらになります」
そして扉を開けた。
「え…?」
その瞬間、リヒャルトは目を見開いた。
古めかしいビル…薄暗い階段。さぞかし部屋の中も酷い状態だと思っていたのだが、まるで別世界であった。
高い天井には豪華なシャンデリアが吊るされ、室内を明るく照らしている。床には上質な毛足の長いベージュ色のカーペットが敷かれ、正面にはマホガニーで出来た楕円形のテーブルに椅子が置かれており、高級そうなスーツを身に着けたリヒャルトと同年代位の人物が頭を下げて迎え入れたのである。
「お待ちしておりました」
「は、はい…」
リヒャルトは驚きを隠せない様子で返事をした。そしてそれを満足気に見る男性。
「やはり戸惑われますよね?こちらにお越し頂いておりますお客様は皆様同様の反応を示されるのですよ」
「え、ええ…」
リヒャルトは曖昧な返事をした。
「マゼンダ様もようこそいらっしゃいました。直前にお電話を頂いたときには少々驚きましたが」
「ええ。早く夫の貸金庫に預けた貴金属を返して頂きたいですから、つい気が急いてしまいました」
リヒャルトの背後に立つアグネスが言う。
「それではシュバルツ様。どうぞあちらのお席にお掛け下さい。」
「分りました」
リヒャルトは言われたままに勧められたた席に腰かけた。そして斜向かいにアグネスとエーリカも座る。
「ただいま別の者も参ります。その前に書類をお持ちしますのでサインをお願い致します」
「書類にサイン…?一体何の書類なのですか?」
不審に思ったリヒャルトが質問した。
「ええ。貸金庫の中身を確認して頂くお客様には事前に身元を保証するサインを書いて頂く事になっております。あ、今係りの者が参りましたよ」
リヒャルトが顔を上げると、いつの間に入室してきたのかもう1人別のスーツ姿の男性が茶封筒を持ってこちらへ向かって歩いて来る。そしてリヒャルトの傍で立ち止まると封筒から書類を取り出し、目の前に置いた。
「…!」
リヒャルトはその書類を前に目を見開いた。その書類は何と婚姻届の用紙だった。
「な…何っ?!い、一体何なのですか?!この書類はっ!」
リヒャルトは男の顔を見た。その時、男は言った。
「さぁ…今からお前は我々の言うがままに行動するのだ…」
(し…しまった…!)
途端に激しい耳鳴りが始まり、意識が朦朧としてきた。
(あぁ‥そう言えば…最近催眠暗示を使った詐欺事件が横行していると‥世間で騒がれていたな…)
だが、全てはもう手遅れだった。
リヒャルトの意識は闇に落ちた―。
連れられてきた場所はおよそ銀行とは思えない、路地裏にあるただの3階建てのコンクリートビルだった。正面には階段が見える。
「ええ、そうなのですよ。あえて貸金庫が置いてあるとは思えない外見を見せているそうです」
アグネスの言葉をリヒャルトは全く信じていなかった。
(嘘だ!そんな出鱈目な話…信じられるはずない)
しかも薄暗い路地裏で人通りもほとんどない。タクシーもメインストリートで降ろされ、そこからここまで到着するのに5分は歩いている。リヒャルトは不穏な空気を感じ取っていた。相手はただの女性2人。逃げようと思えばいつでも逃げる自信はあったが、それ以上にリヒャルトは正義感が強かった。
(もしかすると…この女性は今までに大勢色々な人達を騙して来たのかもしれない…私がここで何とか出来れば‥)
「どうかされましたか?中へ入られないのですか?」
リヒャルトが建物を見上げ、立ち止まっているとアグネスが声を掛けた。
「あ?い、いえ。では行きましょうか?」
「はい。ではどうぞ私の後に続いてください」
そしてアグネスの後にエーリカ。その後ろをリヒャルトが続いた。
(何、きっと大丈夫だろう…)
暴漢2名ぐらいの男なら撃退出来る自信はあった。大人数だった場合は大人しく騙されたフリをして様子を伺い、隙を見て逃げ出せる自信もあった。仕事柄、出張する事が多かったリヒャルトはなるべく身軽に動けるように、たいていは1人で行動していた。その為、危険な目に遭った事も数知れず。しかし、リヒャルトは武術や体術が得意な男だったのでそれらを全て自分1人で危機を乗り越えて来たのだ。
しかし…その自信さがある故に、今回はしくじってしまったのだった。
薄暗い階段を上り、アグネスは2階の扉の前で立ちどまった。
「さ、こちらになります」
そして扉を開けた。
「え…?」
その瞬間、リヒャルトは目を見開いた。
古めかしいビル…薄暗い階段。さぞかし部屋の中も酷い状態だと思っていたのだが、まるで別世界であった。
高い天井には豪華なシャンデリアが吊るされ、室内を明るく照らしている。床には上質な毛足の長いベージュ色のカーペットが敷かれ、正面にはマホガニーで出来た楕円形のテーブルに椅子が置かれており、高級そうなスーツを身に着けたリヒャルトと同年代位の人物が頭を下げて迎え入れたのである。
「お待ちしておりました」
「は、はい…」
リヒャルトは驚きを隠せない様子で返事をした。そしてそれを満足気に見る男性。
「やはり戸惑われますよね?こちらにお越し頂いておりますお客様は皆様同様の反応を示されるのですよ」
「え、ええ…」
リヒャルトは曖昧な返事をした。
「マゼンダ様もようこそいらっしゃいました。直前にお電話を頂いたときには少々驚きましたが」
「ええ。早く夫の貸金庫に預けた貴金属を返して頂きたいですから、つい気が急いてしまいました」
リヒャルトの背後に立つアグネスが言う。
「それではシュバルツ様。どうぞあちらのお席にお掛け下さい。」
「分りました」
リヒャルトは言われたままに勧められたた席に腰かけた。そして斜向かいにアグネスとエーリカも座る。
「ただいま別の者も参ります。その前に書類をお持ちしますのでサインをお願い致します」
「書類にサイン…?一体何の書類なのですか?」
不審に思ったリヒャルトが質問した。
「ええ。貸金庫の中身を確認して頂くお客様には事前に身元を保証するサインを書いて頂く事になっております。あ、今係りの者が参りましたよ」
リヒャルトが顔を上げると、いつの間に入室してきたのかもう1人別のスーツ姿の男性が茶封筒を持ってこちらへ向かって歩いて来る。そしてリヒャルトの傍で立ち止まると封筒から書類を取り出し、目の前に置いた。
「…!」
リヒャルトはその書類を前に目を見開いた。その書類は何と婚姻届の用紙だった。
「な…何っ?!い、一体何なのですか?!この書類はっ!」
リヒャルトは男の顔を見た。その時、男は言った。
「さぁ…今からお前は我々の言うがままに行動するのだ…」
(し…しまった…!)
途端に激しい耳鳴りが始まり、意識が朦朧としてきた。
(あぁ‥そう言えば…最近催眠暗示を使った詐欺事件が横行していると‥世間で騒がれていたな…)
だが、全てはもう手遅れだった。
リヒャルトの意識は闇に落ちた―。
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