婚約者はこの世界のヒロインで、どうやら僕は悪役で追放される運命らしい

結城芙由奈@コミカライズ連載中

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第10話 休日の僕とヒロイン

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 午前11時――


  そよそよと吹く風が緑の木々の香りを運んでくる。

見事なバラが咲き乱れるヴァレンシュタイン家自慢の庭園に設置されたガゼボの椅子に僕は座っていた。
そして向かい側には緊張した態度のエディットが俯き加減に座っている。

僕たちの前に置かれたテーブルにはアップルティーの入ったティーカップ。
そして甘ったるそうなスイーツばかりが乗った3段のケーキスタンドが存在感を表している。

マカロンにマフィン、モンブランにイチゴタルト、カスタードパイにプディング…。
どれも僕にとっては暴力的ともいえる甘ったるいスイーツばかりだ。

うぅ‥‥。
せめてここに濃いブラックコーヒーか、カカオ70%以上のダークチョコがあればまだ耐えられるのに……。


そして極めつけが……。

「あ、あの……アドルフ様…」

おっかなびっくりエディットが僕に話しかけてくる。

「何だい?エディット」

出来るだけ優しい声で笑顔でエディットの顔を見つめる。すると一瞬、エディットは顔を耳まで真っ赤に染めると、おずおずと紙袋を差し出してきた。

「実は‥‥今朝、又お菓子を作って来たのです‥‥。初めて作ってみたのですが、とても上手に出来たので、両親が是非ともアドルフ様にも食べて頂くようにと言われて、お持ちしました。‥‥受け取って頂けますか?」

「うん、勿論だよ、エディット」

ひきつった笑みを浮かべながら僕はエディットから紙袋を受け取った。

そう‥‥これがエディットが僕の前に座っている大きな理由だった――。



****

 午前8時に朝食を食べ終えた僕は、暇つぶしをする為にヴァレンシュタイン家が所有する図書室に来ていた。

 元々のアドルフは読書なんて大嫌いだった。
けれど前世の僕は小説を読むのはまぁまぁ好きだった。

 何故まぁまぁ好きだったかと言うと、本を読むよりはネットサーフィンをするのが好きだったからだ。

大好きなミュージシャンの歌を動画で観たり、アプリゲームをして遊んだり、電子コミックを読んだり…。そしてたまに気が向いた時にネット小説を読んでいた。
本当に気が向いた時だけ。
でもまるきり読まなかったわけでは無いので、まぁまぁ好きだと言えると自分の中では思っている。


この世界にはパソコンもスマホもテレビすら存在しない遅れた世界。そうなるともうこれは読書をするしか他に屋敷の中ですることは無い。

「何か面白そうな本は無いかな‥‥?」

学校の教室並みの広さのある図書室の本棚をぶらぶら見て回っていると、歴史小説のコーナーに目が留まった。

「ふ~ん…歴史小説か…。日本で言えば、坂本龍馬や新撰組なんかを扱った小説みたいなものかな…?」

どれ、少し手に取ってみよう。

なるべくページ数の少ない本を手に取り、ぱらぱらとめくってみる。

「……え?何だこれ…」

ぺら…
ぺら…

ページを1枚、2枚とめくっていく。

「面白い…すごく面白いじゃないかっ!」

歴史小説とは言っても、ドラゴンや魔法に関する話が沢山つづられている。どちらかと言うと、歴史小説と言うよりはファンタジー色が強い小説だ。

「ひょっとしてこの世界の歴史小説ってみんなこんな内容なのかな…?」

試しに別の本を手に取り、ページをめくってみてもやはりこの本もファンタジー色が色濃く出ている。

「知らなかった…こんなに歴史小説が面白かったなんて…。よし!この本、2冊とも部屋に持って帰ろう」

僕は小脇に本を抱え、足取り軽く自室へ戻った。



 その後ガゼボに移動して読書をしていると僕の専属フットマンであるジミーが慌てた様子で駆け寄ってきたのだ。

「ア、アドルフ様っ!こ、こちらにいらしたのですね…」

「何だい?ジミー」

ジミーは余程屋敷中を探し回ったのか額に汗をかき、肩でハアハアと息をしている。

「じ、実はお客様が…ハァハァいらしているのです…ハァハァ…」

「お客?誰が来たんだい?」

「ハァハァ‥‥エディット様です…ハァハァハァ」

「何っ?!エディットだってっ?!」

何故エディットがここに?!
昨日、もう週末は来なくていいよと伝えたばかりなのに。

しかしジミーは僕が怒ったのかと思ったらしく、肩をすくめて両手で顔をガードしながら悲鳴交じりの声を上げた。

「ひぃっ!!す、す、すみませんっ!!お気になさらないのなら、エディット様にはお帰り頂きます!ど、どうかお許しを‥‥っ!」

「何だって?!帰って貰うだってっ?!」

更に僕の声に驚き、肩を跳ねさせるジミー。

帰って貰うなんて冗談じゃないっ!
折角尋ねて来たエディットを無碍に追い返そうとするのは、それこそ悪役令息のすることだ。
僕はこの先追放なんてされたくないし、誰かを傷つけるような男じゃない。

「駄目だよっ!折角来てくれたのに追い返すなんて‥‥。今すぐエディットを連れてきてくれないかい?」

「は、はいっ!かしこまりましたっ!」

ジミーは再び駆け足でバラ園を走り去っていった。

「ふぅ‥‥やれやれ‥‥。それにしても一体エディットは何をしに僕を訪ねてきたのだろう‥‥?」

小さくなっていくジミーの後姿を見つめながら、ため息が漏れてしまう。


そして、その理由はすぐに明かされることになるのだった――。
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