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第26話 悪役令息、墓穴を掘る
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緊張する昼食が終わった。
「どれ…食事も終わった事だし…隣の応接室に移動しましょうか?」
テーブルナプキンで口元を拭いた伯爵は僕をジロリと見た。
「はい…分かりました」
それにしてもこの伯爵は何て目つきが悪いのだろう。人のことを言えた義理ではないけれども、伯爵の方が僕よりも2割増し目つきが悪い気がする。
それでもエディットが一緒だからまだ大丈夫だろう。
隣に座る彼女を見ると視線を感じたのだろう、僕の方を一瞬見て…何故か顔を真っ赤にさせると視線をそらされてしまった。
「よし、それでは行きましょうか」
伯爵が立ち上がったので、僕も重い腰を上げた。
そしてエディットが立ち上がりかけた時‥‥。
「エディット、お前は来なくていい。母さんと2人で部屋にいなさい。」
伯爵がエディットに声を掛けた。
「「え?」」
その言葉に僕とエディットの声が同時にハモる。
「何だ?何か不満かね?今から男同士の大切な話し合いをするのだから、お前は来なくていい」
伯爵はエディットに話をしているけれども、僕に向けての宣戦布告の言葉のように感じてしまうのは何故だろう?
「はい…分かりました…」
あっさり引き下がるエディット。
うん、多分気弱な彼女のことだから親の要求を素直に受け入れると思っていたよ。
「あなた、でもあまりお引止めしてはいけませんよ?」
そこへ夫人が助け舟を出してくれた。
夫人!ナイスですっ!
「その後は私もアドルフ様に大事なお話があるのですから」
……前言撤回。
まさか、夫人も僕に話があったとは……。
「分かった。では2時間以内に終わらせよう」
えっ?!
慌てて言葉が飛び出しそうになるのを必死で飲み込む。
伯爵、本気ですか?
日本だって会議は1時間が妥当と言われているのに、まさか2時間も僕に話があると言うのだろか?
いや……。
でもきっと伯爵は色々思うところがあるのだろう?エディットも言っていたじゃないか。僕がこの屋敷に来るのは婚約してから初めてだと…。
こうなったら、もう腹をくくるしかない。
「では行きましょうか?アドルフ君」
伯爵が声を掛けて来た。
「はい、分かりました」
あぁ‥‥既に胃が痛くなってきた。
そして僕は痛む胃を押さえながら、まるで鬼上司に呼び出された部下のように応接室へ連行されることになった。
****
通された応接室には丸いテーブルに座り心地の良い背もたれ付きの1人掛けソファ
が4台並べられていた。
「どうぞ、掛けて下さい」
「はい。では…失礼致します」
早速ソファを勧められたので、伯爵が座るのを見届けると会釈をして座らせてもらった。
「……」
そんな僕を何故かじっと見つめる伯爵。
「あの?どうかされましたか?」
「いや……本当に以前お会いした時とはあまりにも様子が違ったので、少々驚いてくるのですよ。随分礼儀正しくなられましたな」
「はい、ありがとうございます」
何と答えれば良いのか分からず、曖昧に返事をした。
確かにあまり記憶には残っていないけれども、前世を思い出すまでの僕は伯爵に対しても酷い態度を取っていた気がする。
それが具体的にどのような酷い態度だったのか…と問われても、今となっては思い出す事すら出来ないのがもどかしい。
「昨日からエディットが貴方のことを話し始めたのですよ。以前はこちらから貴方のことを尋ねても、特に話すことはありませんと言って教えてくれなかったのに」
「……」
僕は黙って伯爵の話を聞いていた。
「自分が作ったお菓子を美味しいと言って食べてくれたとか、始終優しい笑顔で話をしてくれたとか、帰るときは見送り迄してくれたと話していました」
うん?
もしやこれは褒められているのだろうか…?
ところが……。
「一体どういうつもりですかな?アドルフ様」
伯爵は不機嫌そうに僕に尋ねてきた。
「え?」
「貴方は今までエディットに酷い態度を取られてきたのは娘の態度で分かっています。それが何です?突然手の平を返したかのように優しい態度を取ったりして……。もしや、新手の嫌がらせですか?優しい態度から一転、再び娘に辛く当たってどん底に突き落とすつもりではないでしょうね?」
「ええっ?!そんなことするはずないじゃありませんか!」
まさか、そこまで深読みされているとは驚きだ。
「それなら一体どういうおつもりなのですかな?」
ずいっと伯爵は身を乗り出してきた。
「ええ。僕は馬に蹴られたショックで生まれ変わったのです。今までの僕は本当に酷い人間でした。おまけに何故エディットに酷い態度を取っていたのか、まるきり思い出せないのです。なので、これからは二度とエディットに酷いことをしないと約束致します」
「…その言葉、本当に信じても良いのでしょうな?」
「ええ、勿論です。エディットは僕の婚約者ですから」
僕は言い切った。
「そうですか?それを聞いて安心致しました」
伯爵が胸をなでおろす。
「はい、ご安心下さい」
笑顔で返事をしながら内心焦りまくっていた。
「そうですか。なら話は変わりますが‥‥」
一転すると今度は伯爵の世間話へと切り替わった。僕は愛想笑いをしながら相槌を打っていたけれども、話なんか少しも頭の中に入って来なかった。
何しろ、墓穴を掘ってしまったことに焦っていたからだ。
どうしよう。ますますマズイ状況になってしまった。
ついうっかり僕の婚約者ですからと言い切ってしまった。
このままエディットと婚約関係を続けていれば原作通りに話が進んでしまうかもしれない。
たとえ僕が何か悪さを働かなくとも、話の流れを元の世界に戻そうとする強制力?のようなものが働いて最終的に僕は追放されてしまうかもしれない。
やはりここは原作で真のヒーローとエディットが出会う前に何かしら先手を打つしか無いかもしれない…。
****
その後、結局伯爵から解放されたのは2時間後だった。
伯爵は最後に笑顔で「有意義な時間が過ごせた」と言ってくれたので、「僕も同じです」と返事をした。
けれども、全く別のことを考えていた僕にはどんな話をしたのか記憶にないのは言うまでも無かった――。
「どれ…食事も終わった事だし…隣の応接室に移動しましょうか?」
テーブルナプキンで口元を拭いた伯爵は僕をジロリと見た。
「はい…分かりました」
それにしてもこの伯爵は何て目つきが悪いのだろう。人のことを言えた義理ではないけれども、伯爵の方が僕よりも2割増し目つきが悪い気がする。
それでもエディットが一緒だからまだ大丈夫だろう。
隣に座る彼女を見ると視線を感じたのだろう、僕の方を一瞬見て…何故か顔を真っ赤にさせると視線をそらされてしまった。
「よし、それでは行きましょうか」
伯爵が立ち上がったので、僕も重い腰を上げた。
そしてエディットが立ち上がりかけた時‥‥。
「エディット、お前は来なくていい。母さんと2人で部屋にいなさい。」
伯爵がエディットに声を掛けた。
「「え?」」
その言葉に僕とエディットの声が同時にハモる。
「何だ?何か不満かね?今から男同士の大切な話し合いをするのだから、お前は来なくていい」
伯爵はエディットに話をしているけれども、僕に向けての宣戦布告の言葉のように感じてしまうのは何故だろう?
「はい…分かりました…」
あっさり引き下がるエディット。
うん、多分気弱な彼女のことだから親の要求を素直に受け入れると思っていたよ。
「あなた、でもあまりお引止めしてはいけませんよ?」
そこへ夫人が助け舟を出してくれた。
夫人!ナイスですっ!
「その後は私もアドルフ様に大事なお話があるのですから」
……前言撤回。
まさか、夫人も僕に話があったとは……。
「分かった。では2時間以内に終わらせよう」
えっ?!
慌てて言葉が飛び出しそうになるのを必死で飲み込む。
伯爵、本気ですか?
日本だって会議は1時間が妥当と言われているのに、まさか2時間も僕に話があると言うのだろか?
いや……。
でもきっと伯爵は色々思うところがあるのだろう?エディットも言っていたじゃないか。僕がこの屋敷に来るのは婚約してから初めてだと…。
こうなったら、もう腹をくくるしかない。
「では行きましょうか?アドルフ君」
伯爵が声を掛けて来た。
「はい、分かりました」
あぁ‥‥既に胃が痛くなってきた。
そして僕は痛む胃を押さえながら、まるで鬼上司に呼び出された部下のように応接室へ連行されることになった。
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通された応接室には丸いテーブルに座り心地の良い背もたれ付きの1人掛けソファ
が4台並べられていた。
「どうぞ、掛けて下さい」
「はい。では…失礼致します」
早速ソファを勧められたので、伯爵が座るのを見届けると会釈をして座らせてもらった。
「……」
そんな僕を何故かじっと見つめる伯爵。
「あの?どうかされましたか?」
「いや……本当に以前お会いした時とはあまりにも様子が違ったので、少々驚いてくるのですよ。随分礼儀正しくなられましたな」
「はい、ありがとうございます」
何と答えれば良いのか分からず、曖昧に返事をした。
確かにあまり記憶には残っていないけれども、前世を思い出すまでの僕は伯爵に対しても酷い態度を取っていた気がする。
それが具体的にどのような酷い態度だったのか…と問われても、今となっては思い出す事すら出来ないのがもどかしい。
「昨日からエディットが貴方のことを話し始めたのですよ。以前はこちらから貴方のことを尋ねても、特に話すことはありませんと言って教えてくれなかったのに」
「……」
僕は黙って伯爵の話を聞いていた。
「自分が作ったお菓子を美味しいと言って食べてくれたとか、始終優しい笑顔で話をしてくれたとか、帰るときは見送り迄してくれたと話していました」
うん?
もしやこれは褒められているのだろうか…?
ところが……。
「一体どういうつもりですかな?アドルフ様」
伯爵は不機嫌そうに僕に尋ねてきた。
「え?」
「貴方は今までエディットに酷い態度を取られてきたのは娘の態度で分かっています。それが何です?突然手の平を返したかのように優しい態度を取ったりして……。もしや、新手の嫌がらせですか?優しい態度から一転、再び娘に辛く当たってどん底に突き落とすつもりではないでしょうね?」
「ええっ?!そんなことするはずないじゃありませんか!」
まさか、そこまで深読みされているとは驚きだ。
「それなら一体どういうおつもりなのですかな?」
ずいっと伯爵は身を乗り出してきた。
「ええ。僕は馬に蹴られたショックで生まれ変わったのです。今までの僕は本当に酷い人間でした。おまけに何故エディットに酷い態度を取っていたのか、まるきり思い出せないのです。なので、これからは二度とエディットに酷いことをしないと約束致します」
「…その言葉、本当に信じても良いのでしょうな?」
「ええ、勿論です。エディットは僕の婚約者ですから」
僕は言い切った。
「そうですか?それを聞いて安心致しました」
伯爵が胸をなでおろす。
「はい、ご安心下さい」
笑顔で返事をしながら内心焦りまくっていた。
「そうですか。なら話は変わりますが‥‥」
一転すると今度は伯爵の世間話へと切り替わった。僕は愛想笑いをしながら相槌を打っていたけれども、話なんか少しも頭の中に入って来なかった。
何しろ、墓穴を掘ってしまったことに焦っていたからだ。
どうしよう。ますますマズイ状況になってしまった。
ついうっかり僕の婚約者ですからと言い切ってしまった。
このままエディットと婚約関係を続けていれば原作通りに話が進んでしまうかもしれない。
たとえ僕が何か悪さを働かなくとも、話の流れを元の世界に戻そうとする強制力?のようなものが働いて最終的に僕は追放されてしまうかもしれない。
やはりここは原作で真のヒーローとエディットが出会う前に何かしら先手を打つしか無いかもしれない…。
****
その後、結局伯爵から解放されたのは2時間後だった。
伯爵は最後に笑顔で「有意義な時間が過ごせた」と言ってくれたので、「僕も同じです」と返事をした。
けれども、全く別のことを考えていた僕にはどんな話をしたのか記憶にないのは言うまでも無かった――。
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