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第52話 サンルームの2人
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母からサンルームを勧められたときは正直ドキドキしてしまった。
何故ドキドキしたかというと、サンルームの場所がうろ覚えだったからだ。
何しろ学校の校舎並みに大きいヴァレンシュタイン家。
アドルフとして目覚めてまだ数日しか経過していない僕にとって、部屋の場所を把握するのはなかなか至難の業だ。
それでもアドルフとしての、うろ覚えの記憶を頼りに何とかサンルームの場所に辿り着くことが出来た。
良かった‥‥。無事にここまで来れて。
思わず心の中で安堵のため息をついてしまった。
「さ、着いたよ、エディット。中に入ろうか?」
平静を装いながら、僕は背後に立つエディットに声を掛けた。
「はい、アドルフ様」
それまで黙って僕の後をついて歩いていたエディットが笑顔で返事をする。
「よし、それじゃ開けるよ」
僕は扉を開けた―。
****
四方八方が全面窓になっているサンルームからは夕日が降り注ぎ、部屋をオレンジ色に染めていた。
窓の外には温室が見え、バラが咲き誇っている姿を見ることが出来る。それはとても綺麗な光景だった。
2人で白木の丸テーブルに向かい合って座ると、早速エディットが声を掛けて来た。
「あの…アドルフ様。大丈夫ですか?」
「え?何が?」
「いえ、何やら青ざめた顔でこちらのお部屋まで歩いておられたからです。それこそ声を掛けるのも憚られる程でした。あの…何かあったのですか?やはり相当傷が痛むのでしょうか…‥?」
エディットは心配そうな顔で僕を見つめてくる。
「え?そんなに顔色が悪かった?」
確かに痛む身体を引きずりつつ、必死になって自分の記憶を頼りにここまで来たけれども…。
「はい、そうです。もしかして…私、アドルフ様にご迷惑をお掛けしてしまったかもしれませんね…。申し訳ございません」
頭を下げるエディット。
「ええっ?!ち、違うって。そんなんじゃないよ。確かに身体はまだ痛むけど、青ざめていた理由はそれじゃないよ」
どうやら僕はエディットに余計な心配を掛けさせてしまったのかもしれない。
「え…?それでは他にどのような理由があるのですか?」
そうだな…。
どうせエディットは僕の記憶が曖昧なのを知っているのだから、ここは正直に話しておこう。
「うん。エディットはもう僕の記憶が曖昧なのは知っているよね?」
「はい」
「だから、無事にこの部屋へ来れるのか心配だったんだよ。それで顔色が悪かったんだと思うよ」
「そうだったのですか?それでしたら私に言って下されば良かったのに」
「え?」
「私は6年前まではよくこのお屋敷に来ていましたから」
「そ、そうだったんだ‥‥」
何てことだろう。
僕が読んだ漫画の世界ではヒーローが登場してくる高校3年生から始まっている。肝心のアドルフの記憶は殆ど残っていないし、ましてや子供時代の記憶なんて尚更だ。
そう言えば、両親の話では僕たちがまだ小さかった頃はエディットと仲が良かったと言うし…。
6年前に一体2人の間に何があったのだろう?
分からない。
自分自身のことのはずなのに、何故エディットに酷い態度ばかり取っていたのかが全く今の僕には謎だった。
どうしよう?いっそ、エディットに尋ねてみようか?
僕はいつから酷い態度を取るようになってしまったのか…。
よし、この際思い切って…尋ねてみよう!
「あの…さ、エディット…」
声を掛けた時――。
コンコン
扉のノック音が部屋に響き渡った。多分誰かがお茶を持ってきてくれたのだろう。
「はーい!どうぞー」
声を掛けると、カチャリと扉が開かれて‥‥現れたのは何とワゴンを押した母だった。
「え?か、母さんっ?!」
まさか母が現れるとは思わず、驚きのあまりテーブルに両手をついて立ち上がってしまった。
ズキッ!
次の瞬間、腕に走る激痛。
「あ!痛たたたた…」
しまった…。ついうっかり、怪我をしていることを忘れていた。
「キャアッ!大丈夫ですか?!アドルフ様!」
エディットは素早く立ち上がって駆け寄ると、包帯が巻かれた腕に触れて僕を見上げた。
「う、うん‥‥大丈夫だよ。心配してくれてありがとう」
珍しくエディットの積極的な行動に驚きつつ、礼を述べた時……。
「まぁまぁ、本当に2人はすっかり仲良しになったのね?とてもいいことだわ」
母がニコニコ笑顔を振りまきながらワゴンを押して入って来た。
「え?あ‥‥わ、私ったら…!」
エディットは僕の腕に自分から手を触れていることに気付くと、途端に頬を真っ赤に染めて僕から距離を取った。
「あらあら、今更照れる必要なんかないじゃないの。2人は婚約者同士なのだから。そうよね?アドルフ」
「え?あ、そうですね」
何故か母は僕に同意を求めて来た。
「ほらね、アドルフもああ言ってるのだから、これからも遠慮せずにいつでも我が家に遊びに来て頂戴ね?」
母はワゴンからお茶のセットを次々とテーブルの上に並べながらエディットに語りかける。
「は、はい。分かりました。宜しいでしょうか…?アドルフ様…」
エディットは顔を赤らめ、目を潤ませながら僕を見つめて来る。
‥‥そんな顔で言われたら‥‥断ることなんてできるはずもない。
と言うか、どうしてエディットの頼みを断ることなど出来るだろう。
「勿論だよ、いつでもおいで。エディットが望むなら、僕からも会いに行くから」
笑顔でエディットを見つめる。
「本当ですか…?ありがとうございます。私…とても嬉しいです……」
夕日に照らされ、はにかんだ笑顔を見せるエディットは本当に綺麗だった。
そう。
僕が出来ることは、記憶が無いけれども今までエディットに対して酷いことをしてき
た贖罪だ。
これからはエディットの望みは全て受け入れてあげて、彼女の信頼を取り戻す。
この先、エディットが王子のことを気になり始めたのなら彼女の背中を押してあげて…必要があれば協力する。
僕が2人の恋を成就させてあげるんだ。
それがこの世界で王子から追放を免れる為の手段なのだから。
僕はエディットが王子の隣で互いに微笑あって見つめう姿を想像し‥‥。
少しだけ胸がチクリと痛んだ―。
何故ドキドキしたかというと、サンルームの場所がうろ覚えだったからだ。
何しろ学校の校舎並みに大きいヴァレンシュタイン家。
アドルフとして目覚めてまだ数日しか経過していない僕にとって、部屋の場所を把握するのはなかなか至難の業だ。
それでもアドルフとしての、うろ覚えの記憶を頼りに何とかサンルームの場所に辿り着くことが出来た。
良かった‥‥。無事にここまで来れて。
思わず心の中で安堵のため息をついてしまった。
「さ、着いたよ、エディット。中に入ろうか?」
平静を装いながら、僕は背後に立つエディットに声を掛けた。
「はい、アドルフ様」
それまで黙って僕の後をついて歩いていたエディットが笑顔で返事をする。
「よし、それじゃ開けるよ」
僕は扉を開けた―。
****
四方八方が全面窓になっているサンルームからは夕日が降り注ぎ、部屋をオレンジ色に染めていた。
窓の外には温室が見え、バラが咲き誇っている姿を見ることが出来る。それはとても綺麗な光景だった。
2人で白木の丸テーブルに向かい合って座ると、早速エディットが声を掛けて来た。
「あの…アドルフ様。大丈夫ですか?」
「え?何が?」
「いえ、何やら青ざめた顔でこちらのお部屋まで歩いておられたからです。それこそ声を掛けるのも憚られる程でした。あの…何かあったのですか?やはり相当傷が痛むのでしょうか…‥?」
エディットは心配そうな顔で僕を見つめてくる。
「え?そんなに顔色が悪かった?」
確かに痛む身体を引きずりつつ、必死になって自分の記憶を頼りにここまで来たけれども…。
「はい、そうです。もしかして…私、アドルフ様にご迷惑をお掛けしてしまったかもしれませんね…。申し訳ございません」
頭を下げるエディット。
「ええっ?!ち、違うって。そんなんじゃないよ。確かに身体はまだ痛むけど、青ざめていた理由はそれじゃないよ」
どうやら僕はエディットに余計な心配を掛けさせてしまったのかもしれない。
「え…?それでは他にどのような理由があるのですか?」
そうだな…。
どうせエディットは僕の記憶が曖昧なのを知っているのだから、ここは正直に話しておこう。
「うん。エディットはもう僕の記憶が曖昧なのは知っているよね?」
「はい」
「だから、無事にこの部屋へ来れるのか心配だったんだよ。それで顔色が悪かったんだと思うよ」
「そうだったのですか?それでしたら私に言って下されば良かったのに」
「え?」
「私は6年前まではよくこのお屋敷に来ていましたから」
「そ、そうだったんだ‥‥」
何てことだろう。
僕が読んだ漫画の世界ではヒーローが登場してくる高校3年生から始まっている。肝心のアドルフの記憶は殆ど残っていないし、ましてや子供時代の記憶なんて尚更だ。
そう言えば、両親の話では僕たちがまだ小さかった頃はエディットと仲が良かったと言うし…。
6年前に一体2人の間に何があったのだろう?
分からない。
自分自身のことのはずなのに、何故エディットに酷い態度ばかり取っていたのかが全く今の僕には謎だった。
どうしよう?いっそ、エディットに尋ねてみようか?
僕はいつから酷い態度を取るようになってしまったのか…。
よし、この際思い切って…尋ねてみよう!
「あの…さ、エディット…」
声を掛けた時――。
コンコン
扉のノック音が部屋に響き渡った。多分誰かがお茶を持ってきてくれたのだろう。
「はーい!どうぞー」
声を掛けると、カチャリと扉が開かれて‥‥現れたのは何とワゴンを押した母だった。
「え?か、母さんっ?!」
まさか母が現れるとは思わず、驚きのあまりテーブルに両手をついて立ち上がってしまった。
ズキッ!
次の瞬間、腕に走る激痛。
「あ!痛たたたた…」
しまった…。ついうっかり、怪我をしていることを忘れていた。
「キャアッ!大丈夫ですか?!アドルフ様!」
エディットは素早く立ち上がって駆け寄ると、包帯が巻かれた腕に触れて僕を見上げた。
「う、うん‥‥大丈夫だよ。心配してくれてありがとう」
珍しくエディットの積極的な行動に驚きつつ、礼を述べた時……。
「まぁまぁ、本当に2人はすっかり仲良しになったのね?とてもいいことだわ」
母がニコニコ笑顔を振りまきながらワゴンを押して入って来た。
「え?あ‥‥わ、私ったら…!」
エディットは僕の腕に自分から手を触れていることに気付くと、途端に頬を真っ赤に染めて僕から距離を取った。
「あらあら、今更照れる必要なんかないじゃないの。2人は婚約者同士なのだから。そうよね?アドルフ」
「え?あ、そうですね」
何故か母は僕に同意を求めて来た。
「ほらね、アドルフもああ言ってるのだから、これからも遠慮せずにいつでも我が家に遊びに来て頂戴ね?」
母はワゴンからお茶のセットを次々とテーブルの上に並べながらエディットに語りかける。
「は、はい。分かりました。宜しいでしょうか…?アドルフ様…」
エディットは顔を赤らめ、目を潤ませながら僕を見つめて来る。
‥‥そんな顔で言われたら‥‥断ることなんてできるはずもない。
と言うか、どうしてエディットの頼みを断ることなど出来るだろう。
「勿論だよ、いつでもおいで。エディットが望むなら、僕からも会いに行くから」
笑顔でエディットを見つめる。
「本当ですか…?ありがとうございます。私…とても嬉しいです……」
夕日に照らされ、はにかんだ笑顔を見せるエディットは本当に綺麗だった。
そう。
僕が出来ることは、記憶が無いけれども今までエディットに対して酷いことをしてき
た贖罪だ。
これからはエディットの望みは全て受け入れてあげて、彼女の信頼を取り戻す。
この先、エディットが王子のことを気になり始めたのなら彼女の背中を押してあげて…必要があれば協力する。
僕が2人の恋を成就させてあげるんだ。
それがこの世界で王子から追放を免れる為の手段なのだから。
僕はエディットが王子の隣で互いに微笑あって見つめう姿を想像し‥‥。
少しだけ胸がチクリと痛んだ―。
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