婚約者はこの世界のヒロインで、どうやら僕は悪役で追放される運命らしい

結城芙由奈@コミカライズ連載中

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第59話 悪役令息、運命の出会いを果たす

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「な、何だ?あの悲鳴はっ!」

あまりの悲鳴の大きさに驚いて一瞬心臓が止まりそうになってしまった。
あの悲鳴…絶対に何かあったに違いない。しかも声の高さから、間違いなく女性の物だ。

「何者かに襲われているのかな…?」

怪我をして非力な今の僕で、悲鳴の主の力になれるかは分からないけれども……。

「な、なにか武器になりそうなものは…?」

地面をキョロキョロ見渡してみると、お誂え向きに手頃な棒が転がっていた。

「よ、よし……」

棒を拾い上げると、悲鳴が聞こえた場所へ急いで向かい……あまりにも意外な光景を目にして立ちすくんでしまった。



**


「え…?」

痛みに響かない程度で駆けつけてみると、制服を着た黒髪ロングヘアの女子学生が跪いて建物に頬ずりしている姿が目に飛び込んできた。

「キャーッ!し、信じられないっ!この風光明媚な景色の中で、こんなに美しい建造物がこの学院内にまだ他にもあったなんて!すごいっ!すごすぎるっ!」

何やら良く分からないけれども女子学生は興奮しまくっているのか、僕が近くにやってきたことにも気付かない。
そして、次に出てきた彼女の台詞に僕は衝撃を受けることになる。

「それにしても、まるでマリー・アントワネットが愛した『プチ・トリアノン』みたいじゃない!あ~ぁ…残念だなぁ。中に入ってみたいのに、鍵がかかっているなんてさ。いっそ窓ガラスを割って侵入してみようかしら……?」

その言葉に瞬時に僕は反応した。

「え……?」

何だって?!
マリー・アントワネット?!それにプチ・トリアノンだって?!
そんな人物はこの世界に存在しない。それにこの建造物を僕と同じプチ・トリアノンと表現するなんて……。

ひょっとして……彼女は僕と同じ転生者?!
これは、絶対に確かめる必要がある!

僕は黒髪女子学生にさらに近付くと、背後から声を掛けた。

「あ、あの……君…?ちょっといいかな?」

「え…?」

黒髪女子学生は振り返り……僕を見ると目を見開いた。
あれ?この女子学生、何処かで見たことがあるな……?

等と考えていた矢先―。

「あ、貴方はエディットの婚約者でアドルフ・ヴァレンシュタインじゃない!」

そして黒髪女子学生は僕をビシッと指さしながら叫んだ。

「え?な、何故僕の名前を知ってるの?しかもエディットの婚約者だということも?!」

「あ……!し、しまった…!」

女子学生は慌てて自分の口元を押さえた。

「ねぇ、何で君は僕の名前を知ってるんだい?しかもエディットのことまで知ってるなんて…」

黒髪女子学生に詰め寄る僕。

「さ、さぁ……気のせいじゃありませんか?私は何のことやらさっぱり分かりません」

僕からサッと視線をそらせながらしらを切る彼女。

「ねぇ、そんな態度を取っても今更ごまかせないよ。どうして君がマリー・アントワネットのことを知っているんだい?この世界にはそんな人物は歴史上存在しないよ?おまけにこの建物を『プチ・トリアノン』と表現するなんて……。ひょっとして君は転生者なんじゃないの?僕と同じ」

僕は一気に彼女にまくし立てた。

「え……?て、転生者……?貴方が…?」

その反応、間違いない。

「やっぱりそうだったんだ……君も僕と同じ転生者だったんだね」

良かった……。
この世界で異邦人の如く孤独だったこの僕にも、ようやく本音で語り合うことが出来る仲間が見つかったんだ。

驚きの目で僕を見る女子学生に僕は思わず安堵のため息をついた瞬間、意外な台詞が彼女の口から飛び出した。

「ううん、多分私は転生者じゃないと思うけど?恐らくこの身体に憑依したんじゃないかな?」

そして女子学生は立ち上がった。

「え…ええっ?転生者じゃないのっ?!」

「うん、そうに決まってる。だって私はこの身体の記憶が無いんだから。だから憑依したんだと思うの。何しろ、ある日気づいてみると『恋が叶う時』、別名コイカナの世界のモブキャラに憑依していたんだから!」

その言葉に僕はまるで雷に打たれたかのような衝撃を受けた。

『恋が叶う時』……別名『コイカナ』。
妹に面白いから是非読んでみてと何度も何度もせがまれて、手にした少女漫画……。

「そ、そうだ……。やっと思い出したぞ……ここは僕が前世で妹に勧められて読んだ漫画、『コイカナ』の世界だったんだ!!」

思わず頭を抱えて上を向き、叫んでしまった。

すると、今度は黒髪女子学生が両手で頬を押さえて叫んだ。

「ええーっ?!そ、その頭を両手で抱える癖…それに何処か聞き覚えのある、なよっとしたその口調…挙げ句に妹に勧められた漫画ですってっ?!ま、まさか…っ!!」

次の瞬間、僕と女子学生は同時に叫んだ。


幸子さちこかっ?!」
「お兄ちゃんっ?!」


僕と幸子の声が青空に響き渡った――。


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