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第2話 言いたいことは、それだけかしら?
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……は? 今、ジェレミーは何と言った?
あまりにも突然の言葉に、私は手にしていたココアを一口ゴクンと飲む。
うん、甘くて美味しい。
私がいつもと同じ態度に見えたのだろう。ジェレミーが身を乗り出してきた。
「ヴァネッサ、聞いているのか? 俺は今、君に婚約解消して欲しいと頼んでいるんだが?」
「ええ、聞こえているわ。ただ、あまりにも突然の話で驚いているだけよ」
「……驚いている? 俺にはいつもと同じ、冷静な姿にしか見えないぞ?」
「とても驚いているわ。ジェレミーにはそれが分からないの?」
「悪い、少しも驚いているように見えない」
何と言う言い草だろう。
私が動じない人間になってしまったのは、それもこれも全てジェレミーのせいだというのに?
口を閉じて黙っていると、ジェレミーは言葉を続ける。
「だから……いいよな?」
「は? 何が?」
「だから、婚約解消だよ。婚約破棄だなんて手段は取りたくない。穏便に済ませたいんだよ。何しろ、君は生まれたときから今までずっと隣にいた仲じゃないか」
婚約解消?
それは私のためではなく、自分の都合なのではないだろうか? 近衛兵として王宮に勤めている彼のこと、出来るだけ不名誉な出来事を避けたいに決まっている。
「あなたの両親は、私と婚約解消したい話を知っているのかしら?」
なるべく感情を表に出さず、冷静に尋ねる。
「いや、まだだ。これから話す。だけど、先に婚約者であるヴァネッサに報告するのが先だと思ってね」
「……」
あまりの言い分に絶句してしまった。
まだ両親には説明していない? 私に報告するのが先?
大体、報告とは一体どういう意味か分かっているのだろうか? 経過や結果を述べることが報告であり、普通は話し合いというべきなのに?
それを、報告という言葉で済まそうとするなんて……。
でも駄目だ。ここで動揺してはいけない。私が彼より優位に立つには、慌てふためく姿をジェレミーにみられるわけにはいかないのだ。
「聞いているのかい? ヴァネッサ。君は頭も良くて短大も卒業した才女だ。それに今は図書館司書という立派な職業婦人、結婚だけが全てではないだろう? 大体この婚約は親たちが勝手に決めたこと。そこに俺と君との意思は無いのだから」
ジェレミーは身振り手振りで訴えてくる。
自分のことを棚に上げて、婚約解消する言い訳をするとは呆れたものだ。
「ええ、聞いているわよ。ところで先程から婚約解消する言い訳を私のせいにしようとしているけど……何故婚約解消したいか、理由を教えてくれないかしら?」
「そ、それは……。実はグレゴリー宰相に提案されたんだ……自分の娘である、ミランダ嬢が俺のことを気に入って……どうしても結婚したいって……。勿論、婚約者がいるので、受け入れられないと断った。だけど、もし娘と結婚してくれるなら1番隊の近衛隊長に任命すると言われたんだよ。な? ヴァネッサなら俺の気持ち、分かってくれるだろう? 婚約破棄という形では……色々都合が悪いんだよ」
自分の一方的な都合を押し付けつつ、申し訳無さそうに目を伏せるジェレミー。
近衛隊長……それはジェレミーの悲願であった。
代々有名な騎士を輩出してきたクラウン家は全員が若いうちに近衛隊長に任命されている。
だが、一方ジェレミーは入隊して既に6年になるのに未だに副隊長止まりだった。
両親から期待を寄せられているジェレミーは焦っていた。
何としても出世をしたいと、会う度に愚痴をこぼしていた。
「ふ~ん……なるほど……」
私は、甘いものが大好きだ。甘い飲み物、甘いケーキ……。
一日でも甘いものを口に入れない日は無いくらいに。
けれど、私自身は決して甘い人間ではない。
自分の都合ばかり述べて婚約解消を迫るジェレミーの要求など、決して飲んだりするものか。
「それで? 言いたいことは、それだけかしら?」
私は腕を組んで、ジェレミーを見つめた――
あまりにも突然の言葉に、私は手にしていたココアを一口ゴクンと飲む。
うん、甘くて美味しい。
私がいつもと同じ態度に見えたのだろう。ジェレミーが身を乗り出してきた。
「ヴァネッサ、聞いているのか? 俺は今、君に婚約解消して欲しいと頼んでいるんだが?」
「ええ、聞こえているわ。ただ、あまりにも突然の話で驚いているだけよ」
「……驚いている? 俺にはいつもと同じ、冷静な姿にしか見えないぞ?」
「とても驚いているわ。ジェレミーにはそれが分からないの?」
「悪い、少しも驚いているように見えない」
何と言う言い草だろう。
私が動じない人間になってしまったのは、それもこれも全てジェレミーのせいだというのに?
口を閉じて黙っていると、ジェレミーは言葉を続ける。
「だから……いいよな?」
「は? 何が?」
「だから、婚約解消だよ。婚約破棄だなんて手段は取りたくない。穏便に済ませたいんだよ。何しろ、君は生まれたときから今までずっと隣にいた仲じゃないか」
婚約解消?
それは私のためではなく、自分の都合なのではないだろうか? 近衛兵として王宮に勤めている彼のこと、出来るだけ不名誉な出来事を避けたいに決まっている。
「あなたの両親は、私と婚約解消したい話を知っているのかしら?」
なるべく感情を表に出さず、冷静に尋ねる。
「いや、まだだ。これから話す。だけど、先に婚約者であるヴァネッサに報告するのが先だと思ってね」
「……」
あまりの言い分に絶句してしまった。
まだ両親には説明していない? 私に報告するのが先?
大体、報告とは一体どういう意味か分かっているのだろうか? 経過や結果を述べることが報告であり、普通は話し合いというべきなのに?
それを、報告という言葉で済まそうとするなんて……。
でも駄目だ。ここで動揺してはいけない。私が彼より優位に立つには、慌てふためく姿をジェレミーにみられるわけにはいかないのだ。
「聞いているのかい? ヴァネッサ。君は頭も良くて短大も卒業した才女だ。それに今は図書館司書という立派な職業婦人、結婚だけが全てではないだろう? 大体この婚約は親たちが勝手に決めたこと。そこに俺と君との意思は無いのだから」
ジェレミーは身振り手振りで訴えてくる。
自分のことを棚に上げて、婚約解消する言い訳をするとは呆れたものだ。
「ええ、聞いているわよ。ところで先程から婚約解消する言い訳を私のせいにしようとしているけど……何故婚約解消したいか、理由を教えてくれないかしら?」
「そ、それは……。実はグレゴリー宰相に提案されたんだ……自分の娘である、ミランダ嬢が俺のことを気に入って……どうしても結婚したいって……。勿論、婚約者がいるので、受け入れられないと断った。だけど、もし娘と結婚してくれるなら1番隊の近衛隊長に任命すると言われたんだよ。な? ヴァネッサなら俺の気持ち、分かってくれるだろう? 婚約破棄という形では……色々都合が悪いんだよ」
自分の一方的な都合を押し付けつつ、申し訳無さそうに目を伏せるジェレミー。
近衛隊長……それはジェレミーの悲願であった。
代々有名な騎士を輩出してきたクラウン家は全員が若いうちに近衛隊長に任命されている。
だが、一方ジェレミーは入隊して既に6年になるのに未だに副隊長止まりだった。
両親から期待を寄せられているジェレミーは焦っていた。
何としても出世をしたいと、会う度に愚痴をこぼしていた。
「ふ~ん……なるほど……」
私は、甘いものが大好きだ。甘い飲み物、甘いケーキ……。
一日でも甘いものを口に入れない日は無いくらいに。
けれど、私自身は決して甘い人間ではない。
自分の都合ばかり述べて婚約解消を迫るジェレミーの要求など、決して飲んだりするものか。
「それで? 言いたいことは、それだけかしら?」
私は腕を組んで、ジェレミーを見つめた――
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