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第8話 夕食会
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――18時50分
「ただいま」
「おかえりなさいませ、ヴァネッサ様。本日はいつもより遅い御帰宅でしたね?」
エントランスでフットマンが出迎えてくれた。
「ええ。ちょっとね、色々あって少し遅くなってしまったわ」
「おや? 何かありましたか? 随分楽しそうに見えますが?」
フットマンが私に尋ねてきた。
「ええ、分かる? とっても良いことがあったのよ。早速両親に報告しようと思うの。二人はどこにいるのかしら?」
「旦那さまと奥様は先程からダイニングルームでヴァネッサ様をお待ちになっております」
「そうなのね、ならすぐに行かないとね」
フットマンにカバンを預けると、急ぎ足でダイニングルームへ向かった。
**
「ただいま戻りました、お父様、お母様」
ダイニングルームにやってくると、早速席に着いている二人に挨拶した。
「おかえり、ヴァネッサ」
「おかえりなさい、今夜は少し遅かったのね?」
「はい、実はジェレミーと会っていたのです。話があると言って彼が職場に尋ねてきたものですから」
私は椅子に着席した。
「ジェレミーと会っていたのか? 珍しいこともあるものだな」
「そうね。特別な予定でも無い限り、会いに来ることなど無かったでしょう? ましてや職場になんて」
父も母も怪訝そうに尋ねてくる。
「それで、どんな用件だったのだ?」
「はい、私との婚約を解消して欲しいとジェレミーが頼んできたのです」
「「婚約解消!?」」
父と母が同時に驚きの声を上げた。
「一体婚約解消とはどういうことだ!? 何故そんなことになったのだ!?」
「ヴァネッサ、何があったの? 教えて頂戴」
両親は目の前の食事には目もくれずに、話の続きを促す。
「はい、ミランダという女性と結婚したいからだそうです。その女性は宰相の娘で、つい最近留学先の学校を卒業して帰ってきました。そこで近衛兵として城に勤務していたジェレミーを見初めたらしいですよ」
肩をすくめて説明すると、父が眉間にシワを寄せた。
「何だって!? グレゴリー宰相の娘か!?」
「御存知なのですか? お父様」
「いや、娘のことは知らないが宰相のことは良く知っているぞ。そう言えば聞いたことがあるな……。宰相は年老いてから産まれた娘を溺愛し、どんな望みも叶えてやっている親馬鹿だとな。娘を傷つける者には容赦が無いとも聞いたことがある」
「まぁ、そうだったのですか」
ふ~ん……なるほど。つまり、ジェレミーは宰相が溺愛してやまない娘のミランダを突き飛ばして怪我をさせたというわけか。
私にも要因があるのかもしれないが、結果的に彼女を傷つけたのはジェレミーなのだ。
後のことは知るものか。それよりも私は先に手を打たなければならないことがある。
「お母様、確かお母様の身内で新聞記者をされている方がいましたよね?」
「ええ。いるわよ」
頷く母。
「でしたら、今回のことを記事にしていただくようにお願いできますか? 宰相は娘のワガママを聞き入れるために、ジェレミーに私と婚約解消するように迫りました。しかも、もしミランダと結婚してくれたら近衛隊長に任命することを約束したそうなのです」
「何ですって!? 出世をちらつかせて、婚約解消を迫るなんて……なんて卑怯な真似をするのかしら!」
母が顔を歪ませる。
「到底許されない事案だな……よりにもよって、我が家に喧嘩を売るような真似をするとは。それならこちらも遠慮はいらない。徹底的にやらなければな」
ハニー家は伯爵家でありながら、かなり王宮に対しても発言権を持っていたのだ。
だからジェレミーに恋する女性たちは数多くいたのに、誰もが結婚を迫る令嬢はいなかったのだ。
それほどハニー家を恐れていたのだ
この国の宰相がそんなこと知らぬはずはないのに、やはり溺愛する娘のことで盲目になっていたのだろう。
「ええ、お願いしますね。それでは、お父様。お母様、折角のお食事が冷めてしまいますので頂きましょう」
「そうだな」
「ええ、頂きましょう」
こうして話し合いを兼ねた、夕食会が始まった――
「ただいま」
「おかえりなさいませ、ヴァネッサ様。本日はいつもより遅い御帰宅でしたね?」
エントランスでフットマンが出迎えてくれた。
「ええ。ちょっとね、色々あって少し遅くなってしまったわ」
「おや? 何かありましたか? 随分楽しそうに見えますが?」
フットマンが私に尋ねてきた。
「ええ、分かる? とっても良いことがあったのよ。早速両親に報告しようと思うの。二人はどこにいるのかしら?」
「旦那さまと奥様は先程からダイニングルームでヴァネッサ様をお待ちになっております」
「そうなのね、ならすぐに行かないとね」
フットマンにカバンを預けると、急ぎ足でダイニングルームへ向かった。
**
「ただいま戻りました、お父様、お母様」
ダイニングルームにやってくると、早速席に着いている二人に挨拶した。
「おかえり、ヴァネッサ」
「おかえりなさい、今夜は少し遅かったのね?」
「はい、実はジェレミーと会っていたのです。話があると言って彼が職場に尋ねてきたものですから」
私は椅子に着席した。
「ジェレミーと会っていたのか? 珍しいこともあるものだな」
「そうね。特別な予定でも無い限り、会いに来ることなど無かったでしょう? ましてや職場になんて」
父も母も怪訝そうに尋ねてくる。
「それで、どんな用件だったのだ?」
「はい、私との婚約を解消して欲しいとジェレミーが頼んできたのです」
「「婚約解消!?」」
父と母が同時に驚きの声を上げた。
「一体婚約解消とはどういうことだ!? 何故そんなことになったのだ!?」
「ヴァネッサ、何があったの? 教えて頂戴」
両親は目の前の食事には目もくれずに、話の続きを促す。
「はい、ミランダという女性と結婚したいからだそうです。その女性は宰相の娘で、つい最近留学先の学校を卒業して帰ってきました。そこで近衛兵として城に勤務していたジェレミーを見初めたらしいですよ」
肩をすくめて説明すると、父が眉間にシワを寄せた。
「何だって!? グレゴリー宰相の娘か!?」
「御存知なのですか? お父様」
「いや、娘のことは知らないが宰相のことは良く知っているぞ。そう言えば聞いたことがあるな……。宰相は年老いてから産まれた娘を溺愛し、どんな望みも叶えてやっている親馬鹿だとな。娘を傷つける者には容赦が無いとも聞いたことがある」
「まぁ、そうだったのですか」
ふ~ん……なるほど。つまり、ジェレミーは宰相が溺愛してやまない娘のミランダを突き飛ばして怪我をさせたというわけか。
私にも要因があるのかもしれないが、結果的に彼女を傷つけたのはジェレミーなのだ。
後のことは知るものか。それよりも私は先に手を打たなければならないことがある。
「お母様、確かお母様の身内で新聞記者をされている方がいましたよね?」
「ええ。いるわよ」
頷く母。
「でしたら、今回のことを記事にしていただくようにお願いできますか? 宰相は娘のワガママを聞き入れるために、ジェレミーに私と婚約解消するように迫りました。しかも、もしミランダと結婚してくれたら近衛隊長に任命することを約束したそうなのです」
「何ですって!? 出世をちらつかせて、婚約解消を迫るなんて……なんて卑怯な真似をするのかしら!」
母が顔を歪ませる。
「到底許されない事案だな……よりにもよって、我が家に喧嘩を売るような真似をするとは。それならこちらも遠慮はいらない。徹底的にやらなければな」
ハニー家は伯爵家でありながら、かなり王宮に対しても発言権を持っていたのだ。
だからジェレミーに恋する女性たちは数多くいたのに、誰もが結婚を迫る令嬢はいなかったのだ。
それほどハニー家を恐れていたのだ
この国の宰相がそんなこと知らぬはずはないのに、やはり溺愛する娘のことで盲目になっていたのだろう。
「ええ、お願いしますね。それでは、お父様。お母様、折角のお食事が冷めてしまいますので頂きましょう」
「そうだな」
「ええ、頂きましょう」
こうして話し合いを兼ねた、夕食会が始まった――
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