87 / 98
13 申し出
しおりを挟む
「あの、陛下。私は今後、こちらの城でお世話になるので是非王妃様にもご挨拶させていただけないでしょうか?」
何としてもクラウスの妻を確認しなければ、ここまで来た意味がない。
「ああ、后に会いたいのか? 分かった。では何処にいるのか確認してみよう」
クラウスは手元のベルを振り鳴らすと、すぐに扉がノックされた。
『お呼びでしょうか?』
「中に入れ」
すると扉が開かれ、ひとりの若い騎士が現れた。
「ここにいるのは『モリス』国から人質で来たミレーユ姫だ。后に会いたいと申しておる。今何処にいるのか分かるか?」
「はい、王妃様は東屋におられます。そちらで侍女たちとお茶を飲んでおられます」
「そうか、ではすぐに姫を案内してやってくれ」
「はい、かしこまりました。では参りましょう、姫」
「ええ、お願いします」
そして私は次にクラウスを見た。
「陛下、ありがとうございます」
「うむ。ではまたな」
私は頭を下げると、騎士とともに部屋を後にした。
****
太陽の明かりがさんさんと差し込む広々とした廊下を騎士に連れられて歩いていた。
……それにしても何て立派な城なのだろう。今は戦争の真っ最中だと言うのに、この空間だけはそれを感じさせない。
ホールにはあんなに怪我人が運び込まれ、ろくな手当も受けることなく放置されているというのに……
思わず、歯をギリギリと噛み締めたときに前方を歩く騎士が声をかけてきた。
「……本当にあなたは『モリス』国の姫なのですか?」
「ええ、そうです」
「人質になるためにこの国にいらしたのでしょうか?」
「え? 勿論ですが?」
騎士の何処か含みをもたせた言葉にドキリとする。……何か感づかれてしまっただろうか?
「そうですか……それにしても王妃様にご挨拶なさりたいとは……」
ため息混じりの騎士に尋ねた。
「それが何か問題でもあるのでしょうか? 私はただ、こちらの国でお世話になるので、王妃様にもご挨拶するのは当然だと思ったのですが」
「いえ。とてもご立派な考えだとは思いますが……」
そこで再び騎士は言葉を切る。本当はもっとこちらも色々聞きたかったが、騎士からは、これ以上話をしたくない雰囲気を感じたので私は黙ることにした。
私達は無言のまま、渡り廊下を歩き……美しい庭園が見える場所へとやってきた。
「あちらに王妃様と侍女の方々がいらしております」
騎士が指さした先には石造りの東屋が見える。テーブルを囲み、美しく着飾った三人の女性たちが椅子に腰掛けていた。
「では、ご挨拶に参りましょう」
「ええ」
騎士はまっすぐ、東屋に向かって歩き出し……私は彼の後に続いた。
どうか、あの場にいるのが私のに憎むべき敵であるオフィーリアでありますようにと願いながら――
何としてもクラウスの妻を確認しなければ、ここまで来た意味がない。
「ああ、后に会いたいのか? 分かった。では何処にいるのか確認してみよう」
クラウスは手元のベルを振り鳴らすと、すぐに扉がノックされた。
『お呼びでしょうか?』
「中に入れ」
すると扉が開かれ、ひとりの若い騎士が現れた。
「ここにいるのは『モリス』国から人質で来たミレーユ姫だ。后に会いたいと申しておる。今何処にいるのか分かるか?」
「はい、王妃様は東屋におられます。そちらで侍女たちとお茶を飲んでおられます」
「そうか、ではすぐに姫を案内してやってくれ」
「はい、かしこまりました。では参りましょう、姫」
「ええ、お願いします」
そして私は次にクラウスを見た。
「陛下、ありがとうございます」
「うむ。ではまたな」
私は頭を下げると、騎士とともに部屋を後にした。
****
太陽の明かりがさんさんと差し込む広々とした廊下を騎士に連れられて歩いていた。
……それにしても何て立派な城なのだろう。今は戦争の真っ最中だと言うのに、この空間だけはそれを感じさせない。
ホールにはあんなに怪我人が運び込まれ、ろくな手当も受けることなく放置されているというのに……
思わず、歯をギリギリと噛み締めたときに前方を歩く騎士が声をかけてきた。
「……本当にあなたは『モリス』国の姫なのですか?」
「ええ、そうです」
「人質になるためにこの国にいらしたのでしょうか?」
「え? 勿論ですが?」
騎士の何処か含みをもたせた言葉にドキリとする。……何か感づかれてしまっただろうか?
「そうですか……それにしても王妃様にご挨拶なさりたいとは……」
ため息混じりの騎士に尋ねた。
「それが何か問題でもあるのでしょうか? 私はただ、こちらの国でお世話になるので、王妃様にもご挨拶するのは当然だと思ったのですが」
「いえ。とてもご立派な考えだとは思いますが……」
そこで再び騎士は言葉を切る。本当はもっとこちらも色々聞きたかったが、騎士からは、これ以上話をしたくない雰囲気を感じたので私は黙ることにした。
私達は無言のまま、渡り廊下を歩き……美しい庭園が見える場所へとやってきた。
「あちらに王妃様と侍女の方々がいらしております」
騎士が指さした先には石造りの東屋が見える。テーブルを囲み、美しく着飾った三人の女性たちが椅子に腰掛けていた。
「では、ご挨拶に参りましょう」
「ええ」
騎士はまっすぐ、東屋に向かって歩き出し……私は彼の後に続いた。
どうか、あの場にいるのが私のに憎むべき敵であるオフィーリアでありますようにと願いながら――
35
あなたにおすすめの小説
投獄された聖女は祈るのをやめ、自由を満喫している。
七辻ゆゆ
ファンタジー
「偽聖女リーリエ、おまえとの婚約を破棄する。衛兵、偽聖女を地下牢に入れよ!」
リーリエは喜んだ。
「じゆ……、じゆう……自由だわ……!」
もう教会で一日中祈り続けなくてもいいのだ。
【コミカライズ決定】愛されない皇妃~最強の母になります!~
椿蛍
ファンタジー
【コミカライズ決定の情報が解禁されました】
※レーベル名、漫画家様はのちほどお知らせいたします。
※配信後は引き下げとなりますので、ご注意くださいませ。
愛されない皇妃『ユリアナ』
やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。
夫も子どもも――そして、皇妃の地位。
最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。
けれど、そこからが問題だ。
皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。
そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど……
皇帝一家を倒した大魔女。
大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!?
※表紙は作成者様からお借りしてます。
※他サイト様に掲載しております。
余命六年の幼妻の願い~旦那様は私に興味が無い様なので自由気ままに過ごさせて頂きます。~
流雲青人
恋愛
商人と商品。そんな関係の伯爵家に生まれたアンジェは、十二歳の誕生日を迎えた日に医師から余命六年を言い渡された。
しかし、既に公爵家へと嫁ぐことが決まっていたアンジェは、公爵へは病気の存在を明かさずに嫁ぐ事を余儀なくされる。
けれど、幼いアンジェに公爵が興味を抱く訳もなく…余命だけが過ぎる毎日を過ごしていく。
学園首席の私は魔力を奪われて婚約破棄されたけど、借り物の魔力でいつまで調子に乗っているつもり?
今川幸乃
ファンタジー
下級貴族の生まれながら魔法の練習に励み、貴族の子女が集まるデルフィーラ学園に首席入学を果たしたレミリア。
しかし進級試験の際に彼女の実力を嫉妬したシルヴィアの呪いで魔力を奪われ、婚約者であったオルクには婚約破棄されてしまう。
が、そんな彼女を助けてくれたのはアルフというミステリアスなクラスメイトであった。
レミリアはアルフとともに呪いを解き、シルヴィアへの復讐を行うことを決意する。
レミリアの魔力を奪ったシルヴィアは調子に乗っていたが、全校生徒の前で魔法を披露する際に魔力を奪い返され、醜態を晒すことになってしまう。
※3/6~ プチ改稿中
冤罪で家が滅んだ公爵令嬢リースは婚約破棄された上に、学院の下働きにされた後、追放されて野垂れ死からの前世の記憶を取り戻して復讐する!
山田 バルス
恋愛
婚約破棄された上に、学院の下働きにされた後、追放されて野垂れ死からの前世の記憶を取り戻して復讐する!
【本編完結】ただの平凡令嬢なので、姉に婚約者を取られました。
138ネコ@書籍化&コミカライズしました
ファンタジー
「誰にも出来ないような事は求めないから、せめて人並みになってくれ」
お父様にそう言われ、平凡になるためにたゆまぬ努力をしたつもりです。
賢者様が使ったとされる神級魔法を会得し、復活した魔王をかつての勇者様のように倒し、領民に慕われた名領主のように領地を治めました。
誰にも出来ないような事は、私には出来ません。私に出来るのは、誰かがやれる事を平凡に努めてきただけ。
そんな平凡な私だから、非凡な姉に婚約者を奪われてしまうのは、仕方がない事なのです。
諦めきれない私は、せめて平凡なりに仕返しをしてみようと思います。
侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!
侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!
珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。
3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。
高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。
これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!!
転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる