里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売

文字の大きさ
27 / 72

第27話 奇妙な同盟関係?

しおりを挟む
カチャ…

静かにドアが開き、身だしなみを整えたクラウス夫妻にマリア嬢、その後ろを歩くのはジェニー嬢とお付きの侍女、そして一番最後に出てきたのは項垂れた様子のデニムだった。なるほど…恐らくあの様子だと、双方からこってり油を絞られたに違いない。『太陽の部屋』を出てきたクラウス伯爵はすぐに私の存在に気付いた。

「おお、君は先程の…」

「はい、私はコネリー家のメイド長をしております、メイと申します。」

とっさにその場で思いつく名前を言った。どうせこの阿呆デニムは余程自分に親しい使用人の顔と名前しか知らないのだから構うものか。

「そうか、メイ。それでは我々はデニム殿のご両親に挨拶をしてくる。ジェニー嬢はこのままお帰りになるそうなので馬車の手配をお願いできるか?」

本来であればデニムが言うべきセリフなのに、クラウス伯爵はまるでこの屋敷の主のように命じてきた。命じられた私は念の為にチラリとデニムを見るが、彼は気まずいのか私と視線を合わせようとしない。ならば…ここはクラウス伯爵に従おう。だって肝心のジェニー嬢は真っ青な顔をして、今にも泣き出しそうな顔をしているのだから。

「はい、かしこまりました。それではジェニー様、どうぞこちらへいらして下さい。侍女の方もどうぞ」

「は、はい…」

「分かりました」

2人は素直に返事をする。

「ではエントランスまでご案内致します。クラウス伯爵様、本日はお疲れさまでした」

私が会釈をするとクラウス伯爵は苦笑いをすると私に言った。

「ところでメイ、先程部屋の中で行われていたことは内密にしてくれるか?」

案の定、クラウス伯爵が私に口止めを命じてきた!

「え?何の事でしょう?」

彼の言いたいことは恐らく賭博のことだろう。

「「「「え?」」」」

クラウス夫妻とマリア嬢、そしてクズデニムが声を揃えて私に注目した。

「ひょっとして内密に…というのはデニム様のダブル見合いの事でしょうか?」

首を傾げデニムを見る。

『お、お前!今それを言うのかっ?!』

デニムは目だけで私に語ってきた。

「い、いや。何でも無い、今の話はどうか忘れてくれ。ハハハ…すまなかった。引き止めたりして。」

クラウス伯爵は取り繕ったかのように笑った。彼は恐らくデニムとマリア嬢が賭博をしていた事実を私は知らないと認定したのだろう。

「いいえ、とんでもございません。それでは改めて失礼致します。では参りましょう」

クラウス夫妻に挨拶をし、ジェニー嬢達に声を掛けると私は先頭に立って歩着始めた。すると不意にジェニー嬢が声を掛けてきた。

「あの、メイさん」

一瞬誰の事だろうと思ったが、先程思いつきで名乗った自分の名前であることを思い出し、返事をした。

「はい、何でしょうか?ジェニー様」

ジェニー嬢の隣に並んで歩き始めると、彼女は声を震わせながら訴えてきた。

「デニム様と先程のお見合いの女性…中で何をしていたと思いますか?」

「さあ?何でしょうか?」

知っていたけどしらを切る。

「あの2人…!あの部屋でお金を掛けてカードゲームをしていたのですよ!!」

「まあ、そうなのですか?!」

わざと驚いた声をあげる。

「カジノ場以外でのお金を掛けたカードゲームは法律で禁止されています。それを…クラウス伯爵は隠蔽しようとしています。ご自身の娘を助けるために。これって犯罪ですよね?」

「ええ…そうなりますね」

何だかジェニー嬢の口調が変化してきた。

「クラウス伯爵はメイさんに口止めしようとしていたんです。でも、メイさんは賭博の事を知らなかったから…口を閉ざしたのです」

「左様でございましたか…」

ええ、ええ。良くわかっていますよ。ジェニー嬢。

「だから私、決めました」

ジェニー嬢は意思の強そうな目で私を見た。いつの間にか私達はエントランスに到着していた。

「決めた?一体何を決めたのですか?」

エントランスの扉を開けると、既にそこにはジェニー嬢を自宅に送るべく、馬車が待機している。この馬車を用意してくれたのも、クラウス伯爵の会話を盗み聞きしていた私の仲間の活躍によるものだ。

「まあ!もう馬車が用意されていたのですか?!」

侍女の少女が驚いた。

「はい、そうです。どうぞお乗り下さい」

馬車のドアを開けると、侍女とジェニー嬢が乗り込む。そしてジェニー嬢は馬車の窓から顔を覗かせると言った。

「メイさん、私家に帰ったら父と母にデニム様とクラウス伯爵の事を告発します。私はあの方に口止めされていませんから…このまま泣き寝入りなんて絶対にしません!」

ジェニー嬢の瞳の奥には静かに怒りの炎が揺れている…ように見えた。彼女の決意はどうやら固いようだ。それなら背中を押してあげよう。

「分かりました、ジェニー様。どうぞご自分の心の赴くままに行動して下さい!」

私は力強く言う。

「はい、分かりました!御者さん!馬車をワイルド家までお願いします!出来るだけ飛ばして下さい!」

ジェニー嬢は御者に声を掛ける。

「はい、かしこまりました!」

御者を務める私の仲間は手綱を振るうと、馬は物凄い速さで駆け出した。

ガラガラガラガラ…!!

私はすっかり日の暮れた空の下をジェニー嬢と侍女を乗せた馬車が小さくなるまで見送っていた。

フフフ…

デニム、もうすぐ貴方を破滅させてあげるからね?

私は馬車を見送りながら、心のなかで間抜けなデニムに語りかけるのだった―。




しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

王太子妃は離婚したい

凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。 だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。 ※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。 綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。 これまで応援いただき、本当にありがとうございました。 レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。 https://www.regina-books.com/extra/login

殿下に寵愛されてませんが別にかまいません!!!!!

さくら
恋愛
 王太子アルベルト殿下の婚約者であった令嬢リリアナ。けれど、ある日突然「裏切り者」の汚名を着せられ、殿下の寵愛を失い、婚約を破棄されてしまう。  ――でも、リリアナは泣き崩れなかった。  「殿下に愛されなくても、私には花と薬草がある。健気? 別に演じてないですけど?」  庶民の村で暮らし始めた彼女は、花畑を育て、子どもたちに薬草茶を振る舞い、村人から慕われていく。だが、そんな彼女を放っておけないのが、執着心に囚われた殿下。噂を流し、畑を焼き払い、ついには刺客を放ち……。  「どこまで私を追い詰めたいのですか、殿下」  絶望の淵に立たされたリリアナを守ろうとするのは、騎士団長セドリック。冷徹で寡黙な男は、彼女の誠実さに心を動かされ、やがて命を懸けて庇う。  「俺は、君を守るために剣を振るう」  寵愛などなくても構わない。けれど、守ってくれる人がいる――。  灰の大地に芽吹く新しい絆が、彼女を強く、美しく咲かせていく。

成人したのであなたから卒業させていただきます。

ぽんぽこ狸
恋愛
 フィオナはデビュタント用に仕立てた可愛いドレスを婚約者であるメルヴィンに見せた。  すると彼は、とても怒った顔をしてフィオナのドレスを引き裂いた。  メルヴィンは自由に仕立てていいとは言ったが、それは流行にのっとった範囲でなのだから、こんなドレスは着させられないという事を言う。  しかしフィオナから見れば若い令嬢たちは皆愛らしい色合いのドレスに身を包んでいるし、彼の言葉に正当性を感じない。  それでも子供なのだから言う事を聞けと年上の彼に言われてしまうとこれ以上文句も言えない、そんな鬱屈とした気持ちを抱えていた。  そんな中、ある日、王宮でのお茶会で変わり者の王子に出会い、その素直な言葉に、フィオナの価値観はがらりと変わっていくのだった。  変わり者の王子と大人になりたい主人公のお話です。

冷遇する婚約者に、冷たさをそのままお返しします。

ねむたん
恋愛
貴族の娘、ミーシャは婚約者ヴィクターの冷酷な仕打ちによって自信と感情を失い、無感情な仮面を被ることで自分を守るようになった。エステラ家の屋敷と庭園の中で静かに過ごす彼女の心には、怒りも悲しみも埋もれたまま、何も感じない日々が続いていた。 事なかれ主義の両親の影響で、エステラ家の警備はガバガバですw

「いらない」と捨てられた令嬢、実は全属性持ちの聖女でした

ゆっこ
恋愛
「リリアーナ・エヴァンス。お前との婚約は破棄する。もう用済み そう言い放ったのは、五年間想い続けた婚約者――王太子アレクシスさま。 広間に響く冷たい声。貴族たちの視線が一斉に私へ突き刺さる。 「アレクシスさま……どういう、ことでしょうか……?」 震える声で問い返すと、彼は心底嫌そうに眉を顰めた。 「言葉の意味が理解できないのか? ――お前は“無属性”だ。魔法の才能もなければ、聖女の資質もない。王太子妃として役不足だ」 「無……属性?」

「予備」として連れてこられた私が、本命を連れてきたと勘違いした王国の滅亡フラグを華麗に回収して隣国の聖女になりました

平山和人
恋愛
王国の辺境伯令嬢セレスティアは、生まれつき高い治癒魔法を持つ聖女の器でした。しかし、十年間の婚約期間の末、王太子ルシウスから「真の聖女は別にいる。お前は不要になった」と一方的に婚約を破棄されます。ルシウスが連れてきたのは、派手な加護を持つ自称「聖女」の少女、リリア。セレスティアは失意の中、国境を越えた隣国シエルヴァード帝国へ。 一方、ルシウスはセレスティアの地味な治癒魔法こそが、王国の呪いの進行を十年間食い止めていた「代替の聖女」の役割だったことに気づきません。彼の連れてきたリリアは、見かけの派手さとは裏腹に呪いを加速させる力を持っていました。 隣国でその真の力を認められたセレスティアは、帝国の聖女として迎えられます。王国が衰退し、隣国が隆盛を極める中、ルシウスはようやくセレスティアの真価に気づき復縁を迫りますが、後の祭り。これは、価値を誤認した愚かな男と、自分の力で世界を変えた本物の聖女の、代わりではなく主役になる物語です。

婚約破棄されましたが、おかげで聖女になりました

瀬崎由美
恋愛
「アイラ・ロックウェル、君との婚約は無かったことにしよう」そう婚約者のセドリックから言い放たれたのは、通っていた学園の卒業パーティー。婚約破棄の理由には身に覚えはなかったけれど、世間体を気にした両親からはほとぼりが冷めるまでの聖地巡礼——世界樹の参拝を言い渡され……。仕方なく朝夕の参拝を真面目に行っていたら、落ちてきた世界樹の実に頭を直撃。気を失って目が覚めた時、私は神官達に囲まれ、横たえていた胸の上には実から生まれたという聖獣が乗っかっていた。どうやら私は聖獣に見初められた聖女らしい。 そして、その場に偶然居合わせていた第三王子から求婚される。問題児だという噂の第三王子、パトリック。聖女と婚約すれば神殿からの後ろ盾が得られると明け透けに語る王子に、私は逆に清々しさを覚えた。

プリン食べたい!婚約者が王女殿下に夢中でまったく相手にされない伯爵令嬢ベアトリス!前世を思いだした。え?乙女ゲームの世界、わたしは悪役令嬢!

山田 バルス
恋愛
 王都の中央にそびえる黄金の魔塔――その頂には、選ばれし者のみが入ることを許された「王都学院」が存在する。魔法と剣の才を持つ貴族の子弟たちが集い、王国の未来を担う人材が育つこの学院に、一人の少女が通っていた。  名はベアトリス=ローデリア。金糸を編んだような髪と、透き通るような青い瞳を持つ、美しき伯爵令嬢。気品と誇りを備えた彼女は、その立ち居振る舞いひとつで周囲の目を奪う、まさに「王都の金の薔薇」と謳われる存在であった。 だが、彼女には胸に秘めた切ない想いがあった。 ――婚約者、シャルル=フォンティーヌ。  同じ伯爵家の息子であり、王都学院でも才気あふれる青年として知られる彼は、ベアトリスの幼馴染であり、未来を誓い合った相手でもある。だが、学院に入ってからというもの、シャルルは王女殿下と共に生徒会での活動に没頭するようになり、ベアトリスの前に姿を見せることすら稀になっていった。  そんなある日、ベアトリスは前世を思い出した。この世界はかつて病院に入院していた時の乙女ゲームの世界だと。  そして、自分は悪役令嬢だと。ゲームのシナリオをぶち壊すために、ベアトリスは立ち上がった。  レベルを上げに励み、頂点を極めた。これでゲームシナリオはぶち壊せる。  そう思ったベアトリスに真の目的が見つかった。前世では病院食ばかりだった。好きなものを食べられずに死んでしまった。だから、この世界では美味しいものを食べたい。ベアトリスの食への欲求を満たす旅が始まろうとしていた。

処理中です...