里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売

文字の大きさ
55 / 72

第55話 ブレンダ・マーチン嬢との対面

しおりを挟む
 コネリー家を出て、きっちり2時間後―

 私は『シャックル』にあるマーチン家のお屋敷に着いていた。今の私はメイドの姿はしていない。伯爵夫人らしい外出着用のワインレッド色のデイ・ドレスを着て、馬車から降り立った。そう、今の私はメイドのメイではなく、シルビア・コネリーとして降り立ったのである。
馬車にはコネリー家の家紋が入っているし、ドレスには家紋入りの金のブレスレットを付けている。見合い相手であれば当然調べはついているであろうからこれで身分証明は出来るだろう。

 マーチン家のお屋敷はコネリー家よりは小さかったが、品の良い白を基調とした上品な屋敷だった。

「さて。行ってみようかしら」

 エントランスの前に立つと私は呼び鈴の紐を引っ張って鳴らした。

チリンチリン
 
するとすぐに扉が開かれた。

ガチャリ…

「え?!」

驚いた。まさか目の前に立っていたのはデニムの見合い相手のブレンダ嬢その者だったからだ。

「あ…」

驚きのあまり、一瞬思考がフリーズしてしまった。

「あの…どちら様でしょうか?見たところ、立派な身なりをされているようですが、もしや母を尋ねてこられたのでしょうか?」

私が黙っているとブレンダ嬢が怪訝そうな顔で首を傾げた。

「あ、大変申し訳ございません。私、明日ブレンダ様がお見合いをされるコネリー家の関係者でシルビアと申します。本日はブレンダ様に大事なお話がありまして、こちらに参りました。」

「まあ…そうなんですか?でもコネリー家の関係者の方であるのでしたら歓迎致しますわ。どうぞお入りになって下さいませ」

「はい、失礼致します…」

ついに私はマーチン家へと足を踏み入れた―。


****

 通された部屋は客室だった。私とブレンダ嬢は向かい合わせに座っている。

「それで、お話というのは何でしょうか?」

紅茶を運んできたメイドが下がるとブレンダ嬢はシュガーポットの蓋を開け、ティースプーンで砂糖を1杯、2杯…合計4杯の砂糖を入れてスプーンでさっと混ぜるとグビッと飲んだ。
うわぁ…。
甘党のところはデニムそっくりだ。私は改めて目の前に座るブレンダ嬢をじっと見た。ブレンダ嬢は二人掛用のカウチソファに座っているが、窮屈そうに座っている。身体はビヤ樽のように太っていて、手首はまるでぷくぷくの赤ちゃんのような手をしている。つまりパツンパツンに膨れているということだ。顔も大きく、クララの話していた通り、顎と首が一体化している。ドレスはきっと特注品なのだろう。なるべく身体のラインを隠すためか、裾がボリュームたっぷりのドレスだった。引き締めて見せるためか、ドレスの色はネイビー柄である。

「えっと…あの…」

駄目だ、調子が狂う。目の前のブレンダ嬢が写真よりも明らかに太って見える。24年間生きてきて、これほどまでに見事に太った女性を見たことが無かった為に彼女から目が離せない。

すると…。

「やっぱり…お見合いの話をお断りに来た方なのですね…」

ブレンダ嬢は寂し気に目を伏せた。

「え?」

あまりの突然の言葉に一瞬思考が飛んでしまった。

「ええ、分かっております。デニム様はとてもハンサムなお方です。きっとお見合い相手など選び放題でしょう。3年前、パーティー会場で初めてお会いした時からずっと慕っておりました。初恋だったのです。でも、デニム様は結婚されてしまった…。私は彼以外結婚相手は考えられなかったのです。お互い甘いものが大好きということで話が盛り上がって…絶対うまくいくと思っていたのに…デニム様は結婚されてしままいましたよね?」

そう言うと、ブレンダ嬢はハンカチを取り出すと、目頭を押さえた。

「ですが最近離婚をし、新たな妻を探している事を新聞で知って、見合いに応募したのです。でも…関係者の方が来られたという事は…見合いの断りでいらしたのですよね?」

そして、私をちらりと見た。なんと、驚きだ!このブレンダ嬢はデニムの事を知っていたのだ。そして恐ろしいことに、とことん惚れ抜いている!

良かった、ブレンダ嬢を尋ねた甲斐があった。彼女こそ、デニムを追い詰めるための最大のキーパーソンになってくれるだろう。

私は心のなかでほくそ笑んだ。

ついに、デニムに引導を渡す時がやってきたのだ―



しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

王太子妃は離婚したい

凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。 だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。 ※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。 綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。 これまで応援いただき、本当にありがとうございました。 レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。 https://www.regina-books.com/extra/login

殿下に寵愛されてませんが別にかまいません!!!!!

さくら
恋愛
 王太子アルベルト殿下の婚約者であった令嬢リリアナ。けれど、ある日突然「裏切り者」の汚名を着せられ、殿下の寵愛を失い、婚約を破棄されてしまう。  ――でも、リリアナは泣き崩れなかった。  「殿下に愛されなくても、私には花と薬草がある。健気? 別に演じてないですけど?」  庶民の村で暮らし始めた彼女は、花畑を育て、子どもたちに薬草茶を振る舞い、村人から慕われていく。だが、そんな彼女を放っておけないのが、執着心に囚われた殿下。噂を流し、畑を焼き払い、ついには刺客を放ち……。  「どこまで私を追い詰めたいのですか、殿下」  絶望の淵に立たされたリリアナを守ろうとするのは、騎士団長セドリック。冷徹で寡黙な男は、彼女の誠実さに心を動かされ、やがて命を懸けて庇う。  「俺は、君を守るために剣を振るう」  寵愛などなくても構わない。けれど、守ってくれる人がいる――。  灰の大地に芽吹く新しい絆が、彼女を強く、美しく咲かせていく。

成人したのであなたから卒業させていただきます。

ぽんぽこ狸
恋愛
 フィオナはデビュタント用に仕立てた可愛いドレスを婚約者であるメルヴィンに見せた。  すると彼は、とても怒った顔をしてフィオナのドレスを引き裂いた。  メルヴィンは自由に仕立てていいとは言ったが、それは流行にのっとった範囲でなのだから、こんなドレスは着させられないという事を言う。  しかしフィオナから見れば若い令嬢たちは皆愛らしい色合いのドレスに身を包んでいるし、彼の言葉に正当性を感じない。  それでも子供なのだから言う事を聞けと年上の彼に言われてしまうとこれ以上文句も言えない、そんな鬱屈とした気持ちを抱えていた。  そんな中、ある日、王宮でのお茶会で変わり者の王子に出会い、その素直な言葉に、フィオナの価値観はがらりと変わっていくのだった。  変わり者の王子と大人になりたい主人公のお話です。

冷遇する婚約者に、冷たさをそのままお返しします。

ねむたん
恋愛
貴族の娘、ミーシャは婚約者ヴィクターの冷酷な仕打ちによって自信と感情を失い、無感情な仮面を被ることで自分を守るようになった。エステラ家の屋敷と庭園の中で静かに過ごす彼女の心には、怒りも悲しみも埋もれたまま、何も感じない日々が続いていた。 事なかれ主義の両親の影響で、エステラ家の警備はガバガバですw

「いらない」と捨てられた令嬢、実は全属性持ちの聖女でした

ゆっこ
恋愛
「リリアーナ・エヴァンス。お前との婚約は破棄する。もう用済み そう言い放ったのは、五年間想い続けた婚約者――王太子アレクシスさま。 広間に響く冷たい声。貴族たちの視線が一斉に私へ突き刺さる。 「アレクシスさま……どういう、ことでしょうか……?」 震える声で問い返すと、彼は心底嫌そうに眉を顰めた。 「言葉の意味が理解できないのか? ――お前は“無属性”だ。魔法の才能もなければ、聖女の資質もない。王太子妃として役不足だ」 「無……属性?」

「予備」として連れてこられた私が、本命を連れてきたと勘違いした王国の滅亡フラグを華麗に回収して隣国の聖女になりました

平山和人
恋愛
王国の辺境伯令嬢セレスティアは、生まれつき高い治癒魔法を持つ聖女の器でした。しかし、十年間の婚約期間の末、王太子ルシウスから「真の聖女は別にいる。お前は不要になった」と一方的に婚約を破棄されます。ルシウスが連れてきたのは、派手な加護を持つ自称「聖女」の少女、リリア。セレスティアは失意の中、国境を越えた隣国シエルヴァード帝国へ。 一方、ルシウスはセレスティアの地味な治癒魔法こそが、王国の呪いの進行を十年間食い止めていた「代替の聖女」の役割だったことに気づきません。彼の連れてきたリリアは、見かけの派手さとは裏腹に呪いを加速させる力を持っていました。 隣国でその真の力を認められたセレスティアは、帝国の聖女として迎えられます。王国が衰退し、隣国が隆盛を極める中、ルシウスはようやくセレスティアの真価に気づき復縁を迫りますが、後の祭り。これは、価値を誤認した愚かな男と、自分の力で世界を変えた本物の聖女の、代わりではなく主役になる物語です。

婚約破棄されましたが、おかげで聖女になりました

瀬崎由美
恋愛
「アイラ・ロックウェル、君との婚約は無かったことにしよう」そう婚約者のセドリックから言い放たれたのは、通っていた学園の卒業パーティー。婚約破棄の理由には身に覚えはなかったけれど、世間体を気にした両親からはほとぼりが冷めるまでの聖地巡礼——世界樹の参拝を言い渡され……。仕方なく朝夕の参拝を真面目に行っていたら、落ちてきた世界樹の実に頭を直撃。気を失って目が覚めた時、私は神官達に囲まれ、横たえていた胸の上には実から生まれたという聖獣が乗っかっていた。どうやら私は聖獣に見初められた聖女らしい。 そして、その場に偶然居合わせていた第三王子から求婚される。問題児だという噂の第三王子、パトリック。聖女と婚約すれば神殿からの後ろ盾が得られると明け透けに語る王子に、私は逆に清々しさを覚えた。

プリン食べたい!婚約者が王女殿下に夢中でまったく相手にされない伯爵令嬢ベアトリス!前世を思いだした。え?乙女ゲームの世界、わたしは悪役令嬢!

山田 バルス
恋愛
 王都の中央にそびえる黄金の魔塔――その頂には、選ばれし者のみが入ることを許された「王都学院」が存在する。魔法と剣の才を持つ貴族の子弟たちが集い、王国の未来を担う人材が育つこの学院に、一人の少女が通っていた。  名はベアトリス=ローデリア。金糸を編んだような髪と、透き通るような青い瞳を持つ、美しき伯爵令嬢。気品と誇りを備えた彼女は、その立ち居振る舞いひとつで周囲の目を奪う、まさに「王都の金の薔薇」と謳われる存在であった。 だが、彼女には胸に秘めた切ない想いがあった。 ――婚約者、シャルル=フォンティーヌ。  同じ伯爵家の息子であり、王都学院でも才気あふれる青年として知られる彼は、ベアトリスの幼馴染であり、未来を誓い合った相手でもある。だが、学院に入ってからというもの、シャルルは王女殿下と共に生徒会での活動に没頭するようになり、ベアトリスの前に姿を見せることすら稀になっていった。  そんなある日、ベアトリスは前世を思い出した。この世界はかつて病院に入院していた時の乙女ゲームの世界だと。  そして、自分は悪役令嬢だと。ゲームのシナリオをぶち壊すために、ベアトリスは立ち上がった。  レベルを上げに励み、頂点を極めた。これでゲームシナリオはぶち壊せる。  そう思ったベアトリスに真の目的が見つかった。前世では病院食ばかりだった。好きなものを食べられずに死んでしまった。だから、この世界では美味しいものを食べたい。ベアトリスの食への欲求を満たす旅が始まろうとしていた。

処理中です...