5 / 14
第5話 論外の女性
しおりを挟む
――13時
「つ、疲れた……」
ようやく領民たちの陳情会議が終了し、ヘンリーは書斎へ戻ってきた。
「ヘンリー様。疲れたからと言って、呆けている暇はありません。すぐに領民たちの期待に添える返事を書いて下さい」
マイクは先ほど領民たちから預かった資料をヘンリーの前に置く。
「おい! 少し位休ませてくれ! 昨夜は5時間しか眠ってないんだよ!」
「5時間も眠れば上等です。よいですか? 旦那様の平均睡眠時間は3時間、お食事時間は20分でした」
「何? そうだったのか?」
これにはさすがのヘンリーも驚く。
「ええ、さようでございます。ですが、何故旦那様が身を粉にして働いていたか、お分かりになりますか? いえ、きっとヘンリー様には分からないでしょうね? それはヘンリー様がお仕事を少しも手伝わなかったからですよ。 だから旦那様は嫌気が差して蒸発してしまったのではありませんか?」
一気にまくしたてるように責め立てるマイク。
「わ、分かった! 俺が悪かったよ! 休まず仕事すればいいんだろう?」
ヘンリーは子供の頃からマイクの世話になっていたので、どうしても頭が上がらなかったのだ。
「……それにしても何だ? こんなのが陳情なのか? 牛の乳の出が悪くなったので、質の良い餌を配給して欲しい? 農機具が壊れたから支給してくれ……? おまけにこれは何だ? 教会のオルガンが壊れたから新しいのを買ってくれだと!? こんなのは俺には関係ない話だろう!?」
「何を仰っているのです。領民全ての望みを聞いて、できる限り解決する。それが良き、領主なのです。いい加減な領主のもとでは、領民たちが逃げ出します。逃げれば働き手がいなくなり、税を収めてくれない。そして領地の衰退へと移行していくのですよ。大体、私だって手伝っているのですから文句を言わないで下さい」
「分かったよ! 頼むから一気にまくしたてないでくれ!」
ヘンリーが頭を抱えたそのとき。
「あ、あの……ヘンリー様、女性のお客様がお見えになっておりますが……」
開け放たれた扉からフットマンが声をかけてきた。
「何? 女性客だと? 誰だ?」
女性と聞いて、顔を上げるヘンリー。
「はい、ジャンヌ・ダールという女性です。重要な書類を預かっているとのことでヘンリー様との面会を希望されております。もう応接室にお招きしているのですが……」
「ジャンヌ・ダール……? 聞いたことのない名前だなぁ……若いのか?」
「ええ。黒髪の女性です。まだ若そうです」
「何? 黒髪の女? そんな知り合いはいないが……美人か?」
「ヘンリー様。女性の外見なのど、どうでも宜しいです。重要書類を持ってきているのであれば、絶対に会わなければなりません。さぁ! 早く行きましょう!」
「分かったよ……ったく、気乗りしないなぁ……大体
マイクに急かされ渋々席を立つと、ヘンリーは応接室へ向かった――
「おい、あれが面会に来た女性か?」
応接室の扉の隙間から女性を覗き込むと、ヘンリーはフットマンに尋ねた。
「ええ。さようでございますが?」
「冗談じゃない、黒髪の女ってだけで論外なのにメガネまでしてるじゃないか。おまけに髪はひっつめだし、着ている服も茶色で地味すぎる。仕事が忙しいと伝えて帰ってもらえ」
「ヒィ! そ、そんな無茶な……」
「無茶でも何でもいい! 早くそう伝えてこい」
そのとき。
背後から近づいていたマイクが扉を大きく開け放しながら、ヘンリーの背中を強引に押して中へ入れた。
「お待たせ致しました。現当主、ヘンリー様をお連れ致しました」
「お、おい!」
無理やり応接室の中へ入れられたヘンリーは恨めしい目を一瞬マイクに向けると、すぐに作り笑いを浮かべて女性に挨拶した。
「お待たせして申し訳ございません。当主代理のヘンリーです。生憎、当主の父は不在ですので、代わりに用件を伺いましょう」
すると、女性は立ち上がり挨拶を返した。
「はじめまして。私はジャンヌ・ダールと申します。私がお会いしたかったのはヘンリー様ですので問題ありませんわ」
「え? 父ではなく、私にですか?」
「ええ、そうです。まずは座ってお話しませんか?」
「は、はぁ……」
促され、ヘンリーはソファに座るとジャンヌは笑顔で語りだした。
「ヘンリー様。この度は私と婚姻して頂き、ありがとうございます。誠心誠意、尽くしますので何卒よろしくお願いいたします」
「え……ええっ!?」
ヘンリーが驚いたのは、言うまでもなかった――
「つ、疲れた……」
ようやく領民たちの陳情会議が終了し、ヘンリーは書斎へ戻ってきた。
「ヘンリー様。疲れたからと言って、呆けている暇はありません。すぐに領民たちの期待に添える返事を書いて下さい」
マイクは先ほど領民たちから預かった資料をヘンリーの前に置く。
「おい! 少し位休ませてくれ! 昨夜は5時間しか眠ってないんだよ!」
「5時間も眠れば上等です。よいですか? 旦那様の平均睡眠時間は3時間、お食事時間は20分でした」
「何? そうだったのか?」
これにはさすがのヘンリーも驚く。
「ええ、さようでございます。ですが、何故旦那様が身を粉にして働いていたか、お分かりになりますか? いえ、きっとヘンリー様には分からないでしょうね? それはヘンリー様がお仕事を少しも手伝わなかったからですよ。 だから旦那様は嫌気が差して蒸発してしまったのではありませんか?」
一気にまくしたてるように責め立てるマイク。
「わ、分かった! 俺が悪かったよ! 休まず仕事すればいいんだろう?」
ヘンリーは子供の頃からマイクの世話になっていたので、どうしても頭が上がらなかったのだ。
「……それにしても何だ? こんなのが陳情なのか? 牛の乳の出が悪くなったので、質の良い餌を配給して欲しい? 農機具が壊れたから支給してくれ……? おまけにこれは何だ? 教会のオルガンが壊れたから新しいのを買ってくれだと!? こんなのは俺には関係ない話だろう!?」
「何を仰っているのです。領民全ての望みを聞いて、できる限り解決する。それが良き、領主なのです。いい加減な領主のもとでは、領民たちが逃げ出します。逃げれば働き手がいなくなり、税を収めてくれない。そして領地の衰退へと移行していくのですよ。大体、私だって手伝っているのですから文句を言わないで下さい」
「分かったよ! 頼むから一気にまくしたてないでくれ!」
ヘンリーが頭を抱えたそのとき。
「あ、あの……ヘンリー様、女性のお客様がお見えになっておりますが……」
開け放たれた扉からフットマンが声をかけてきた。
「何? 女性客だと? 誰だ?」
女性と聞いて、顔を上げるヘンリー。
「はい、ジャンヌ・ダールという女性です。重要な書類を預かっているとのことでヘンリー様との面会を希望されております。もう応接室にお招きしているのですが……」
「ジャンヌ・ダール……? 聞いたことのない名前だなぁ……若いのか?」
「ええ。黒髪の女性です。まだ若そうです」
「何? 黒髪の女? そんな知り合いはいないが……美人か?」
「ヘンリー様。女性の外見なのど、どうでも宜しいです。重要書類を持ってきているのであれば、絶対に会わなければなりません。さぁ! 早く行きましょう!」
「分かったよ……ったく、気乗りしないなぁ……大体
マイクに急かされ渋々席を立つと、ヘンリーは応接室へ向かった――
「おい、あれが面会に来た女性か?」
応接室の扉の隙間から女性を覗き込むと、ヘンリーはフットマンに尋ねた。
「ええ。さようでございますが?」
「冗談じゃない、黒髪の女ってだけで論外なのにメガネまでしてるじゃないか。おまけに髪はひっつめだし、着ている服も茶色で地味すぎる。仕事が忙しいと伝えて帰ってもらえ」
「ヒィ! そ、そんな無茶な……」
「無茶でも何でもいい! 早くそう伝えてこい」
そのとき。
背後から近づいていたマイクが扉を大きく開け放しながら、ヘンリーの背中を強引に押して中へ入れた。
「お待たせ致しました。現当主、ヘンリー様をお連れ致しました」
「お、おい!」
無理やり応接室の中へ入れられたヘンリーは恨めしい目を一瞬マイクに向けると、すぐに作り笑いを浮かべて女性に挨拶した。
「お待たせして申し訳ございません。当主代理のヘンリーです。生憎、当主の父は不在ですので、代わりに用件を伺いましょう」
すると、女性は立ち上がり挨拶を返した。
「はじめまして。私はジャンヌ・ダールと申します。私がお会いしたかったのはヘンリー様ですので問題ありませんわ」
「え? 父ではなく、私にですか?」
「ええ、そうです。まずは座ってお話しませんか?」
「は、はぁ……」
促され、ヘンリーはソファに座るとジャンヌは笑顔で語りだした。
「ヘンリー様。この度は私と婚姻して頂き、ありがとうございます。誠心誠意、尽くしますので何卒よろしくお願いいたします」
「え……ええっ!?」
ヘンリーが驚いたのは、言うまでもなかった――
74
あなたにおすすめの小説
せっかくですもの、特別な一日を過ごしましょう。いっそ愛を失ってしまえば、女性は誰よりも優しくなれるのですよ。ご存知ありませんでしたか、閣下?
石河 翠
恋愛
夫と折り合いが悪く、嫁ぎ先で冷遇されたあげく離婚することになったイヴ。
彼女はせっかくだからと、屋敷で夫と過ごす最後の日を特別な一日にすることに決める。何かにつけてぶつかりあっていたが、最後くらいは夫の望み通りに振る舞ってみることにしたのだ。
夫の愛人のことを軽蔑していたが、男の操縦方法については学ぶところがあったのだと気がつく彼女。
一方、突然彼女を好ましく感じ始めた夫は、離婚届の提出を取り止めるよう提案するが……。
愛することを止めたがゆえに、夫のわがままにも優しく接することができるようになった妻と、そんな妻の気持ちを最後まで理解できなかった愚かな夫のお話。
この作品は他サイトにも投稿しております。
扉絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID25290252)をお借りしております。
わたくしがお父様に疎まれている?いいえ、目に入れても痛くない程溺愛されております。
織り子
ファンタジー
王国貴族院の卒業記念パーティーの場で、大公家の令嬢ルクレツィア・アーヴェントは王太子エドワードから突然の婚約破棄を告げられる。
父であるアーヴェント大公に疎まれている――
噂を知った王太子は、彼女を公衆の面前で侮辱する。
婚約破棄から始まる、私の愛され人生
有賀冬馬
恋愛
婚約者・エドに毎日いじめられていたマリアンヌ。結婚を望まれ、家のために耐える日々。だが、突如としてエドに婚約破棄され、絶望の淵に立たされる――。
そんな彼女の前に現れたのは、ずっと彼女を想い続けていた誠実な青年、クリス。彼はマリアンヌに優しく手を差し伸べ、彼女の心を温かく包み込む。
新しい恋人との幸せな日々が始まる中、マリアンヌは自分を愛してくれる人に出会い、真実の愛を知ることに――。
絶望の先に待っていたのは、心の傷を癒す「本当の幸せ」。
事務仕事しかできない無能?いいえ、空間支配スキルです。~勇者パーティの事務員として整理整頓していたら、いつの間にか銅像が立っていました~
水月
恋愛
「在庫整理しかできない無能は不要だ」
第一王子から、晩餐会の場で婚約破棄と国外追放を告げられた公爵令嬢ユズハ。
彼女のギフト【在庫整理】は、荷物の整理しかできないハズレスキルだと蔑まれていた。
だが、彼女は知っていた。
その真価は、指定空間内のあらゆる物質の最適化であることを。
追放先で出会った要領の悪い勇者パーティに対し、ユズハは事務的に、かつ冷徹に最適化を開始する。
「勇者様、右腕の筋肉配置を効率化しました」
「魔王の心臓、少し左にずらしておきましたね」
戦場を、兵站を、さらには魔王の命までをも在庫として処理し続けた結果、彼女はいつしか魔王討伐勇者パーティの一人として、威圧感溢れる銅像にまでなってしまう。
効率を愛する事務屋令嬢は、自分を捨てた国を不良債権として切り捨て、再出発する。
病弱な私と意地悪なお姉様のお見合い顛末
黒木メイ
恋愛
幼い頃から病弱だったミルカ。外出もまともにできず、家の中に引きこもってばかり。それでもミルカは幸せだった。家族が、使用人たちがいつもミルカの側にいてくれたから。ミルカを愛してくれたから。それだけで十分――なわけないでしょう。お姉様はずるい。健康な体を持っているだけではなく、自由に外出できるんだから。その上、意地悪。だから、奪ったのよ。ずるいお姉様から全てを。当然でしょう。私は『特別な存在』で、『幸せが約束されたお姫様』なんだから。両親からの愛も、次期当主の地位も、王子様も全て私のもの。お姉様の見合い相手が私に夢中になるのも仕方ないことなの。
※設定はふわふわ。
※予告なく修正、加筆する場合があります。
※いずれ他サイトにも転載予定。
※『病弱な妹と私のお見合い顛末』のミルカ(妹)視点です。
本物の夫は愛人に夢中なので、影武者とだけ愛し合います
こじまき
恋愛
幼い頃から許嫁だった王太子ヴァレリアンと結婚した公爵令嬢ディアーヌ。しかしヴァレリアンは身分の低い男爵令嬢に夢中で、初夜をすっぽかしてしまう。代わりに寝室にいたのは、彼そっくりの影武者…生まれたときに存在を消された双子の弟ルイだった。
※「小説家になろう」にも投稿しています
復讐の恋〜前世での恨みを今世で晴らします
じじ
恋愛
アレネ=フォーエンは公爵家令嬢だ。美貌と聡明さを兼ね備えた彼女の婚約者は、幼馴染で男爵子息のヴァン=オレガ。身分違いの二人だったが、周りからは祝福されて互いに深く思い合っていた。
それは突然のことだった。二人で乗った馬車が事故で横転したのだ。気を失ったアレネが意識を取り戻した時に前世の記憶が蘇ってきた。そして未だ目覚めぬヴァンが譫言のように呟いた一言で知ってしまったのだ。目の前の男こそが前世で自分を酷く痛めつけた夫であると言うことを。
【完結】「政略結婚ですのでお構いなく!」
仙冬可律
恋愛
文官の妹が王子に見初められたことで、派閥間の勢力図が変わった。
「で、政略結婚って言われましてもお父様……」
優秀な兄と妹に挟まれて、何事もほどほどにこなしてきたミランダ。代々優秀な文官を輩出してきたシューゼル伯爵家は良縁に恵まれるそうだ。
適齢期になったら適当に釣り合う方と適当にお付き合いをして適当な時期に結婚したいと思っていた。
それなのに代々武官の家柄で有名なリッキー家と結婚だなんて。
のんびりに見えて豪胆な令嬢と
体力系にしか自信がないワンコ令息
24.4.87 本編完結
以降不定期で番外編予定
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる