転生先がヒロインに恋する悪役令息のモブ婚約者だったので、推しの為に身を引こうと思います

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売

文字の大きさ
50 / 108

3章1 目覚め

しおりを挟む
 私は前世の頃の夢を見ていた。

『はぁ……また、リオンはヒロインに逃げられてしまったのね……どうして、こんなに嫌がられるんだろう? 何か深い事情があるのかな? ヒロインの……には……』

私はヒロインの名前を呟き……。


「ん……」

突然、モヤが晴れていくように目が覚めた。見渡してみると私の周囲は、何かキラキラ光る物で覆われている。

「え?」

一瞬、自分の置かれている状況が分からず身体を起こそうとし……。

「あっ!」

全く身体に力が入らず、ベッドに再び倒れ込んでしまった。

「な、何……?」

まるで全身が鉛のように重たくて、身体が自由に動かない。ひょっとすると、突然力が覚醒して禁断魔法を使ってしまったせいだろうか?

「何がどうなっているの……それに、一体ここは…?」

良く見れば、私が眠っていたベッドは薄い膜のような物に覆われていた。何か特殊な魔法でもかけられているのだろうか?
膜はキラキラと光っている。

ここがどこか起き上がって探ってみたいけれど、今の私は一歩も動けそうに無かった。

「困ったわ……せめて、誰か来てくれればいいのに……」



バタバタバタッ!

ポツリと呟いたき、足音が響き渡って顔を上げた。するとメガネをかけた白衣姿の見知らぬ青年が駆け寄って来る姿が目に飛び込んできた。

「目が覚めたんだねっ!? 今、そこから出してあげよう」

青年は手を伸ばすと、膜に触れて何やら口の中で呟いている。次の瞬間、ベッドを包みこんでいた薄い膜が、煙のように消えていった。

「それにしてもよく目が覚めたね? 半ば諦めていただけに、本当に良かったよ。今、君の両親に連絡を入れたところだよ。きっとすぐにここへ来ることだろう」

そして、私に笑いかけてきた。ただ目が覚めただけなのに、随分大げさな態度をとっているこの人は誰だろう?

「あの……一体、ここはどこですか?」

「ここは病院で、私は医者だよ」

「病院……」

言われてみれば、確かに目の前の青年は白衣を着ている。
そのとき、重要な事を思い出した。

「先生! リオンは無事なのですか!? それに他の生徒たちは? リオンの両親はどうなりましたか!」

「リオン……?」

先生は首を傾げる。

「リオンは火事の中から私が助け出した男の子です! 誕生日パーティーで火災が起きたんです! 先生はその時の状況を聞いていないのですか?」

もどかしくて、つい大きな声を出してしまった。

「あぁ、あの火事の話だね? ごめんごめん、大丈夫。思い出したよ」

「思い出したって……」

ついさっきの出来事なのに? 一体この先生は何を言っているのだろう?

「ハイランド家の人々は全員無事だよ。リオンも、彼の両親たちもね」

「無事……だった……? 誰も怪我をしていないってことですか? 火傷も?」

「そうだね、ハイランド家の人々は怪我をしなかったよ。でも、確か1人顔に火傷を負った人がいたな……誰だったかな……ごめん。名前までは覚えていなくて」

申し訳無さそうに先生が謝ってきた。

「顔に火傷……?」

一体誰のことだろう?

その時。

「「ユニスッ!!」」

両親が部屋の中に現れ、駆け寄ってきた。

「お父様、お母様……」

何とか身体を起こそうとしても、未だに力が入らない。一体、この身体はどうなってしまったのだろう?

「いいんだよ、無理に起き上がろうとしなくても」

「だけど、本当に目が覚めて良かったわ……」

両親が涙ぐんでいる。私はそんなに危険な状態だったのだろうか?

それにしても……。
私は両親の顔をじっと見つめた。

「何だい? どうかしたのか? ユニス」

父が私に声をかけてきた。

「い、いえ……私、随分心配かけてしまったのですね。何だかお父様もお母様も少し顔つきが変わったようなので」

正確に言えば、少し老けてしまったようだ。けれど、気が引けて言えなかった。
すると、両親は互いに顔を見合わせ……父から衝撃の言葉が飛び出してきた。

「まぁ、それも無理はないな。何しろユニスは6年ぶりに目が覚めたのだから」

「え……? 6年……ぶり……?」

それは、耳を疑うような衝撃の言葉だった――





しおりを挟む
感想 362

あなたにおすすめの小説

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

当て馬令息の婚約者になったので美味しいお菓子を食べながら聖女との恋を応援しようと思います!

朱音ゆうひ@11/5受賞作が発売されます
恋愛
「わたくし、当て馬令息の婚約者では?」 伯爵令嬢コーデリアは家同士が決めた婚約者ジャスティンと出会った瞬間、前世の記憶を思い出した。 ここは小説に出てくる世界で、当て馬令息ジャスティンは聖女に片思いするキャラ。婚約者に遠慮してアプローチできないまま失恋する優しいお兄様系キャラで、前世での推しだったのだ。 「わたくし、ジャスティン様の恋を応援しますわ」 推しの幸せが自分の幸せ! あとお菓子が美味しい! 特に小説では出番がなく悪役令嬢でもなんでもない脇役以前のモブキャラ(?)コーデリアは、全力でジャスティンを応援することにした! ※ゆるゆるほんわかハートフルラブコメ。 サブキャラに軽く百合カップルが出てきたりします 他サイトにも掲載しています( https://ncode.syosetu.com/n5753hy/ )

プリン食べたい!婚約者が王女殿下に夢中でまったく相手にされない伯爵令嬢ベアトリス!前世を思いだした。え?乙女ゲームの世界、わたしは悪役令嬢!

山田 バルス
恋愛
 王都の中央にそびえる黄金の魔塔――その頂には、選ばれし者のみが入ることを許された「王都学院」が存在する。魔法と剣の才を持つ貴族の子弟たちが集い、王国の未来を担う人材が育つこの学院に、一人の少女が通っていた。  名はベアトリス=ローデリア。金糸を編んだような髪と、透き通るような青い瞳を持つ、美しき伯爵令嬢。気品と誇りを備えた彼女は、その立ち居振る舞いひとつで周囲の目を奪う、まさに「王都の金の薔薇」と謳われる存在であった。 だが、彼女には胸に秘めた切ない想いがあった。 ――婚約者、シャルル=フォンティーヌ。  同じ伯爵家の息子であり、王都学院でも才気あふれる青年として知られる彼は、ベアトリスの幼馴染であり、未来を誓い合った相手でもある。だが、学院に入ってからというもの、シャルルは王女殿下と共に生徒会での活動に没頭するようになり、ベアトリスの前に姿を見せることすら稀になっていった。  そんなある日、ベアトリスは前世を思い出した。この世界はかつて病院に入院していた時の乙女ゲームの世界だと。  そして、自分は悪役令嬢だと。ゲームのシナリオをぶち壊すために、ベアトリスは立ち上がった。  レベルを上げに励み、頂点を極めた。これでゲームシナリオはぶち壊せる。  そう思ったベアトリスに真の目的が見つかった。前世では病院食ばかりだった。好きなものを食べられずに死んでしまった。だから、この世界では美味しいものを食べたい。ベアトリスの食への欲求を満たす旅が始まろうとしていた。

悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない

陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」 デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。 そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。 いつの間にかパトロンが大量発生していた。 ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

【完結】女嫌いの公爵様に嫁いだら前妻の幼子と家族になりました

香坂 凛音
恋愛
ここはステイプルドン王国。 エッジ男爵家は領民に寄り添う堅実で温かな一族であり、家族仲も良好でした。長女ジャネットは、貴族学園を優秀な成績で卒業し、妹や弟の面倒も見る、評判のよい令嬢です。 一方、アンドレアス・キーリー公爵は、深紅の髪と瞳を持つ美貌の騎士団長。 火属性の魔法を自在に操り、かつて四万の敵をひとりで蹴散らした伝説の英雄です。 しかし、女性に心を閉ざしており、一度は結婚したものの離婚した過去を持ちます。 そんな彼が、翌年に控える隣国マルケイヒー帝国の皇帝夫妻の公式訪問に備え、「形式だけでいいから再婚せよ」と王に命じられました。 選ばれたのは、令嬢ジャネット。ジャネットは初夜に冷たい言葉を突きつけられます。 「君を妻として愛するつもりはない」 「跡継ぎなら、すでにいる。……だから子供も必要ない」 これは、そんなお飾りの妻として迎えられたジャネットが、前妻の子を真心から愛し、公爵とも次第に心を通わせていく、波乱と愛の物語です。 前妻による陰湿な嫌がらせ、職人養成学校の設立、魔導圧縮バッグの開発など、ジャネットの有能さが光る場面も見どころ。 さらに、伝説の子竜の登場や、聖女を利用した愚王の陰謀など、ファンタジー要素も盛りだくさん。前向きな有能令嬢の恋の物語です。最後には心あたたまるハッピーエンドが待っています。 ※こちらの作品は、カクヨム・小説家になろうでは「青空一夏」名義で投稿しております。 アルファポリスでは作風を分けるため、別アカウントを使用しています。 本作は「ほのぼの中心+きつすぎないざまぁ」で構成されています。 スカッとする場面だけでなく、読み終わったあとに幸福感が残る物語です。 ちょっぴり痛快、でも優しい読後感を大切にしています。 ※カクヨム恋愛ランキング11位(6/24時点) 全54話、完結保証つき。 毎日4話更新:朝7:00/昼12:00/夕17:00/夜20:00→3回更新に変えました。 どうぞ、最後までお付き合いくださいませ。

悪役令嬢に転生したと気付いたら、咄嗟に婚約者の記憶を失くしたフリをしてしまった。

ねーさん
恋愛
 あ、私、悪役令嬢だ。  クリスティナは婚約者であるアレクシス王子に近付くフローラを階段から落とそうとして、誤って自分が落ちてしまう。  気を失ったクリスティナの頭に前世で読んだ小説のストーリーが甦る。自分がその小説の悪役令嬢に転生したと気付いたクリスティナは、目が覚めた時「貴方は誰?」と咄嗟に記憶を失くしたフリをしてしまって──…

お妃候補を辞退したら、初恋の相手に溺愛されました

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のフランソアは、王太子殿下でもあるジェーンの為、お妃候補に名乗りを上げ、5年もの間、親元を離れ王宮で生活してきた。同じくお妃候補の令嬢からは嫌味を言われ、厳しい王妃教育にも耐えてきた。他のお妃候補と楽しく過ごすジェーンを見て、胸を痛める事も日常茶飯事だ。 それでもフランソアは “僕が愛しているのはフランソアただ1人だ。だからどうか今は耐えてくれ” というジェーンの言葉を糧に、必死に日々を過ごしていた。婚約者が正式に決まれば、ジェーン様は私だけを愛してくれる!そう信じて。 そんな中、急遽一夫多妻制にするとの発表があったのだ。 聞けばジェーンの強い希望で実現されたらしい。自分だけを愛してくれていると信じていたフランソアは、その言葉に絶望し、お妃候補を辞退する事を決意。 父親に連れられ、5年ぶりに戻った懐かしい我が家。そこで待っていたのは、初恋の相手でもある侯爵令息のデイズだった。 聞けば1年ほど前に、フランソアの家の養子になったとの事。戸惑うフランソアに対し、デイズは…

処理中です...