転生先がヒロインに恋する悪役令息のモブ婚約者だったので、推しの為に身を引こうと思います

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売

文字の大きさ
56 / 108

3章7 懐かしい場所

しおりを挟む
 私達を乗せた馬車が『ニルヴァーナ』学園に到着した。

「さ、降りよう。クラリス」

兄が手を差し伸べてきた。

「ありがとうございます」

馬車を降り立ち、私は改めて眼の前の学園を見つめた。まるで美しい王宮のような校舎。学部ごとに揃えられた制服を来た生徒たち。
見慣れているのに……何故か今は遠く感じる。それは、やはり今の私はユニス・ウェルナーでは無くなってしまったからなのかもしれない。

「それじゃ、クラリス。私は理事長室に用事があるから先に行くよ。大学生活を楽しむといい」

兄が私の頭を軽く撫でる。

「はい、お兄様」

兄は笑顔で手を振ると、去って行った。

「……懐かしい光景だわ」

思わず言葉に出すと、セシルが話しかけてきた。

「クラリスはここに通っていたんだよね。来るのは6年ぶりかい?」

「年数的には6年ぶりになるのだろうけど……私はずっと眠り続けていたから、気持ち的には3ヶ月ぶりね」

「6年も眠っていたのか……それは辛かったな」

フレッドがポツリと口にした。

「え?」

私の視線に気づいたのか、フレッドは視線をそらせた。

「俺だったら6年も自分の時間を奪われていたなら……まともではいられないかもしれない。なのに、あんたはまるで平気そうに見える」

「平気だなんて……ただ、今の状況を受け入れるしかないからよ。ただでさえ6年間も目を覚まさなくて周りに心配をかけさせてしまったのに……これ以上迷惑かけられないわ」

「そんなことないよ。皆、クラリスの目が覚めて喜んでいる。誰も迷惑だなんて思っていないよ」

セシルが笑顔で話しかけてきた。

「ありがとう」

「それじゃ、皆で一緒に行こう。入学式は大ホールで行われるんだろう? クラリスはこの学園に詳しいから案内してくれないか?」

「そうだな。それがいい」

セシルの言葉にフレッドが同意する。

「そうね、行きましょう。こっちよ、ついてきて」

私は笑顔で2人に返事をした。


****

 
 3人で大ホールへ向かって歩いていると、妙に視線を感じる。
男女問わず、何故かこちらを気にするかのようにチラチラと見ている。

あぁ……なるほど、そういうことか。

私は隣を歩くセシルとフレッドを見上げた。
この2人はゲームのメインヒーローだけあって、人目を惹くような整った容姿をしている。それで注目されているのだろうが、これでは困る。私はここでは、あまり目立ってはいけない存在なのに。
2人から離れれば、注目されずに済むだろうか? 
けれど恐らくそれは無理な話だろう。何しろセシルとフレッドは私のお目付け役なのだから。

「……なんだか随分注目されているな」

フレッドが視線に気づいたのか、ポツリと呟く。

「フレッドは昔から人の注目を浴びるのが嫌いだったからな」

セシルが笑った。この2人は幼馴染なので、互いのことを良く知っているのだろう。

「だって2人は目立つもの。注目されるのは当然だわ」

すると私の言葉にセシルとフレッドが目を丸くする。

「クラリス……今の言葉、本気で言ってるの?」

「まさか、全くの無自覚なのか?」

「え? どういうこと?」

「皆、君を見ているんだよ。分からないのかい?」

セシルの言葉に私は改めて周囲を見渡し……1人の男子学生と目があった。すると、彼は顔を赤らめて視線をそらしてしまった。

「どうだ? 分かったか?」

その様子を見ていたフレッドに声をかけられる。

「……そう、みたいね」

やはり私はこの世界のヒロインになってしまったのだ。実をいうと、私はまだ自分の外見に慣れていなかった。
3ヶ月経過した今でも、鏡を見るとドキリとすることがある。本当にこれが自分なのかと疑ってしまいそうになる。
それほど、馴染んでいなかったのだ。

「……ふぅ」

思わずため息をつくと、セシルに尋ねられた。

「もしかして、緊張しているのかい?」

「それは緊張しているわ……」

何しろ、この大学にはリオンがいる。
もうゲームのシナリオとは、大きく展開が変わっているものの……万一彼に出くわしてしまったら平静を装っていられるだろうか?

「大丈夫、今にクラリスの緊張が解けることが起きるよ」

セシルが意味深なセリフを口にした。

「え? それはどういうこと?」

「入学式で分かる。それよりこれ以上注目されたくないから早く大ホールへ行こう」

「そうね。急ぎましょう」

フレッドの言うとおりだ。私もこれ以上注目されたくはない。
そこで私達は急ぎ足で大ホールへ向かった――
しおりを挟む
感想 362

あなたにおすすめの小説

プリン食べたい!婚約者が王女殿下に夢中でまったく相手にされない伯爵令嬢ベアトリス!前世を思いだした。え?乙女ゲームの世界、わたしは悪役令嬢!

山田 バルス
恋愛
 王都の中央にそびえる黄金の魔塔――その頂には、選ばれし者のみが入ることを許された「王都学院」が存在する。魔法と剣の才を持つ貴族の子弟たちが集い、王国の未来を担う人材が育つこの学院に、一人の少女が通っていた。  名はベアトリス=ローデリア。金糸を編んだような髪と、透き通るような青い瞳を持つ、美しき伯爵令嬢。気品と誇りを備えた彼女は、その立ち居振る舞いひとつで周囲の目を奪う、まさに「王都の金の薔薇」と謳われる存在であった。 だが、彼女には胸に秘めた切ない想いがあった。 ――婚約者、シャルル=フォンティーヌ。  同じ伯爵家の息子であり、王都学院でも才気あふれる青年として知られる彼は、ベアトリスの幼馴染であり、未来を誓い合った相手でもある。だが、学院に入ってからというもの、シャルルは王女殿下と共に生徒会での活動に没頭するようになり、ベアトリスの前に姿を見せることすら稀になっていった。  そんなある日、ベアトリスは前世を思い出した。この世界はかつて病院に入院していた時の乙女ゲームの世界だと。  そして、自分は悪役令嬢だと。ゲームのシナリオをぶち壊すために、ベアトリスは立ち上がった。  レベルを上げに励み、頂点を極めた。これでゲームシナリオはぶち壊せる。  そう思ったベアトリスに真の目的が見つかった。前世では病院食ばかりだった。好きなものを食べられずに死んでしまった。だから、この世界では美味しいものを食べたい。ベアトリスの食への欲求を満たす旅が始まろうとしていた。

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

ぐうたら令嬢は公爵令息に溺愛されています

Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のレイリスは、今年で16歳。毎日ぐうたらした生活をしている。貴族としてはあり得ないような服を好んで着、昼間からゴロゴロと過ごす。 ただ、レイリスは非常に優秀で、12歳で王都の悪党どもを束ね揚げ、13歳で領地を立て直した腕前。 そんなレイリスに、両親や兄姉もあまり強く言う事が出来ず、専属メイドのマリアンだけが口うるさく言っていた。 このままやりたい事だけをやり、ゴロゴロしながら一生暮らそう。そう思っていたレイリスだったが、お菓子につられて参加したサフィーロン公爵家の夜会で、彼女の運命を大きく変える出来事が起こってしまって… ※ご都合主義のラブコメディです。 よろしくお願いいたします。 カクヨムでも同時投稿しています。

異世界転生した私は甘味のものがないことを知り前世の記憶をフル活用したら、甘味長者になっていた~悪役令嬢なんて知りません(嘘)~

詩河とんぼ
恋愛
とあるゲームの病弱悪役令嬢に異世界転生した甘味大好きな私。しかし、転生した世界には甘味のものないことを知る―――ないなら、作ろう!と考え、この世界の人に食べてもらうと大好評で――気づけば甘味長者になっていた!?  小説家になろう様でも投稿させていただいております 8月29日 HOT女性向けランキングで10位、恋愛で49位、全体で74位 8月30日 HOT女性向けランキングで6位、恋愛で24位、全体で26位 8月31日 HOT女性向けランキングで4位、恋愛で20位、全体で23位 に……凄すぎてびっくりしてます!ありがとうございますm(_ _)m

お妃候補を辞退したら、初恋の相手に溺愛されました

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のフランソアは、王太子殿下でもあるジェーンの為、お妃候補に名乗りを上げ、5年もの間、親元を離れ王宮で生活してきた。同じくお妃候補の令嬢からは嫌味を言われ、厳しい王妃教育にも耐えてきた。他のお妃候補と楽しく過ごすジェーンを見て、胸を痛める事も日常茶飯事だ。 それでもフランソアは “僕が愛しているのはフランソアただ1人だ。だからどうか今は耐えてくれ” というジェーンの言葉を糧に、必死に日々を過ごしていた。婚約者が正式に決まれば、ジェーン様は私だけを愛してくれる!そう信じて。 そんな中、急遽一夫多妻制にするとの発表があったのだ。 聞けばジェーンの強い希望で実現されたらしい。自分だけを愛してくれていると信じていたフランソアは、その言葉に絶望し、お妃候補を辞退する事を決意。 父親に連れられ、5年ぶりに戻った懐かしい我が家。そこで待っていたのは、初恋の相手でもある侯爵令息のデイズだった。 聞けば1年ほど前に、フランソアの家の養子になったとの事。戸惑うフランソアに対し、デイズは…

冤罪で処刑されたら死に戻り、前世の記憶が戻った悪役令嬢は、元の世界に帰る方法を探す為に婚約破棄と追放を受け入れたら、伯爵子息様に拾われました

ゆうき
恋愛
ワガママ三昧な生活を送っていた悪役令嬢のミシェルは、自分の婚約者と、長年に渡っていじめていた聖女によって冤罪をでっちあげられ、処刑されてしまう。 その後、ミシェルは不思議な夢を見た。不思議な既視感を感じる夢の中で、とある女性の死を見せられたミシェルは、目を覚ますと自分が処刑される半年前の時間に戻っていた。 それと同時に、先程見た夢が自分の前世の記憶で、自分が異世界に転生したことを知る。 記憶が戻ったことで、前世のような優しい性格を取り戻したミシェルは、前世の世界に残してきてしまった、幼い家族の元に帰る術を探すため、ミシェルは婚約者からの婚約破棄と、父から宣告された追放も素直に受け入れ、貴族という肩書きを隠し、一人外の世界に飛び出した。 初めての外の世界で、仕事と住む場所を見つけて懸命に生きるミシェルはある日、仕事先の常連の美しい男性――とある伯爵家の令息であるアランに屋敷に招待され、自分の正体を見破られてしまったミシェルは、思わぬ提案を受ける。 それは、魔法の研究をしている自分の専属の使用人兼、研究の助手をしてほしいというものだった。 だが、その提案の真の目的は、社交界でも有名だった悪役令嬢の性格が豹変し、一人で外の世界で生きていることを不審に思い、自分の監視下におくためだった。 変に断って怪しまれ、未来で起こる処刑に繋がらないようにするために、そして優しいアランなら信用できると思ったミシェルは、その提案を受け入れた。 最初はミシェルのことを疑っていたアランだったが、徐々にミシェルの優しさや純粋さに惹かれていく。同時に、ミシェルもアランの魅力に惹かれていくことに……。 これは死に戻った元悪役令嬢が、元の世界に帰るために、伯爵子息と共に奮闘し、互いに惹かれて幸せになる物語。 ⭐︎小説家になろう様にも投稿しています。全話予約投稿済です⭐︎

乙女ゲームの悪役令嬢になったから、ヒロインと距離を置いて破滅フラグを回避しようと思ったら……なぜか攻略対象が私に夢中なんですけど!?

猪木洋平@【コミカライズ連載中】
恋愛
「イザベラ、お前との婚約を破棄する!」「はい?」悪役令嬢のイザベラは、婚約者のエドワード王子から婚約の破棄を言い渡されてしまった。男爵家令嬢のアリシアとの真実の愛に目覚めたという理由でだ。さらには義弟のフレッド、騎士見習いのカイン、氷魔法士のオスカーまでもがエドワード王子に同調し、イザベラを責める。そして正義感が暴走した彼らにより、イザベラは殺害されてしまった。「……はっ! ここは……」イザベラが次に目覚めたとき、彼女は七歳に若返っていた。そして、この世界が乙女ゲームだということに気づく。予知夢で見た十年後のバッドエンドを回避するため、七歳の彼女は動き出すのであった。

悪女役らしく離婚を迫ろうとしたのに、夫の反応がおかしい

廻り
恋愛
第18回恋愛小説大賞にて奨励賞をいただきました。応援してくださりありがとうございました!  王太子妃シャルロット20歳は、前世の記憶が蘇る。  ここは小説の世界で、シャルロットは王太子とヒロインの恋路を邪魔する『悪女役』。 『断罪される運命』から逃れたいが、夫は離婚に応じる気がない。  ならばと、シャルロットは別居を始める。 『夫が離婚に応じたくなる計画』を思いついたシャルロットは、それを実行することに。  夫がヒロインと出会うまで、タイムリミットは一年。  それまでに離婚に応じさせたいシャルロットと、なぜか様子がおかしい夫の話。

処理中です...