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3章7 懐かしい場所
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私達を乗せた馬車が『ニルヴァーナ』学園に到着した。
「さ、降りよう。クラリス」
兄が手を差し伸べてきた。
「ありがとうございます」
馬車を降り立ち、私は改めて眼の前の学園を見つめた。まるで美しい王宮のような校舎。学部ごとに揃えられた制服を来た生徒たち。
見慣れているのに……何故か今は遠く感じる。それは、やはり今の私はユニス・ウェルナーでは無くなってしまったからなのかもしれない。
「それじゃ、クラリス。私は理事長室に用事があるから先に行くよ。大学生活を楽しむといい」
兄が私の頭を軽く撫でる。
「はい、お兄様」
兄は笑顔で手を振ると、去って行った。
「……懐かしい光景だわ」
思わず言葉に出すと、セシルが話しかけてきた。
「クラリスはここに通っていたんだよね。来るのは6年ぶりかい?」
「年数的には6年ぶりになるのだろうけど……私はずっと眠り続けていたから、気持ち的には3ヶ月ぶりね」
「6年も眠っていたのか……それは辛かったな」
フレッドがポツリと口にした。
「え?」
私の視線に気づいたのか、フレッドは視線をそらせた。
「俺だったら6年も自分の時間を奪われていたなら……まともではいられないかもしれない。なのに、あんたはまるで平気そうに見える」
「平気だなんて……ただ、今の状況を受け入れるしかないからよ。ただでさえ6年間も目を覚まさなくて周りに心配をかけさせてしまったのに……これ以上迷惑かけられないわ」
「そんなことないよ。皆、クラリスの目が覚めて喜んでいる。誰も迷惑だなんて思っていないよ」
セシルが笑顔で話しかけてきた。
「ありがとう」
「それじゃ、皆で一緒に行こう。入学式は大ホールで行われるんだろう? クラリスはこの学園に詳しいから案内してくれないか?」
「そうだな。それがいい」
セシルの言葉にフレッドが同意する。
「そうね、行きましょう。こっちよ、ついてきて」
私は笑顔で2人に返事をした。
****
3人で大ホールへ向かって歩いていると、妙に視線を感じる。
男女問わず、何故かこちらを気にするかのようにチラチラと見ている。
あぁ……なるほど、そういうことか。
私は隣を歩くセシルとフレッドを見上げた。
この2人はゲームのメインヒーローだけあって、人目を惹くような整った容姿をしている。それで注目されているのだろうが、これでは困る。私はここでは、あまり目立ってはいけない存在なのに。
2人から離れれば、注目されずに済むだろうか?
けれど恐らくそれは無理な話だろう。何しろセシルとフレッドは私のお目付け役なのだから。
「……なんだか随分注目されているな」
フレッドが視線に気づいたのか、ポツリと呟く。
「フレッドは昔から人の注目を浴びるのが嫌いだったからな」
セシルが笑った。この2人は幼馴染なので、互いのことを良く知っているのだろう。
「だって2人は目立つもの。注目されるのは当然だわ」
すると私の言葉にセシルとフレッドが目を丸くする。
「クラリス……今の言葉、本気で言ってるの?」
「まさか、全くの無自覚なのか?」
「え? どういうこと?」
「皆、君を見ているんだよ。分からないのかい?」
セシルの言葉に私は改めて周囲を見渡し……1人の男子学生と目があった。すると、彼は顔を赤らめて視線をそらしてしまった。
「どうだ? 分かったか?」
その様子を見ていたフレッドに声をかけられる。
「……そう、みたいね」
やはり私はこの世界のヒロインになってしまったのだ。実をいうと、私はまだ自分の外見に慣れていなかった。
3ヶ月経過した今でも、鏡を見るとドキリとすることがある。本当にこれが自分なのかと疑ってしまいそうになる。
それほど、馴染んでいなかったのだ。
「……ふぅ」
思わずため息をつくと、セシルに尋ねられた。
「もしかして、緊張しているのかい?」
「それは緊張しているわ……」
何しろ、この大学にはリオンがいる。
もうゲームのシナリオとは、大きく展開が変わっているものの……万一彼に出くわしてしまったら平静を装っていられるだろうか?
「大丈夫、今にクラリスの緊張が解けることが起きるよ」
セシルが意味深なセリフを口にした。
「え? それはどういうこと?」
「入学式で分かる。それよりこれ以上注目されたくないから早く大ホールへ行こう」
「そうね。急ぎましょう」
フレッドの言うとおりだ。私もこれ以上注目されたくはない。
そこで私達は急ぎ足で大ホールへ向かった――
「さ、降りよう。クラリス」
兄が手を差し伸べてきた。
「ありがとうございます」
馬車を降り立ち、私は改めて眼の前の学園を見つめた。まるで美しい王宮のような校舎。学部ごとに揃えられた制服を来た生徒たち。
見慣れているのに……何故か今は遠く感じる。それは、やはり今の私はユニス・ウェルナーでは無くなってしまったからなのかもしれない。
「それじゃ、クラリス。私は理事長室に用事があるから先に行くよ。大学生活を楽しむといい」
兄が私の頭を軽く撫でる。
「はい、お兄様」
兄は笑顔で手を振ると、去って行った。
「……懐かしい光景だわ」
思わず言葉に出すと、セシルが話しかけてきた。
「クラリスはここに通っていたんだよね。来るのは6年ぶりかい?」
「年数的には6年ぶりになるのだろうけど……私はずっと眠り続けていたから、気持ち的には3ヶ月ぶりね」
「6年も眠っていたのか……それは辛かったな」
フレッドがポツリと口にした。
「え?」
私の視線に気づいたのか、フレッドは視線をそらせた。
「俺だったら6年も自分の時間を奪われていたなら……まともではいられないかもしれない。なのに、あんたはまるで平気そうに見える」
「平気だなんて……ただ、今の状況を受け入れるしかないからよ。ただでさえ6年間も目を覚まさなくて周りに心配をかけさせてしまったのに……これ以上迷惑かけられないわ」
「そんなことないよ。皆、クラリスの目が覚めて喜んでいる。誰も迷惑だなんて思っていないよ」
セシルが笑顔で話しかけてきた。
「ありがとう」
「それじゃ、皆で一緒に行こう。入学式は大ホールで行われるんだろう? クラリスはこの学園に詳しいから案内してくれないか?」
「そうだな。それがいい」
セシルの言葉にフレッドが同意する。
「そうね、行きましょう。こっちよ、ついてきて」
私は笑顔で2人に返事をした。
****
3人で大ホールへ向かって歩いていると、妙に視線を感じる。
男女問わず、何故かこちらを気にするかのようにチラチラと見ている。
あぁ……なるほど、そういうことか。
私は隣を歩くセシルとフレッドを見上げた。
この2人はゲームのメインヒーローだけあって、人目を惹くような整った容姿をしている。それで注目されているのだろうが、これでは困る。私はここでは、あまり目立ってはいけない存在なのに。
2人から離れれば、注目されずに済むだろうか?
けれど恐らくそれは無理な話だろう。何しろセシルとフレッドは私のお目付け役なのだから。
「……なんだか随分注目されているな」
フレッドが視線に気づいたのか、ポツリと呟く。
「フレッドは昔から人の注目を浴びるのが嫌いだったからな」
セシルが笑った。この2人は幼馴染なので、互いのことを良く知っているのだろう。
「だって2人は目立つもの。注目されるのは当然だわ」
すると私の言葉にセシルとフレッドが目を丸くする。
「クラリス……今の言葉、本気で言ってるの?」
「まさか、全くの無自覚なのか?」
「え? どういうこと?」
「皆、君を見ているんだよ。分からないのかい?」
セシルの言葉に私は改めて周囲を見渡し……1人の男子学生と目があった。すると、彼は顔を赤らめて視線をそらしてしまった。
「どうだ? 分かったか?」
その様子を見ていたフレッドに声をかけられる。
「……そう、みたいね」
やはり私はこの世界のヒロインになってしまったのだ。実をいうと、私はまだ自分の外見に慣れていなかった。
3ヶ月経過した今でも、鏡を見るとドキリとすることがある。本当にこれが自分なのかと疑ってしまいそうになる。
それほど、馴染んでいなかったのだ。
「……ふぅ」
思わずため息をつくと、セシルに尋ねられた。
「もしかして、緊張しているのかい?」
「それは緊張しているわ……」
何しろ、この大学にはリオンがいる。
もうゲームのシナリオとは、大きく展開が変わっているものの……万一彼に出くわしてしまったら平静を装っていられるだろうか?
「大丈夫、今にクラリスの緊張が解けることが起きるよ」
セシルが意味深なセリフを口にした。
「え? それはどういうこと?」
「入学式で分かる。それよりこれ以上注目されたくないから早く大ホールへ行こう」
「そうね。急ぎましょう」
フレッドの言うとおりだ。私もこれ以上注目されたくはない。
そこで私達は急ぎ足で大ホールへ向かった――
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