転生先がヒロインに恋する悪役令息のモブ婚約者だったので、推しの為に身を引こうと思います

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売

文字の大きさ
79 / 108

4章11 エイダの質問

しおりを挟む
 午後も男女別々のガイダンスとなっていた。

「それじゃ、エイダ。クラリスをよろしく頼む」

フレッドがエイダに声をかけた。

「ええ、大丈夫よ。任せて頂戴」

エイダは自信たっぷりに頷く。

「クラリス」

「何?」

セシルに名前を呼ばれて返事をした。

「ガイダンスが終わったら、すぐに教室に迎えに行くから待ってるんだ。いいね?」

「……分かったわ」

緊張しながら返事をした。
先程のガイダンスにはロザリンの姿は無かったが、次のガイダンスはどうだろう? ロザリンは現れるだろうか? もし見つかってしまったら……?
けれど、不安を口にすることは躊躇われた。
ただでさえ、皆に心配かけさせてしまっているのだから――


****

食堂を出てセシル達と別れた途端、エイダが奇妙な質問を投げかけてきた。

「皆、クラリスのことを心配してくれているわね。それで誰が本命なの?」

「え? 本命?」

一体何のことだろう?

するとクスクスとエイダが笑った。

「いやだ、とぼける気? クラリスはあの4人の男性達の中で誰が一番良いと思っているの?」

「えぇっ!? 突然何を言い出すの!? 良いも悪いも無いわよ」

アンディとザカリーは6年ぶりの再会だったし、かと言って大した交流だって無かった。ましてやセシルとフレッドに至っては昨日出会ったばかりだし、彼らはあくまで私の監視者に過ぎないのだ。

「それって、どういう意味?」

エイダが首を傾げる。

「つまり、あの人達には恋愛感情的な物は一切抱いていないってことよ」

大体今、私の頭の中を占めているのはロザリンとリオンのこと。
それに……妙に親しげに接してくれるエイダのことなのだから。
ひょっとして、私がユニスだと気付いているのではないだろうかと錯覚してしまいそうになる。

けれど、私の口からは決して確認することは出来ない。だって……私は死んだことになっているのだから。

「ふ~ん……そうなの? でも、あの人達全員クラリスに好感を抱いているように私は感じるけどね~。でも恋愛相談なら乗るわよ? これでも何人かの男性とお付き合いしたことあるんだから。どれも長続きはしなかったけどね」

「え? そうなの? 詳しく話を聞きたいわ」

2人で恋愛話をしながら教室へと私達は向った。
多分エイダがこんな話をしてきたのは、私の気持ちを紛らわせるためなのだろう。

エイダの気遣いに、私は心の中で感謝した――


****


 午後はそれぞれ個人の魔法適性を調べて、属性ごとにクラスを振り分けるためのガイダンスだった。
教壇には、大きなガラス水晶が置かれている。あの水晶に触れて適性を調べるのだろう。

「……」

2人で階段教室の一番後ろの隅に座り、私はロザリンの姿がないか周囲を見渡していた。

「ねぇ、もしかしてロザリンがいないか捜しているの?」

「ええ、そうなの……魔法適性を調べるには教壇の前に行かなければならないでしょう?」

「それなら大丈夫よ、安心して。ロザリンならいないみたいよ。このガイダンスだって2クラスに分かれているでしょう? あんな黒いヴェールを被っていればイヤでもすぐに分かるじゃない」

「そうよね……」

すると、不意にエイダが神妙な顔つきで尋ねてきた。

「……クラリス。何故、ロザリンが黒いヴェールを被っているか気にならないの?」

「え?」

「今日、何度もロザリンの話が出てきたけど、何故ヴェールを被っているか一度も会話に出てこなかったわ。そこが私は不思議だったのだけど……」

「それは……」

エイダの言うとおりだ。あんなヴェールを被っていれば、理由を尋ねるのが普通だろう。
だけど、私はその理由を知っているから尋ねることすらしなかった。

――そのとき。

「皆さん、お待たせしました。これより魔法の適性検査を始めます」

教室に聞き覚えのある声が響き渡った。

「え?」

教壇を見下ろし、私は目を見開いた。
水晶の前に立っていたのは……兄のレナー伯爵、その人だった――


しおりを挟む
感想 362

あなたにおすすめの小説

悪女役らしく離婚を迫ろうとしたのに、夫の反応がおかしい

廻り
恋愛
第18回恋愛小説大賞にて奨励賞をいただきました。応援してくださりありがとうございました!  王太子妃シャルロット20歳は、前世の記憶が蘇る。  ここは小説の世界で、シャルロットは王太子とヒロインの恋路を邪魔する『悪女役』。 『断罪される運命』から逃れたいが、夫は離婚に応じる気がない。  ならばと、シャルロットは別居を始める。 『夫が離婚に応じたくなる計画』を思いついたシャルロットは、それを実行することに。  夫がヒロインと出会うまで、タイムリミットは一年。  それまでに離婚に応じさせたいシャルロットと、なぜか様子がおかしい夫の話。

プリン食べたい!婚約者が王女殿下に夢中でまったく相手にされない伯爵令嬢ベアトリス!前世を思いだした。え?乙女ゲームの世界、わたしは悪役令嬢!

山田 バルス
恋愛
 王都の中央にそびえる黄金の魔塔――その頂には、選ばれし者のみが入ることを許された「王都学院」が存在する。魔法と剣の才を持つ貴族の子弟たちが集い、王国の未来を担う人材が育つこの学院に、一人の少女が通っていた。  名はベアトリス=ローデリア。金糸を編んだような髪と、透き通るような青い瞳を持つ、美しき伯爵令嬢。気品と誇りを備えた彼女は、その立ち居振る舞いひとつで周囲の目を奪う、まさに「王都の金の薔薇」と謳われる存在であった。 だが、彼女には胸に秘めた切ない想いがあった。 ――婚約者、シャルル=フォンティーヌ。  同じ伯爵家の息子であり、王都学院でも才気あふれる青年として知られる彼は、ベアトリスの幼馴染であり、未来を誓い合った相手でもある。だが、学院に入ってからというもの、シャルルは王女殿下と共に生徒会での活動に没頭するようになり、ベアトリスの前に姿を見せることすら稀になっていった。  そんなある日、ベアトリスは前世を思い出した。この世界はかつて病院に入院していた時の乙女ゲームの世界だと。  そして、自分は悪役令嬢だと。ゲームのシナリオをぶち壊すために、ベアトリスは立ち上がった。  レベルを上げに励み、頂点を極めた。これでゲームシナリオはぶち壊せる。  そう思ったベアトリスに真の目的が見つかった。前世では病院食ばかりだった。好きなものを食べられずに死んでしまった。だから、この世界では美味しいものを食べたい。ベアトリスの食への欲求を満たす旅が始まろうとしていた。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

異世界転生した私は甘味のものがないことを知り前世の記憶をフル活用したら、甘味長者になっていた~悪役令嬢なんて知りません(嘘)~

詩河とんぼ
恋愛
とあるゲームの病弱悪役令嬢に異世界転生した甘味大好きな私。しかし、転生した世界には甘味のものないことを知る―――ないなら、作ろう!と考え、この世界の人に食べてもらうと大好評で――気づけば甘味長者になっていた!?  小説家になろう様でも投稿させていただいております 8月29日 HOT女性向けランキングで10位、恋愛で49位、全体で74位 8月30日 HOT女性向けランキングで6位、恋愛で24位、全体で26位 8月31日 HOT女性向けランキングで4位、恋愛で20位、全体で23位 に……凄すぎてびっくりしてます!ありがとうございますm(_ _)m

婚約破棄されたけれど、どうぞ勝手に没落してくださいませ。私は辺境で第二の人生を満喫しますわ

鍛高譚
恋愛
「白い結婚でいい。 平凡で、静かな生活が送れれば――それだけで幸せでしたのに。」 婚約破棄され、行き場を失った伯爵令嬢アナスタシア。 彼女を救ったのは“冷徹”と噂される公爵・ルキウスだった。 二人の結婚は、互いに干渉しない 『白い結婚』――ただの契約のはずだった。 ……はずなのに。 邸内で起きる不可解な襲撃。 操られた侍女が放つ言葉。 浮かび上がる“白の一族”の血――そしてアナスタシアの身体に眠る 浄化の魔力。 「白の娘よ。いずれ迎えに行く」 影の王から届いた脅迫状が、運命の刻を告げる。 守るために剣を握る公爵。 守られるだけで終わらせないと誓う令嬢。 契約から始まったはずの二人の関係は、 いつしか互いに手放せない 真実の愛 へと変わってゆく。 「君を奪わせはしない」 「わたくしも……あなたを守りたいのです」 これは―― 白い結婚から始まり、影の王を巡る大いなる戦いへ踏み出す、 覚醒令嬢と冷徹公爵の“運命の恋と陰謀”の物語。 ---

『婚約なんて予定にないんですが!? 転生モブの私に公爵様が迫ってくる』

ヤオサカ
恋愛
この物語は完結しました。 現代で過労死した原田あかりは、愛読していた恋愛小説の世界に転生し、主人公の美しい姉を引き立てる“妹モブ”ティナ・ミルフォードとして生まれ変わる。今度こそ静かに暮らそうと決めた彼女だったが、絵の才能が公爵家嫡男ジークハルトの目に留まり、婚約を申し込まれてしまう。のんびり人生を望むティナと、穏やかに心を寄せるジーク――絵と愛が織りなす、やがて幸せな結婚へとつながる転生ラブストーリー。

お妃候補を辞退したら、初恋の相手に溺愛されました

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のフランソアは、王太子殿下でもあるジェーンの為、お妃候補に名乗りを上げ、5年もの間、親元を離れ王宮で生活してきた。同じくお妃候補の令嬢からは嫌味を言われ、厳しい王妃教育にも耐えてきた。他のお妃候補と楽しく過ごすジェーンを見て、胸を痛める事も日常茶飯事だ。 それでもフランソアは “僕が愛しているのはフランソアただ1人だ。だからどうか今は耐えてくれ” というジェーンの言葉を糧に、必死に日々を過ごしていた。婚約者が正式に決まれば、ジェーン様は私だけを愛してくれる!そう信じて。 そんな中、急遽一夫多妻制にするとの発表があったのだ。 聞けばジェーンの強い希望で実現されたらしい。自分だけを愛してくれていると信じていたフランソアは、その言葉に絶望し、お妃候補を辞退する事を決意。 父親に連れられ、5年ぶりに戻った懐かしい我が家。そこで待っていたのは、初恋の相手でもある侯爵令息のデイズだった。 聞けば1年ほど前に、フランソアの家の養子になったとの事。戸惑うフランソアに対し、デイズは…

冤罪で処刑されたら死に戻り、前世の記憶が戻った悪役令嬢は、元の世界に帰る方法を探す為に婚約破棄と追放を受け入れたら、伯爵子息様に拾われました

ゆうき
恋愛
ワガママ三昧な生活を送っていた悪役令嬢のミシェルは、自分の婚約者と、長年に渡っていじめていた聖女によって冤罪をでっちあげられ、処刑されてしまう。 その後、ミシェルは不思議な夢を見た。不思議な既視感を感じる夢の中で、とある女性の死を見せられたミシェルは、目を覚ますと自分が処刑される半年前の時間に戻っていた。 それと同時に、先程見た夢が自分の前世の記憶で、自分が異世界に転生したことを知る。 記憶が戻ったことで、前世のような優しい性格を取り戻したミシェルは、前世の世界に残してきてしまった、幼い家族の元に帰る術を探すため、ミシェルは婚約者からの婚約破棄と、父から宣告された追放も素直に受け入れ、貴族という肩書きを隠し、一人外の世界に飛び出した。 初めての外の世界で、仕事と住む場所を見つけて懸命に生きるミシェルはある日、仕事先の常連の美しい男性――とある伯爵家の令息であるアランに屋敷に招待され、自分の正体を見破られてしまったミシェルは、思わぬ提案を受ける。 それは、魔法の研究をしている自分の専属の使用人兼、研究の助手をしてほしいというものだった。 だが、その提案の真の目的は、社交界でも有名だった悪役令嬢の性格が豹変し、一人で外の世界で生きていることを不審に思い、自分の監視下におくためだった。 変に断って怪しまれ、未来で起こる処刑に繋がらないようにするために、そして優しいアランなら信用できると思ったミシェルは、その提案を受け入れた。 最初はミシェルのことを疑っていたアランだったが、徐々にミシェルの優しさや純粋さに惹かれていく。同時に、ミシェルもアランの魅力に惹かれていくことに……。 これは死に戻った元悪役令嬢が、元の世界に帰るために、伯爵子息と共に奮闘し、互いに惹かれて幸せになる物語。 ⭐︎小説家になろう様にも投稿しています。全話予約投稿済です⭐︎

処理中です...