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4章11 エイダの質問
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午後も男女別々のガイダンスとなっていた。
「それじゃ、エイダ。クラリスをよろしく頼む」
フレッドがエイダに声をかけた。
「ええ、大丈夫よ。任せて頂戴」
エイダは自信たっぷりに頷く。
「クラリス」
「何?」
セシルに名前を呼ばれて返事をした。
「ガイダンスが終わったら、すぐに教室に迎えに行くから待ってるんだ。いいね?」
「……分かったわ」
緊張しながら返事をした。
先程のガイダンスにはロザリンの姿は無かったが、次のガイダンスはどうだろう? ロザリンは現れるだろうか? もし見つかってしまったら……?
けれど、不安を口にすることは躊躇われた。
ただでさえ、皆に心配かけさせてしまっているのだから――
****
食堂を出てセシル達と別れた途端、エイダが奇妙な質問を投げかけてきた。
「皆、クラリスのことを心配してくれているわね。それで誰が本命なの?」
「え? 本命?」
一体何のことだろう?
するとクスクスとエイダが笑った。
「いやだ、とぼける気? クラリスはあの4人の男性達の中で誰が一番良いと思っているの?」
「えぇっ!? 突然何を言い出すの!? 良いも悪いも無いわよ」
アンディとザカリーは6年ぶりの再会だったし、かと言って大した交流だって無かった。ましてやセシルとフレッドに至っては昨日出会ったばかりだし、彼らはあくまで私の監視者に過ぎないのだ。
「それって、どういう意味?」
エイダが首を傾げる。
「つまり、あの人達には恋愛感情的な物は一切抱いていないってことよ」
大体今、私の頭の中を占めているのはロザリンとリオンのこと。
それに……妙に親しげに接してくれるエイダのことなのだから。
ひょっとして、私がユニスだと気付いているのではないだろうかと錯覚してしまいそうになる。
けれど、私の口からは決して確認することは出来ない。だって……私は死んだことになっているのだから。
「ふ~ん……そうなの? でも、あの人達全員クラリスに好感を抱いているように私は感じるけどね~。でも恋愛相談なら乗るわよ? これでも何人かの男性とお付き合いしたことあるんだから。どれも長続きはしなかったけどね」
「え? そうなの? 詳しく話を聞きたいわ」
2人で恋愛話をしながら教室へと私達は向った。
多分エイダがこんな話をしてきたのは、私の気持ちを紛らわせるためなのだろう。
エイダの気遣いに、私は心の中で感謝した――
****
午後はそれぞれ個人の魔法適性を調べて、属性ごとにクラスを振り分けるためのガイダンスだった。
教壇には、大きなガラス水晶が置かれている。あの水晶に触れて適性を調べるのだろう。
「……」
2人で階段教室の一番後ろの隅に座り、私はロザリンの姿がないか周囲を見渡していた。
「ねぇ、もしかしてロザリンがいないか捜しているの?」
「ええ、そうなの……魔法適性を調べるには教壇の前に行かなければならないでしょう?」
「それなら大丈夫よ、安心して。ロザリンならいないみたいよ。このガイダンスだって2クラスに分かれているでしょう? あんな黒いヴェールを被っていればイヤでもすぐに分かるじゃない」
「そうよね……」
すると、不意にエイダが神妙な顔つきで尋ねてきた。
「……クラリス。何故、ロザリンが黒いヴェールを被っているか気にならないの?」
「え?」
「今日、何度もロザリンの話が出てきたけど、何故ヴェールを被っているか一度も会話に出てこなかったわ。そこが私は不思議だったのだけど……」
「それは……」
エイダの言うとおりだ。あんなヴェールを被っていれば、理由を尋ねるのが普通だろう。
だけど、私はその理由を知っているから尋ねることすらしなかった。
――そのとき。
「皆さん、お待たせしました。これより魔法の適性検査を始めます」
教室に聞き覚えのある声が響き渡った。
「え?」
教壇を見下ろし、私は目を見開いた。
水晶の前に立っていたのは……兄のレナー伯爵、その人だった――
「それじゃ、エイダ。クラリスをよろしく頼む」
フレッドがエイダに声をかけた。
「ええ、大丈夫よ。任せて頂戴」
エイダは自信たっぷりに頷く。
「クラリス」
「何?」
セシルに名前を呼ばれて返事をした。
「ガイダンスが終わったら、すぐに教室に迎えに行くから待ってるんだ。いいね?」
「……分かったわ」
緊張しながら返事をした。
先程のガイダンスにはロザリンの姿は無かったが、次のガイダンスはどうだろう? ロザリンは現れるだろうか? もし見つかってしまったら……?
けれど、不安を口にすることは躊躇われた。
ただでさえ、皆に心配かけさせてしまっているのだから――
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食堂を出てセシル達と別れた途端、エイダが奇妙な質問を投げかけてきた。
「皆、クラリスのことを心配してくれているわね。それで誰が本命なの?」
「え? 本命?」
一体何のことだろう?
するとクスクスとエイダが笑った。
「いやだ、とぼける気? クラリスはあの4人の男性達の中で誰が一番良いと思っているの?」
「えぇっ!? 突然何を言い出すの!? 良いも悪いも無いわよ」
アンディとザカリーは6年ぶりの再会だったし、かと言って大した交流だって無かった。ましてやセシルとフレッドに至っては昨日出会ったばかりだし、彼らはあくまで私の監視者に過ぎないのだ。
「それって、どういう意味?」
エイダが首を傾げる。
「つまり、あの人達には恋愛感情的な物は一切抱いていないってことよ」
大体今、私の頭の中を占めているのはロザリンとリオンのこと。
それに……妙に親しげに接してくれるエイダのことなのだから。
ひょっとして、私がユニスだと気付いているのではないだろうかと錯覚してしまいそうになる。
けれど、私の口からは決して確認することは出来ない。だって……私は死んだことになっているのだから。
「ふ~ん……そうなの? でも、あの人達全員クラリスに好感を抱いているように私は感じるけどね~。でも恋愛相談なら乗るわよ? これでも何人かの男性とお付き合いしたことあるんだから。どれも長続きはしなかったけどね」
「え? そうなの? 詳しく話を聞きたいわ」
2人で恋愛話をしながら教室へと私達は向った。
多分エイダがこんな話をしてきたのは、私の気持ちを紛らわせるためなのだろう。
エイダの気遣いに、私は心の中で感謝した――
****
午後はそれぞれ個人の魔法適性を調べて、属性ごとにクラスを振り分けるためのガイダンスだった。
教壇には、大きなガラス水晶が置かれている。あの水晶に触れて適性を調べるのだろう。
「……」
2人で階段教室の一番後ろの隅に座り、私はロザリンの姿がないか周囲を見渡していた。
「ねぇ、もしかしてロザリンがいないか捜しているの?」
「ええ、そうなの……魔法適性を調べるには教壇の前に行かなければならないでしょう?」
「それなら大丈夫よ、安心して。ロザリンならいないみたいよ。このガイダンスだって2クラスに分かれているでしょう? あんな黒いヴェールを被っていればイヤでもすぐに分かるじゃない」
「そうよね……」
すると、不意にエイダが神妙な顔つきで尋ねてきた。
「……クラリス。何故、ロザリンが黒いヴェールを被っているか気にならないの?」
「え?」
「今日、何度もロザリンの話が出てきたけど、何故ヴェールを被っているか一度も会話に出てこなかったわ。そこが私は不思議だったのだけど……」
「それは……」
エイダの言うとおりだ。あんなヴェールを被っていれば、理由を尋ねるのが普通だろう。
だけど、私はその理由を知っているから尋ねることすらしなかった。
――そのとき。
「皆さん、お待たせしました。これより魔法の適性検査を始めます」
教室に聞き覚えのある声が響き渡った。
「え?」
教壇を見下ろし、私は目を見開いた。
水晶の前に立っていたのは……兄のレナー伯爵、その人だった――
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