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第54話 あの人物との再会
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「フンフン~」
鼻歌を歌いながらカウンターに納品予定の品物を全て並べていく。今日持ってきた品物はソーイングケースと化粧ポーチ、ウォレット、そして…パメラを追い詰めるきっかけになったペン立てだ。この世界では刺繍を嗜む女性たちが多いが、針や糸等は缶や籐の籠に入れて持ち運びしている。でも私が作ったソーイングケースは布製で軽い。きっと手にした女性たちは喜んでくれるに違いない。
「パメラも愚かよね…。大人しくしていれば私だって我慢していたのに、私からこの品物を盗むのだから」
言いながら籠のなかにペン立てを見栄え良く並べ、窓から見える場所に次々と飾っていく。
「フフフ…オープンが待ち遠しいわ」
持ってきた品物を並べ終えると、今度はカードに品物の名前と金額を記入して籠の中見やすいように立てていく。
明るい日差しが差し込む店内で夢中になって作業を進めていると、不意に視線を感じた。
「?」
すると窓から店内を凝視している若い男性が目に飛び込んできた。
「え…?何?あの人…」
ここにある品物は全て女性向けの作品ばかりだ。男の人用の品物は何一つ置いていない。女性が興味を持って覗き込むならまだしも、何故かあの男性は目を見開き、食い入るように品物を見つめている。
「それとも何か用でもあるのかしら…?」
丁度作業が一段落したし、声を掛けてみることにしよう。
私は席を立った―。
****
「あの…何か御用でしょうか?」
扉を開けて中を覗き込んでいた男性に声を掛けた。
「え?あ!す、すみませんっ!決して怪しい者ではありません!」
男性は声を掛けられた事に驚いたのか。数歩後ずさると頭を下げてきた。
「いえ、何もそこまで恐縮されなくても大丈夫です。何か御用があるのかと思いまして…」
「いえ、見たことないお店だなと思ってつい、中を覗き見してしまったんです。ここに並べられている商品があまりにも素晴らしくて…」
恥ずかしそうに言う男性。そこまで褒められると悪い気はしない。
「いえ…嬉しいです。ありがとうございます。実はこのお店はまだオープン前なのですが…もしよろしければ中に入ってご覧になりますか?生憎女性向けの商品しかないのですが…」
「本当ですか?ありがとうございます」
男性は笑みを浮かべて私を見つめた。
「いえ…」
私達は見つめ合い…ふとある事に気付いた。
「あの…私達、何処かでお会いしたことありませんでしたっけ?」
まるでナンパしているような言い方だが、決してそんなつもり私には無かった。すると男性の方も言う。
「貴女もですか?実は僕も先程から何処かでお会いした様な気がしていたのですが…あっ!思い出しました!貴女はこの間、学食で男子学生に叩かれそうになっていた人ではありませんか?」
「え?…あっ!」
そうだった。何処かで見覚えがあると思ったら、あの時私を助けてくれた男性だったのだ。
「あの時は危ない所を助けて頂き、どうもありがとうございました」
丁寧に頭を下げた。
「いえ、それは当然のことです。大体女性に手をあげるなど、男として最低です」
男性は憤慨したかのように言う。
「アハハハ…最低、ですか」
すみません、その最低な男は私の許嫁なんです…とはとても言えなかった。
「だとしたら尚更お入り下さい。貴方は私の恩人ですから」
「恩人は大げさですが…でも店内を見せてくれるのですね?ありがとうございます。嬉しいです」
「あ、申し遅れましたが私はアンジェラ・ベルモンドと申します」
「僕はデリク・ホフマンと申します」
お互いに頭を下げる。
「それではホフマン先生、どうぞ中へお入り下さい」
招き入れようとすると彼が言った。
「ホフマン先生?デリクでいいですよ」
「そうですか?では…デリク先生…」
「ここは学校ではないので、どうぞデリクと呼んで下さい」
「それならデリクさんと呼ばせて下さい」
「ええ、それで構いません。僕もアンジェラさんと呼ばせて頂きますよ」
そしてデリクさんは笑みを浮かべて私を見た。
その笑顔は…何処か私にとって懐かしく感じた―。
鼻歌を歌いながらカウンターに納品予定の品物を全て並べていく。今日持ってきた品物はソーイングケースと化粧ポーチ、ウォレット、そして…パメラを追い詰めるきっかけになったペン立てだ。この世界では刺繍を嗜む女性たちが多いが、針や糸等は缶や籐の籠に入れて持ち運びしている。でも私が作ったソーイングケースは布製で軽い。きっと手にした女性たちは喜んでくれるに違いない。
「パメラも愚かよね…。大人しくしていれば私だって我慢していたのに、私からこの品物を盗むのだから」
言いながら籠のなかにペン立てを見栄え良く並べ、窓から見える場所に次々と飾っていく。
「フフフ…オープンが待ち遠しいわ」
持ってきた品物を並べ終えると、今度はカードに品物の名前と金額を記入して籠の中見やすいように立てていく。
明るい日差しが差し込む店内で夢中になって作業を進めていると、不意に視線を感じた。
「?」
すると窓から店内を凝視している若い男性が目に飛び込んできた。
「え…?何?あの人…」
ここにある品物は全て女性向けの作品ばかりだ。男の人用の品物は何一つ置いていない。女性が興味を持って覗き込むならまだしも、何故かあの男性は目を見開き、食い入るように品物を見つめている。
「それとも何か用でもあるのかしら…?」
丁度作業が一段落したし、声を掛けてみることにしよう。
私は席を立った―。
****
「あの…何か御用でしょうか?」
扉を開けて中を覗き込んでいた男性に声を掛けた。
「え?あ!す、すみませんっ!決して怪しい者ではありません!」
男性は声を掛けられた事に驚いたのか。数歩後ずさると頭を下げてきた。
「いえ、何もそこまで恐縮されなくても大丈夫です。何か御用があるのかと思いまして…」
「いえ、見たことないお店だなと思ってつい、中を覗き見してしまったんです。ここに並べられている商品があまりにも素晴らしくて…」
恥ずかしそうに言う男性。そこまで褒められると悪い気はしない。
「いえ…嬉しいです。ありがとうございます。実はこのお店はまだオープン前なのですが…もしよろしければ中に入ってご覧になりますか?生憎女性向けの商品しかないのですが…」
「本当ですか?ありがとうございます」
男性は笑みを浮かべて私を見つめた。
「いえ…」
私達は見つめ合い…ふとある事に気付いた。
「あの…私達、何処かでお会いしたことありませんでしたっけ?」
まるでナンパしているような言い方だが、決してそんなつもり私には無かった。すると男性の方も言う。
「貴女もですか?実は僕も先程から何処かでお会いした様な気がしていたのですが…あっ!思い出しました!貴女はこの間、学食で男子学生に叩かれそうになっていた人ではありませんか?」
「え?…あっ!」
そうだった。何処かで見覚えがあると思ったら、あの時私を助けてくれた男性だったのだ。
「あの時は危ない所を助けて頂き、どうもありがとうございました」
丁寧に頭を下げた。
「いえ、それは当然のことです。大体女性に手をあげるなど、男として最低です」
男性は憤慨したかのように言う。
「アハハハ…最低、ですか」
すみません、その最低な男は私の許嫁なんです…とはとても言えなかった。
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「ここは学校ではないので、どうぞデリクと呼んで下さい」
「それならデリクさんと呼ばせて下さい」
「ええ、それで構いません。僕もアンジェラさんと呼ばせて頂きますよ」
そしてデリクさんは笑みを浮かべて私を見た。
その笑顔は…何処か私にとって懐かしく感じた―。
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