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第55話 懐かしい気持ち
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「あまり広くはありませんが、どうぞお入り下さい」
デリクさんは店内へ入ると感心したかのように店の中を見渡した。そして木製ラックに陳列された商品を一つ一つ丁寧に見て回る。
「あの…。手にとって見ても…大丈夫でしょうか?」
遠慮がちに尋ねてきた。
「ええ、どうぞ。私は作業の続きをしておりますのでご自由にお手に取って御覧下さい」
するとデリクさんはますます嬉しそうに商品をそっと手にとってじっくり見始めた。
男性なのに布雑貨に興味を持ってくれている…。それが何となく嬉しかった。そしてデリクさんを見ていると何故か前世の恋人だった彼を思い出してしまった。
かつて恋人だった彼は手芸作家の私を応援してくれていた。新作を作る時は必ず最初に彼に見せて、感想やアドバイスを貰っていた。
今では遠い記憶なのに…何故か、ふと思い出してしまった。
懐かしい気持ちになりながら私はカードに商品名や金額を書いていった…。
****
どの位時間が経過しただろうか…。
「あの…アンジェラさん」
名前を呼ばれ、ペンを走らせていた私は顔を上げるとそこにはデリクさんが立っていた。
「あ、デリクさん。どうかしましたか?」
「もう十分商品を見せて頂いたので、そろそろお暇しようかと思っていたのですが…ひょとして今書いているのは値札ですか?」
デリクさんは私の手元を指差すと尋ねてきた。
「はい、そうです。カードを小さく切って、目打ちでアナを開けて刺繍糸を通して輪にして結んで…」
言いかけてふと私は思った。
値札…?
この世界では値札と言う物は使われていないし、言葉も聞いたことが無い。全ての品は一つにまとめられ、『1個につき〇〇』と表記された価格を商品の入った籠や箱に明記している。私のように商品に一つ一つに金額を記したものを商品に取り付けたりはしていない。
なのに…どうしてデリクさんはその言葉を知っているのだろう?
「あ、あの…『値札』って…?」
するとデリクさんは首を傾げた。
「あ、そう言えば…何故でしょう?アンジェラさんが金額を書いているカードを見た時に突然頭にその言葉が浮かんできたのです。自分でも不思議なのですが…」
「そう…ですか…」
ま、まさか…この人は…。
動揺する私を前にデリクさんは清々しい顔で私に言った。
「そう言えばお店のオープンはいつですか?」
「は、はい。来月10日の10時にお店を開けるつもりです。閉店時間は18時です」
「そうなんですね?その時は是非また立ち寄らせて下さい。本当にこの店に来てよかったです。…何故か分かりませんが、懐かしい気持ちがこみ上げてきました」
「な、懐かしい気持ち…?」
心臓の鼓動が早くなる。
「それでは、また…」
「待って下さいっ!」
気づけば私はお店を出ていこうとするデリクさんを呼び止めていた。
「え?」
振り向くデリクさん。
「も、もし宜しければ…オープンと言わず、その前にまた…いらして下さい。新しい商品も並べるつもりですから…。明日も納品に来る予定なので…」
これでは何だか誘っているようにも取られ兼ねない。けれど、私はデリクさんともっと話がしたかった。
「…」
デリクさんは少しの間、私を見つめ…。
「本当ですか?また来てもいいんですか?ありがとうございます」
笑みを浮かべて返事をした。
「あ、あのそれでは…?」
「ええ、ご迷惑でなければまた明日立ち寄らせて下さい。それでは今日はこの辺で失礼します。良い物を見せて頂き、本当にありがとうございました」
そしてデリクさんは店から去って行った―。
デリクさんは店内へ入ると感心したかのように店の中を見渡した。そして木製ラックに陳列された商品を一つ一つ丁寧に見て回る。
「あの…。手にとって見ても…大丈夫でしょうか?」
遠慮がちに尋ねてきた。
「ええ、どうぞ。私は作業の続きをしておりますのでご自由にお手に取って御覧下さい」
するとデリクさんはますます嬉しそうに商品をそっと手にとってじっくり見始めた。
男性なのに布雑貨に興味を持ってくれている…。それが何となく嬉しかった。そしてデリクさんを見ていると何故か前世の恋人だった彼を思い出してしまった。
かつて恋人だった彼は手芸作家の私を応援してくれていた。新作を作る時は必ず最初に彼に見せて、感想やアドバイスを貰っていた。
今では遠い記憶なのに…何故か、ふと思い出してしまった。
懐かしい気持ちになりながら私はカードに商品名や金額を書いていった…。
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どの位時間が経過しただろうか…。
「あの…アンジェラさん」
名前を呼ばれ、ペンを走らせていた私は顔を上げるとそこにはデリクさんが立っていた。
「あ、デリクさん。どうかしましたか?」
「もう十分商品を見せて頂いたので、そろそろお暇しようかと思っていたのですが…ひょとして今書いているのは値札ですか?」
デリクさんは私の手元を指差すと尋ねてきた。
「はい、そうです。カードを小さく切って、目打ちでアナを開けて刺繍糸を通して輪にして結んで…」
言いかけてふと私は思った。
値札…?
この世界では値札と言う物は使われていないし、言葉も聞いたことが無い。全ての品は一つにまとめられ、『1個につき〇〇』と表記された価格を商品の入った籠や箱に明記している。私のように商品に一つ一つに金額を記したものを商品に取り付けたりはしていない。
なのに…どうしてデリクさんはその言葉を知っているのだろう?
「あ、あの…『値札』って…?」
するとデリクさんは首を傾げた。
「あ、そう言えば…何故でしょう?アンジェラさんが金額を書いているカードを見た時に突然頭にその言葉が浮かんできたのです。自分でも不思議なのですが…」
「そう…ですか…」
ま、まさか…この人は…。
動揺する私を前にデリクさんは清々しい顔で私に言った。
「そう言えばお店のオープンはいつですか?」
「は、はい。来月10日の10時にお店を開けるつもりです。閉店時間は18時です」
「そうなんですね?その時は是非また立ち寄らせて下さい。本当にこの店に来てよかったです。…何故か分かりませんが、懐かしい気持ちがこみ上げてきました」
「な、懐かしい気持ち…?」
心臓の鼓動が早くなる。
「それでは、また…」
「待って下さいっ!」
気づけば私はお店を出ていこうとするデリクさんを呼び止めていた。
「え?」
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「…」
デリクさんは少しの間、私を見つめ…。
「本当ですか?また来てもいいんですか?ありがとうございます」
笑みを浮かべて返事をした。
「あ、あのそれでは…?」
「ええ、ご迷惑でなければまた明日立ち寄らせて下さい。それでは今日はこの辺で失礼します。良い物を見せて頂き、本当にありがとうございました」
そしてデリクさんは店から去って行った―。
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