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第56話 粘る男
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デリクさんが店を出ていった後…暫く胸の高鳴りが収まらなかった。
「デリクさんは一体何者なのかしら…?」
どうして男性なのに私の作った作品をあんなに真剣な目で見つめていたのだろう?
聞きたい事は山ほどあった。しかもこの世界には存在しない『値札』と言う言葉を口にした。
もしかして…あの人も私の様に前世の記憶があるのだろか…?
だけど、そんな事は聞けなかった。まだ会って間もない相手に「貴方には前世の記憶がありますか?」なんて尋ねれば、頭のおかしい人間だと思われてしまうかもしれない。
「また明日来てくれる事になっているし…親しくなれば尋ねることが出来るかもしれないわよね」
そうと決まれば、もっと沢山商品を作ってデリクさんを楽しませてあげよう。早速私は用意してきたソーイングセットからハサミと生地を取り出し、作業を開始した―。
****
ボーン
ボーン
ボーン
壁にかけた振り子時計が午後5時を知らせた。
「あ、もうこんな時間なのね」
もしかしてもうジムさんが迎えに来ているかもしれない。
立ち上がって窓の外を眺めても迎えの馬車が見当たらない。
「珍しいわね…?いつもなら5分前には到着しているのに…」
ひょっとすると遅れているのだろうか?
「ジムさんが来るまでもう少し作業を続けましょう」
そして私は再び作品作りを再開した。
30分後―。
窓の外で馬車が近付いてくる音が聞こえた。ひょっとするとジムさんだろうか?作業の手を休めて窓の外を覗き込むと、丁度馬車が停車したところだった。御者台に乗るのは勿論ジムさんである。
「ありがとう、迎えに来てくれて」
店の扉を開けてジムさんに声を掛けた。
「あ、アンジェラ様。遅くなって申し訳ございません。なかなか屋敷から抜け出すことが出来なくてお迎えに上がるのが遅くなってしまいました。
「屋敷から抜け出す…?」
妙な言い方に首をひねる。するとジムさんが困り顔で申し訳無さそうに言った。
「アンジェラ様。悪いことは言いません。まだここに暫く残られた方が良いかと思います。その事を告げに参ったのです。馬車の中にはアンジェラ様用の夕食が入っておりますので、出来れば後2時間はこちらに滞在して下さい。旦那様達がその様に仰っておりました」
「え?後2時間?お父様達がそう話していたの?もしかして屋敷で何かあったの?」
私の質問にますますジムさんは困った顔つきになった。
「は、はい…。実はニコラス様が朝からいらしているのです」
「え?!ニコラス様が?朝から来ていて、今もいるの?!」
「はい、そうなのです…」
その言葉に驚いた。本日、我が家へやってくるのでは無いかと思っていたけれども、まさか朝からやってきて今もまだ粘っているとは…。
「それで?ニコラス様は何と仰っているの?」
「ええ。どうしても尋ねても何も言わないそうなのです。話はアンジェラ様に直接する、の一点張りでして。そこで旦那様が放置する事に決めたのです」
「ほ、放置…」
気のせいだろうか?家族のニコラスに対する扱いの質が少しずつ落ちている気がする。
「ええ、後2時間も放置しておけば大人しく屋敷に戻るだろうと仰っておりました。ちなみにニコラス様がいらしてから既に5時間半が経過しております」
「そうなのね…」
しかし、5時間半も粘るとは…本当に暇人だ。かと言ってニコラスの為に2時間も待っていられらない。何故ならもうここで出来る作業はほとんど終わっているからだ。
「それでもいいわ。戻りましょう」
「え…ええっ?!宜しいのですか?!」
ジムさんが驚きで目を見開いた―。
「デリクさんは一体何者なのかしら…?」
どうして男性なのに私の作った作品をあんなに真剣な目で見つめていたのだろう?
聞きたい事は山ほどあった。しかもこの世界には存在しない『値札』と言う言葉を口にした。
もしかして…あの人も私の様に前世の記憶があるのだろか…?
だけど、そんな事は聞けなかった。まだ会って間もない相手に「貴方には前世の記憶がありますか?」なんて尋ねれば、頭のおかしい人間だと思われてしまうかもしれない。
「また明日来てくれる事になっているし…親しくなれば尋ねることが出来るかもしれないわよね」
そうと決まれば、もっと沢山商品を作ってデリクさんを楽しませてあげよう。早速私は用意してきたソーイングセットからハサミと生地を取り出し、作業を開始した―。
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ボーン
ボーン
ボーン
壁にかけた振り子時計が午後5時を知らせた。
「あ、もうこんな時間なのね」
もしかしてもうジムさんが迎えに来ているかもしれない。
立ち上がって窓の外を眺めても迎えの馬車が見当たらない。
「珍しいわね…?いつもなら5分前には到着しているのに…」
ひょっとすると遅れているのだろうか?
「ジムさんが来るまでもう少し作業を続けましょう」
そして私は再び作品作りを再開した。
30分後―。
窓の外で馬車が近付いてくる音が聞こえた。ひょっとするとジムさんだろうか?作業の手を休めて窓の外を覗き込むと、丁度馬車が停車したところだった。御者台に乗るのは勿論ジムさんである。
「ありがとう、迎えに来てくれて」
店の扉を開けてジムさんに声を掛けた。
「あ、アンジェラ様。遅くなって申し訳ございません。なかなか屋敷から抜け出すことが出来なくてお迎えに上がるのが遅くなってしまいました。
「屋敷から抜け出す…?」
妙な言い方に首をひねる。するとジムさんが困り顔で申し訳無さそうに言った。
「アンジェラ様。悪いことは言いません。まだここに暫く残られた方が良いかと思います。その事を告げに参ったのです。馬車の中にはアンジェラ様用の夕食が入っておりますので、出来れば後2時間はこちらに滞在して下さい。旦那様達がその様に仰っておりました」
「え?後2時間?お父様達がそう話していたの?もしかして屋敷で何かあったの?」
私の質問にますますジムさんは困った顔つきになった。
「は、はい…。実はニコラス様が朝からいらしているのです」
「え?!ニコラス様が?朝から来ていて、今もいるの?!」
「はい、そうなのです…」
その言葉に驚いた。本日、我が家へやってくるのでは無いかと思っていたけれども、まさか朝からやってきて今もまだ粘っているとは…。
「それで?ニコラス様は何と仰っているの?」
「ええ。どうしても尋ねても何も言わないそうなのです。話はアンジェラ様に直接する、の一点張りでして。そこで旦那様が放置する事に決めたのです」
「ほ、放置…」
気のせいだろうか?家族のニコラスに対する扱いの質が少しずつ落ちている気がする。
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しかし、5時間半も粘るとは…本当に暇人だ。かと言ってニコラスの為に2時間も待っていられらない。何故ならもうここで出来る作業はほとんど終わっているからだ。
「それでもいいわ。戻りましょう」
「え…ええっ?!宜しいのですか?!」
ジムさんが驚きで目を見開いた―。
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