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1章4 爺やと婆や
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エントランスの前に立ち、扉を開けようとした瞬間。
「オフィーリア様!」
突然目の前の扉が開け放たれ、懐かしい女性……婆やが現れた。
「ば、婆や……」
思わず懐かしさで目が潤む。
再会するのは何十年ぶりだろう。
高齢だった婆や、『ルーズ』に追放される私について行こうとする使用人がいない中、真っ先に名乗り出てくれた。
けれど老体には辺境の村の生活は苦しく……2年程で婆やは眠るように亡くなってしまった。
医者の話では老衰ということだったけれども、多分あれは過労死だったのではと今でも思う。
だって婆やは働き詰めだったから。
「オフィーリア様、婆やは心配しておりましたよ? 招かれてもいないアシル殿下の婚約披露パーティーに行かれると話を聞いた時は、お気の毒で胸が潰れる思いでした。……え? オフィーリア様? 泣いているのですか? やっぱり何か酷い目に遭われたのですね?」
オロオロしながら婆やが尋ねてくる。
「ううん……違うわ。そうじゃ無いの……ただ……婆やの顔を見たら、安心しちゃて……」
そして婆やの胸に顔をうずめた。そうだ……この匂い、懐かしい婆やの匂いだ。私はこの匂いが大好きだった。
「まぁまぁ、オフィーリア様ったら。今日はどうなさったのですか?」
婆やが私の頭を優しく撫でてくれる。その手がとても嬉しかった。
私には母がいない。
母は私が物心つく前に病気で亡くなってしまった。以来、母親代わりに育ててくれたのが婆やだったのだ。
幸せな気持ちに浸っていると、今度は爺やの声が聞こえてきた。
「オフィーリア様! お帰りになられたのですね!? え……一体なにをなさっているのですか?」
「爺や!」
顔を上げて、婆やから離れると今度は爺やに駆け寄った。
「爺や! ただいま!」
そして爺やに抱きついた。
「ひぇええっ!? オフィーリア様! 何をしておられるのです!?」
爺やはまだまだ健康で体つきもがっしり大きい。
爺やは婆やの次に『ルーズ』行きが決定したときに手を上げてくれた。
そして『ルーズ』で婆やを亡くしてからは、すっかり弱ってしまった。でも、それは当然だったかもしれない。
だって、爺やと婆やはオシドリ夫婦と言われるくらい仲が良かったのだから。
「爺や……大好きよ。それに婆やも大好き!」
爺に抱きついたまま、顔を上げると笑顔で自分の素直な気持ちをはっきり告げた。
「はい。爺やもオフィーリア様のことが大好きですよ」
働き過ぎで、節くれだったゴツゴツした手で私の頭を撫でる爺や。
「ええ、私もオフィーリア様が大好きです」
優しい声で婆やが言う。
私は2人の顔を交互に見つめ、再びこの時間に戻って来られたことに心から感謝した。
爺や、婆や。
2人はまだ65歳。本当はもっともっと長生きできたはずなのだ。
私だって時が巻き戻る前は80歳まで生きていたのだから。
2人が早死にしたのは私のせい。
だから、今度こそ爺やと婆やには長生きしてもらうのだ。
私は心にある決意を固めた――
「オフィーリア様!」
突然目の前の扉が開け放たれ、懐かしい女性……婆やが現れた。
「ば、婆や……」
思わず懐かしさで目が潤む。
再会するのは何十年ぶりだろう。
高齢だった婆や、『ルーズ』に追放される私について行こうとする使用人がいない中、真っ先に名乗り出てくれた。
けれど老体には辺境の村の生活は苦しく……2年程で婆やは眠るように亡くなってしまった。
医者の話では老衰ということだったけれども、多分あれは過労死だったのではと今でも思う。
だって婆やは働き詰めだったから。
「オフィーリア様、婆やは心配しておりましたよ? 招かれてもいないアシル殿下の婚約披露パーティーに行かれると話を聞いた時は、お気の毒で胸が潰れる思いでした。……え? オフィーリア様? 泣いているのですか? やっぱり何か酷い目に遭われたのですね?」
オロオロしながら婆やが尋ねてくる。
「ううん……違うわ。そうじゃ無いの……ただ……婆やの顔を見たら、安心しちゃて……」
そして婆やの胸に顔をうずめた。そうだ……この匂い、懐かしい婆やの匂いだ。私はこの匂いが大好きだった。
「まぁまぁ、オフィーリア様ったら。今日はどうなさったのですか?」
婆やが私の頭を優しく撫でてくれる。その手がとても嬉しかった。
私には母がいない。
母は私が物心つく前に病気で亡くなってしまった。以来、母親代わりに育ててくれたのが婆やだったのだ。
幸せな気持ちに浸っていると、今度は爺やの声が聞こえてきた。
「オフィーリア様! お帰りになられたのですね!? え……一体なにをなさっているのですか?」
「爺や!」
顔を上げて、婆やから離れると今度は爺やに駆け寄った。
「爺や! ただいま!」
そして爺やに抱きついた。
「ひぇええっ!? オフィーリア様! 何をしておられるのです!?」
爺やはまだまだ健康で体つきもがっしり大きい。
爺やは婆やの次に『ルーズ』行きが決定したときに手を上げてくれた。
そして『ルーズ』で婆やを亡くしてからは、すっかり弱ってしまった。でも、それは当然だったかもしれない。
だって、爺やと婆やはオシドリ夫婦と言われるくらい仲が良かったのだから。
「爺や……大好きよ。それに婆やも大好き!」
爺に抱きついたまま、顔を上げると笑顔で自分の素直な気持ちをはっきり告げた。
「はい。爺やもオフィーリア様のことが大好きですよ」
働き過ぎで、節くれだったゴツゴツした手で私の頭を撫でる爺や。
「ええ、私もオフィーリア様が大好きです」
優しい声で婆やが言う。
私は2人の顔を交互に見つめ、再びこの時間に戻って来られたことに心から感謝した。
爺や、婆や。
2人はまだ65歳。本当はもっともっと長生きできたはずなのだ。
私だって時が巻き戻る前は80歳まで生きていたのだから。
2人が早死にしたのは私のせい。
だから、今度こそ爺やと婆やには長生きしてもらうのだ。
私は心にある決意を固めた――
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