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1章16 『テミス』の町 4
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すると私の意見が気に入らなかったのか、区長のムントが怒りを抑えた口調で尋ねてきた。
「埋めてしまえとは、一体どういうことですか? その井戸は我々の大切な生活用水です。水が無くて、どうやって生活していけというのです?」
確かに言われて見ればその通りだ。
けれどこの国では余程の田舎では無い限り、水道というものが完備されている。
ここ『テミス』にだって、貧民地区以外の場所では水道が通っているのだが、領主がこの地区にだけ水道を引いていない。これは差別以外の何物でもない。
「もちろん、今すぐにとは言わないわ。そんなすぐに井戸を埋めることも水道を引くことも出来ないでしょうから。だけど、この井戸水はもう駄目よ!」
私は井戸に向かうと、桶を井戸に落とした。
「え!? な、何をするんですか!?」
区長が驚きの声を上げ、周囲に騒めきが起こる。
「何って、水を汲みに決まっているでしょう?」
「ええ!? 本気ですか!?」
「信じられない……」
「あんな格好で?」
増々騒めく声が大きくなる。
でもそれは当然なのかもしれない。何しろドレス姿の侯爵令嬢が井戸の水をロープでくみ上げているのだから。
でもこれくらいお手の物。井戸水を汲むことなど『ルーズ』の生活で慣れている。
グイグイロープを引き、ついに桶が井戸から引き揚げられた。
桶を井戸の淵に乗せて改めてくみ上げた水の様子を見ると、濁りが見えるし何となく異臭を放っている。
やはり、この頃から既に井戸水に異変が生じていたのだ。こんなのを放置していたら今に皆病気になってしまう。
そしていずれはガスが充満し、人々はたったの1日で大勢亡くなり、町は滅んでしまう……。
考えただけで身震いがする。
「水をくみ上げて一体何をしているのです?」
すると区長が尋ねてきた。
「見て分からないの? 井戸水の様子を見ているのよ。だけど……本当に臭いわ! こんなのを飲んでいたら、今に皆病気になってしまうわよ?」
大袈裟に肩をすくめた。すると……。
「嘘だ!」
「そうよ! 私たちはずっとこれを飲んでいるわ!」
「病気になんかなったこと無いぞ!」
次々と人々は文句を言ってくる。だから私はさらに声を張り上げた。
「それはあなたたちが、ここの井戸水しか飲んだこと無いからじゃないの!?」
すると図星だったのか、誰もが口を閉ざす。
やはり思った通りだ。貧民街に暮らすこの人たちはここから外に出たことがない。他の水を飲んだことが無いのだ。
「いい? 本当の水はこんなものじゃないわ。私があなたたちの元に、綺麗な水を運んでくるから待っていてちょうだい。その水を飲んだうえで、どうすれば良いか考える事ね。いい?」
私の言葉に人々は互いの顔を見合わせたが……全員が頷く。
「……分かりました。では我々に綺麗な水を飲ませていただけますかな?」
区長が代表で尋ねてきた。
「ええ勿論よ。それじゃ、行ってくるわね!」
私はドレスをたくし上げると、急ぎ足で爺やの元へ向かった――
「埋めてしまえとは、一体どういうことですか? その井戸は我々の大切な生活用水です。水が無くて、どうやって生活していけというのです?」
確かに言われて見ればその通りだ。
けれどこの国では余程の田舎では無い限り、水道というものが完備されている。
ここ『テミス』にだって、貧民地区以外の場所では水道が通っているのだが、領主がこの地区にだけ水道を引いていない。これは差別以外の何物でもない。
「もちろん、今すぐにとは言わないわ。そんなすぐに井戸を埋めることも水道を引くことも出来ないでしょうから。だけど、この井戸水はもう駄目よ!」
私は井戸に向かうと、桶を井戸に落とした。
「え!? な、何をするんですか!?」
区長が驚きの声を上げ、周囲に騒めきが起こる。
「何って、水を汲みに決まっているでしょう?」
「ええ!? 本気ですか!?」
「信じられない……」
「あんな格好で?」
増々騒めく声が大きくなる。
でもそれは当然なのかもしれない。何しろドレス姿の侯爵令嬢が井戸の水をロープでくみ上げているのだから。
でもこれくらいお手の物。井戸水を汲むことなど『ルーズ』の生活で慣れている。
グイグイロープを引き、ついに桶が井戸から引き揚げられた。
桶を井戸の淵に乗せて改めてくみ上げた水の様子を見ると、濁りが見えるし何となく異臭を放っている。
やはり、この頃から既に井戸水に異変が生じていたのだ。こんなのを放置していたら今に皆病気になってしまう。
そしていずれはガスが充満し、人々はたったの1日で大勢亡くなり、町は滅んでしまう……。
考えただけで身震いがする。
「水をくみ上げて一体何をしているのです?」
すると区長が尋ねてきた。
「見て分からないの? 井戸水の様子を見ているのよ。だけど……本当に臭いわ! こんなのを飲んでいたら、今に皆病気になってしまうわよ?」
大袈裟に肩をすくめた。すると……。
「嘘だ!」
「そうよ! 私たちはずっとこれを飲んでいるわ!」
「病気になんかなったこと無いぞ!」
次々と人々は文句を言ってくる。だから私はさらに声を張り上げた。
「それはあなたたちが、ここの井戸水しか飲んだこと無いからじゃないの!?」
すると図星だったのか、誰もが口を閉ざす。
やはり思った通りだ。貧民街に暮らすこの人たちはここから外に出たことがない。他の水を飲んだことが無いのだ。
「いい? 本当の水はこんなものじゃないわ。私があなたたちの元に、綺麗な水を運んでくるから待っていてちょうだい。その水を飲んだうえで、どうすれば良いか考える事ね。いい?」
私の言葉に人々は互いの顔を見合わせたが……全員が頷く。
「……分かりました。では我々に綺麗な水を飲ませていただけますかな?」
区長が代表で尋ねてきた。
「ええ勿論よ。それじゃ、行ってくるわね!」
私はドレスをたくし上げると、急ぎ足で爺やの元へ向かった――
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