30 / 99
1章21 『テミス』の町 10
しおりを挟む
ガラガラガラ……
荷馬車の手綱を握りしめながら爺やが尋ねてきた。
「オフィーリア様、本当にあの少年を屋敷に連れ帰るのですか?」
爺やが荷台の上で膝を抱えて座っているビリーをチラリと見た。
「ええ、そうよ。だって両親がいないなんて可哀想じゃない」
「ですが教会に預けることも出来たのではありませんか? 何も連れ帰らなくても……」
「あら? 爺やは反対なの?」
「いえ、反対という訳ではありませんが、ただ旦那様が何と仰るか……大体、素性も分からない少年ですし」
爺やがゴニョゴニョと口ごもる。
「お父様は私が説得するわ。確かに素性は分からないかもしれないけれど、ほおっておけないわよ」
『ルーズ』の村で孤児たちが飢え死にしていく姿が今も脳裏に焼き付いている。
チェルシーを失ってしまった私は、自分のことだけで精一杯で何も出来なかった。
もう、あんな思いはこりごりだった。
「オフィーリア様は、本当にすっかり変わられましたね。外見はそのままなのに、中身はすっかり別人のようです」
その言葉にドキリとする。
「いやぁね~。爺やったら、何言ってるのよ。あ! ほら、料理店が見えてきたわよ!」
指さした先には、料理と水を用意してくれた料理店があった――
**
少年を荷馬車の前で待たせ、私は爺やと一緒に鍋を帰しに行った。
「料理長。鍋を貸してくれてどうもありがとう。スープも皆美味しいと言って、喜んでいたわ」
「そうですか。それは何よりです」
けれど、料理長は面白くなさそうに返事をする。
プライドが高い彼は、自分の作った料理を特例第一区の人々にあげたことがイヤなのだろう。
すると、料理長は窓の外を見て眉を顰めた。
「何だ? あの見すぼらしい子供は。あんなのが店の前に居たら、品位が下がるな。ちょっと追い払ってきます」
料理長が外へ出て行こうとしたので、私は慌てて止めた。
「駄目よ! 待って頂戴!」
「お待ちください!」
爺やも私に倣って料理長を引き留める。
「何故止めるのです? あんな汚らしい子供がいたら、お客が来ませんよ」
「あの子はビリーという名前で私が屋敷に連れて帰るのよ。屋敷の小間使いに雇うことにしたの」
「え!? そうなのですか!?」
何故か爺やが驚く。
「え? あの子供をですか? 役に立てそうなのですか?」
何処までも少年を軽蔑する素振りを崩さない料理長。その態度がどうにも気に入らない。早々に、ここを出た方が良さそうだ。
「役に立つかどうかは、仕事をさせてみないと分からないわ。それじゃ料理長。お邪魔したわね、行きましょう。爺や」
「は、はい! オフィーリア様」
店を出る際。
料理長が「又のお越しをお待ちしております」と、背後から声をかけてきたけれども、私は返事をしなかった。
「お待たせ、ビリー」
「大丈夫です」
店を出て荷馬車の前で待っていた声をかけると、ビリーは首を振った。
「これから屋敷に行くから、別の馬車に乗り換えるわよ。今、爺やが馬車を取に行ってるから……あ、噂をすればよ。ほら、あれに乗るの」
爺やを乗せた馬車がこちらへ近づいてくる。
その馬車を見てビリーが驚いたのは……言うまでも無い――
荷馬車の手綱を握りしめながら爺やが尋ねてきた。
「オフィーリア様、本当にあの少年を屋敷に連れ帰るのですか?」
爺やが荷台の上で膝を抱えて座っているビリーをチラリと見た。
「ええ、そうよ。だって両親がいないなんて可哀想じゃない」
「ですが教会に預けることも出来たのではありませんか? 何も連れ帰らなくても……」
「あら? 爺やは反対なの?」
「いえ、反対という訳ではありませんが、ただ旦那様が何と仰るか……大体、素性も分からない少年ですし」
爺やがゴニョゴニョと口ごもる。
「お父様は私が説得するわ。確かに素性は分からないかもしれないけれど、ほおっておけないわよ」
『ルーズ』の村で孤児たちが飢え死にしていく姿が今も脳裏に焼き付いている。
チェルシーを失ってしまった私は、自分のことだけで精一杯で何も出来なかった。
もう、あんな思いはこりごりだった。
「オフィーリア様は、本当にすっかり変わられましたね。外見はそのままなのに、中身はすっかり別人のようです」
その言葉にドキリとする。
「いやぁね~。爺やったら、何言ってるのよ。あ! ほら、料理店が見えてきたわよ!」
指さした先には、料理と水を用意してくれた料理店があった――
**
少年を荷馬車の前で待たせ、私は爺やと一緒に鍋を帰しに行った。
「料理長。鍋を貸してくれてどうもありがとう。スープも皆美味しいと言って、喜んでいたわ」
「そうですか。それは何よりです」
けれど、料理長は面白くなさそうに返事をする。
プライドが高い彼は、自分の作った料理を特例第一区の人々にあげたことがイヤなのだろう。
すると、料理長は窓の外を見て眉を顰めた。
「何だ? あの見すぼらしい子供は。あんなのが店の前に居たら、品位が下がるな。ちょっと追い払ってきます」
料理長が外へ出て行こうとしたので、私は慌てて止めた。
「駄目よ! 待って頂戴!」
「お待ちください!」
爺やも私に倣って料理長を引き留める。
「何故止めるのです? あんな汚らしい子供がいたら、お客が来ませんよ」
「あの子はビリーという名前で私が屋敷に連れて帰るのよ。屋敷の小間使いに雇うことにしたの」
「え!? そうなのですか!?」
何故か爺やが驚く。
「え? あの子供をですか? 役に立てそうなのですか?」
何処までも少年を軽蔑する素振りを崩さない料理長。その態度がどうにも気に入らない。早々に、ここを出た方が良さそうだ。
「役に立つかどうかは、仕事をさせてみないと分からないわ。それじゃ料理長。お邪魔したわね、行きましょう。爺や」
「は、はい! オフィーリア様」
店を出る際。
料理長が「又のお越しをお待ちしております」と、背後から声をかけてきたけれども、私は返事をしなかった。
「お待たせ、ビリー」
「大丈夫です」
店を出て荷馬車の前で待っていた声をかけると、ビリーは首を振った。
「これから屋敷に行くから、別の馬車に乗り換えるわよ。今、爺やが馬車を取に行ってるから……あ、噂をすればよ。ほら、あれに乗るの」
爺やを乗せた馬車がこちらへ近づいてくる。
その馬車を見てビリーが驚いたのは……言うまでも無い――
501
あなたにおすすめの小説
わがままな婚約者はお嫌いらしいので婚約解消を提案してあげたのに、反応が思っていたのと違うんですが
水谷繭
恋愛
公爵令嬢のリリアーヌは、婚約者のジェラール王子を追いかけてはいつも冷たくあしらわれていた。
王子の態度に落ち込んだリリアーヌが公園を散策していると、転んで頭を打ってしまう。
数日間寝込むはめになったリリアーヌ。眠っている間に前世の記憶が流れ込み、リリアーヌは今自分がいるのは前世で読んでいたWeb漫画の世界だったことに気づく。
記憶を思い出してみると冷静になり、あれだけ執着していた王子をどうしてそこまで好きだったのかわからなくなる。
リリアーヌは王子と婚約解消して、新しい人生を歩むことを決意するが……
◆表紙はGirly Drop様からお借りしました
◇小説家になろうにも掲載しています
婚約破棄を申し入れたのは、父です ― 王子様、あなたの企みはお見通しです!
みかぼう。
恋愛
公爵令嬢クラリッサ・エインズワースは、王太子ルーファスの婚約者。
幼い日に「共に国を守ろう」と誓い合ったはずの彼は、
いま、別の令嬢マリアンヌに微笑んでいた。
そして――年末の舞踏会の夜。
「――この婚約、我らエインズワース家の名において、破棄させていただきます!」
エインズワース公爵が力強く宣言した瞬間、
王国の均衡は揺らぎ始める。
誇りを捨てず、誠実を貫く娘。
政の闇に挑む父。
陰謀を暴かんと手を伸ばす宰相の子。
そして――再び立ち上がる若き王女。
――沈黙は逃げではなく、力の証。
公爵令嬢の誇りが、王国の未来を変える。
――荘厳で静謐な政略ロマンス。
(本作品は小説家になろうにも掲載中です)
誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。
木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。
彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。
こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。
だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。
そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。
そんな私に、解放される日がやって来た。
それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。
全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。
私は、自由を得たのである。
その自由を謳歌しながら、私は思っていた。
悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。
【完結】記憶にありませんが、責任は取りましょう
楽歩
恋愛
階段から落ちて三日後、アイラは目を覚ました。そして、自分の人生から十年分の記憶が消えていることを知らされる。
目の前で知らない男が号泣し、知らない子どもが「お母様!」としがみついてくる。
「状況を確認いたします。あなたは伯爵、こちらは私たちの息子。なお、私たちはまだ正式な夫婦ではない、という理解でよろしいですね?」
さらに残されていたのは鍵付き箱いっぱいの十年分の日記帳。中身は、乙女ゲームに転生したと信じ、攻略対象を順位付けして暴走していた“過去のアイラ”の黒歴史だった。
アイラは一冊の日記を最後の一行まで読み終えると、無言で日記を暖炉へ投げ入れる。
「これは、焼却処分が妥当ですわね」
だいぶ騒がしい人生の再スタートが今、始まる。
君といるのは疲れると言われたので、婚約者を追いかけるのはやめてみました
水谷繭
恋愛
メイベル・ホワイトは目立たない平凡な少女で、美人な姉といつも比べられてきた。
求婚者の殺到する姉とは反対に、全く縁談のなかったメイベル。
そんなある日、ブラッドという美少年が婚約を持ちかけてくる。姉より自分を選んでくれたブラッドに感謝したメイベルは、彼のために何でもしようとひたすら努力する。
しかしそんな態度を重いと告げられ、君といると疲れると言われてしまう。
ショックを受けたメイベルは、ブラッドばかりの生活を改め、好きだった魔法に打ち込むために魔術院に入ることを決意するが……
◆なろうにも掲載しています
白い結婚の末、離婚を選んだ公爵夫人は二度と戻らない』
鍛高譚
恋愛
白い結婚の末、「白い結婚」の末、私は冷遇され、夫は愛人を溺愛していた――ならば、もう要らないわ」
公爵令嬢 ジェニファー・ランカスター は、王弟 エドワード・クラレンス公爵 のもとへ政略結婚として嫁ぐ。
だが、その結婚生活は冷たく空虚なものだった。夫は愛人 ローザ・フィッツジェラルド に夢中になり、公爵夫人であるジェニファーは侮辱され、無視され続ける日々。
――それでも、貴族の娘は耐えなければならないの?
何の愛もなく、ただ飾り物として扱われる結婚に見切りをつけたジェニファーは 「離婚」 を決意する。
しかし、王弟であるエドワードとの離婚は容易ではない。実家のランカスター家は猛反対し、王宮の重臣たちも彼女の決断を 「公爵家の恥」 と揶揄する。
それでも、ジェニファーは負けない。弁護士と協力し、着々と準備を進めていく。
そんな折、彼女は北方の大国 ヴォルフ公国の大公、アレクサンダー・ヴォルフ と出会う。
温かく誠実な彼との交流を通じて、ジェニファーは 「本当に大切にされること」 を知る。
そして、彼女の決断は、王都の社交界に大きな波紋を呼ぶこととなる――。
「公爵夫人を手放したことを、いつか後悔しても遅いわ」
「私はもう、あなたたちの飾り人形じゃない」
離婚を巡る策略、愛人の凋落、元夫の後悔――。
そして、新たな地で手にした 「愛される結婚」。
悪役令嬢は間違えない
スノウ
恋愛
王太子の婚約者候補として横暴に振る舞ってきた公爵令嬢のジゼット。
その行動はだんだんエスカレートしていき、ついには癒しの聖女であるリリーという少女を害したことで王太子から断罪され、公開処刑を言い渡される。
処刑までの牢獄での暮らしは劣悪なもので、ジゼットのプライドはズタズタにされ、彼女は生きる希望を失ってしまう。
処刑当日、ジゼットの従者だったダリルが助けに来てくれたものの、看守に見つかり、脱獄は叶わなかった。
しかし、ジゼットは唯一自分を助けようとしてくれたダリルの行動に涙を流し、彼への感謝を胸に断頭台に上がった。
そして、ジゼットの処刑は執行された……はずだった。
ジゼットが気がつくと、彼女が9歳だった時まで時間が巻き戻っていた。
ジゼットは決意する。
次は絶対に間違えない。
処刑なんかされずに、寿命をまっとうしてみせる。
そして、唯一自分を助けようとしてくれたダリルを大切にする、と。
────────────
毎日20時頃に投稿します。
お気に入り登録をしてくださった方、いいねをくださった方、エールをくださった方、どうもありがとうございます。
とても励みになります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる