90 / 99
5章 8 ビル 7
しおりを挟む
暖炉の炎がパチパチと燃える様子をじっと見つめていた時。
「リア」
背後で名前を呼ばれ、振り向くとカップを手にしたビルが私を見つめていた。
「アップルティーを煎れてきたよ。こっちで一緒に飲まないか」
手にしていたカップをテーブルの上に置いて手招きするビル。
「分かったわ」
テーブルに移動して腰かけると、ビルも向かい側に座る。
アップルティーはビリーが大好きな紅茶だった。特にハチミツを入れて飲むのが、大好きだったのを思い出す。
「いい香りね……」
早速、口に入れて一口飲んでみるとリンゴの香と同時に甘い味が口の中に広がる。
甘くて美味しい……。
「どうだ? リア」
ビルも隣でアップルティーを飲みながら尋ねてきた。
「甘くて美味しいわ……もしかしてハチミツを入れたの?」
「ああ。実は俺、こうやってアップルティーを飲むのが好きなんだ。……やっぱり美味しいな」
フッと笑うビルの横顔をじっと見つめていると、何故だか分からないが懐かしい気持ちが込み上げてくる。
「……どうしてよ」
気付けば言葉が口をついて出ていた。
「何のことだ?」
首を傾けるビル。
そう、その仕草だって……まるで……。
「ビル……どうして……この飲み方が好きなの? それだけじゃない。好きな食べ物だって今の仕草だって。どうしてそんな……あの子に、ビリーにそっくりなの?」
カップを持つ自分の手が小刻みに震えている。胸が熱くなり、目頭が潤んでくる。
何故今迄気付かなかったのだろう? こんなにビリーとビルは良く似ているのに。
いや、違う。
私はビリーのことばかり考えて、自分に寄り添ってくれるビルに目を向けようとしていなかっだけなのかもしれない。
ビルは少しの間私を見つめ、ポツリと言った。
「リア……見せたいものがあるんだ」
ビルはズボンのポケットに手を入れて、何かを取り出してテーブルの上に置いた。
「これに見覚えがあるか?」
「……え? こ、これって……?」
目にした途端、心臓の鼓動が激しく鳴り始めた。それは耳当て付きの青い毛糸の帽子だった。
「嘘……どうして……ビルがこれを持っているの……?」
震える手で帽子を手に取り、あることに気付いた。ビリーに渡した時は編み上げたばかりの真新しい帽子だった。けれどよく見てみると、この帽子は毛玉もついており、色あせて年季が入っていた。
思わず帽子とビルを交互に見比べる。
「ビル……一体、これはどういうことなの?」
「この帽子は……俺の一番大切な宝物なんだ。大好きな人からの手作りプレゼントだったからね」
そして悲し気に笑うビル。
「ね、ねぇ。ビル……どうして私にこれを見せるの……?」
尋ねる自分の声が震えている。
「リア。本当はもう俺が誰か気付いているんじゃないのか?」
「……」
私は黙って首を振る。
だって、認めたくなかったから。もし認めれば、今度こそ本当にあの子を……大切なビリーを失ってしまいそうで怖かった。
「嘘つかないでくれ。分かっているはずだ。答えてくれないか……お願いだ、リア」
ビルは必死な眼差しを向けてくる。
どうしてそんな目で私を見るのだろう。その目を見ていると、正直に答えなければいけないような気がしてきた。
「貴方は……もしかして、ビリー……? なの……?」
「……そうだよ、リア。……やっと、俺を見てくれたんだな?」
そして今にも泣きそうな顔でビルは笑った――
「リア」
背後で名前を呼ばれ、振り向くとカップを手にしたビルが私を見つめていた。
「アップルティーを煎れてきたよ。こっちで一緒に飲まないか」
手にしていたカップをテーブルの上に置いて手招きするビル。
「分かったわ」
テーブルに移動して腰かけると、ビルも向かい側に座る。
アップルティーはビリーが大好きな紅茶だった。特にハチミツを入れて飲むのが、大好きだったのを思い出す。
「いい香りね……」
早速、口に入れて一口飲んでみるとリンゴの香と同時に甘い味が口の中に広がる。
甘くて美味しい……。
「どうだ? リア」
ビルも隣でアップルティーを飲みながら尋ねてきた。
「甘くて美味しいわ……もしかしてハチミツを入れたの?」
「ああ。実は俺、こうやってアップルティーを飲むのが好きなんだ。……やっぱり美味しいな」
フッと笑うビルの横顔をじっと見つめていると、何故だか分からないが懐かしい気持ちが込み上げてくる。
「……どうしてよ」
気付けば言葉が口をついて出ていた。
「何のことだ?」
首を傾けるビル。
そう、その仕草だって……まるで……。
「ビル……どうして……この飲み方が好きなの? それだけじゃない。好きな食べ物だって今の仕草だって。どうしてそんな……あの子に、ビリーにそっくりなの?」
カップを持つ自分の手が小刻みに震えている。胸が熱くなり、目頭が潤んでくる。
何故今迄気付かなかったのだろう? こんなにビリーとビルは良く似ているのに。
いや、違う。
私はビリーのことばかり考えて、自分に寄り添ってくれるビルに目を向けようとしていなかっだけなのかもしれない。
ビルは少しの間私を見つめ、ポツリと言った。
「リア……見せたいものがあるんだ」
ビルはズボンのポケットに手を入れて、何かを取り出してテーブルの上に置いた。
「これに見覚えがあるか?」
「……え? こ、これって……?」
目にした途端、心臓の鼓動が激しく鳴り始めた。それは耳当て付きの青い毛糸の帽子だった。
「嘘……どうして……ビルがこれを持っているの……?」
震える手で帽子を手に取り、あることに気付いた。ビリーに渡した時は編み上げたばかりの真新しい帽子だった。けれどよく見てみると、この帽子は毛玉もついており、色あせて年季が入っていた。
思わず帽子とビルを交互に見比べる。
「ビル……一体、これはどういうことなの?」
「この帽子は……俺の一番大切な宝物なんだ。大好きな人からの手作りプレゼントだったからね」
そして悲し気に笑うビル。
「ね、ねぇ。ビル……どうして私にこれを見せるの……?」
尋ねる自分の声が震えている。
「リア。本当はもう俺が誰か気付いているんじゃないのか?」
「……」
私は黙って首を振る。
だって、認めたくなかったから。もし認めれば、今度こそ本当にあの子を……大切なビリーを失ってしまいそうで怖かった。
「嘘つかないでくれ。分かっているはずだ。答えてくれないか……お願いだ、リア」
ビルは必死な眼差しを向けてくる。
どうしてそんな目で私を見るのだろう。その目を見ていると、正直に答えなければいけないような気がしてきた。
「貴方は……もしかして、ビリー……? なの……?」
「……そうだよ、リア。……やっと、俺を見てくれたんだな?」
そして今にも泣きそうな顔でビルは笑った――
320
あなたにおすすめの小説
婚約破棄を申し入れたのは、父です ― 王子様、あなたの企みはお見通しです!
みかぼう。
恋愛
公爵令嬢クラリッサ・エインズワースは、王太子ルーファスの婚約者。
幼い日に「共に国を守ろう」と誓い合ったはずの彼は、
いま、別の令嬢マリアンヌに微笑んでいた。
そして――年末の舞踏会の夜。
「――この婚約、我らエインズワース家の名において、破棄させていただきます!」
エインズワース公爵が力強く宣言した瞬間、
王国の均衡は揺らぎ始める。
誇りを捨てず、誠実を貫く娘。
政の闇に挑む父。
陰謀を暴かんと手を伸ばす宰相の子。
そして――再び立ち上がる若き王女。
――沈黙は逃げではなく、力の証。
公爵令嬢の誇りが、王国の未来を変える。
――荘厳で静謐な政略ロマンス。
(本作品は小説家になろうにも掲載中です)
誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。
木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。
彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。
こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。
だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。
そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。
そんな私に、解放される日がやって来た。
それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。
全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。
私は、自由を得たのである。
その自由を謳歌しながら、私は思っていた。
悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。
わがままな婚約者はお嫌いらしいので婚約解消を提案してあげたのに、反応が思っていたのと違うんですが
水谷繭
恋愛
公爵令嬢のリリアーヌは、婚約者のジェラール王子を追いかけてはいつも冷たくあしらわれていた。
王子の態度に落ち込んだリリアーヌが公園を散策していると、転んで頭を打ってしまう。
数日間寝込むはめになったリリアーヌ。眠っている間に前世の記憶が流れ込み、リリアーヌは今自分がいるのは前世で読んでいたWeb漫画の世界だったことに気づく。
記憶を思い出してみると冷静になり、あれだけ執着していた王子をどうしてそこまで好きだったのかわからなくなる。
リリアーヌは王子と婚約解消して、新しい人生を歩むことを決意するが……
◆表紙はGirly Drop様からお借りしました
◇小説家になろうにも掲載しています
悪役令嬢は間違えない
スノウ
恋愛
王太子の婚約者候補として横暴に振る舞ってきた公爵令嬢のジゼット。
その行動はだんだんエスカレートしていき、ついには癒しの聖女であるリリーという少女を害したことで王太子から断罪され、公開処刑を言い渡される。
処刑までの牢獄での暮らしは劣悪なもので、ジゼットのプライドはズタズタにされ、彼女は生きる希望を失ってしまう。
処刑当日、ジゼットの従者だったダリルが助けに来てくれたものの、看守に見つかり、脱獄は叶わなかった。
しかし、ジゼットは唯一自分を助けようとしてくれたダリルの行動に涙を流し、彼への感謝を胸に断頭台に上がった。
そして、ジゼットの処刑は執行された……はずだった。
ジゼットが気がつくと、彼女が9歳だった時まで時間が巻き戻っていた。
ジゼットは決意する。
次は絶対に間違えない。
処刑なんかされずに、寿命をまっとうしてみせる。
そして、唯一自分を助けようとしてくれたダリルを大切にする、と。
────────────
毎日20時頃に投稿します。
お気に入り登録をしてくださった方、いいねをくださった方、エールをくださった方、どうもありがとうございます。
とても励みになります。
【完結】記憶にありませんが、責任は取りましょう
楽歩
恋愛
階段から落ちて三日後、アイラは目を覚ました。そして、自分の人生から十年分の記憶が消えていることを知らされる。
目の前で知らない男が号泣し、知らない子どもが「お母様!」としがみついてくる。
「状況を確認いたします。あなたは伯爵、こちらは私たちの息子。なお、私たちはまだ正式な夫婦ではない、という理解でよろしいですね?」
さらに残されていたのは鍵付き箱いっぱいの十年分の日記帳。中身は、乙女ゲームに転生したと信じ、攻略対象を順位付けして暴走していた“過去のアイラ”の黒歴史だった。
アイラは一冊の日記を最後の一行まで読み終えると、無言で日記を暖炉へ投げ入れる。
「これは、焼却処分が妥当ですわね」
だいぶ騒がしい人生の再スタートが今、始まる。
わがまま令嬢は改心して処刑される運命を回避したい
水谷繭
恋愛
公爵令嬢のセアラは権力を振りかざし、屋敷でも学園でもわがままの限りを尽くしていた。
ある夜、セアラは悪夢を見る。
それは、お気に入りの伯爵令息デズモンドに騙されて王女様に毒を盛り、処刑されるという夢だった。
首を落とされるリアルな感覚と、自分の死を喜ぶ周りの人間たちの光景に恐怖を覚えるセアラ。しかし、セアラはその中でただ一人自分のために泣いてくれた人物がいたのを思い出す。
セアラは、夢と同じ結末を迎えないよう改心することを決意する。そして夢の中で自分のために泣いてくれた侯爵家のグレアムに近づくが──……。
●2021/6/28完結
●表紙画像はノーコピーライトガール様のフリーイラストよりお借りしました!
◆小説家になろうにも掲載しております
【完結】婚約破棄はいいのですが、平凡(?)な私を巻き込まないでください!
白キツネ
恋愛
実力主義であるクリスティア王国で、学園の卒業パーティーに中、突然第一王子である、アレン・クリスティアから婚約破棄を言い渡される。
婚約者ではないのに、です。
それに、いじめた記憶も一切ありません。
私にはちゃんと婚約者がいるんです。巻き込まないでください。
第一王子に何故か振られた女が、本来の婚約者と幸せになるお話。
カクヨムにも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる