209 / 566
第9章 7 ルドルフの帰郷 7
しおりを挟む
朝食を終えたマルコとルドルフは防寒着に身を包み、馬の引くソリに乗ってフィールズ家を目指していた。
馬を操りながらマルコが尋ねてきた。
「どうだ?ルドルフ。ロータスでの暮らしぶりは?」
「うん。悪くないよ。とても都会の町だし・・賑やかで・・・こんなに閉鎖的な場所じゃない・・。」
ルドルフの最後のセリフは消え入りそうに小さかった。
「・・・そうか・・。」
マルコもルドルフが言わんとしていることが何か気付いたのか、その意味を深く問いただすことは無かった―。
「やあ、ルドルフ。よく来てくれたな・・・。待っていたよ。」
大きな肘掛椅子に座っていたハリスはルドルフが部屋に入ってくるとすぐに声を掛けてきた。フィールズ家に到着したルドルフは早速ハリスの元へ呼ばれ、執務室へ招かれていたのだ。
「・・・どうも、ご無沙汰しておりました。」
ルドルフは緊張する面持ちでハリスに挨拶をする。するとその様子に気付いたのか、ハリスはルドルフに言った。
「まあ、それほど緊張する事はない・・とにかく掛けてくれ。」
ハリスはルドルフの目の前にある応接セットのレザー製の高級感漂うソファを指示した。目の前のテーブルは大理石でできている。
「・・・失礼致します。」
ルドルフはソファに腰かけると、すぐに向かい側の席にハリスは座り、ルドルフをじっと見つめた。
(旦那様・・・随分お痩せになって・・・。きっと奥様の事で・・。だけど・・・!)
ルドルフは思った。一番気の毒なのは・・ヒルダだと。まだたった15歳でヒルダは父親から絶縁され、親子の縁を切られて爵位を剥奪されてこの『カウベリー』を追い出されたのだ。ルドルフは知っている。ヒルダがどんなに自分の生まれ故郷を愛しているか・・・。
(ヒルダ様は・・・この封鎖的な人々のせいで・・・二度とこの地を踏み事を許されないんだ・・!)
ルドルフはこみ上げてくる衝動を必死で抑えてハリスの言葉を待った。
「実はな・・ルドルフ。君に色々聞きたいことがあったんだ。」
ハリスは何故か辺りをうかがうように小声でルドルフに語り掛けてきた。
「え・・?聞きたいこと・・ですか?」
ルドルフに緊張が走る。
(何だろう・・・?旦那様が聞きたいことって一体・・?)
「君は・・イワンという少年を・・・知っているな?」
ハリスは身を乗り出すと尋ねてきた。ルドルフは思いがけない名前がハリスの口から出てきたので驚いた。
「え・・?イワンですか?は、はい。勿論です。彼は・・・僕が中学生の時の友人ですから・・・。実は・・・昨日偶然駅に降り立った時に再会したんです。彼は駅の清掃員の仕事をしていました。もう少し彼と話がしたかったのですが・・何故か途中で逃げてしまって・・。」
「そうか・・・。実は昨日・・・ポストに手紙が入っていたんだ。」
「手紙・・・ですか?」
「ああ、これなんだが・・・。」
ハリスは背広のポケットから封筒を取り出すとルドルフの前に差し出してきた。
「あ、あの・・・僕が手紙を読んでも構わないのですか・・?」
「ああ、気にすることは無い。いや・・・むしろルドルフ。君に手紙を読んでもらいたいのだ。私では何の事だかさっぱり分からなくて・・・。」
ハリスはソファの背もたれに寄り掛かると腕組みをして深いため息をついた。
「では・・失礼します・・。」
ルドルフは封筒から手紙を取り出すと、目を通した。
『ごめんなさい、領主様。僕はとんでもない事をしてしまいました。僕は僕の犯した罪を忘れようとしていました。でもルドルフに会って思い出してしまいました。それがどんな罪かは言えませんが、どうかお許しください。もう2年前からずっと後悔しています。死んでお詫びできるならそうしたい位です。でも僕は怖くて死ぬ勇気はありませんでした。どうか罪深い僕を許して下さい。そして僕が手紙を書いたこと、友人たちには内緒にしてください。どうかお願いします。 イワン』
手紙はつたない文字でこう書かれていた―。
馬を操りながらマルコが尋ねてきた。
「どうだ?ルドルフ。ロータスでの暮らしぶりは?」
「うん。悪くないよ。とても都会の町だし・・賑やかで・・・こんなに閉鎖的な場所じゃない・・。」
ルドルフの最後のセリフは消え入りそうに小さかった。
「・・・そうか・・。」
マルコもルドルフが言わんとしていることが何か気付いたのか、その意味を深く問いただすことは無かった―。
「やあ、ルドルフ。よく来てくれたな・・・。待っていたよ。」
大きな肘掛椅子に座っていたハリスはルドルフが部屋に入ってくるとすぐに声を掛けてきた。フィールズ家に到着したルドルフは早速ハリスの元へ呼ばれ、執務室へ招かれていたのだ。
「・・・どうも、ご無沙汰しておりました。」
ルドルフは緊張する面持ちでハリスに挨拶をする。するとその様子に気付いたのか、ハリスはルドルフに言った。
「まあ、それほど緊張する事はない・・とにかく掛けてくれ。」
ハリスはルドルフの目の前にある応接セットのレザー製の高級感漂うソファを指示した。目の前のテーブルは大理石でできている。
「・・・失礼致します。」
ルドルフはソファに腰かけると、すぐに向かい側の席にハリスは座り、ルドルフをじっと見つめた。
(旦那様・・・随分お痩せになって・・・。きっと奥様の事で・・。だけど・・・!)
ルドルフは思った。一番気の毒なのは・・ヒルダだと。まだたった15歳でヒルダは父親から絶縁され、親子の縁を切られて爵位を剥奪されてこの『カウベリー』を追い出されたのだ。ルドルフは知っている。ヒルダがどんなに自分の生まれ故郷を愛しているか・・・。
(ヒルダ様は・・・この封鎖的な人々のせいで・・・二度とこの地を踏み事を許されないんだ・・!)
ルドルフはこみ上げてくる衝動を必死で抑えてハリスの言葉を待った。
「実はな・・ルドルフ。君に色々聞きたいことがあったんだ。」
ハリスは何故か辺りをうかがうように小声でルドルフに語り掛けてきた。
「え・・?聞きたいこと・・ですか?」
ルドルフに緊張が走る。
(何だろう・・・?旦那様が聞きたいことって一体・・?)
「君は・・イワンという少年を・・・知っているな?」
ハリスは身を乗り出すと尋ねてきた。ルドルフは思いがけない名前がハリスの口から出てきたので驚いた。
「え・・?イワンですか?は、はい。勿論です。彼は・・・僕が中学生の時の友人ですから・・・。実は・・・昨日偶然駅に降り立った時に再会したんです。彼は駅の清掃員の仕事をしていました。もう少し彼と話がしたかったのですが・・何故か途中で逃げてしまって・・。」
「そうか・・・。実は昨日・・・ポストに手紙が入っていたんだ。」
「手紙・・・ですか?」
「ああ、これなんだが・・・。」
ハリスは背広のポケットから封筒を取り出すとルドルフの前に差し出してきた。
「あ、あの・・・僕が手紙を読んでも構わないのですか・・?」
「ああ、気にすることは無い。いや・・・むしろルドルフ。君に手紙を読んでもらいたいのだ。私では何の事だかさっぱり分からなくて・・・。」
ハリスはソファの背もたれに寄り掛かると腕組みをして深いため息をついた。
「では・・失礼します・・。」
ルドルフは封筒から手紙を取り出すと、目を通した。
『ごめんなさい、領主様。僕はとんでもない事をしてしまいました。僕は僕の犯した罪を忘れようとしていました。でもルドルフに会って思い出してしまいました。それがどんな罪かは言えませんが、どうかお許しください。もう2年前からずっと後悔しています。死んでお詫びできるならそうしたい位です。でも僕は怖くて死ぬ勇気はありませんでした。どうか罪深い僕を許して下さい。そして僕が手紙を書いたこと、友人たちには内緒にしてください。どうかお願いします。 イワン』
手紙はつたない文字でこう書かれていた―。
2
あなたにおすすめの小説
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
白い結婚の行方
宵森みなと
恋愛
「この結婚は、形式だけ。三年経ったら、離縁して養子縁組みをして欲しい。」
そう告げられたのは、まだ十二歳だった。
名門マイラス侯爵家の跡取りと、書面上だけの「夫婦」になるという取り決め。
愛もなく、未来も誓わず、ただ家と家の都合で交わされた契約だが、彼女にも目的はあった。
この白い結婚の意味を誰より彼女は、知っていた。自らの運命をどう選択するのか、彼女自身に委ねられていた。
冷静で、理知的で、どこか人を寄せつけない彼女。
誰もが「大人びている」と評した少女の胸の奥には、小さな祈りが宿っていた。
結婚に興味などなかったはずの青年も、少女との出会いと別れ、後悔を経て、再び運命を掴もうと足掻く。
これは、名ばかりの「夫婦」から始まった二人の物語。
偽りの契りが、やがて確かな絆へと変わるまで。
交差する記憶、巻き戻る時間、二度目の選択――。
真実の愛とは何かを、問いかける静かなる運命の物語。
──三年後、彼女の選択は、彼らは本当に“夫婦”になれるのだろうか?
【完結】婚約破棄はお受けいたしましょう~踏みにじられた恋を抱えて
ゆうぎり
恋愛
「この子がクラーラの婚約者になるんだよ」
お父様に連れられたお茶会で私は一つ年上のナディオ様に恋をした。
綺麗なお顔のナディオ様。優しく笑うナディオ様。
今はもう、私に微笑みかける事はありません。
貴方の笑顔は別の方のもの。
私には忌々しげな顔で、視線を向けても貰えません。
私は厭われ者の婚約者。社交界では評判ですよね。
ねぇナディオ様、恋は花と同じだと思いませんか?
―――水をやらなければ枯れてしまうのですよ。
※ゆるゆる設定です。
※名前変更しました。元「踏みにじられた恋ならば、婚約破棄はお受けいたしましょう」
※多分誰かの視点から見たらハッピーエンド
真実の愛がどうなろうと関係ありません。
希猫 ゆうみ
恋愛
伯爵令息サディアスはメイドのリディと恋に落ちた。
婚約者であった伯爵令嬢フェルネは無残にも婚約を解消されてしまう。
「僕はリディと真実の愛を貫く。誰にも邪魔はさせない!」
サディアスの両親エヴァンズ伯爵夫妻は激怒し、息子を勘当、追放する。
それもそのはずで、フェルネは王家の血を引く名門貴族パートランド伯爵家の一人娘だった。
サディアスからの一方的な婚約解消は決して許されない裏切りだったのだ。
一ヶ月後、愛を信じないフェルネに新たな求婚者が現れる。
若きバラクロフ侯爵レジナルド。
「あら、あなたも真実の愛を実らせようって仰いますの?」
フェルネの曾祖母シャーリンとレジナルドの祖父アルフォンス卿には悲恋の歴史がある。
「子孫の我々が結婚しようと関係ない。聡明な妻が欲しいだけだ」
互いに塩対応だったはずが、気づくとクーデレ夫婦になっていたフェルネとレジナルド。
その頃、真実の愛を貫いたはずのサディアスは……
(予定より長くなってしまった為、完結に伴い短編→長編に変更しました)
婚約破棄、ありがとうございます
奈井
恋愛
小さい頃に婚約して10年がたち私たちはお互い16歳。来年、結婚する為の準備が着々と進む中、婚約破棄を言い渡されました。でも、私は安堵しております。嘘を突き通すのは辛いから。傷物になってしまったので、誰も寄って来ない事をこれ幸いに一生1人で、幼い恋心と一緒に過ごしてまいります。
殿下が好きなのは私だった
棗
恋愛
魔王の補佐官を父に持つリシェルは、長年の婚約者であり片思いの相手ノアールから婚約破棄を告げられた。
理由は、彼の恋人の方が次期魔王たる自分の妻に相応しい魔力の持ち主だからだそう。
最初は仲が良かったのに、次第に彼に嫌われていったせいでリシェルは疲れていた。無様な姿を晒すくらいなら、晴れ晴れとした姿で婚約破棄を受け入れた。
のだが……婚約破棄をしたノアールは何故かリシェルに執着をし出して……。
更に、人間界には父の友人らしい天使?もいた……。
※カクヨムさん・なろうさんにも公開しております。
【完結】亡くなった人を愛する貴方を、愛し続ける事はできませんでした
凛蓮月
恋愛
【おかげさまで完全完結致しました。閲覧頂きありがとうございます】
いつか見た、貴方と婚約者の仲睦まじい姿。
婚約者を失い悲しみにくれている貴方と新たに婚約をした私。
貴方は私を愛する事は無いと言ったけれど、私は貴方をお慕いしておりました。
例え貴方が今でも、亡くなった婚約者の女性を愛していても。
私は貴方が生きてさえいれば
それで良いと思っていたのです──。
【早速のホトラン入りありがとうございます!】
※作者の脳内異世界のお話です。
※小説家になろうにも同時掲載しています。
※諸事情により感想欄は閉じています。詳しくは近況ボードをご覧下さい。(追記12/31〜1/2迄受付る事に致しました)
【完結済】後悔していると言われても、ねぇ。私はもう……。
木嶋うめ香
恋愛
五歳で婚約したシオン殿下は、ある日先触れもなしに我が家にやってきました。
「君と婚約を解消したい、私はスィートピーを愛してるんだ」
シオン殿下は、私の妹スィートピーを隣に座らせ、馬鹿なことを言い始めたのです。
妹はとても愛らしいですから、殿下が思っても仕方がありません。
でも、それなら側妃でいいのではありませんか?
どうしても私と婚約解消したいのですか、本当に後悔はございませんか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる