嫌われた令嬢、ヒルダ・フィールズは終止符を打つ

結城芙由奈@コミカライズ連載中

文字の大きさ
304 / 566

第2章 14 寂しい町 

しおりを挟む
 ヒルダは1階のロビーにあるソファでルドルフを待っていた。ルドルフはフロントで、この近くでどこかお昼を食べる場所があるか聞いていたのだ。その姿をヒルダはじっと見つめていた。

(ルドルフ・・・すっかり頼もしい人になったのね・・・。それに足の悪い私の事をすごく気遣ってくれているし・・。)

やがて話が住んだのか、ルドルフが駆け足でヒルダの元へやってきた。

「お待たせ致しました、ヒルダ様。」

「フロントの人は何と言ってたの?」

「ええ、それが・・やはりこの地域一帯にはあまりレストランが無いそうなのです。工場で働く人たちには、各工場でまかない料理を出しているそうなので・・。」

そしてルドルフはホテルの窓から見える外の景色をチラリと一瞥すると言った。

「もともと・・・ここ『ボルト』は工場地帯で観光地には程遠く・・空気も悪いことからこの町に住む人々は工場と自宅を行き来するにとどまり、住宅街の付近にある店で買い物をするくらいらしいのです。」

「そうなの?人は多くて、都会的なのに・・・何だかとても寂しい町なのね。」

ヒルダはポツリと言った。
都会的・・・確かに駅の周囲には巨大な工場が立ち並び、のどかな『カウベリー』に比べればはるかに都会である。しかし・・・町を歩く人影もまばら。モクモクと吐き出される黒い煙によって、視界は悪く・・空も濁って見える。

(こんな劣悪な環境で・・・コリンもノラも働いているなんて・・・。)

ルドルフはギュッと手を握り締めた。

「ルドルフ・・?どうしたの?」

ヒルダが怪訝そうにルドルフを見上げた。

「いえ、何でもありません。ヒルダ様、このホテルにはカフェとレストランがあるそうなので、ここで食事をして・・少し休憩してから出かけませんか?」

「ええ、そうね。それがいいわ。」

ヒルダは笑みを浮かべた。



 2人がやってきたのはホテルの1F、フロントの脇の廊下を進んだ先にあるレストランだった。ここでヒルダはホットサンドイッチ、ルドルフはトーストにシチューの料理を食べている。ここで食事をしているのはヒルダたち以外は誰もいない。

2人で窓際のボックス席で食事をとりながらヒルダが言った。

「ねえ、ルドルフ。ここで食事をしているのって私達だけなのね?」

「ええ、そうですね。」

ルドルフはあたりを見渡しながら言う。するとヒルダが言った。

「こうして2人だけで食事をしていると・・何だか、レストランを貸し切りしているみたいじゃない?」

「確かに・・言われてみればそうですね。」

「ヒルダ様、どうですか?お料理はおいしいですか?」

ルドルフはホットサンドを食べているヒルダに尋ねた。

「ええ、おいしいわ。流石はホテルのレストランだけあるわね。ルドルフのシチューはどう?」

「ええ、とてもおいしいですよ。」

それを聞いたヒルダが顔を赤らめながら言う。

「あ、あのね・・・ルドルフ。私・・カミラと2人で暮らすようになってっからは・・家事をするようになったの・・・はじめは不器用で何も出来なくて、カミラにたくさん迷惑をかけてしまったけど、今ではだいぶ家事に慣れてきたのよ?料理も・・・少しずつ上達してきたし・・。だ、だから・・・。」

「ヒルダ様?」

「こ、今度・・・私の作った料理・・食べに来てくれないかしら・・。」

「ヒルダ様・・。」

ルドルフは目を見開いてヒルダを見た。一方のヒルダは恥ずかしくてたまらない。

(つ、ついに言ってしまったわ・・・。まだそんなにお料理が上手にできるわけでもないのに・・。だけど・・お菓子以外にどうしてもルドルフに私の手料理を食べてもらいたい・・!)

するとルドルフは笑みを浮かべた。

「本当ですか?是非・・今度ヒルダ様の手料理・・食べさせて下さい。」

「え、ええ・・。」

ヒルダは真っ赤になってうつむく。

こうして二人きりの静かな時は流れていった―。








 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

白い結婚の行方

宵森みなと
恋愛
「この結婚は、形式だけ。三年経ったら、離縁して養子縁組みをして欲しい。」 そう告げられたのは、まだ十二歳だった。 名門マイラス侯爵家の跡取りと、書面上だけの「夫婦」になるという取り決め。 愛もなく、未来も誓わず、ただ家と家の都合で交わされた契約だが、彼女にも目的はあった。 この白い結婚の意味を誰より彼女は、知っていた。自らの運命をどう選択するのか、彼女自身に委ねられていた。 冷静で、理知的で、どこか人を寄せつけない彼女。 誰もが「大人びている」と評した少女の胸の奥には、小さな祈りが宿っていた。 結婚に興味などなかったはずの青年も、少女との出会いと別れ、後悔を経て、再び運命を掴もうと足掻く。 これは、名ばかりの「夫婦」から始まった二人の物語。 偽りの契りが、やがて確かな絆へと変わるまで。 交差する記憶、巻き戻る時間、二度目の選択――。 真実の愛とは何かを、問いかける静かなる運命の物語。 ──三年後、彼女の選択は、彼らは本当に“夫婦”になれるのだろうか?  

【完結】お世話になりました

⚪︎
恋愛
わたしがいなくなっても、きっとあなたは気付きもしないでしょう。 ✴︎書き上げ済み。 お話が合わない場合は静かに閉じてください。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

どうぞ、おかまいなく

こだま。
恋愛
婚約者が他の女性と付き合っていたのを目撃してしまった。 婚約者が好きだった主人公の話。

私達、婚約破棄しましょう

アリス
恋愛
余命宣告を受けたエニシダは最後は自由に生きようと婚約破棄をすることを決意する。 婚約者には愛する人がいる。 彼女との幸せを願い、エニシダは残りの人生は旅をしようと家を出る。 婚約者からも家族からも愛されない彼女は最後くらい好きに生きたかった。 だが、なぜか婚約者は彼女を追いかけ……

処理中です...