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第1章 5 卒業パーティーで初ダンス
しおりを挟む「うん!流石に一流レストランの料理は旨いな」
アレンは自分でチョイスしてきた料理に舌鼓を打っていた。今夜パーティーで振る舞われている料理はビュッフェ形式なのだ。
「はい、本当にフランスの御両親が経営する料理は美味しいんです」
ボックス席でアレンの向かい側に座るヒルダは言った。
「ヒルダはお酒は飲まないのか?」
他のテーブルに座った学生たちは誰もがワインを飲んでいる。
「そうですね…あまりお酒に強くはないので」
「え?と言う事はお酒を飲んだことがあるのか?」
アレンは意外そうに尋ねた。
「ええ。帰省した時に少しだけなら飲みます」
「そうか。大学の入学式は9月だったな。それまで4カ月休みがある。その間はまた故郷に帰省するのか?」
「いえ、カミラもロータスに残るので、それ程長くは帰りません。せいぜい1週間程度です」
「そうか、1週間か…」
アレンは安堵していた。4カ月もヒルダの姿を見る事が出来ないのは辛いと感じていただけに、密かに喜びを噛みしめていた。
「アレン先生には本当に感謝しているんです」
不意にヒルダがアレンに言った。
「アレン先生から大学を勧められなければ、私は高校を卒業してそのまま就職する予定でした。一時はカフェでの仕事を考えたこともあったんです。でも、足が不自由なので長時間立ったり、歩き回ることは難しいし…。そんな私をアレン先生は診療所の助手としてアルバイトに雇って下さったのですから感謝してもしきれません。本当にありがとうございます」
「いや、礼には及ばないさ。こっちだって助かっているんだ。看護師1人と受付1人では正直に言うと回すのが大変だった。だからヒルダに手伝いに来てもらって本当に助かっているよ。だから大学に入学しても休みの間はアルバイトをしてくれれば非常にこちらも助かるのだが…」
アレンはヒルダを伺うようにチラリと見た。
(だが、もうこれ以上は無理かもな。ヒルダは頭がいいから大学に入学後は家庭教師のアルバイトの方が割がいいし…)
しかし、ヒルダの答えはアレンの予想を覆すものだった。
「本当に?本当に…大学に入学してもアレン先生の元でアルバイトをさせて頂いても宜しいのですか?」
「あ、ああ。ヒルダさえ良ければ…」
「ありがとうございます」
ヒルダは笑みを浮かべた。
「ヒルダ…」
ヒルダの美しい笑顔にアレンは思わず胸が高鳴った。以前ならまだ高校生のヒルダに10歳も年上の自分が恋してしまうなんてどうかしていると思っていたが、今なら…。
(今なら、俺がヒルダに恋心を抱いても…不自然ではないだろうか…?)
その時、突然会場から美しい音楽が流れ始めた。見ると蓄音機の上でレコードが回っている。
「これは…ダンスの曲だ」
アレンは口を開いた。ランタンの明かりにゆらゆらと照らされ、ゆったりとダンスを踊る学生達。外のガーデン会場でも同様に踊りを踊っている学生たちがいる。
「ダンス…」
ヒルダはポツリと呟いた。
まだ足が不自由になる前…幸せだった伯爵令嬢だった頃、ダンスを習った事はあった。しかし、様々な不幸な出来事が重なり…ヒルダは一度もダンスを踊ること無く18歳を迎えていた。そして思った。
(ルドルフ…貴方が生きていれば、2人で一緒に卒業パーティーに参加して…貴方とダンスを踊ったのに…)
学生たちが踊っている姿を見ているヒルダをアレンはじっと見つめながら思った。
ひょっとするとヒルダは本当はダンスを踊りたいのではないだろうかと…。
「ヒルダ」
「はい?」
アレンに名前を呼ばれてヒルダは振り向いた。
「どうだ?踊ってみないか?」
「え…?で、でも私足が…」
するとアレンが肩をすくめた。
「ヒルダ、俺が誰か忘れたか?」
「い、いえ。アレン…先生は私の足の…主治医の先生です」
「ああ、そうだ。ヒルダの足の負担にならない動き位分るさ」
「そ、そうですね」
するとアレンは立ち上がり、ダンスを申し込むお辞儀をするとヒルダに手を差し伸べた。
「ヒルダ、俺と踊って貰えますか?」
ヒルダはおずおずと手を差し出すとポツリと言った。
「はい、喜んで…」
そうして、ヒルダとアレンは他の学生達と混じってゆったりしたワルツを踊った。
ヒルダはこの日、生まれて初めてダンスを踊るのだった―。
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