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2-8 暴君と執事
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アリアドネ達と別れて、1人執務室の前にやってきたシュミットは扉をノックしながら声を掛けた。
コンコン
「エルウィン様…いらっしゃいますか?」
「…ああ。入れ」
「それでは失礼致します…」
返事が聞こえたのでカチャリと扉を開けて執務室の中へ入ると、目の前に置かれた大きな書斎机にはエルウィンの姿が無い。あるのは山積みにされた書類と、からっぽの大きな背もたれ付きの椅子だけである。
「エルウィン様?どちらにいらっしゃるのですか?」
エルウィンの姿が見えない事で、シュミットは辺りを見渡した。
「ここだ…」
「え?」
声の聞こえた方向を見ると、そこにはページの開いた本を顔の上に乗せ、長ソファの上に寝そべるエルウィンの姿があった。
「ふぅ…」
シュミットは溜息をつくと、ソファの上で寝そべるエルウィンの傍にツカツカと足音を立てて近付くと、顔の上から本を取り上げながら言った。
「エルウィン様、本は顔の上に乗せるものではありません。読むものですよ」
「…そんな事位分っている」
エルウィンは目を閉じながら答える。
(本当にこうして静かにしていると彫刻の様に美しい上品な顔だちなのに…)
「…おい、何を考えて俺の顔を見ている?」
エルウィンは目を閉じながらシュミットに尋ねて来た。
「いいえ。いつになったらここから起き上がって、書類にサインをしていただけるのかと思っただけです。このままでは領民達が冬を越せなくなりますよ?それでも良いのですか?」
「…チッ。相変わらず嫌味な奴だ…」
エルウィンは目を開けて、起き上がると漆黒の髪をかき上げてため息をついた。
そして渋々書斎机に向かうとシュミットに文句を言った。
「大体、俺はペンを握るよりも剣を握る事が専門なのだ。事務作業は全てお前の仕事だろうが?!」
エルウィンは万年筆を握りしめながら忌々し気にシュミットを睨み付ける。
「エルウィン様。いつまでそのような事を申されるのですか?貴方がここの城主を引き継ぎ、既に3年になるのですよ?それとも…なにか心にわだかまりがあって、仕事に手が付かないのですか?」
シュミットの言葉にエルウィンがピクリと反応する。
「…別にそんなものは無い。分ったよ…やればいいんだろう?やれば…」
「はい。そうです」
シュミットの返事にエルウィンは再びため息をつくと、書類に向き合い始めた。
その様子を見たシュミットもエルウィンの書斎机の脇に置かれた自身の机に向かい、仕事を始めた。
カチコチカチコチ…
少しの間、規則正しく時計が秒針を打つ音と紙の上にペンが走る音が続いていたが、やがてエルウィンがボソリと言った。
「…シュミット」
「はい、何でしょう?」
「お前…今朝もいなかったな。一体何所へ行っていた?」
「え?ええ…城内の様子を巡回していただけですが?」
「ふ~ん…そうか…。何かいい事でもあったのか?」
「えっ?!」
突然のエルウィンの言葉に、普段は平気で無表情を装えるシュミットは狼狽えてしまった。
「…」
そんなシュミットの様子を訝し気な目で見つめるエルウィン。
「ゴホン」
そこでシュミットはわざと咳ばらいをするとエルウィンに尋ねた。
「いいえ、何一つ普段と変わった事はございませんが?」
「…そうか?俺の気のせいか?」
「ええ、そうでしょうね」
「ならいい…」
そして再び書類に目を落としたエルウィンはポツリと呟いた。
「…無事に宿場町を出ただろうか…」
シュミットが聞こえないフリをしたのは言うまでも無かった―。
コンコン
「エルウィン様…いらっしゃいますか?」
「…ああ。入れ」
「それでは失礼致します…」
返事が聞こえたのでカチャリと扉を開けて執務室の中へ入ると、目の前に置かれた大きな書斎机にはエルウィンの姿が無い。あるのは山積みにされた書類と、からっぽの大きな背もたれ付きの椅子だけである。
「エルウィン様?どちらにいらっしゃるのですか?」
エルウィンの姿が見えない事で、シュミットは辺りを見渡した。
「ここだ…」
「え?」
声の聞こえた方向を見ると、そこにはページの開いた本を顔の上に乗せ、長ソファの上に寝そべるエルウィンの姿があった。
「ふぅ…」
シュミットは溜息をつくと、ソファの上で寝そべるエルウィンの傍にツカツカと足音を立てて近付くと、顔の上から本を取り上げながら言った。
「エルウィン様、本は顔の上に乗せるものではありません。読むものですよ」
「…そんな事位分っている」
エルウィンは目を閉じながら答える。
(本当にこうして静かにしていると彫刻の様に美しい上品な顔だちなのに…)
「…おい、何を考えて俺の顔を見ている?」
エルウィンは目を閉じながらシュミットに尋ねて来た。
「いいえ。いつになったらここから起き上がって、書類にサインをしていただけるのかと思っただけです。このままでは領民達が冬を越せなくなりますよ?それでも良いのですか?」
「…チッ。相変わらず嫌味な奴だ…」
エルウィンは目を開けて、起き上がると漆黒の髪をかき上げてため息をついた。
そして渋々書斎机に向かうとシュミットに文句を言った。
「大体、俺はペンを握るよりも剣を握る事が専門なのだ。事務作業は全てお前の仕事だろうが?!」
エルウィンは万年筆を握りしめながら忌々し気にシュミットを睨み付ける。
「エルウィン様。いつまでそのような事を申されるのですか?貴方がここの城主を引き継ぎ、既に3年になるのですよ?それとも…なにか心にわだかまりがあって、仕事に手が付かないのですか?」
シュミットの言葉にエルウィンがピクリと反応する。
「…別にそんなものは無い。分ったよ…やればいいんだろう?やれば…」
「はい。そうです」
シュミットの返事にエルウィンは再びため息をつくと、書類に向き合い始めた。
その様子を見たシュミットもエルウィンの書斎机の脇に置かれた自身の机に向かい、仕事を始めた。
カチコチカチコチ…
少しの間、規則正しく時計が秒針を打つ音と紙の上にペンが走る音が続いていたが、やがてエルウィンがボソリと言った。
「…シュミット」
「はい、何でしょう?」
「お前…今朝もいなかったな。一体何所へ行っていた?」
「え?ええ…城内の様子を巡回していただけですが?」
「ふ~ん…そうか…。何かいい事でもあったのか?」
「えっ?!」
突然のエルウィンの言葉に、普段は平気で無表情を装えるシュミットは狼狽えてしまった。
「…」
そんなシュミットの様子を訝し気な目で見つめるエルウィン。
「ゴホン」
そこでシュミットはわざと咳ばらいをするとエルウィンに尋ねた。
「いいえ、何一つ普段と変わった事はございませんが?」
「…そうか?俺の気のせいか?」
「ええ、そうでしょうね」
「ならいい…」
そして再び書類に目を落としたエルウィンはポツリと呟いた。
「…無事に宿場町を出ただろうか…」
シュミットが聞こえないフリをしたのは言うまでも無かった―。
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