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5-8 苛立ちの理由
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一瞬迷いの表情を見せたエルウィンは観念すると再び話し始めた。
「偶然城内で出会った領民の中に、随分軟な手をしている者がいたからだ。あかぎれがあったから…ふと、思いついただけだ。彼らも越冬期間中、無事に冬を越す為の重要な戦力になるからな。いざと言う時の為にも体調管理には気を付けた方がいいだろう?ただ、それだけの事だ」
エルウィンの話で、スティーブもシュミットもアリアドネの話をしている事はすぐに分った。
「へ~…そんなにその女性の事が気になったんですか?」
(まぁ、アリアドネのように美しい女性は早々いないからな…)
何処かからかうような口ぶりでスティーブは尋ねた。
「おいっ!俺は別に女だとは言っていないぞ?!」
ムキになってエルウィンは言う。
「はいはい、分りましたって~。ではそう言う事にしておきましょう」
肩をすくめるスティーブにエルウィンは忌々し気に言う。
「全く…本当にお前は昔から気に入らない奴だ…」
そんな2人の様子をシュミットはハラハラした様子で見つめていた。
(まずいな…。このままではますますスティーブはエルウィン様の事をからかいそうだ。これ以上不機嫌になられたら業務にも差し支えるし、何より巻き込まれかねない…)
そう考えたシュミットはすかさず、話題を戻した。
「ですが、無事渡せたのですよね?」
「ああ、そうだ。ビルに手渡した。丁度入り口付近にいたからな。すごく喜んでくれていた」
「成程。ビルに渡されたのですね?」
「まあな」
シュミットの言葉に頷くエルウィン。
「でも、何故すぐ戻られたんです?大将は下働きや領民達と話をするの、お好きだったじゃないですか?」
「…」
エルウィンは越冬期間中のアイゼンシュタット城が苦手だった。
その理由は叔父であるランバーのせいであった。
エルウィンとランバートは犬猿の仲だった。叔父と甥っ子の関係とはいえ、正当な後継者はエルウィンが選ばれた。一方後継者となれなかったランバートはエルウィンの事を戦うしか能の無い男と見下し、毛嫌いしていた。
一方、エルウィンにとってのランバートは最も軽蔑する人種を城に引き入れて来た憎い人物である。それだけでは無い。一度も戦地へ赴いたことが無い卑怯者として、彼の目には映っていたのだ。
その2人が越冬期間中は閉ざされた城内で一緒に生活をしていかなければならない。
それはまさにエルウィンにとっては息がつまる半年間と言える。
だからこそエルウィンは下働きの者達と領民達との生活居住空間に通う事を好み、毎年仕事場に足を運んでいたのである。
「確かに…もう少し話をしていこうかと思ったが…気が変わったんだ」
エルウィンの脳裏に城内で出会った領民の娘…つまりアリアドネの顔が蘇る。そしてその白い手にはあかぎれがあった事を。その時、エルウィンはふと思った。
痛くはないのだろうか…と。
(本当は直接手渡してやろうかと思いたのに…男と手を繋いで歩いている所を声なんか掛けられるか)
「エルウィン様?どうされたのですか?」
何故か黙り込んでしまったエルウィンにシュミットは声を掛けた。
「いや、別にっ!それよりもあの通路を娼婦達に通らないように注意しろっ!香水臭くてたまらん!全く…叔父上の奴め…本当に忌々しい…!」
エルウィンはそれだけ言うと、残りのコーヒーを一気に飲み干した。
しかし、いずれこの事がきっかけとなり、アイゼンシュタット城に衝撃が走ることになる。
そして、そこからさらに領土を巻き込む大事件へと発展していくことになるとは、この時の3人はまだ思いもしていなかった。
その事件の中心になる存在がアリアドネであるという事も―。
「偶然城内で出会った領民の中に、随分軟な手をしている者がいたからだ。あかぎれがあったから…ふと、思いついただけだ。彼らも越冬期間中、無事に冬を越す為の重要な戦力になるからな。いざと言う時の為にも体調管理には気を付けた方がいいだろう?ただ、それだけの事だ」
エルウィンの話で、スティーブもシュミットもアリアドネの話をしている事はすぐに分った。
「へ~…そんなにその女性の事が気になったんですか?」
(まぁ、アリアドネのように美しい女性は早々いないからな…)
何処かからかうような口ぶりでスティーブは尋ねた。
「おいっ!俺は別に女だとは言っていないぞ?!」
ムキになってエルウィンは言う。
「はいはい、分りましたって~。ではそう言う事にしておきましょう」
肩をすくめるスティーブにエルウィンは忌々し気に言う。
「全く…本当にお前は昔から気に入らない奴だ…」
そんな2人の様子をシュミットはハラハラした様子で見つめていた。
(まずいな…。このままではますますスティーブはエルウィン様の事をからかいそうだ。これ以上不機嫌になられたら業務にも差し支えるし、何より巻き込まれかねない…)
そう考えたシュミットはすかさず、話題を戻した。
「ですが、無事渡せたのですよね?」
「ああ、そうだ。ビルに手渡した。丁度入り口付近にいたからな。すごく喜んでくれていた」
「成程。ビルに渡されたのですね?」
「まあな」
シュミットの言葉に頷くエルウィン。
「でも、何故すぐ戻られたんです?大将は下働きや領民達と話をするの、お好きだったじゃないですか?」
「…」
エルウィンは越冬期間中のアイゼンシュタット城が苦手だった。
その理由は叔父であるランバーのせいであった。
エルウィンとランバートは犬猿の仲だった。叔父と甥っ子の関係とはいえ、正当な後継者はエルウィンが選ばれた。一方後継者となれなかったランバートはエルウィンの事を戦うしか能の無い男と見下し、毛嫌いしていた。
一方、エルウィンにとってのランバートは最も軽蔑する人種を城に引き入れて来た憎い人物である。それだけでは無い。一度も戦地へ赴いたことが無い卑怯者として、彼の目には映っていたのだ。
その2人が越冬期間中は閉ざされた城内で一緒に生活をしていかなければならない。
それはまさにエルウィンにとっては息がつまる半年間と言える。
だからこそエルウィンは下働きの者達と領民達との生活居住空間に通う事を好み、毎年仕事場に足を運んでいたのである。
「確かに…もう少し話をしていこうかと思ったが…気が変わったんだ」
エルウィンの脳裏に城内で出会った領民の娘…つまりアリアドネの顔が蘇る。そしてその白い手にはあかぎれがあった事を。その時、エルウィンはふと思った。
痛くはないのだろうか…と。
(本当は直接手渡してやろうかと思いたのに…男と手を繋いで歩いている所を声なんか掛けられるか)
「エルウィン様?どうされたのですか?」
何故か黙り込んでしまったエルウィンにシュミットは声を掛けた。
「いや、別にっ!それよりもあの通路を娼婦達に通らないように注意しろっ!香水臭くてたまらん!全く…叔父上の奴め…本当に忌々しい…!」
エルウィンはそれだけ言うと、残りのコーヒーを一気に飲み干した。
しかし、いずれこの事がきっかけとなり、アイゼンシュタット城に衝撃が走ることになる。
そして、そこからさらに領土を巻き込む大事件へと発展していくことになるとは、この時の3人はまだ思いもしていなかった。
その事件の中心になる存在がアリアドネであるという事も―。
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