身代わり婚~暴君と呼ばれる辺境伯に拒絶された仮初の花嫁

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売

文字の大きさ
75 / 376

5-18 エルウィンの師匠

しおりを挟む

「離せっ!シュミットッ!スティーブッ!あいつ…叩き切ってやるっ!」

「大将っ!落ち着いて下さいっ!」

「ええ、そうですっ!エルウィン様、彼の挑発に乗ってはいけませんっ!」

暴れるエルウィンを抑え込むスティーブとシュミット。それを鼻で笑うオズワルド。

「本当に…貴方と言う方は血の気の多い方だ…。さすがは『戦場の暴君』と言われるだけの事はある。こんな暴れん坊が我が城主とは…情けない」

「何ぃっ?!」

エルウィンは今にも飛び掛かる寸前である。そして今のオズワルドの言葉に流石のスティーブも黙ってはいられなかった。

「何だと…?貴様…。もう一度言ってみろ…」

「ああ、何度でも言ってやる。わが城主は戦うことしか能の無い人物だとな」

オズワルドが挑発的な笑みを浮かべた。

「貴様…っ!」

エルウィンがシュミットを振り解こうとしたその時…。

「おやめくださいっ!」

彼らの背後から声が響き渡った。現れたのはアイゼンシュタット城の治安部隊の騎士達だった。彼らの団長はエルウィンの祖父の代から治安部隊に身を置く初老の男である。

「エデルガルト…」

彼を見てようやくエルウィンは落ち着きを取り戻した。彼はエルウィンが幼かった時の剣の指南役でもあったのだ。

「チッ」

オズワルドが舌打ちをする。彼はこの男を苦手としていた。勿論、それはこの場にいる全員に言えることであった。それほど、このエデルガルトという老人は一目置かれていた。

「エデルガルト様、来ていただけたのですね?」

シュミットが頭を下げる。

「ああ、勿論だ。この城のもめ事を解決するのも我ら治安部隊の役目だからな」

「…」

エルウィンはバツが悪そうにうつむいている。

「とりあえず…ランベール様のご遺体をいつまでもあのままにしておくわけにはいかないでしょう。まずはきちんと状況を調べないと」

エデルガルトはその場にいる全員に言い聞かせるように見渡した―。



****

 その後、治安部隊の調べで、ランベールは鉄格子のすぐそばで胸を貫かれて死亡したことが分かった。何故なら鉄格子には血痕が付着していたからであった。そしてこの犯行は誰にでも実行出来るものであり、城中の者を取り調べた者の疑わしき人物は浮上してこなかったのであった―。


「師匠…申し訳ありませんでした」

執務室でエデルガルトと2人きりになったエルウィンは頭を下げた。

「何を仰っておるのですか?エルウィン様。貴方は3年前から城主として頑張っておられる。確かに少々血の気は多いかもしれませんがね?私はエルウィン様の祖父と父君に仕えておりましたが、貴方が一番領民達の事を思っておられる。乱暴に見えるかもしれないが、本質は心優しきお方だと思っております」

「…よして下さい。ほめ過ぎです」

エルウィンは少しだけ頬を赤らめた。

「いえいえ…事実です。しかし…ランベール様の事は流石に驚きましたな。あの方の派閥だった城の者達はかなり焦っております。越冬期間が過ぎれば追い出されるのではないかとびくびくしている者もおりました。城の規律も厳しくなるのではないかと恐れていましたよ」

「風紀の乱れだけは是正させるつもりですよ。叔父上のせいで、アイゼンシュタット城の騎士や兵士たちの評判はガタ落ちですからね」

エルウィンはニヤリと笑い…次にためいきをついた。

「それにしても…誰が叔父上を殺害したのだろう…」

城中の者達を取り調べた者の、ランベールを殺害したと思しき人物は1人も浮上してこなかったのだ。勿論エルウィンはすぐに除外された。何故ならランベールが殺害されたとみられる時間帯は大勢の騎士達と酒を酌み交わしていたからである。

「ランベール様は敵が多い方でしたからね…。彼の死を望んでいる者は大勢いましたし。一部では死んでくれたことを喜んでいる者達もおります。ここだけの話、あの方がいるだけでアイゼンシュタット城の品位を損なっていましたからね。もう犯人を上げるのはやめても問題はないでしょう。それよりも彼の死を悼み、早々に葬儀を執
り行うべきだと思います。そして城の警備を強化した方が得策でしょうね」

「ええ、勿論そうするつもりです。全ての城の警備を強化させますよ」

エルウィンは頷いた―。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

探さないでください。旦那様は私がお嫌いでしょう?

雪塚 ゆず
恋愛
結婚してから早一年。 最強の魔術師と呼ばれる旦那様と結婚しましたが、まったく私を愛してくれません。 ある日、女性とのやりとりであろう手紙まで見つけてしまいました。 もう限界です。 探さないでください、と書いて、私は家を飛び出しました。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめる事にしました 〜once again〜

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
【アゼリア亡き後、残された人々のその後の物語】 白血病で僅か20歳でこの世を去った前作のヒロイン、アゼリア。彼女を大切に思っていた人々のその後の物語 ※他サイトでも投稿中

転生したら地味ダサ令嬢でしたが王子様に助けられて何故か執着されました

古里@3巻電子書籍化『王子に婚約破棄され
恋愛
皆様の応援のおかげでHOT女性向けランキング第7位獲得しました。 前世病弱だったニーナは転生したら周りから地味でダサいとバカにされる令嬢(もっとも平民)になっていた。「王女様とか公爵令嬢に転生したかった」と祖母に愚痴ったら叱られた。そんなニーナが祖母が死んで冒険者崩れに襲われた時に助けてくれたのが、ウィルと呼ばれる貴公子だった。 恋に落ちたニーナだが、平民の自分が二度と会うことはないだろうと思ったのも、束の間。魔法が使えることがバレて、晴れて貴族がいっぱいいる王立学園に入ることに! しかし、そこにはウィルはいなかったけれど、何故か生徒会長ら高位貴族に絡まれて学園生活を送ることに…… 見た目は地味ダサ、でも、行動力はピカ一の地味ダサ令嬢の巻き起こす波乱万丈学園恋愛物語の始まりです!? 小説家になろうでも公開しています。 第9回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作品

【完結】消された第二王女は隣国の王妃に熱望される

風子
恋愛
ブルボマーナ国の第二王女アリアンは絶世の美女だった。 しかし側妃の娘だと嫌われて、正妃とその娘の第一王女から虐げられていた。 そんな時、隣国から王太子がやって来た。 王太子ヴィルドルフは、アリアンの美しさに一目惚れをしてしまう。 すぐに婚約を結び、結婚の準備を進める為に帰国したヴィルドルフに、突然の婚約解消の連絡が入る。 アリアンが王宮を追放され、修道院に送られたと知らされた。 そして、新しい婚約者に第一王女のローズが決まったと聞かされるのである。 アリアンを諦めきれないヴィルドルフは、お忍びでアリアンを探しにブルボマーナに乗り込んだ。 そしてある夜、2人は運命の再会を果たすのである。

余命六年の幼妻の願い~旦那様は私に興味が無い様なので自由気ままに過ごさせて頂きます。~

流雲青人
恋愛
商人と商品。そんな関係の伯爵家に生まれたアンジェは、十二歳の誕生日を迎えた日に医師から余命六年を言い渡された。 しかし、既に公爵家へと嫁ぐことが決まっていたアンジェは、公爵へは病気の存在を明かさずに嫁ぐ事を余儀なくされる。 けれど、幼いアンジェに公爵が興味を抱く訳もなく…余命だけが過ぎる毎日を過ごしていく。

人質姫と忘れんぼ王子

雪野 結莉
恋愛
何故か、同じ親から生まれた姉妹のはずなのに、第二王女の私は冷遇され、第一王女のお姉様ばかりが可愛がられる。 やりたいことすらやらせてもらえず、諦めた人生を送っていたが、戦争に負けてお金の為に私は売られることとなった。 お姉様は悠々と今まで通りの生活を送るのに…。 初めて投稿します。 書きたいシーンがあり、そのために書き始めました。 初めての投稿のため、何度も改稿するかもしれませんが、どうぞよろしくお願いします。 小説家になろう様にも掲載しております。 読んでくださった方が、表紙を作ってくださいました。 新○文庫風に作ったそうです。 気に入っています(╹◡╹)

処理中です...