118 / 376
8-7 引き止める男
しおりを挟む
「スティーブ様…」
すると、ダリウスはスティーブの視線からアリアドネを隠すように立ち塞がった。
「…一体ここに何の用があっていらしたのですか?」
「別に。お前に用があって来たわけじゃない。アリアドネを迎えに来たのさ」
スティーブは腕組みしながら挑戦的にダリウスを見た。
「迎え…?」
ダリウスは眉をしかめた。
「ああ、そうだ。アリアドネ、部屋の用意が出来たから一緒に城へ行こう」
「はい」
アリアドネは返事をするとダリウスの側を通り抜けようとした…その時。
「行くなっ!」
ダリウスがアリアドネの腕を掴んだ。
「ダリウス…」
アリアドネは驚いたようにダリウスを見た。
「おいっ?!お前何してる!」
それを目にしたスティーブは声をあげた。
「何してる?決まってるじゃないですか。アリアドネを城にあげられるはずないでしょう?あんな…風紀が乱れきった城になど」
ダリウスのどこか嘲笑ったかのような言葉にスティーブの眉が険しくなる。
「何だと…?今…アイゼンシュタット城の事を何と言った…?」
「ええ。いくらでも言いますよ?越冬期間中のアイゼンシュタット城はまるで巨大な娼館と同じだ」
「何だってっ?!そんな口を叩くとは…貴様…!それでもここの領民かっ?!」
「あいにく、俺は最近までは別の土地で暮らしていたのでね。まだ領民としての自覚が持てないんですよ」
まるで小馬鹿にしたようなダリウスの態度にスティーブはもはや我慢の限界だった。
「貴様…っ!」
思わず腰の剣を抜こうとしたその時―。
「やめて下さいっ!」
今迄口を閉ざしていたアリアドネが声をあげた。
「「!!」」
その時になって初めてダリウスとスティーブはハッとなった。2人とも一瞬アリアドネの存在を忘れていたのだ。
「アリアドネ…」
ダリウスはアリアドネを見た。その手はまだアリアドネの腕を握りしめている。
「ダリウス…腕が痛いわ…離してくれる…?」
ダリウスの目をじっと見つめるアリアドネ。
「あ…ご、ごめん…」
手を離すと、アリアドネはすぐにスティーブの元へと歩いていく。
「ま、待ってくれ!アリアドネッ!」
けれど、アリアドネは足を止めない。
「スティーブ様。案内して頂けますか?」
アリアドネはスティーブの前で足を止めた。
「あ、ああ。行こうか?」
スティーブは笑顔でアリアドネを見た。
「行くなっ!アリアドネッ!」
ダリウスはまだ諦めきれずに名を呼んだ。
「…ごめんなさい。ダリウス。私には…責任があるの」
アリアドネは振り向くこともせずに言葉を口にした。
「責任て…!」
尚も引き下がろうとしないダリウスにスティーブが口を挟んできた。
「いい加減にそのへんにしておけよ。しつこい男は嫌われるぜ。それじゃ行こうか。アリアドネ」
「はい、行きましょう」
「!」
その言葉にダリウスの顔が青ざめる。
焦った様子のダリウスを見たスティーブはニヤリと口角を上げると、アリアドネを伴って、作業場から去っていった。
「…クッ…!」
後に残されたのは悔しそうなダリウスと、心配そうな顔で3人のやり取りを見つめていたマリア達だった―。
****
「…先程はダリウスが失礼な事を言って、申し訳ありませんでした」
歩き出すとすぐにアリアドネは謝罪してきた。
「何もアリアドネが謝ることはないさ。失礼な言い方をしたのはあの男だろう?」
「そうですけど…」
「まぁ、あいつの言うことも確かに一理あるけどな。現に城には男たちの夜の相手をするメイドもいるし、娼婦まで今はいる。けれど安心しろ、アリアドネ。メイドとして暮らす塔は南塔なんだ。そこはさっきの男が言っていたような風紀が乱れた場所ではないからな。いかがわしい奴らは一切いないから安心して暮らしていけるぞ?」
スティーブは笑みを浮かべながらアリアドネに説明した。
「本当ですか?」
その言葉を聞いたアリアドネに安堵の表情が浮かぶ。
「ああ。ランベール様が居住を構えていたのは東塔なんだ。その場所が問題だったんだよ。大将は娼婦を激しく嫌っていたからな…それで余計にあの2人は対立していたんだ」
「そうだったのですね…」
「ああ、大体まだ幼いミカエル様とウリエル様にとっても良い環境じゃないからな。だが、今回オズワルドは2人を我々に託してきたんだ。だから大将は喜んでいたよ。東塔は子供が暮らす場所じゃ無いと前々から言っていたからな」
「それは良かったですね…」
(エルウィン様はミカエル様とウリエル様の事を本気で心配してたのね。私もメイドとして選ばれたからには精一杯お世話しなければ…)
アリアドネは心に誓った―。
すると、ダリウスはスティーブの視線からアリアドネを隠すように立ち塞がった。
「…一体ここに何の用があっていらしたのですか?」
「別に。お前に用があって来たわけじゃない。アリアドネを迎えに来たのさ」
スティーブは腕組みしながら挑戦的にダリウスを見た。
「迎え…?」
ダリウスは眉をしかめた。
「ああ、そうだ。アリアドネ、部屋の用意が出来たから一緒に城へ行こう」
「はい」
アリアドネは返事をするとダリウスの側を通り抜けようとした…その時。
「行くなっ!」
ダリウスがアリアドネの腕を掴んだ。
「ダリウス…」
アリアドネは驚いたようにダリウスを見た。
「おいっ?!お前何してる!」
それを目にしたスティーブは声をあげた。
「何してる?決まってるじゃないですか。アリアドネを城にあげられるはずないでしょう?あんな…風紀が乱れきった城になど」
ダリウスのどこか嘲笑ったかのような言葉にスティーブの眉が険しくなる。
「何だと…?今…アイゼンシュタット城の事を何と言った…?」
「ええ。いくらでも言いますよ?越冬期間中のアイゼンシュタット城はまるで巨大な娼館と同じだ」
「何だってっ?!そんな口を叩くとは…貴様…!それでもここの領民かっ?!」
「あいにく、俺は最近までは別の土地で暮らしていたのでね。まだ領民としての自覚が持てないんですよ」
まるで小馬鹿にしたようなダリウスの態度にスティーブはもはや我慢の限界だった。
「貴様…っ!」
思わず腰の剣を抜こうとしたその時―。
「やめて下さいっ!」
今迄口を閉ざしていたアリアドネが声をあげた。
「「!!」」
その時になって初めてダリウスとスティーブはハッとなった。2人とも一瞬アリアドネの存在を忘れていたのだ。
「アリアドネ…」
ダリウスはアリアドネを見た。その手はまだアリアドネの腕を握りしめている。
「ダリウス…腕が痛いわ…離してくれる…?」
ダリウスの目をじっと見つめるアリアドネ。
「あ…ご、ごめん…」
手を離すと、アリアドネはすぐにスティーブの元へと歩いていく。
「ま、待ってくれ!アリアドネッ!」
けれど、アリアドネは足を止めない。
「スティーブ様。案内して頂けますか?」
アリアドネはスティーブの前で足を止めた。
「あ、ああ。行こうか?」
スティーブは笑顔でアリアドネを見た。
「行くなっ!アリアドネッ!」
ダリウスはまだ諦めきれずに名を呼んだ。
「…ごめんなさい。ダリウス。私には…責任があるの」
アリアドネは振り向くこともせずに言葉を口にした。
「責任て…!」
尚も引き下がろうとしないダリウスにスティーブが口を挟んできた。
「いい加減にそのへんにしておけよ。しつこい男は嫌われるぜ。それじゃ行こうか。アリアドネ」
「はい、行きましょう」
「!」
その言葉にダリウスの顔が青ざめる。
焦った様子のダリウスを見たスティーブはニヤリと口角を上げると、アリアドネを伴って、作業場から去っていった。
「…クッ…!」
後に残されたのは悔しそうなダリウスと、心配そうな顔で3人のやり取りを見つめていたマリア達だった―。
****
「…先程はダリウスが失礼な事を言って、申し訳ありませんでした」
歩き出すとすぐにアリアドネは謝罪してきた。
「何もアリアドネが謝ることはないさ。失礼な言い方をしたのはあの男だろう?」
「そうですけど…」
「まぁ、あいつの言うことも確かに一理あるけどな。現に城には男たちの夜の相手をするメイドもいるし、娼婦まで今はいる。けれど安心しろ、アリアドネ。メイドとして暮らす塔は南塔なんだ。そこはさっきの男が言っていたような風紀が乱れた場所ではないからな。いかがわしい奴らは一切いないから安心して暮らしていけるぞ?」
スティーブは笑みを浮かべながらアリアドネに説明した。
「本当ですか?」
その言葉を聞いたアリアドネに安堵の表情が浮かぶ。
「ああ。ランベール様が居住を構えていたのは東塔なんだ。その場所が問題だったんだよ。大将は娼婦を激しく嫌っていたからな…それで余計にあの2人は対立していたんだ」
「そうだったのですね…」
「ああ、大体まだ幼いミカエル様とウリエル様にとっても良い環境じゃないからな。だが、今回オズワルドは2人を我々に託してきたんだ。だから大将は喜んでいたよ。東塔は子供が暮らす場所じゃ無いと前々から言っていたからな」
「それは良かったですね…」
(エルウィン様はミカエル様とウリエル様の事を本気で心配してたのね。私もメイドとして選ばれたからには精一杯お世話しなければ…)
アリアドネは心に誓った―。
47
あなたにおすすめの小説
片想い婚〜今日、姉の婚約者と結婚します〜
橘しづき
恋愛
姉には幼い頃から婚約者がいた。両家が決めた相手だった。お互いの家の繁栄のための結婚だという。
私はその彼に、幼い頃からずっと恋心を抱いていた。叶わぬ恋に辟易し、秘めた想いは誰に言わず、二人の結婚式にのぞんだ。
だが当日、姉は結婚式に来なかった。 パニックに陥る両親たち、悲しげな愛しい人。そこで自分の口から声が出た。
「私が……蒼一さんと結婚します」
姉の身代わりに結婚した咲良。好きな人と夫婦になれるも、心も体も通じ合えない片想い。
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめる事にしました 〜once again〜
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
【アゼリア亡き後、残された人々のその後の物語】
白血病で僅か20歳でこの世を去った前作のヒロイン、アゼリア。彼女を大切に思っていた人々のその後の物語
※他サイトでも投稿中
余命六年の幼妻の願い~旦那様は私に興味が無い様なので自由気ままに過ごさせて頂きます。~
流雲青人
恋愛
商人と商品。そんな関係の伯爵家に生まれたアンジェは、十二歳の誕生日を迎えた日に医師から余命六年を言い渡された。
しかし、既に公爵家へと嫁ぐことが決まっていたアンジェは、公爵へは病気の存在を明かさずに嫁ぐ事を余儀なくされる。
けれど、幼いアンジェに公爵が興味を抱く訳もなく…余命だけが過ぎる毎日を過ごしていく。
【完結】消された第二王女は隣国の王妃に熱望される
風子
恋愛
ブルボマーナ国の第二王女アリアンは絶世の美女だった。
しかし側妃の娘だと嫌われて、正妃とその娘の第一王女から虐げられていた。
そんな時、隣国から王太子がやって来た。
王太子ヴィルドルフは、アリアンの美しさに一目惚れをしてしまう。
すぐに婚約を結び、結婚の準備を進める為に帰国したヴィルドルフに、突然の婚約解消の連絡が入る。
アリアンが王宮を追放され、修道院に送られたと知らされた。
そして、新しい婚約者に第一王女のローズが決まったと聞かされるのである。
アリアンを諦めきれないヴィルドルフは、お忍びでアリアンを探しにブルボマーナに乗り込んだ。
そしてある夜、2人は運命の再会を果たすのである。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【完結】恋につける薬は、なし
ちよのまつこ
恋愛
異世界の田舎の村に転移して五年、十八歳のエマは王都へ行くことに。
着いた王都は春の大祭前、庶民も参加できる城の催しでの出来事がきっかけで出会った青年貴族にエマはいきなり嫌悪を向けられ…
赤貧令嬢の借金返済契約
夏菜しの
恋愛
大病を患った父の治療費がかさみ膨れ上がる借金。
いよいよ返す見込みが無くなった頃。父より爵位と領地を返還すれば借金は国が肩代わりしてくれると聞かされる。
クリスタは病床の父に代わり爵位を返還する為に一人で王都へ向かった。
王宮の中で会ったのは見た目は良いけど傍若無人な大貴族シリル。
彼は令嬢の過激なアプローチに困っていると言い、クリスタに婚約者のフリをしてくれるように依頼してきた。
それを条件に父の医療費に加えて、借金を肩代わりしてくれると言われてクリスタはその契約を承諾する。
赤貧令嬢クリスタと大貴族シリルのお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる