身代わり婚~暴君と呼ばれる辺境伯に拒絶された仮初の花嫁

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売

文字の大きさ
213 / 376

12-9 根拠のない噂話

しおりを挟む
 その日の夕方――

ミカエルとウリエルは夕食までの間、城に招かれている家庭教師から出された課題の自主学習をしていた。

「ねぇ、お兄ちゃん」

文字の練習をしていたウリエルが計算問題を解いているミカエルに話しかけた。

「何?」

計算問題から目をそらさずに返事をするミカエル。

「リアはエルウィン様の事好きなのかなぁ?」

「う~ん。どうなんだろう?でも僕はエルウィン様のお嫁さんにはリアがいいと思うな

ミカエルは顔を上げて答えた。

「そうだよね。ゾーイより、よっぽどリアのほうがいいよ。お兄ちゃんもそう思わない?」

「うん、そうだね。僕もエルウィン様とリアはお似合いだと思うよ。だけど、リアはエルウィン様の事、どう思っているんだろう?」

「そうだよね。でも僕、エルウィン様と結婚するならリアがいいよ」

ウリエルの言葉に頷くミカエル。

「うん、僕もそう思うよ。そうだ!だったら、僕達で協力してあげるんだよ」

いつの間にか、ミカエルもウリエルも勉強の手を止めて話をするのに夢中になっていた。

「どうするの?」

ウリエルは興奮気味にミカエルに尋ねる。

「つまり僕とウリエルの2人で、エルウィン様はリアのことが好きだっていう話を広めてあげればいいんだよ」

「そうだね!それがいいね!」

「よし、それじゃすぐに城の皆に言いに行こう!」


「うん!」

こうして2人は勉強をそっちのけに、部屋を飛び出していった。


そして無邪気な子供たちによって、たちまちエルウィンはアリアドネのことが好きだと言う話は広まっていった。
しかも、尾ヒレが付いた状態で……。



****


 同日21時――

今宵エルウィンは珍しく1人きりで遅めの食事をダイニングルームでとっていた。
ある違和感を感じながら。

その違和感とは……。


「ん?」

メインディッシュの肉を切り分けていた時、エルウィンは視線を感じて顔を上げた。
すると給仕のフットマンが自分をじっと凝視していたのである。

「何だ?」

「い、いえ。何かお味はどうかと思いまして」

フットマンは笑み浮かべて答える。

「うん、いつも通り今夜もうまい」

「作用でございますか。それは良かったです」



次に視線を感じたのはワインを飲んでいるときの事だった。

(うん?何か視線を感じるな……)

視線の先を振り向くと、先程とは別のフットマンがエルウィンをじっと見つめていた。

「どうしたんだ?」

「あ…そ、そのワインをお注ぎしましょうか?」

「そうだな」

エルウィンは手持ちのワイングラスを一気に飲み干すと、テーブルの上に置いた。

「注いでくれ」

「はい、かしこまりました」

フットマンの手によって、ワインが注がれる様子を見つめながらエルウィンは思った。

何やら城の者達の様子がおかしいと……。



****


その頃――


シュミットの部屋で、声が響き渡った。

「何だってっ?!それは本当の話なのかっ?!」

声を上げた人物は他でもない、シュミットである。

「ああ、間違いない。俺はその話を部下から直接聞いたんだよ。一番初めに聞いた時は我が耳を疑ったよ」

スティーブはシュミットの部屋で興奮気味に話をしている。

「そんな…信じられない。一体どういうことだ?エルウィン様がアリアドネ様に結婚を申し込んだなどと……我々に何も相談も無く……?」

シュミットの声は何処か落ち込んでいた。

「大将…水臭いじゃないか。まさか俺たちに気を使って…?」

エルウィンの2人の幼馴染はため息をつく。

そして肝心のエルウィンは、根も葉も無い噂話が広がっていることにまだ何も気付いてはいなかった――。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

探さないでください。旦那様は私がお嫌いでしょう?

雪塚 ゆず
恋愛
結婚してから早一年。 最強の魔術師と呼ばれる旦那様と結婚しましたが、まったく私を愛してくれません。 ある日、女性とのやりとりであろう手紙まで見つけてしまいました。 もう限界です。 探さないでください、と書いて、私は家を飛び出しました。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめる事にしました 〜once again〜

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
【アゼリア亡き後、残された人々のその後の物語】 白血病で僅か20歳でこの世を去った前作のヒロイン、アゼリア。彼女を大切に思っていた人々のその後の物語 ※他サイトでも投稿中

転生したら地味ダサ令嬢でしたが王子様に助けられて何故か執着されました

古里@3巻電子書籍化『王子に婚約破棄され
恋愛
皆様の応援のおかげでHOT女性向けランキング第7位獲得しました。 前世病弱だったニーナは転生したら周りから地味でダサいとバカにされる令嬢(もっとも平民)になっていた。「王女様とか公爵令嬢に転生したかった」と祖母に愚痴ったら叱られた。そんなニーナが祖母が死んで冒険者崩れに襲われた時に助けてくれたのが、ウィルと呼ばれる貴公子だった。 恋に落ちたニーナだが、平民の自分が二度と会うことはないだろうと思ったのも、束の間。魔法が使えることがバレて、晴れて貴族がいっぱいいる王立学園に入ることに! しかし、そこにはウィルはいなかったけれど、何故か生徒会長ら高位貴族に絡まれて学園生活を送ることに…… 見た目は地味ダサ、でも、行動力はピカ一の地味ダサ令嬢の巻き起こす波乱万丈学園恋愛物語の始まりです!? 小説家になろうでも公開しています。 第9回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作品

【完結】消された第二王女は隣国の王妃に熱望される

風子
恋愛
ブルボマーナ国の第二王女アリアンは絶世の美女だった。 しかし側妃の娘だと嫌われて、正妃とその娘の第一王女から虐げられていた。 そんな時、隣国から王太子がやって来た。 王太子ヴィルドルフは、アリアンの美しさに一目惚れをしてしまう。 すぐに婚約を結び、結婚の準備を進める為に帰国したヴィルドルフに、突然の婚約解消の連絡が入る。 アリアンが王宮を追放され、修道院に送られたと知らされた。 そして、新しい婚約者に第一王女のローズが決まったと聞かされるのである。 アリアンを諦めきれないヴィルドルフは、お忍びでアリアンを探しにブルボマーナに乗り込んだ。 そしてある夜、2人は運命の再会を果たすのである。

余命六年の幼妻の願い~旦那様は私に興味が無い様なので自由気ままに過ごさせて頂きます。~

流雲青人
恋愛
商人と商品。そんな関係の伯爵家に生まれたアンジェは、十二歳の誕生日を迎えた日に医師から余命六年を言い渡された。 しかし、既に公爵家へと嫁ぐことが決まっていたアンジェは、公爵へは病気の存在を明かさずに嫁ぐ事を余儀なくされる。 けれど、幼いアンジェに公爵が興味を抱く訳もなく…余命だけが過ぎる毎日を過ごしていく。

人質姫と忘れんぼ王子

雪野 結莉
恋愛
何故か、同じ親から生まれた姉妹のはずなのに、第二王女の私は冷遇され、第一王女のお姉様ばかりが可愛がられる。 やりたいことすらやらせてもらえず、諦めた人生を送っていたが、戦争に負けてお金の為に私は売られることとなった。 お姉様は悠々と今まで通りの生活を送るのに…。 初めて投稿します。 書きたいシーンがあり、そのために書き始めました。 初めての投稿のため、何度も改稿するかもしれませんが、どうぞよろしくお願いします。 小説家になろう様にも掲載しております。 読んでくださった方が、表紙を作ってくださいました。 新○文庫風に作ったそうです。 気に入っています(╹◡╹)

処理中です...