58 / 90
14 現れた女性
しおりを挟む
年齢は私とほぼ同年代と思われる女性は、私達に目もくれずまっすぐにアドニス様の元へと駆け寄ってきた。
「……こんばんは、ビアンカ」
アドニス様は感情のこもらない声で挨拶する。
「フフ、こんばんは。アドニス様」
するとオリバー様がビアンカと呼ばれた女性に声をかけた。
「ビアンカ、客人の前だぞ。ご挨拶しなさい」
「あ、そうでしたね。はじめまして、アデル。あのお部屋、気に入って貰えたかしら? 私の好きなピンクでまとめてみたのよ? やっぱり女の子はみんなピンクが好きだものね?」
ビアンカ様はアデルが水色のワンピースとリボンを付けているのが目に入らないのだろうか。
そして、私の方をちらりと見て……そのまま席に座った。
この女性は、私の存在を無視しようとしているのだろう。
今までの私なら黙っていた。けれど、アデルを守ると決めたのだから自分から彼女に声をかけた。
「はじめまして、ビアンカ様。フローネ・シュゼットと申します。アデルお嬢様のシッターをさせていただいております。どうぞよろしくお願いいたします」
しかし、ビアンカ様は私の方を見向きもしない。けれど、それでも構わない。私は彼女に挨拶をしたのだから。
すると、アドニス様がビアンカ様に声をかけた。
「ビアンカ。アデルの隣に座る女性は俺がとても信頼を寄せているシッターなんだ。名前はフローネ・シュゼットさん。アデルも『お姉ちゃん』と呼んで慕っている。だから彼女に失礼な態度は取らないでもらえるかな?」
アドニス様の声は今まで聞いたことが無い程に冷たい口調だった。
「「!!」」
その言葉に、ビアンカ様とオリバーさんの肩がビクリと跳ねる。
「ビアンカ、何故フローネさんを無視したんだ? 彼女はきちんと挨拶をした。挨拶を返すのは礼儀じゃないのか?」
「あ……そ、それは……」
「す、すまなかった。フローネさん!」
突然オリバー様が私に謝罪してきた。
「ビアンカは少し気位が高いところがあって、子供じみたところがあるのだ。早くに
母親と別れてしまったので私が我儘に育ててしまった。本当に申し訳ない。私に免じて許してやってもらえないだろうか?」
「お、お父様!」
ビアンカ様が顔を真っ赤に染める。
「ビアンカ! お前もフローネさんに謝りなさい! そしてご挨拶するのだ」
すると一瞬ビアンカ様は悔しそうに私を睨みつけ……謝罪してきた。
「申し訳ございませんでした。てっきり使用人が同じテーブルに座っているものだと思いましたので無視してしまいました。はじめまして、ビアンカ・ラインハルトと申します。どうぞよろしくお願いいたします」
全く気持ちのこもっていない挨拶であることはその場にいる誰もが感じたことだろう。
その証拠にアデルが席を立つと私の服を引っ張ってきた。
「お姉ちゃん……私、ここにいたくないよ……」
「アデル……」
アデルの顔は今にも泣きそうになっている。
「分かったわ、それじゃお部屋に戻りましょう? ……皆様、アデルは疲れているようなので失礼させていただきます」
声をかけて、席を立つとアデルを抱き上げた。
「何ですって? 食事はどうするのよ」
「そうだよ、アデル。皆で食事をしよう?」
ビアンカ様とオリバー様が声をかけるも、アデルは私にしがみついたまま首を振る。
「俺も一緒に部屋に行くよ。叔父上、ビアンカ。折角ですが、食事はお二人でお願いします」
「アドニスッ!」
オリバー様が大きな声を上げ、アデルの肩がビクリと跳ねる。
「大きな声を上げないで頂けますか? アデルが驚きます」
「……分かった。では明日の朝食は……」
「アデルの気持ちが落ち着くまでは遠慮させていただきます。お二人で召し上がって下さい、今まで通り」
「「……」」
オリバー様もビアンカ様も黙ってしまった。やはり正当な領主であるアドニス様には何も言えないのだろう。
「アデル、兄さんのところへおいで」
「うん」
アデルは手を伸ばしたアドニス様の腕に抱かれる。
「それじゃ、行こう。フローネ」
アドニス様が笑顔で私に声をかけてきた。
「はい」
返事をするとアドニス様は扉に向かって歩き出した。
私はオリバー様とビアンカ様に一礼すると、アドニス様の背中を追った。
……大丈夫、私は強くなると決めたのだ。
それに……何より、今は頼もしい方が側にいてくれるのだから――
「……こんばんは、ビアンカ」
アドニス様は感情のこもらない声で挨拶する。
「フフ、こんばんは。アドニス様」
するとオリバー様がビアンカと呼ばれた女性に声をかけた。
「ビアンカ、客人の前だぞ。ご挨拶しなさい」
「あ、そうでしたね。はじめまして、アデル。あのお部屋、気に入って貰えたかしら? 私の好きなピンクでまとめてみたのよ? やっぱり女の子はみんなピンクが好きだものね?」
ビアンカ様はアデルが水色のワンピースとリボンを付けているのが目に入らないのだろうか。
そして、私の方をちらりと見て……そのまま席に座った。
この女性は、私の存在を無視しようとしているのだろう。
今までの私なら黙っていた。けれど、アデルを守ると決めたのだから自分から彼女に声をかけた。
「はじめまして、ビアンカ様。フローネ・シュゼットと申します。アデルお嬢様のシッターをさせていただいております。どうぞよろしくお願いいたします」
しかし、ビアンカ様は私の方を見向きもしない。けれど、それでも構わない。私は彼女に挨拶をしたのだから。
すると、アドニス様がビアンカ様に声をかけた。
「ビアンカ。アデルの隣に座る女性は俺がとても信頼を寄せているシッターなんだ。名前はフローネ・シュゼットさん。アデルも『お姉ちゃん』と呼んで慕っている。だから彼女に失礼な態度は取らないでもらえるかな?」
アドニス様の声は今まで聞いたことが無い程に冷たい口調だった。
「「!!」」
その言葉に、ビアンカ様とオリバーさんの肩がビクリと跳ねる。
「ビアンカ、何故フローネさんを無視したんだ? 彼女はきちんと挨拶をした。挨拶を返すのは礼儀じゃないのか?」
「あ……そ、それは……」
「す、すまなかった。フローネさん!」
突然オリバー様が私に謝罪してきた。
「ビアンカは少し気位が高いところがあって、子供じみたところがあるのだ。早くに
母親と別れてしまったので私が我儘に育ててしまった。本当に申し訳ない。私に免じて許してやってもらえないだろうか?」
「お、お父様!」
ビアンカ様が顔を真っ赤に染める。
「ビアンカ! お前もフローネさんに謝りなさい! そしてご挨拶するのだ」
すると一瞬ビアンカ様は悔しそうに私を睨みつけ……謝罪してきた。
「申し訳ございませんでした。てっきり使用人が同じテーブルに座っているものだと思いましたので無視してしまいました。はじめまして、ビアンカ・ラインハルトと申します。どうぞよろしくお願いいたします」
全く気持ちのこもっていない挨拶であることはその場にいる誰もが感じたことだろう。
その証拠にアデルが席を立つと私の服を引っ張ってきた。
「お姉ちゃん……私、ここにいたくないよ……」
「アデル……」
アデルの顔は今にも泣きそうになっている。
「分かったわ、それじゃお部屋に戻りましょう? ……皆様、アデルは疲れているようなので失礼させていただきます」
声をかけて、席を立つとアデルを抱き上げた。
「何ですって? 食事はどうするのよ」
「そうだよ、アデル。皆で食事をしよう?」
ビアンカ様とオリバー様が声をかけるも、アデルは私にしがみついたまま首を振る。
「俺も一緒に部屋に行くよ。叔父上、ビアンカ。折角ですが、食事はお二人でお願いします」
「アドニスッ!」
オリバー様が大きな声を上げ、アデルの肩がビクリと跳ねる。
「大きな声を上げないで頂けますか? アデルが驚きます」
「……分かった。では明日の朝食は……」
「アデルの気持ちが落ち着くまでは遠慮させていただきます。お二人で召し上がって下さい、今まで通り」
「「……」」
オリバー様もビアンカ様も黙ってしまった。やはり正当な領主であるアドニス様には何も言えないのだろう。
「アデル、兄さんのところへおいで」
「うん」
アデルは手を伸ばしたアドニス様の腕に抱かれる。
「それじゃ、行こう。フローネ」
アドニス様が笑顔で私に声をかけてきた。
「はい」
返事をするとアドニス様は扉に向かって歩き出した。
私はオリバー様とビアンカ様に一礼すると、アドニス様の背中を追った。
……大丈夫、私は強くなると決めたのだ。
それに……何より、今は頼もしい方が側にいてくれるのだから――
336
あなたにおすすめの小説
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
私は、夫にも子供にも選ばれなかった。
その事実だけを抱え、離縁を突きつけ、家を出た。
そこで待っていたのは、最悪の出来事――
けれど同時に、人生の扉がひらく瞬間でもあった。
夫は愛人と共に好きに生きればいい。
今さら「本当に愛していたのは君だ」と言われても、裏切ったあなたを許すことはできない。
でも、子供たちの心だけは、必ず取り戻す。
妻にも母にもなれなかった伯爵夫人イネス。
過去を悔いながらも、愛を手に入れることを決めた彼女が辿り着いた先には――
お認めください、あなたは彼に選ばれなかったのです
・めぐめぐ・
恋愛
騎士である夫アルバートは、幼馴染みであり上官であるレナータにいつも呼び出され、妻であるナディアはあまり夫婦の時間がとれていなかった。
さらにレナータは、王命で結婚したナディアとアルバートを可哀想だと言い、自分と夫がどれだけ一緒にいたか、ナディアの知らない小さい頃の彼を知っているかなどを自慢げに話してくる。
しかしナディアは全く気にしていなかった。
何故なら、どれだけアルバートがレナータに呼び出されても、必ず彼はナディアの元に戻ってくるのだから――
偽物サバサバ女が、ちょっと天然な本物のサバサバ女にやられる話。
※頭からっぽで
※思いつきで書き始めたので、つたない設定等はご容赦ください。
※夫婦仲は良いです
※私がイメージするサバ女子です(笑)
※第18回恋愛小説大賞で奨励賞頂きました! 応援いただいた皆さま、お読みいただいた皆さま、ありがとうございました♪
記憶喪失の婚約者は私を侍女だと思ってる
きまま
恋愛
王家に仕える名門ラングフォード家の令嬢セレナは王太子サフィルと婚約を結んだばかりだった。
穏やかで優しい彼との未来を疑いもしなかった。
——あの日までは。
突如として王都を揺るがした
「王太子サフィル、重傷」の報せ。
駆けつけた医務室でセレナを待っていたのは、彼女を“知らない”婚約者の姿だった。
※本作品は別サイトにて掲載中です
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
白い結婚の末、離婚を選んだ公爵夫人は二度と戻らない』
鍛高譚
恋愛
白い結婚の末、「白い結婚」の末、私は冷遇され、夫は愛人を溺愛していた――ならば、もう要らないわ」
公爵令嬢 ジェニファー・ランカスター は、王弟 エドワード・クラレンス公爵 のもとへ政略結婚として嫁ぐ。
だが、その結婚生活は冷たく空虚なものだった。夫は愛人 ローザ・フィッツジェラルド に夢中になり、公爵夫人であるジェニファーは侮辱され、無視され続ける日々。
――それでも、貴族の娘は耐えなければならないの?
何の愛もなく、ただ飾り物として扱われる結婚に見切りをつけたジェニファーは 「離婚」 を決意する。
しかし、王弟であるエドワードとの離婚は容易ではない。実家のランカスター家は猛反対し、王宮の重臣たちも彼女の決断を 「公爵家の恥」 と揶揄する。
それでも、ジェニファーは負けない。弁護士と協力し、着々と準備を進めていく。
そんな折、彼女は北方の大国 ヴォルフ公国の大公、アレクサンダー・ヴォルフ と出会う。
温かく誠実な彼との交流を通じて、ジェニファーは 「本当に大切にされること」 を知る。
そして、彼女の決断は、王都の社交界に大きな波紋を呼ぶこととなる――。
「公爵夫人を手放したことを、いつか後悔しても遅いわ」
「私はもう、あなたたちの飾り人形じゃない」
離婚を巡る策略、愛人の凋落、元夫の後悔――。
そして、新たな地で手にした 「愛される結婚」。
女性として見れない私は、もう不要な様です〜俺の事は忘れて幸せになって欲しい。と言われたのでそうする事にした結果〜
流雲青人
恋愛
子爵令嬢のプレセアは目の前に広がる光景に静かに涙を零した。
偶然にも居合わせてしまったのだ。
学園の裏庭で、婚約者がプレセアの友人へと告白している場面に。
そして後日、婚約者に呼び出され告げられた。
「君を女性として見ることが出来ない」
幼馴染であり、共に過ごして来た時間はとても長い。
その中でどうやら彼はプレセアを友人以上として見れなくなってしまったらしい。
「俺の事は忘れて幸せになって欲しい。君は幸せになるべき人だから」
大切な二人だからこそ、清く身を引いて、大好きな人と友人の恋を応援したい。
そう思っている筈なのに、恋心がその気持ちを邪魔してきて...。
※
ゆるふわ設定です。
完結しました。
【完結】婚約破棄?勘当?私を嘲笑う人達は私が不幸になる事を望んでいましたが、残念ながら不幸になるのは貴方達ですよ♪
山葵
恋愛
「シンシア、君との婚約は破棄させてもらう。君の代わりにマリアーナと婚約する。これはジラルダ侯爵も了承している。姉妹での婚約者の交代、慰謝料は無しだ。」
「マリアーナとランバルド殿下が婚約するのだ。お前は不要、勘当とする。」
「国王陛下は承諾されているのですか?本当に良いのですか?」
「別に姉から妹に婚約者が変わっただけでジラルダ侯爵家との縁が切れたわけではない。父上も承諾するさっ。」
「お前がジラルダ侯爵家に居る事が、婿入りされるランバルド殿下を不快にするのだ。」
そう言うとお父様、いえジラルダ侯爵は、除籍届けと婚約解消届け、そしてマリアーナとランバルド殿下の婚約届けにサインした。
私を嘲笑って喜んでいる4人の声が可笑しくて笑いを堪えた。
さぁて貴方達はいつまで笑っていられるのかしらね♪
私の愛した婚約者は死にました〜過去は捨てましたので自由に生きます〜
みおな
恋愛
大好きだった人。
一目惚れだった。だから、あの人が婚約者になって、本当に嬉しかった。
なのに、私の友人と愛を交わしていたなんて。
もう誰も信じられない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる