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闇の中、彼らは
しおりを挟む突然の闇。
見渡す限り全てが真っ黒で真っ暗な世界に覚えがあるのは、ジョーセフだけではなかっただろう。
誰が忘れられようか。1年前にクロイセフ王国全土で起きたことを。
何故、と当惑した者も多かった筈だ。
あの闇と雪を耐え、もう裁きは終わった筈だと。
その時西の塔の入り口にまで来ていたアーロンもまた、そう思ったひとりだった。
「・・・アーロン殿下、いかが致しましょうか
「このまま動かずに待機して。状況を把握できないまま突入する訳にはいかない。
もしこの闇が前回と同じなら、あと四半刻で明るくなる筈だから」
指示を出し、それに了承する声を聞きながら、それでもアーロンは、これが夢ではないかと心のどこかで疑っていた。
いや、夢であってほしかったのだ。
もしこれが現実に起きていて、そしてもし前回と同じで闇が四半刻後に晴れるなら。
その後にはまた、同じものが続くかもしれない、そう考えると恐ろしかった。
闇の後に続くもの、そう、3日3晩の大雪だ。
精霊王の裁きは既に終わった筈なのにどうしてこんな事がと、アーロンは焦りと動揺を隠せなかった。
『主はこれより精霊の泉へと向かい、それからポワソンに戻られます』
アーロンは、報告書を届けに来た時のデンゼルの部下の言葉を思い出し、もしや泉でデンゼルが身を投げたのかと考えた。それでまた新しい裁きが始まったのではと。
しかし、またすぐに気がついた。
今はちょうど、まさしく1年前この地に闇が訪れたのと同日同時刻だ。
では。
ではこれは、もしや新たな裁きなどではなく、何か意味があって起きたものなのでは―――
アーロンは、1年前に起きた現象は、裁きを求めて泉に身を投げたアリアドネの無罪を示すものだと思っていた。
アリアドネは冤罪を被せられ、本当は無罪だったから。
―――そう、無罪だった、アリアドネは。
そこまで考えて、アーロンは息を呑んだ。
であるならば、もしかしたらこれは、この闇は―――
同じ頃、西の塔の中では、暗闇の中で複数の呻き声が混じり合って響いていた。
声のひとつはカレンデュラだ。
痛みで闇に気づく余裕すらないのか、急に暗くなった事に驚く声は上がらなかった。
ただ痛い痛いと呻きながら、恐らく床を這いずっているのだろう、ずりずりと床を擦るような音がした。
タスマもまた似たようなものだった。
受けた傷はカレンデュラより浅い。
だから、腹を真横に切られはしたけれど、まだ死んではいなかった。
闇に覆われる直前にジョーセフの前方で倒れたタスマは、カレンデュラのように這い回ってはいないが、余程の痛みである事は窺えた。
激しい息遣いと意味をなさない声がジョーセフの耳に届くからだ。
「ああそうだ、ヨバネス、ヨバネスは無事か」
ここで漸くジョーセフは護衛騎士の存在を思い出し、慌ててその名を呼んだ。
ジョーセフを庇ってタスマの剣を受けた彼もまた怪我を負っていた。
「私はここに。大した怪我ではございません」
思っていたよりも近くで騎士の返事があった。
傷はそれほど深くなく、自分の体なので手探りで止血は出来るという声の後、布を裂く音がした。
何も見えない今は、聞こえてくるもので全てを判断するしかない。ジョーセフはそのまま黙り込んだ。
今この地を覆っている暗闇は、毎夜訪れる安らぎを与える暗さとは違い、どこまでも冷たく、どこまでも暗く。
目の前にかざした自分の手さえ分からず、今にも暗闇に呑み込まれてしまいそうな感覚に襲われ、とにかく恐ろしいものだった。
耳をすませば、塔の入り口辺りで話し声が聞こえた。
ここでの騒ぎを聞いて、騎士たちが駆けつけたのだろう。
この暗闇では迂闊に動く訳にいかず、恐らく闇が晴れてからここに上がって来る筈だ。
その時は騎士たちにこの罪人らを拘束させよう、とジョーセフは考えた。
もはや生かしてはおけない。
そして、先ほどアーロンを呼ぶ声が聞こえたのは気のせいだとジョーセフは結論づけた。
北の塔にいる筈の弟が、ここにいる筈がないからだ。
ジョーセフはじっと闇が晴れる時を待った。
闇が再びこの王国におりた理由も、その後に続くかもしれない災厄も、この時のジョーセフが思い至る事はなかった。
闇が明けるまでの四半刻。
簡単な止血処理を終えた騎士はじっと蹲って時の経過を待ち。
カレンデュラとタスマは苦悶の呻き声を上げ続け。
ひとり無傷のジョーセフは、光が戻った後の2人の処刑方法を考えていた。
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