2 / 22
お別れします
しおりを挟む衝立で仕切った奥の席に座っていたのはセシリエと彼女の兄ハワード、そしてハワードの親友でエーリッヒの兄でもあるアーノルドだ。
たまたまイアーゴと同学年だったというだけで、今日この場に駆り出されたエーリッヒ。ほぼほぼ初対面なのに出張ってくれた彼に、セシリエは礼を言おうと口を開きかけ。
けれど、「ばっちりだったぞ、弟よ」と言った兄アーノルドの方が早かった。
「ほら座れ。約束通り、好きなだけここのケーキを注文して食べるといい。お代は全部、金持ちのこいつが払ってくれるから」
こいつ、と指さされ、向かいに座っていたハワードは反射的に眉を寄せる。だがすぐに笑顔でエーリッヒに「君には感謝している」と話した。
「ケーキくらいお安い御用だ。お陰でイアーゴの考えを知れた。あんなくだらない言い分で妹を蔑ろにしていたとはな」
「ホントホント、こんな可愛いセシリエちゃんと婚約できたのに、何バカなことを言ってんだろうね。なあ、お前もそう思うだろ? エーリッヒ」
「うん、まあそれは・・・」
気まずそうに同意するエーリッヒに、セシリエはカフェメニューを差し出した。
「エーリッヒさま。今日はご協力いただき、本当にありがとうございました。どうぞケーキをお好きなだけ食べて下さいね」
「あ、ありがとうございます。僕も、この話は男としてちょっと見過ごせないと思ったので、お気になさらず・・・ええと、セシリエさんの役に立てたならよかったです」
エーリッヒが席に着いたのを確認すると、セシリエの兄ハワードが気遣わしげな視線を妹に向けた。
「セシ、どうする? あいつはお前を蔑ろにして女遊びを続けるつもりでいるくせに、結婚だけはする気でいるぞ」
「そうですね。今日はイアーゴさまの名言を聞けてよかったです。お陰で目が覚めました」
「名言?」
ハワードは微妙な顔で聞き返す。それに同意する様に、向かいの席に座る2人の頭も上下に動いた。
セシリエは苦笑する。
「名言ですよ。恋人にしたい人と結婚したい人とは別と聞いて、なるほどと納得しちゃいましたもの。確かに、恋人の場合は少しくらい冒険しても取り返しがつきますけど、結婚となったらそうはいきませんよね」
「それは・・・まあ、そうかもしれないが」
「結婚で冒険はできません。だから結婚するなら真面目で頭がよくてしっかり者と―――ええ、イアーゴさまの言う通りです、同意しかありません。私だって、結婚するならそのような方がいい。イアーゴさまみたいな人なんて、夫にしたくないですもの」
「セシ・・・」
「だからお別れします」
そうか、とハワードは妹の手を握った。
「・・・うん、そうだな。そうした方がいい。あんなろくでもない男なんか、こっちから捨ててやれ」
「はい、そうします。といっても、これからの話し合いにかかってますけどね」
「あ、そういう事なら」
頬杖をつき、黙って話を聞いていたアーノルドが手を上げる。
「俺も力になるよ。情報ギルド勤めのアーノルドさんは頼りになるよ? さっきの会話だって、ちゃ~んと記録石に収めておいたしね」
そう言うと、アーノルドは胸元のポケットをぽんと叩いてみせた。
すると、メニューを見ていたエーリッヒまでもが顔を上げ。
「ぼ、僕も何かできる事があるなら協力します」
と意気込んだ。
635
あなたにおすすめの小説
その眼差しは凍てつく刃*冷たい婚約者にウンザリしてます*
音爽(ネソウ)
恋愛
義妹に優しく、婚約者の令嬢には極寒対応。
塩対応より下があるなんて……。
この婚約は間違っている?
*2021年7月完結
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
完結 振り向いてくれない彼を諦め距離を置いたら、それは困ると言う。
音爽(ネソウ)
恋愛
好きな人ができた、だけど相手は振り向いてくれそうもない。
どうやら彼は他人に無関心らしく、どんなに彼女が尽くしても良い反応は返らない。
仕方なく諦めて離れたら怒りだし泣いて縋ってきた。
「キミがいないと色々困る」自己中が過ぎる男に彼女は……
完結 喪失の花嫁 見知らぬ家族に囲まれて
音爽(ネソウ)
恋愛
ある日、目を覚ますと見知らぬ部屋にいて見覚えがない家族がいた。彼らは「貴女は記憶を失った」と言う。
しかし、本人はしっかり己の事を把握していたし本当の家族のことも覚えていた。
一体どういうことかと彼女は震える……
融資できないなら離縁だと言われました、もちろん快諾します。
音爽(ネソウ)
恋愛
無能で没落寸前の公爵は富豪の伯爵家に目を付けた。
格下ゆえに逆らえずバカ息子と伯爵令嬢ディアヌはしぶしぶ婚姻した。
正妻なはずが離れ家を与えられ冷遇される日々。
だが伯爵家の事業失敗の噂が立ち、公爵家への融資が停止した。
「期待を裏切った、出ていけ」とディアヌは追い出される。
【完結】そんなに好きならもっと早く言って下さい! 今更、遅いです! と口にした後、婚約者から逃げてみまして
Rohdea
恋愛
──婚約者の王太子殿下に暴言?を吐いた後、彼から逃げ出す事にしたのですが。
公爵令嬢のリスティは、幼い頃からこの国の王子、ルフェルウス殿下の婚約者となるに違いない。
周囲にそう期待されて育って来た。
だけど、当のリスティは王族に関するとある不満からそんなのは嫌だ! と常々思っていた。
そんなある日、
殿下の婚約者候補となる令嬢達を集めたお茶会で初めてルフェルウス殿下と出会うリスティ。
決して良い出会いでは無かったのに、リスティはそのまま婚約者に選ばれてしまう──
婚約後、殿下から向けられる態度や行動の意味が分からず困惑する日々を送っていたリスティは、どうにか殿下と婚約破棄は出来ないかと模索するも、気づけば婚約して1年が経っていた。
しかし、ちょうどその頃に入学した学園で、ピンク色の髪の毛が特徴の男爵令嬢が現れた事で、
リスティの気持ちも運命も大きく変わる事に……
※先日、完結した、
『そんなに嫌いなら婚約破棄して下さい! と口にした後、婚約者が記憶喪失になりまして』
に出て来た王太子殿下と、その婚約者のお話です。
完結 王子は貞操観念の無い妹君を溺愛してます
音爽(ネソウ)
恋愛
妹至上主義のシスコン王子、周囲に諌言されるが耳をを貸さない。
調子に乗る王女は王子に婚約者リリジュアについて大嘘を吹き込む。ほんの悪戯のつもりが王子は信じ込み婚約を破棄すると宣言する。
裏切ったおぼえがないと令嬢は反論した。しかし、その嘘を真実にしようと言い出す者が現れて「私と婚約してバカ王子を捨てないか?」
なんとその人物は隣国のフリードベル・インパジオ王太子だった。毒親にも見放されていたリリジュアはその提案に喜ぶ。だが王太子は我儘王女の想い人だった為に王女は激怒する。
後悔した王女は再び兄の婚約者へ戻すために画策するが肝心の兄テスタシモンが受け入れない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる