【完結】恋人にしたい人と結婚したい人とは別だよね?―――激しく同意するので別れましょう

冬馬亮

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ヘタレ、撃沈

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「ハワードさん、いらっしゃいませ。あれ? 今日はおひとりですか?」


軽快なドアベルの音と共に、今をときめくハンメル商会の後継ハワードがケーキショップに現れた。

それをアルバイト中のエーリッヒが客を営業スマイルで迎え、そして気づく。
いつもなら彼の後ろにいるであろう人物がいない事に。


「今日は俺だけ。アーノルドに用があってね。呼んでくれる?」

「あ、はい。少々お待ちください」


最近セシリエは、放課後になるといつもこの店に寄ってくれていたから、なんとなくエーリッヒは今日も会える気でいた。
そのせいか、約束もしてないのにがっかり感がもの凄い。


気を取り直して本来の仕事である接客に励んでいると、話が終わったらしい兄とハワードが、エーリッヒに向かって手を挙げた。


「用件は終わったから、こっちにコーヒーを頼む」

「はい」


厨房に戻り、用意したカップ2つにコーヒーを注ぎ、兄たちのいるテーブルへと足を進めると、兄がハワードに話しかける声が耳に入った。


「そういえば今日はセシリエちゃんは?」

「取引き先の家に使いに遣ってる。まあ非公式の顔合わせみたいなものかな」


準備したコーヒーをテーブルに置こうとして。


「顔合わせ? なにそれ、まるで見合いみたいな言い方だな」


微妙な位置で、コーヒーを持つ手がぴたりと止まった。


「みたいな、と言うか、そんな感じだ。セシに縁談が来てるんだが、正式な返事は父が帰って来ないとできない。そう伝えたら、偶然を装って2人を会わせてみたらどうかと言われて」

「おやまあ」

「相性とか本人の好みとかもあるし、先入観なしに会っておけば、後で素直に感想が聞けるだろう? 会わせるだけならいいかと思ってさ」

「おやおやまあまあ」


アーノルドは相槌を打ちながら、チラリと視線をエーリッヒに向ける。カップを差し出したまま、空中で手が止まっている弟に。


「まあ何にせよ、縁談についてはセシリエに話していない。あの子は、ただのお使いで品物を届けに行っているつもりだろう」

「じゃあ受け取りに出るのが見合い希望の男ってわけ?」

「そう」


カチャン


テーブルに置く時、小さくカップの音がした。接客上手のエーリッヒにしては珍しい失敗だ。


「・・・失礼しました」


とぼとぼと厨房に戻っていく後ろ姿を見ながら、アーノルドが「あ~あ」と呟く。


「見てよ、あの後ろ姿。項垂れちゃって」

「知るか。いつまで経ってもセシに告白しないあいつが悪い」

「はは、だよねえ」

「これでもこっちはずっと待ってやってたんだ。また変な奴に目をつけられるより、人柄を把握してるエーリッヒの方が安心だと思ってたし」

「もう待ってられないか。セシリエちゃん、もうすぐ卒業だもんな」


小さく溜め息をこぼすアーノルドに、ハワードはふん、と鼻息を荒くする。


「店を購入して正式にオーナーになってからって考える気持ちは分かる。俺も男だからな。だがそれはあいつの事情だ。まだ奴への好意を自覚してないセシリエが、それに付き合う必要はない。何か約束をしてる訳でもないんだから」

「まあ、そうだよな。いや申し訳ない、うちのヘタレが」

「まったくだ。機会なんていつまでも開かれている訳がない。慎重に慎重を重ねているうちに、気がついたら手が届かなくなってる事だってあるのにな」


ハワードは不機嫌そうにコーヒーに口をつけると、ちょっと丸まってしまったケーキを運ぶ背中へと目をやった。








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