【完結】王太子と宰相の一人息子は、とある令嬢に恋をする

冬馬亮

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大切な人を守るため

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「ありがとうございました!」
「おう、お疲れ」

剣の指南が終わり、模造剣を肩に担ぎながら、カーンがケインバッハに振り返る。

「お前、剣を振るうとき、まだ微妙に右足の重心がぶれてるぞ。他の基本の型はちゃんとできてんだから、あの癖だけで威力が減っちまうのはもったいない。訓練中は、いつも右足に注意を払っとけよ」
「はい」

そこに、一緒に鍛錬に加わっていたライナスバージが口を挟む。

「そうだぞ、ケイン。型が全部きれいにできるようになれば、打ち合いでも実戦練習を集中的にできるようになるんだからさ、さっさと直しちゃえよ」
「ああ、わかった」

ライナスバージも交えて3人でやるのが恒例となった、ロッテングルム騎士団長との剣の稽古は、団長の忙しいスケジュールに合わせ、早朝になったり昼前になったり、ときには夜になったりもした。

団長の指導は厳しいが、指導は非常に的を射たもので。
やはり第一線で活躍する剣士の指導はこうも違うのかと、驚きを禁じ得ない。
また、年が近いライナスバージが稽古に加わり練習相手を買って出てくれたことも大きく、鍛錬は団長の当初の予想よりも速いペースで進んでいた。

ライナスは、入団してからの年数はまだ4年とはいえ、幼い頃から自邸でロッテングルム騎士団長より剣の指導を受けていたという。
若手ながら、所属している第二部隊では、すでに10指に入る腕前らしい。

それにしても、ライナスの体力は底知れない。

通常通りの騎士団員としての鍛錬をこなし、団長と俺との稽古に参加し、さらに時間を見つけては俺と一対一の打ち合いに付き合ってくれる。

「自分のためだ」とライナスは笑う。
格上の相手との打ち合いでは、俺の方にしか利がないのに。

……本当に有難い。

さっぱりした性格で、明るくて、前向きで、剣のことしか頭にないやつ。

厳しい稽古に、音を上げそうになるたび「強くなりたいんだろ?」と俺を挑発してくる。
模造剣で打ち合いながら、たくさんのアドバイスをくれる。

おかげで、ロッテングルム団長の稽古のときには、次の新たな指導を受ける準備がすっかり整っていて。
予想以上の速さで習得できているのは、あの親子の息のピッタリ合った指導のおかげだ。

「なぁ、ケイン。強くなりたいって言ってたけどさ、何か理由でもあんの?」

並んで黙々と素振りをしていたら、ライナスがボソッと話しかけてきた。

「……自分だけじゃなく、人を守れる強さが欲しいと、そう思った」
「ふーん」

ライナスは、そう呟いたきり、再び黙って素振りを続けた。
厳しい指導を受けた後の余韻だろうか、鍛錬場がいつもより熱い気がする。
汗が、額に、首筋に、つぅと流れ落ちていく。

「……その、守りたい人ってさ、女?」
「……」
「……図星かよ」

豪快な振りはそのまま、ライナスは、顔だけこちらへ向けて、にかっと白い歯を見せる。

「ケインが惚れた女かー。誰だか知らんが、幸せ者だな」
「……返答しかねる……」

幸せ者どころか、彼女は俺が恋をしていることすら知らないのだが。

「照れるなよー。ま、せいぜい頑張れって。お前がこんなにやる気出してんだ、よっぽど可愛い子なんだろ?」

……否定はできない。確かに可愛い。

「お前、宰相の一人息子だろ、しかも、やたらカッコいい顔してるし。それでここまで頑張る気になるって、一体どんだけのレベルの子だ? 同い年? いつ告白したの?」

……いや、だから、彼女は何も知らないんだが。

「ケインみたいなイケメンに、ここまで想われるなんてなぁ。どんな子だ? なぁ、いっぺん会わせてくれよ?」
「……断る」
「あー、やっと喋ったと思ったらそれかよー! お前ってホント無口なー!」

……からかうのも大概にしろ。

むっとして軽くライナスを睨む。
そんな俺の視線をまったく気にもせず、それまで振っていた模造剣をトンと肩にのせ、ライナスは空を見上げた。

つられて俺も動きが止まる。

綺麗な星空だ。
今日の稽古は団の全体訓練の後、夕方から始まったため、見上げる空はもう真っ暗で。
鍛錬場内に灯した明かりが、うっすらとライナスの顔を、体を照らしている。

「ケイン。お前、顔、真っ赤」
「……そうか」
「……せいぜい頑張れよ」
「……あぁ」

そのまま、二人してしばらく黙って星空を眺めていた。

もちろんだとも。
……君が、こんなに応援してくれてるんだ。

せいぜい頑張るさ。
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