9 / 256
大切な人を守るため
しおりを挟む
「ありがとうございました!」
「おう、お疲れ」
剣の指南が終わり、模造剣を肩に担ぎながら、カーンがケインバッハに振り返る。
「お前、剣を振るうとき、まだ微妙に右足の重心がぶれてるぞ。他の基本の型はちゃんとできてんだから、あの癖だけで威力が減っちまうのはもったいない。訓練中は、いつも右足に注意を払っとけよ」
「はい」
そこに、一緒に鍛錬に加わっていたライナスバージが口を挟む。
「そうだぞ、ケイン。型が全部きれいにできるようになれば、打ち合いでも実戦練習を集中的にできるようになるんだからさ、さっさと直しちゃえよ」
「ああ、わかった」
ライナスバージも交えて3人でやるのが恒例となった、ロッテングルム騎士団長との剣の稽古は、団長の忙しいスケジュールに合わせ、早朝になったり昼前になったり、ときには夜になったりもした。
団長の指導は厳しいが、指導は非常に的を射たもので。
やはり第一線で活躍する剣士の指導はこうも違うのかと、驚きを禁じ得ない。
また、年が近いライナスバージが稽古に加わり練習相手を買って出てくれたことも大きく、鍛錬は団長の当初の予想よりも速いペースで進んでいた。
ライナスは、入団してからの年数はまだ4年とはいえ、幼い頃から自邸でロッテングルム騎士団長より剣の指導を受けていたという。
若手ながら、所属している第二部隊では、すでに10指に入る腕前らしい。
それにしても、ライナスの体力は底知れない。
通常通りの騎士団員としての鍛錬をこなし、団長と俺との稽古に参加し、さらに時間を見つけては俺と一対一の打ち合いに付き合ってくれる。
「自分のためだ」とライナスは笑う。
格上の相手との打ち合いでは、俺の方にしか利がないのに。
……本当に有難い。
さっぱりした性格で、明るくて、前向きで、剣のことしか頭にないやつ。
厳しい稽古に、音を上げそうになるたび「強くなりたいんだろ?」と俺を挑発してくる。
模造剣で打ち合いながら、たくさんのアドバイスをくれる。
おかげで、ロッテングルム団長の稽古のときには、次の新たな指導を受ける準備がすっかり整っていて。
予想以上の速さで習得できているのは、あの親子の息のピッタリ合った指導のおかげだ。
「なぁ、ケイン。強くなりたいって言ってたけどさ、何か理由でもあんの?」
並んで黙々と素振りをしていたら、ライナスがボソッと話しかけてきた。
「……自分だけじゃなく、人を守れる強さが欲しいと、そう思った」
「ふーん」
ライナスは、そう呟いたきり、再び黙って素振りを続けた。
厳しい指導を受けた後の余韻だろうか、鍛錬場がいつもより熱い気がする。
汗が、額に、首筋に、つぅと流れ落ちていく。
「……その、守りたい人ってさ、女?」
「……」
「……図星かよ」
豪快な振りはそのまま、ライナスは、顔だけこちらへ向けて、にかっと白い歯を見せる。
「ケインが惚れた女かー。誰だか知らんが、幸せ者だな」
「……返答しかねる……」
幸せ者どころか、彼女は俺が恋をしていることすら知らないのだが。
「照れるなよー。ま、せいぜい頑張れって。お前がこんなにやる気出してんだ、よっぽど可愛い子なんだろ?」
……否定はできない。確かに可愛い。
「お前、宰相の一人息子だろ、しかも、やたらカッコいい顔してるし。それでここまで頑張る気になるって、一体どんだけのレベルの子だ? 同い年? いつ告白したの?」
……いや、だから、彼女は何も知らないんだが。
「ケインみたいなイケメンに、ここまで想われるなんてなぁ。どんな子だ? なぁ、いっぺん会わせてくれよ?」
「……断る」
「あー、やっと喋ったと思ったらそれかよー! お前ってホント無口なー!」
……からかうのも大概にしろ。
むっとして軽くライナスを睨む。
そんな俺の視線をまったく気にもせず、それまで振っていた模造剣をトンと肩にのせ、ライナスは空を見上げた。
つられて俺も動きが止まる。
綺麗な星空だ。
今日の稽古は団の全体訓練の後、夕方から始まったため、見上げる空はもう真っ暗で。
鍛錬場内に灯した明かりが、うっすらとライナスの顔を、体を照らしている。
「ケイン。お前、顔、真っ赤」
「……そうか」
「……せいぜい頑張れよ」
「……あぁ」
そのまま、二人してしばらく黙って星空を眺めていた。
もちろんだとも。
……君が、こんなに応援してくれてるんだ。
せいぜい頑張るさ。
「おう、お疲れ」
剣の指南が終わり、模造剣を肩に担ぎながら、カーンがケインバッハに振り返る。
「お前、剣を振るうとき、まだ微妙に右足の重心がぶれてるぞ。他の基本の型はちゃんとできてんだから、あの癖だけで威力が減っちまうのはもったいない。訓練中は、いつも右足に注意を払っとけよ」
「はい」
そこに、一緒に鍛錬に加わっていたライナスバージが口を挟む。
「そうだぞ、ケイン。型が全部きれいにできるようになれば、打ち合いでも実戦練習を集中的にできるようになるんだからさ、さっさと直しちゃえよ」
「ああ、わかった」
ライナスバージも交えて3人でやるのが恒例となった、ロッテングルム騎士団長との剣の稽古は、団長の忙しいスケジュールに合わせ、早朝になったり昼前になったり、ときには夜になったりもした。
団長の指導は厳しいが、指導は非常に的を射たもので。
やはり第一線で活躍する剣士の指導はこうも違うのかと、驚きを禁じ得ない。
また、年が近いライナスバージが稽古に加わり練習相手を買って出てくれたことも大きく、鍛錬は団長の当初の予想よりも速いペースで進んでいた。
ライナスは、入団してからの年数はまだ4年とはいえ、幼い頃から自邸でロッテングルム騎士団長より剣の指導を受けていたという。
若手ながら、所属している第二部隊では、すでに10指に入る腕前らしい。
それにしても、ライナスの体力は底知れない。
通常通りの騎士団員としての鍛錬をこなし、団長と俺との稽古に参加し、さらに時間を見つけては俺と一対一の打ち合いに付き合ってくれる。
「自分のためだ」とライナスは笑う。
格上の相手との打ち合いでは、俺の方にしか利がないのに。
……本当に有難い。
さっぱりした性格で、明るくて、前向きで、剣のことしか頭にないやつ。
厳しい稽古に、音を上げそうになるたび「強くなりたいんだろ?」と俺を挑発してくる。
模造剣で打ち合いながら、たくさんのアドバイスをくれる。
おかげで、ロッテングルム団長の稽古のときには、次の新たな指導を受ける準備がすっかり整っていて。
予想以上の速さで習得できているのは、あの親子の息のピッタリ合った指導のおかげだ。
「なぁ、ケイン。強くなりたいって言ってたけどさ、何か理由でもあんの?」
並んで黙々と素振りをしていたら、ライナスがボソッと話しかけてきた。
「……自分だけじゃなく、人を守れる強さが欲しいと、そう思った」
「ふーん」
ライナスは、そう呟いたきり、再び黙って素振りを続けた。
厳しい指導を受けた後の余韻だろうか、鍛錬場がいつもより熱い気がする。
汗が、額に、首筋に、つぅと流れ落ちていく。
「……その、守りたい人ってさ、女?」
「……」
「……図星かよ」
豪快な振りはそのまま、ライナスは、顔だけこちらへ向けて、にかっと白い歯を見せる。
「ケインが惚れた女かー。誰だか知らんが、幸せ者だな」
「……返答しかねる……」
幸せ者どころか、彼女は俺が恋をしていることすら知らないのだが。
「照れるなよー。ま、せいぜい頑張れって。お前がこんなにやる気出してんだ、よっぽど可愛い子なんだろ?」
……否定はできない。確かに可愛い。
「お前、宰相の一人息子だろ、しかも、やたらカッコいい顔してるし。それでここまで頑張る気になるって、一体どんだけのレベルの子だ? 同い年? いつ告白したの?」
……いや、だから、彼女は何も知らないんだが。
「ケインみたいなイケメンに、ここまで想われるなんてなぁ。どんな子だ? なぁ、いっぺん会わせてくれよ?」
「……断る」
「あー、やっと喋ったと思ったらそれかよー! お前ってホント無口なー!」
……からかうのも大概にしろ。
むっとして軽くライナスを睨む。
そんな俺の視線をまったく気にもせず、それまで振っていた模造剣をトンと肩にのせ、ライナスは空を見上げた。
つられて俺も動きが止まる。
綺麗な星空だ。
今日の稽古は団の全体訓練の後、夕方から始まったため、見上げる空はもう真っ暗で。
鍛錬場内に灯した明かりが、うっすらとライナスの顔を、体を照らしている。
「ケイン。お前、顔、真っ赤」
「……そうか」
「……せいぜい頑張れよ」
「……あぁ」
そのまま、二人してしばらく黙って星空を眺めていた。
もちろんだとも。
……君が、こんなに応援してくれてるんだ。
せいぜい頑張るさ。
45
あなたにおすすめの小説
君への気持ちが冷めたと夫から言われたので家出をしたら、知らぬ間に懸賞金が掛けられていました
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【え? これってまさか私のこと?】
ソフィア・ヴァイロンは貧しい子爵家の令嬢だった。町の小さな雑貨店で働き、常連の男性客に密かに恋心を抱いていたある日のこと。父親から借金返済の為に結婚話を持ち掛けられる。断ることが出来ず、諦めて見合いをしようとした矢先、別の相手から結婚を申し込まれた。その相手こそ彼女が密かに思いを寄せていた青年だった。そこでソフィアは喜んで受け入れたのだが、望んでいたような結婚生活では無かった。そんなある日、「君への気持ちが冷めたと」と夫から告げられる。ショックを受けたソフィアは家出をして行方をくらませたのだが、夫から懸賞金を掛けられていたことを知る――
※他サイトでも投稿中
報われなかった姫君に、弔いの白い薔薇の花束を
さくたろう
恋愛
その国の王妃を決める舞踏会に招かれたロザリー・ベルトレードは、自分が当時の王子、そうして現王アルフォンスの婚約者であり、不遇の死を遂げた姫オフィーリアであったという前世を思い出す。
少しずつ蘇るオフィーリアの記憶に翻弄されながらも、17年前から今世まで続く因縁に、ロザリーは絡め取られていく。一方でアルフォンスもロザリーの存在から目が離せなくなり、やがて二人は再び惹かれ合うようになるが――。
20話です。小説家になろう様でも公開中です。
寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。
にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。
父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。
恋に浮かれて、剣を捨た。
コールと結婚をして初夜を迎えた。
リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。
ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。
結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。
混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。
もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと……
お読みいただき、ありがとうございます。
エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。
それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。
【完結】妖精姫と忘れられた恋~好きな人が結婚するみたいなので解放してあげようと思います~
塩羽間つづり
恋愛
お気に入り登録やエールいつもありがとうございます!
2.23完結しました!
ファルメリア王国の姫、メルティア・P・ファルメリアは、幼いころから恋をしていた。
相手は幼馴染ジーク・フォン・ランスト。
ローズの称号を賜る名門一族の次男だった。
幼いころの約束を信じ、いつかジークと結ばれると思っていたメルティアだが、ジークが結婚すると知り、メルティアの生活は一変する。
好きになってもらえるように慣れないお化粧をしたり、着飾ったりしてみたけれど反応はいまいち。
そしてだんだんと、メルティアは恋の邪魔をしているのは自分なのではないかと思いあたる。
それに気づいてから、メルティアはジークの幸せのためにジーク離れをはじめるのだが、思っていたようにはいかなくて……?
妖精が見えるお姫様と近衛騎士のすれ違う恋のお話
切なめ恋愛ファンタジー
【完結】地味な私と公爵様
ベル
恋愛
ラエル公爵。この学園でこの名を知らない人はいないでしょう。
端正な顔立ちに甘く低い声、時折見せる少年のような笑顔。誰もがその美しさに魅了され、女性なら誰もがラエル様との結婚を夢見てしまう。
そんな方が、平凡...いや、かなり地味で目立たない伯爵令嬢である私の婚約者だなんて一体誰が信じるでしょうか。
...正直私も信じていません。
ラエル様が、私を溺愛しているなんて。
きっと、きっと、夢に違いありません。
お読みいただきありがとうございます。短編のつもりで書き始めましたが、意外と話が増えて長編に変更し、無事完結しました(*´-`)
片想い婚〜今日、姉の婚約者と結婚します〜
橘しづき
恋愛
姉には幼い頃から婚約者がいた。両家が決めた相手だった。お互いの家の繁栄のための結婚だという。
私はその彼に、幼い頃からずっと恋心を抱いていた。叶わぬ恋に辟易し、秘めた想いは誰に言わず、二人の結婚式にのぞんだ。
だが当日、姉は結婚式に来なかった。 パニックに陥る両親たち、悲しげな愛しい人。そこで自分の口から声が出た。
「私が……蒼一さんと結婚します」
姉の身代わりに結婚した咲良。好きな人と夫婦になれるも、心も体も通じ合えない片想い。
結婚する事に決めたから
KONAN
恋愛
私は既婚者です。
新たな職場で出会った彼女と結婚する為に、私がその時どう考え、どう行動したのかを書き記していきます。
まずは、離婚してから行動を起こします。
主な登場人物
東條なお
似ている芸能人
○原隼人さん
32歳既婚。
中学、高校はテニス部
電気工事の資格と実務経験あり。
車、バイク、船の免許を持っている。
現在、新聞販売店所長代理。
趣味はイカ釣り。
竹田みさき
似ている芸能人
○野芽衣さん
32歳未婚、シングルマザー
医療事務
息子1人
親分(大島)
似ている芸能人
○田新太さん
70代
施設の送迎運転手
板金屋(大倉)
似ている芸能人
○藤大樹さん
23歳
介護助手
理学療法士になる為、勉強中
よっしー課長(吉本)
似ている芸能人
○倉涼子さん
施設医療事務課長
登山が趣味
o谷事務長
○重豊さん
施設医療事務事務長
腰痛持ち
池さん
似ている芸能人
○田あき子さん
居宅部門管理者
看護師
下山さん(ともさん)
似ている芸能人
○地真央さん
医療事務
息子と娘はテニス選手
t助
似ている芸能人
○ツオくん(アニメ)
施設医療事務事務長
o谷事務長異動後の事務長
雄一郎 ゆういちろう
似ている芸能人
○鹿央士さん
弟の同級生
中学テニス部
高校陸上部
大学帰宅部
髪の赤い看護師(川木えみ)
似ている芸能人
○田來未さん
准看護師
ヤンキー
怖い
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる