【完結】王太子と宰相の一人息子は、とある令嬢に恋をする

冬馬亮

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陰の援護

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「忠告に心から感謝する」

深々と頭を下げるアイスケルヒに、目の前の男はひらひらと手を振って鷹揚に笑う。

「いやいや。こちらこそ、アイスケルヒ殿に来てもらえて助かったよ。殿下たちが最後まで残れれば、わざわざ君に来てもらわなくても良かったんだけどね。さすがに後片付けの時間まで、殿下がうろうろと残っているはずもなかろう? まぁ、殿下は何も知らないから、ただの見学のつもりで来てたしね。いざとなれば、通りすがりのフリでもして、オレが出張ろうかと思ってたのだよ」
「いくらなんでも通りすがりが出てきては怪しまれるだろう。ただでさえ、君は目立つのだから」

アイスケルヒは苦笑しながら、目の前の派手ななりの男を見つめる。

エレアーナを自邸に送った後、アイスケルヒはその足で王城に戻っていた。

場所は国王の執務室。

室内にはシャールベルム国王陛下、シュタインセン・ダイスヒル宰相、ルシウス・ブライトン公爵、そしてこの男、ベルフェルト・エイモス伯爵令息がいた。そこに後からアイスケルヒ・ブライトン公爵令息が加わった形だ。

ベルフェルト・エイモスは、淡い紫の髪に濃紺の眼の華やかな風貌の持ち主で、挙げ句、服装も煌びやかなものを好んで着るため、目立つことこの上ない。

こんなきらきらしい風体の男が、どうやって朝から誰にも気づかれずに、ずっと孤児院近くで張っていられたのかと、アイスケルヒには少々不思議だった。

「エレアーナは無事か」
「はい、陛下。ご心配をおかけしました」

アイスケルヒが頭を下げて礼を言おうとするが、シャールベルムが右手を上げてそれを留める。

「礼は、そこのベルフェルト・エイモスに言えば十分だ。私は何もしておらん」

王の言葉に軽く両手を上げて謙遜するベルフェルトに、今度はルシウスが声をかけた。

「私からも改めて礼を言わせてもらおう。ベルフェルト殿。娘のためにいろいろとありがとう」
「とんでもありませんよ、ブライトン公爵。結局、オレは大したことはしていないのですよ。陰からこっそりと覗いていただけですからね」

飄々と何でもないことのように言ってくれるが、彼の働きは実際のところ非常に大きい。
このベルフェルトからの知らせがなければ、今ごろエレアーナがどんな目に遭っていたかもわからないのだ。

昨夜、この同じ執務室に呼ばれた父と私は、ベルフェルト・エイモスに引き合わされ、孤児院のバザー会場にてエレアーナを襲撃する計画が密かに立てられているという情報を聞かされた。

即刻、本日の孤児院訪問を中止させたいところだったが、裏に何か深い事情があるようで、こちらに情報が洩れていることを悟られないよう普段通りに行動する必要があるとのことだった。

つまり、行かせないという選択肢は無く。

全体の状況を把握している様子の陛下やベルフェルトの意見によると、今回の襲撃は単独によるもので散発的な計画であり、実際に行動に移す機会を逸すれば実行を諦めるだろうと。

それでまず、朝から複数の部下を連れたベルフェルトがジュールベーヌ孤児院近くで待機し、状況観察と適宜報告、そして不測の事態には動いてもらうことになった。

そして、殿下の存在は襲撃の強い抑止力になるだろうとの判断で、父から殿下に孤児院のバザーの話を伝えることになった。

といっても、襲撃計画そのものについては伝えずに、ただエレアーナが孤児院で一日中バザーの手伝いをする予定だと父から話が行くようにして。
もちろん、陛下とダイスヒル宰相が、殿下の予定をあらかじめ空けた上でのことだ。

そして最後が私の役目だ。エレアーナを無事に屋敷まで送り届ける。

殿下たちが帰った後、人が少なくなったバザー会場や馬車での乗り降りする際に襲撃を受ける可能性は高い。
襲撃に気付いていることを気取られずに牽制するには、大仰な出迎えが一番自然だ。

それで仕事帰りを装って、複数の護衛を引き連れて会場に向かったのだ。

でも、それまで、ずっと不安で。
もしかしたら、もう2度と妹に会えないのではないかと。

ベルフェルトを始め、人目に付かない形で警護の者たちを陛下が配備してくださったものの、それでもエレアーナの無事な姿を自分の目で見るまでは、正直怖かった。

駆け寄って抱きしめたい衝動を何とか抑えて、不自然にならないように振る舞うのが精一杯で。
馬車の中で一日の緊張を解く妹を守ろうと、道中もずっと気を張り巡らせて。

「……それで、今回の襲撃内容についての詳細は、明かしていただけるのでしょうか?」

父が口を開いた。当然の質問だ。

「もうしばらく待ってほしい。すまんが、堪えてくれ」
「……しばらく、とは?」
「今、少しばかり不穏な動きがあってな。探りを入れているところだ。どうやら、大馬鹿者1人の騒ぎでは済まないようでな」
「探り……ですか」
「今回の計画自体はですね、その大馬鹿者が直接関わっているわけではないのですよ、ブライトン公爵。まぁ、関わりがないとは言えませんがね。まぁ、いうなれば、他の輩が勝手に忖度して先走ってしまったというところでしょうか」

このベルフェルトという男、飄々としていてどこまでが本気か掴めない。

だが、陛下はこの男に信頼を置いているのは確かだ。
……ならば私たちはどうするのが正解か。

しばしの間はあったものの、ベルフェルトの言葉を受け、ルシウスが口を開いた。

「……なるほど。ここで動くとすれば、その大馬鹿者にこちらの意図がばれるかりか、半端な捕獲に終わり、元凶には手を出せなくなる可能性があるわけですね」

王は黙って頷いた。

「……わかりました。今はこれで退きましょう」
「父上?」
「……ですが、まずは一つ、陛下にお礼を申し上げておきます」
「礼だと?」
「はい。……未だ行動を起こせない時期にありながら、それでもなお、エレアーナを守ろうと陰ながら動いてくださったこと、心より感謝申し上げます」

ルシウスの言葉に、シャールベルムは眉を顰める。

恥ずかしながら、私は父の言葉で初めてその事実に気づいたのだが。

「……何も話せんと言う私に、礼を言うのか」
「本日、エレアーナは無事に帰ってくることができましたので」

ルシウスはにっこりと微笑んだ。

「今はそれだけで、十分でございます。陛下」
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