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追跡
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レオンハルトとライナスバージは、ホールを駆け抜けエントランスから外に出た。
周囲を見回し、状況を確認する。
警護にあたっていた騎士たちのほとんどが出払っていた。
アイスケルヒの姿もない、
「・・・っ。どうしたらいいんだ?」
レオンハルトの呻くような声が響く。
ふと外門の向こうに、王家の紋章入りの馬車が停まっているのが目に入った。
そして門の正面には、藤色の髪の男。
側にいるのはベルフェルトだ。
あれは、前に父から教えられたコウモリを務める男。
・・・ということは、隣の見知らぬ男も敵ではない・・・筈。
「ライナス、取り敢えず何があったのか聞きに行こう」
あちらもレオンハルトたちに気がついたようだ。
ベルフェルトが礼を取る。
「ベルフェルト、どうした。何があったんだ?」
ベルフェルトの表情は少々強張っている。
「・・・賢者くずれが侵入したのでございます、殿下。目下、カーンとリュークザインとアイスケルヒとで三方に別れ、邸周辺を探索しております」
「賢者くずれが? 侵入したって?」
「ベルフェルト、こちらは?」
驚くレオンの横で、まずライナスが見知らぬ男を確認する。
男は、先ほどから外門の正面で、両手を軽く広げて立っていた。
「ワイジャーマのラファイエラスさまだ。この方が賢者くずれの侵入を探知して下さり、我々が王城から馬車でここまで急ぎ駆けつけたという訳だ」
「ワイジャーマ・・・」
レオンハルトとライナスバージが、慌てて礼を取る。
ラファイエラスは軽く会釈をすると、私のことより、と状況説明の続きを促した。
「ライナス。侵入した賢者くずれは、バークリーと名乗っていたそうだが。エレアーナ嬢は今、どこにいるか知っているか?」
「バークリー・・・? バークリーだって?」
ふたりの顔に驚愕の色が浮かぶ。
つい先ほどまで一緒にエントランスにいた男。
何故かレオンハルトが一緒に待つのをひどく嫌がっていた男。
・・・あいつが。
レオンハルトの顔が蒼白になる。
「エレアーナ嬢は、今、庭に出ている。多分、ケインも一緒の筈だが」
・・・ケインは上手く追いつけたのだろうか。
「バークリーは、ついさっき、使用人と一緒にエレアーナ嬢を探しに行ったぞ」
「方向は?」
「あちらだ。あちらの方向に歩いていった」
それを聞いたベルフェルトがラファイエラスを見る。
ラファイエラスが軽く頷いた。
「殿下はここでラファイエラスさまとお待ち下さい。オレとライナスバージとで、あちらに向かいます」
「わかった。ライナス・・・頼む」
「はっ」
返事と共に、ふたりは目指す方向へと走り出す。
その背を、祈るように見送るレオンハルトに、背後から声がかけられた。
「案ずるな。まだ彼女は無事だ」
その言葉に驚いて、怪訝な視線を向ける。
「・・・なぜわかるのですか?」
「気配がないからだ」
「・・・気配、ですか?」
「今、私は邸全体に結界を張っているが、中では、まだ何の変化もない。目的を遂げてここから逃げようとする気配も、何か術を発動した気配も、だ。・・・勿論、物理的な攻撃のみの探知は出来ないが」
「結界・・・」
「奴は、私がここにいる事を知らないから、敢えて術を使わない理由もない」
ワイジャーマからの説明を受け、レオンハルトは視線を上げて周囲を見回した。
「つまり奴は今、手間取っているわけだ。誰かが、恐らくケインバッハが共にいるのだろう。・・・思わぬ邪魔が入って焦っている頃やもしれんな」
「ケインが・・・。そうですか・・・」
小さな呟きが口から漏れる。
また、僕は、何も出来なかったのか。
「・・・つい先ほどまで、バークリーは僕と一緒にいました」
「・・・」
「ライナスは使用人を呼びに行っていて、僕はそれをバークリーと待っていて・・・」
レオンハルトの拳に力が籠る。
「今思えば、バークリーの様子はおかしかった。僕に何処かに行って欲しそうにしてました。一人で待てるから平気だと何度も言って、僕と一緒にいるのが嫌そうな感じで・・・。僕は、何故あのとき・・・」
「上手く引き留めたのだな」
「・・・え?」
「君が奴をその場に残し、さっさと中にでも引っ込んでいたら、ライナスパージが使用人を連れて戻る前に奴はエレアーナを追っていただろう」
「・・・」
「使用人と一緒に向かったのであれば、人目のつかないところまでは大人しく付いて行かなければならない。まぁ、今頃はその使用人も何処かに倒れているだろうが、またそれも、奴にとっては余計な手間となる。想定外の時間のロスは、今の我々にとってかなり有難い」
「え・・・」
賢者は、レオンハルトに向かって、ふわりと笑った。
「お手柄だ」
「・・・っ」
思わず、ばっと空を見上げた。
涙が零れそうで、
でも泣きたくなくて。
でも、空が、とても青くて、透き通っていて。
却って涙が溢れてきて。
ちょっとだけ困ってしまった。
「ケイン。・・・頑張れ」
どこまでも青い空を見上げながら、レオンハルトは呟いた。
◇◇◇
その頃、ベルフェルトとライナスは地面に倒れている執事を発見し、ここで何かが起きたことを確信した。
「こちらには誰か向かっていないのか」
「方角的には、カーン団長たちが見回っている筈なのだがな。一帯を捜索しながらとなると、どこまで進めてはいるか定かではないし、合流出来るかも分からないだろうよ。なにせ敷地が広すぎるからな」
「そうか・・・」
「・・・さて、賢者くずれは、ここからどの方向に進んだか・・・」
周囲を確認していたライナスの視線が、ある一点で縫い止められる。
「・・・ベルフェルト。あれを見ろ」
ライナスが指で示した先、繁みの奥に、地面に転がる人の足先が見えた。
体は繁みに隠れていて顔を見ることが出来ないが、色から判断すれば、あれは騎士服だ。
駆け寄って確認する。
やはり騎士の一人、息はあるようだ。
「探索隊の一人・・・いや、これは、もともと警護で立っていた者を倒して進んだか・・・」
「いずれにしろ、この方向に進んだと考えて間違いないだろう。向こうにも更に一人、倒れているのが見える。・・・では行くぞ、ライナス」
「ああ」
ふたりは立ち上がると、定めた方向へと再び走り始めた。
周囲を見回し、状況を確認する。
警護にあたっていた騎士たちのほとんどが出払っていた。
アイスケルヒの姿もない、
「・・・っ。どうしたらいいんだ?」
レオンハルトの呻くような声が響く。
ふと外門の向こうに、王家の紋章入りの馬車が停まっているのが目に入った。
そして門の正面には、藤色の髪の男。
側にいるのはベルフェルトだ。
あれは、前に父から教えられたコウモリを務める男。
・・・ということは、隣の見知らぬ男も敵ではない・・・筈。
「ライナス、取り敢えず何があったのか聞きに行こう」
あちらもレオンハルトたちに気がついたようだ。
ベルフェルトが礼を取る。
「ベルフェルト、どうした。何があったんだ?」
ベルフェルトの表情は少々強張っている。
「・・・賢者くずれが侵入したのでございます、殿下。目下、カーンとリュークザインとアイスケルヒとで三方に別れ、邸周辺を探索しております」
「賢者くずれが? 侵入したって?」
「ベルフェルト、こちらは?」
驚くレオンの横で、まずライナスが見知らぬ男を確認する。
男は、先ほどから外門の正面で、両手を軽く広げて立っていた。
「ワイジャーマのラファイエラスさまだ。この方が賢者くずれの侵入を探知して下さり、我々が王城から馬車でここまで急ぎ駆けつけたという訳だ」
「ワイジャーマ・・・」
レオンハルトとライナスバージが、慌てて礼を取る。
ラファイエラスは軽く会釈をすると、私のことより、と状況説明の続きを促した。
「ライナス。侵入した賢者くずれは、バークリーと名乗っていたそうだが。エレアーナ嬢は今、どこにいるか知っているか?」
「バークリー・・・? バークリーだって?」
ふたりの顔に驚愕の色が浮かぶ。
つい先ほどまで一緒にエントランスにいた男。
何故かレオンハルトが一緒に待つのをひどく嫌がっていた男。
・・・あいつが。
レオンハルトの顔が蒼白になる。
「エレアーナ嬢は、今、庭に出ている。多分、ケインも一緒の筈だが」
・・・ケインは上手く追いつけたのだろうか。
「バークリーは、ついさっき、使用人と一緒にエレアーナ嬢を探しに行ったぞ」
「方向は?」
「あちらだ。あちらの方向に歩いていった」
それを聞いたベルフェルトがラファイエラスを見る。
ラファイエラスが軽く頷いた。
「殿下はここでラファイエラスさまとお待ち下さい。オレとライナスバージとで、あちらに向かいます」
「わかった。ライナス・・・頼む」
「はっ」
返事と共に、ふたりは目指す方向へと走り出す。
その背を、祈るように見送るレオンハルトに、背後から声がかけられた。
「案ずるな。まだ彼女は無事だ」
その言葉に驚いて、怪訝な視線を向ける。
「・・・なぜわかるのですか?」
「気配がないからだ」
「・・・気配、ですか?」
「今、私は邸全体に結界を張っているが、中では、まだ何の変化もない。目的を遂げてここから逃げようとする気配も、何か術を発動した気配も、だ。・・・勿論、物理的な攻撃のみの探知は出来ないが」
「結界・・・」
「奴は、私がここにいる事を知らないから、敢えて術を使わない理由もない」
ワイジャーマからの説明を受け、レオンハルトは視線を上げて周囲を見回した。
「つまり奴は今、手間取っているわけだ。誰かが、恐らくケインバッハが共にいるのだろう。・・・思わぬ邪魔が入って焦っている頃やもしれんな」
「ケインが・・・。そうですか・・・」
小さな呟きが口から漏れる。
また、僕は、何も出来なかったのか。
「・・・つい先ほどまで、バークリーは僕と一緒にいました」
「・・・」
「ライナスは使用人を呼びに行っていて、僕はそれをバークリーと待っていて・・・」
レオンハルトの拳に力が籠る。
「今思えば、バークリーの様子はおかしかった。僕に何処かに行って欲しそうにしてました。一人で待てるから平気だと何度も言って、僕と一緒にいるのが嫌そうな感じで・・・。僕は、何故あのとき・・・」
「上手く引き留めたのだな」
「・・・え?」
「君が奴をその場に残し、さっさと中にでも引っ込んでいたら、ライナスパージが使用人を連れて戻る前に奴はエレアーナを追っていただろう」
「・・・」
「使用人と一緒に向かったのであれば、人目のつかないところまでは大人しく付いて行かなければならない。まぁ、今頃はその使用人も何処かに倒れているだろうが、またそれも、奴にとっては余計な手間となる。想定外の時間のロスは、今の我々にとってかなり有難い」
「え・・・」
賢者は、レオンハルトに向かって、ふわりと笑った。
「お手柄だ」
「・・・っ」
思わず、ばっと空を見上げた。
涙が零れそうで、
でも泣きたくなくて。
でも、空が、とても青くて、透き通っていて。
却って涙が溢れてきて。
ちょっとだけ困ってしまった。
「ケイン。・・・頑張れ」
どこまでも青い空を見上げながら、レオンハルトは呟いた。
◇◇◇
その頃、ベルフェルトとライナスは地面に倒れている執事を発見し、ここで何かが起きたことを確信した。
「こちらには誰か向かっていないのか」
「方角的には、カーン団長たちが見回っている筈なのだがな。一帯を捜索しながらとなると、どこまで進めてはいるか定かではないし、合流出来るかも分からないだろうよ。なにせ敷地が広すぎるからな」
「そうか・・・」
「・・・さて、賢者くずれは、ここからどの方向に進んだか・・・」
周囲を確認していたライナスの視線が、ある一点で縫い止められる。
「・・・ベルフェルト。あれを見ろ」
ライナスが指で示した先、繁みの奥に、地面に転がる人の足先が見えた。
体は繁みに隠れていて顔を見ることが出来ないが、色から判断すれば、あれは騎士服だ。
駆け寄って確認する。
やはり騎士の一人、息はあるようだ。
「探索隊の一人・・・いや、これは、もともと警護で立っていた者を倒して進んだか・・・」
「いずれにしろ、この方向に進んだと考えて間違いないだろう。向こうにも更に一人、倒れているのが見える。・・・では行くぞ、ライナス」
「ああ」
ふたりは立ち上がると、定めた方向へと再び走り始めた。
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