【完結】王太子と宰相の一人息子は、とある令嬢に恋をする

冬馬亮

文字の大きさ
80 / 256

追跡

しおりを挟む
レオンハルトとライナスバージは、ホールを駆け抜けエントランスから外に出た。

周囲を見回し、状況を確認する。

警護にあたっていた騎士たちのほとんどが出払っていた。

アイスケルヒの姿もない、

「・・・っ。どうしたらいいんだ?」

レオンハルトの呻くような声が響く。

ふと外門の向こうに、王家の紋章入りの馬車が停まっているのが目に入った。

そして門の正面には、藤色の髪の男。
側にいるのはベルフェルトだ。

あれは、前に父から教えられたコウモリを務める男。
・・・ということは、隣の見知らぬ男も敵ではない・・・筈。

「ライナス、取り敢えず何があったのか聞きに行こう」

あちらもレオンハルトたちに気がついたようだ。

ベルフェルトが礼を取る。

「ベルフェルト、どうした。何があったんだ?」

ベルフェルトの表情は少々強張っている。

「・・・賢者くずれが侵入したのでございます、殿下。目下、カーンとリュークザインとアイスケルヒとで三方に別れ、邸周辺を探索しております」
「賢者くずれが? 侵入したって?」
「ベルフェルト、こちらは?」

驚くレオンの横で、まずライナスが見知らぬ男を確認する。
男は、先ほどから外門の正面で、両手を軽く広げて立っていた。

「ワイジャーマのラファイエラスさまだ。この方が賢者くずれの侵入を探知して下さり、我々が王城から馬車でここまで急ぎ駆けつけたという訳だ」
「ワイジャーマ・・・」

レオンハルトとライナスバージが、慌てて礼を取る。

ラファイエラスは軽く会釈をすると、私のことより、と状況説明の続きを促した。

「ライナス。侵入した賢者くずれは、バークリーと名乗っていたそうだが。エレアーナ嬢は今、どこにいるか知っているか?」
「バークリー・・・? バークリーだって?」

ふたりの顔に驚愕の色が浮かぶ。

つい先ほどまで一緒にエントランスにいた男。
何故かレオンハルトが一緒に待つのをひどく嫌がっていた男。

・・・あいつが。

レオンハルトの顔が蒼白になる。

「エレアーナ嬢は、今、庭に出ている。多分、ケインも一緒の筈だが」

・・・ケインは上手く追いつけたのだろうか。

「バークリーは、ついさっき、使用人と一緒にエレアーナ嬢を探しに行ったぞ」
「方向は?」
「あちらだ。あちらの方向に歩いていった」

それを聞いたベルフェルトがラファイエラスを見る。

ラファイエラスが軽く頷いた。

「殿下はここでラファイエラスさまとお待ち下さい。オレとライナスバージとで、あちらに向かいます」
「わかった。ライナス・・・頼む」
「はっ」

返事と共に、ふたりは目指す方向へと走り出す。

その背を、祈るように見送るレオンハルトに、背後から声がかけられた。

「案ずるな。まだ彼女は無事だ」

その言葉に驚いて、怪訝な視線を向ける。

「・・・なぜわかるのですか?」
「気配がないからだ」
「・・・気配、ですか?」
「今、私は邸全体に結界を張っているが、中では、まだ何の変化もない。目的を遂げてここから逃げようとする気配も、何か術を発動した気配も、だ。・・・勿論、物理的な攻撃のみの探知は出来ないが」
「結界・・・」
「奴は、私がここにいる事を知らないから、敢えて術を使わない理由もない」

ワイジャーマからの説明を受け、レオンハルトは視線を上げて周囲を見回した。

「つまり奴は今、手間取っているわけだ。誰かが、恐らくケインバッハが共にいるのだろう。・・・思わぬ邪魔が入って焦っている頃やもしれんな」
「ケインが・・・。そうですか・・・」

小さな呟きが口から漏れる。

また、僕は、何も出来なかったのか。

「・・・つい先ほどまで、バークリーは僕と一緒にいました」
「・・・」
「ライナスは使用人を呼びに行っていて、僕はそれをバークリーと待っていて・・・」

レオンハルトの拳に力が籠る。

「今思えば、バークリーの様子はおかしかった。僕に何処かに行って欲しそうにしてました。一人で待てるから平気だと何度も言って、僕と一緒にいるのが嫌そうな感じで・・・。僕は、何故あのとき・・・」
「上手く引き留めたのだな」
「・・・え?」
「君が奴をその場に残し、さっさと中にでも引っ込んでいたら、ライナスパージが使用人を連れて戻る前に奴はエレアーナを追っていただろう」
「・・・」
「使用人と一緒に向かったのであれば、人目のつかないところまでは大人しく付いて行かなければならない。まぁ、今頃はその使用人も何処かに倒れているだろうが、またそれも、奴にとっては余計な手間となる。想定外の時間のロスは、今の我々にとってかなり有難い」
「え・・・」

賢者は、レオンハルトに向かって、ふわりと笑った。

「お手柄だ」
「・・・っ」

思わず、ばっと空を見上げた。

涙が零れそうで、
でも泣きたくなくて。

でも、空が、とても青くて、透き通っていて。
却って涙が溢れてきて。

ちょっとだけ困ってしまった。

「ケイン。・・・頑張れ」

どこまでも青い空を見上げながら、レオンハルトは呟いた。





◇◇◇





その頃、ベルフェルトとライナスは地面に倒れている執事を発見し、ここで何かが起きたことを確信した。

「こちらには誰か向かっていないのか」
「方角的には、カーン団長たちが見回っている筈なのだがな。一帯を捜索しながらとなると、どこまで進めてはいるか定かではないし、合流出来るかも分からないだろうよ。なにせ敷地が広すぎるからな」
「そうか・・・」
「・・・さて、賢者くずれは、ここからどの方向に進んだか・・・」

周囲を確認していたライナスの視線が、ある一点で縫い止められる。

「・・・ベルフェルト。あれを見ろ」

ライナスが指で示した先、繁みの奥に、地面に転がる人の足先が見えた。

体は繁みに隠れていて顔を見ることが出来ないが、色から判断すれば、あれは騎士服だ。

駆け寄って確認する。
やはり騎士の一人、息はあるようだ。

「探索隊の一人・・・いや、これは、もともと警護で立っていた者を倒して進んだか・・・」
「いずれにしろ、この方向に進んだと考えて間違いないだろう。向こうにも更に一人、倒れているのが見える。・・・では行くぞ、ライナス」
「ああ」

ふたりは立ち上がると、定めた方向へと再び走り始めた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

君への気持ちが冷めたと夫から言われたので家出をしたら、知らぬ間に懸賞金が掛けられていました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【え? これってまさか私のこと?】 ソフィア・ヴァイロンは貧しい子爵家の令嬢だった。町の小さな雑貨店で働き、常連の男性客に密かに恋心を抱いていたある日のこと。父親から借金返済の為に結婚話を持ち掛けられる。断ることが出来ず、諦めて見合いをしようとした矢先、別の相手から結婚を申し込まれた。その相手こそ彼女が密かに思いを寄せていた青年だった。そこでソフィアは喜んで受け入れたのだが、望んでいたような結婚生活では無かった。そんなある日、「君への気持ちが冷めたと」と夫から告げられる。ショックを受けたソフィアは家出をして行方をくらませたのだが、夫から懸賞金を掛けられていたことを知る―― ※他サイトでも投稿中

報われなかった姫君に、弔いの白い薔薇の花束を

さくたろう
恋愛
 その国の王妃を決める舞踏会に招かれたロザリー・ベルトレードは、自分が当時の王子、そうして現王アルフォンスの婚約者であり、不遇の死を遂げた姫オフィーリアであったという前世を思い出す。  少しずつ蘇るオフィーリアの記憶に翻弄されながらも、17年前から今世まで続く因縁に、ロザリーは絡め取られていく。一方でアルフォンスもロザリーの存在から目が離せなくなり、やがて二人は再び惹かれ合うようになるが――。 20話です。小説家になろう様でも公開中です。

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

【完結】妖精姫と忘れられた恋~好きな人が結婚するみたいなので解放してあげようと思います~

塩羽間つづり
恋愛
お気に入り登録やエールいつもありがとうございます! 2.23完結しました! ファルメリア王国の姫、メルティア・P・ファルメリアは、幼いころから恋をしていた。 相手は幼馴染ジーク・フォン・ランスト。 ローズの称号を賜る名門一族の次男だった。 幼いころの約束を信じ、いつかジークと結ばれると思っていたメルティアだが、ジークが結婚すると知り、メルティアの生活は一変する。 好きになってもらえるように慣れないお化粧をしたり、着飾ったりしてみたけれど反応はいまいち。 そしてだんだんと、メルティアは恋の邪魔をしているのは自分なのではないかと思いあたる。 それに気づいてから、メルティアはジークの幸せのためにジーク離れをはじめるのだが、思っていたようにはいかなくて……? 妖精が見えるお姫様と近衛騎士のすれ違う恋のお話 切なめ恋愛ファンタジー

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

【完結】地味な私と公爵様

ベル
恋愛
ラエル公爵。この学園でこの名を知らない人はいないでしょう。 端正な顔立ちに甘く低い声、時折見せる少年のような笑顔。誰もがその美しさに魅了され、女性なら誰もがラエル様との結婚を夢見てしまう。 そんな方が、平凡...いや、かなり地味で目立たない伯爵令嬢である私の婚約者だなんて一体誰が信じるでしょうか。 ...正直私も信じていません。 ラエル様が、私を溺愛しているなんて。 きっと、きっと、夢に違いありません。 お読みいただきありがとうございます。短編のつもりで書き始めましたが、意外と話が増えて長編に変更し、無事完結しました(*´-`)

片想い婚〜今日、姉の婚約者と結婚します〜

橘しづき
恋愛
 姉には幼い頃から婚約者がいた。両家が決めた相手だった。お互いの家の繁栄のための結婚だという。    私はその彼に、幼い頃からずっと恋心を抱いていた。叶わぬ恋に辟易し、秘めた想いは誰に言わず、二人の結婚式にのぞんだ。    だが当日、姉は結婚式に来なかった。  パニックに陥る両親たち、悲しげな愛しい人。そこで自分の口から声が出た。 「私が……蒼一さんと結婚します」    姉の身代わりに結婚した咲良。好きな人と夫婦になれるも、心も体も通じ合えない片想い。

結婚する事に決めたから

KONAN
恋愛
私は既婚者です。 新たな職場で出会った彼女と結婚する為に、私がその時どう考え、どう行動したのかを書き記していきます。 まずは、離婚してから行動を起こします。 主な登場人物 東條なお 似ている芸能人 ○原隼人さん 32歳既婚。 中学、高校はテニス部 電気工事の資格と実務経験あり。 車、バイク、船の免許を持っている。 現在、新聞販売店所長代理。 趣味はイカ釣り。 竹田みさき 似ている芸能人 ○野芽衣さん 32歳未婚、シングルマザー 医療事務 息子1人 親分(大島) 似ている芸能人 ○田新太さん 70代 施設の送迎運転手 板金屋(大倉) 似ている芸能人 ○藤大樹さん 23歳 介護助手 理学療法士になる為、勉強中 よっしー課長(吉本) 似ている芸能人 ○倉涼子さん 施設医療事務課長 登山が趣味 o谷事務長 ○重豊さん 施設医療事務事務長 腰痛持ち 池さん 似ている芸能人 ○田あき子さん 居宅部門管理者 看護師 下山さん(ともさん) 似ている芸能人 ○地真央さん 医療事務 息子と娘はテニス選手 t助 似ている芸能人 ○ツオくん(アニメ) 施設医療事務事務長 o谷事務長異動後の事務長 雄一郎 ゆういちろう 似ている芸能人 ○鹿央士さん 弟の同級生 中学テニス部 高校陸上部 大学帰宅部 髪の赤い看護師(川木えみ) 似ている芸能人 ○田來未さん 准看護師 ヤンキー 怖い

処理中です...