【完結】王太子と宰相の一人息子は、とある令嬢に恋をする

冬馬亮

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対峙

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自分に向かって飛んでくる大石をじっと見据えて、ケインバッハは腰を落とす。
そして両手で柄を強く握ると、刃の向きをくるりと変えて柄を前面に向けた。

背後にはまだエレアーナがいる。
避けるという選択肢は無い。

・・・俺の実力では、こんな大きな石など切れる筈もない。

ならば、砕くか割るか。
それしかない。

握り替えた柄を思い切り大石に叩き付けた。

手首に大きな衝撃が走った。
鉄製の柄で石が三つに砕ける。

「へぇ、以外と冷静に動けるもんだねぇ。大したものだ。・・・じゃぁ、二つにしてみようか。上手くて躱せる毎に、ご褒美として一個ずつ増やしてやるよ」

両手を上にあげようとする賢者くずれの肩の向こうに、遠くからこちらに向かって走る人影が見えた。

あれは・・・ベルフェルトとライナスバージ。
来てくれたのか。

先ほどの衝撃で痛めたのか、手首が鈍く疼き始める。

大丈夫だ、まだやれる。

痛みを堪えて柄を握り直す。

背後の二人に気づかぬままバルクルムが両手を上げる。
今度は大石が二つ浮き上がった。

走り寄る二人が眼を大きく見開くのが見えた。

ライナスバージは、走りながら懐の短剣を取り出し、バルクルムに向かって投げる。

だが、それよりも早く、バルクルムは両手を横に交差するように振った。
右方向から、そして少し遅れて左方向から、それぞれ大きな石がケインバッハへと向かって行く。

バルクルムの右肩に、ライナスバージの投げた短剣が突き刺さる。

「ぐぅっ!」

痛みに顔を歪めるバルクルムだが、一度飛ばされた大石の速度は緩まない。

ケインバッハは、手首の痛みに構うことなく、再び柄を石に打ち付けた。
柄が石を打つと同時に、手首に大きな衝撃と鋭い痛みが走り抜ける。

右方向から飛んできた石は、めり込ませた柄によってケインバッハの目の前で二つに砕けた。
だが、左から飛んできた石がもう目前まで迫っている。

間に合わない。


ああ、でも大丈夫。
あの二人が来たのなら、エレアーナは無事だ。

良かった。

そう思った時。

恐ろしいほどの風圧を背後に感じて。
後ろから、何かが凄まじい勢いで突き出され、ケインバッハの頬をかすめた。

刹那、大石が眼前で砕ける。
それも、粉々に。

「・・・え?」

横に見えるのは、太く逞しい腕。
突き出されたのは、固く握りしめた拳。

大石を砕いた拳は、血が滲んでいて。
呆然とするケインバッハの後ろから、聞きなれた声がする。

「ギリギリだったな。間に合ってよかった」

この声は・・・。

「・・・カーン団長?」
「ああ。エレアーナ嬢はこちらで保護した。よくやったな、ケインバッハ」

そう言うと、後ろから大きくてごつごつした手が、ケインの頭をぽん、と叩いた。

保護、した。
無事・・・だった。

ほっとした途端、手首の猛烈な痛みに意識が向いた。
ケインの目線に合わせてカーンも視線を落とした。

「あー、こりゃ、ひどいな。骨にヒビが入ってるかもしれんぞ」

そう言うカーン団長の左拳からは、ぽたり、ぽたり、と血が滴っている。
それだけではない。

見れば、同じく左側の腕に少し大きめの刺傷があり、そこからも出血している。

「カーン団長こそ大丈夫ですか? 拳と・・・その腕の傷・・・」
「ん? ああ、これか。大丈夫だ。自分で刺してみただけだから」
「は?」
「いやぁ、どうにも同じところをぐるぐる回ってたもんでな。惑わされてるのかと思って、こう、剣でグサッと・・・」
「これはこれは。おい、聞いたか、ライナスバージ。どうやら痛いのが嫌じゃない奇特な人物がいるようだぞ。それも、よりによってお前の肉親に」
「・・・親父・・・。少しは加減しろよ」

存在を全く無視されたまま、話が進んでいることに気づいたバルクルムは、片方の手で肩の傷を押さえながら、懐にもう片方の手を突っ込んだ。

「賢者であるこの私を無視するなぁっ! ここにいる者ども全員、これを頭から被って死んでしまえ!」

そう叫んで、取りだした小瓶の蓋に手をかけようとした瞬間。

「させるか」

ライナスバージの抜いた剣が、バルクルムの首筋にぴたりと当てられた。

「ひっ!」
「動くと切るよ?」

普段の明るさをすっかり顰め、殺気のみを漂わせるライナスバージに、バルクルムの動きが固まる。

「いくら金を積まれたか知らないが、まだこれ以上やるってんなら、腕や足の一本や二本や三本、取られる覚悟は出来てるんだろうな?」
「・・・」
「おい、誰か手伝ってくれ。こいつを拘束する」

ふたりの騎士が駆け寄り、左右からバルクルムの腕を掴んだ。

後ろ手に拘束しようとライナスバージが手をまわした時。
バルクルムの足元が、一瞬、ふらついて。

ほんの少しの隙間が生まれる。

バルクルムは、にやりと笑った。

「おぉっと、手が滑った」
「っ!」

その間をついて。

バルクルムは、手に持っていた小瓶を空高く放り投げる。

「・・・!」

騎士たちから、声にならない悲鳴が上がる。

小瓶の蓋は閉まったまま。
だが、地面に落ちれば、確実に割れる。

「はっはぁ! 頭から被りたくなきゃ、落っことしてガスにしてやるよ。みんな仲良く永遠におねんねしちまいな!」

意気揚々と叫ぶバルクルムを嘲るように、冷ややかな声が背後から響いた。

「・・・死ぬなら一人で死ね。他人を巻き込むな。この愚か者の下衆野郎が」
「なっ、なんだと?」

顔を怒りに染め上げ、バルクルムが振り返る。

その言葉と共に、前にすっと歩み出たのは、ラファイエラスだった。
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